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夫人革命逃亡記  作者: 伊阪証
修正してない本編

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35/39

遺品確認会

アデルは役所の階段に腰掛けたまま、固いパンの残りを指で割ろうとして失敗した。パンは割れるより先に、白と金のドレスの汚れた膝の上へ粉を落とした。彼女はそれを見下ろし、深く息を吐く。裾には泥、藍、炭粉、乾いた血、石畳の白い粉が混じり、金糸の縁取りはほとんど一つの色ではなくなっている。深紅のコルセットは煤け、前面の締め紐は湿気でわずかに緩み、腰回りの薔薇飾りは縫い直した糸が見えて、かつての宮廷装飾というより、戦地で修理された旗の房に近かった。胸元の青い宝石の欠落跡は相変わらず空いていて、そこへパン屑が一つ乗った時、アデルは本気で顔をしかめた。

「そこは皿ではありませんわ」

彼女は指先で屑を払った。

隣に立っていたレイモンが、疲れた声で言った。

「誰に言っている」

「私の衣装に」

「返事は」

「しませんわ。してきたら、さすがに今日は寝込みます」

レイモンは何か言いかけてやめた。彼の手には写しの束がある。二重記録、年齢不明、証言者名なし、処刑許可印なし。四つに分けられた紙束は、薄いようで重かった。紙の重さではない。紙に載せられた首の重さだった。彼はそれを読むたびに顔色を失い、アデルに止められ、また読み、また止められている。彼が処刑人である限り、この紙束はただの証拠にはならない。死者が、名前のある者もない者も、紙の端から彼の手へ這い上がってくる。

「その束、持ちすぎないで」

アデルが言った。

「落とすなということか」

「いいえ。あなたが背負い始めるから」

レイモンは紙束を見下ろした。返事はなかった。アデルはパンをもう一度割ろうとして、やはり割れず、諦めてそのままかじった。まずい。固い。だが腹には入る。貴婦人としての尊厳はとっくに敗北しているが、胃袋は革命に対して思ったより寛容だった。

役所の扉が勢いよく開いた。ラファエルの部下ではない。町の若い書記だった。彼は顔を青くし、広場を横切ってラファエルの方へ走る。

「監察官が、告示を出しました」

ラファエルは記録室から出てきたところだった。外套の袖に紙の埃が付いている。彼は一瞬も慌てず、書記を見た。

「内容は」

「処刑停止は反革命勢力による妨害、処刑人サンソンと先王夫人の関与、ラファエル隊による司法権侵害。町民は革命裁判の再開を要求せよ、と」

広場の空気がざわついた。アデルはパンを噛むのを止めた。レイモンの顔が険しくなる。ラファエルは眉一つ動かさない。ただ、短く聞いた。

「どこに貼った」

「市場と井戸と、処刑台の封印布の上に」

「封印布の上」

アデルはそこで立ち上がった。パンを片手に持ったまま。

「まあ、趣味が悪い。せっかく巻いた布を掲示板扱い?」

レイモンが彼女を見た。

「行くな」

「行きますわよ。私の悪口が書かれているのでしょう? 読者として確認しなければ」

「挑発だ」

「ええ。だから読んでから怒ります」

ラファエルは部下に合図した。数人の兵が広場へ散る。アデルはその横を、汚れたドレスの裾を片手で持ち上げて歩き出した。歩き方だけは妙に堂々としているせいで、広場に残っていた民衆の視線が次々に彼女へ集まった。白と金のはずのドレスは泥で重く、深紅のコルセットは煤け、腰の薔薇飾りは歪み、青い宝石はない。それでも、その壊れた豪華さは、粗布の群れの中でどうしようもなく目立った。目立つことは危険だ。だが、目立つものは時に、先に殴られる代わりに、先に口を開ける。

処刑台の封印布には、確かに紙が貼られていた。黒い大きな文字で、革命裁判への妨害、処刑人の介入、先王夫人の扇動、ラファエル部隊の不当干渉が並べられている。文章はうまい。読みやすく、怒りやすい。細部を知らない者なら、すぐに頷ける程度には整っていた。アデルは紙の前に立ち、最後まで読んでから、少し笑った。

「文章だけは上手ね。中身は腐っているけれど、包装紙としては悪くありませんわ」

近くにいた男が言った。

「本当に処刑を止めたのか」

「止めましたわ」

アデルは振り返らずに答えた。

「罪人を逃がしたのか」

「いいえ。首が一度で落ちない処刑器具と、記録の足りない判決を止めただけです」

「同じことだろう」

「違います。麦と石を同じ袋に入れて売る程度には違います」

男は言い返そうとして、口を閉じた。周囲にいた者たちが耳を向け始める。アデルは告示を剥がさなかった。剥がせば証拠が消える。彼女はその紙を指で軽く叩いた。白と金の袖口に付いた炭粉が、紙の端へ少し移った。

「この告示を書いた方は、実に親切ね。私たちが何をしたかを町中へ知らせてくださった。足りないのは、止めた理由だけ」

ラファエルが後ろから来た。

「理由を広場で話す気ですか」

「ええ」

「危険です」

「今さら?」

「群衆は事実より、先に届いた言葉を信じます」

「なら、二番目に届く言葉は、少し派手でなければなりませんわね」

ラファエルは短く息を吐いた。呆れたのではない。計算している顔だった。アデルを止めるか、使うか。彼はすぐに決めた。

「兵を周囲へ。処刑台へ誰も上げるな。記録の写しを持ってこい」

「使うのね」

アデルが言うと、ラファエルは答えた。

「あなたが勝手に始めるなら、こちらも利用する」

「気が合うのは不愉快ですわ」

「同感です」

レイモンが紙束を持って近づいた。顔は硬い。

「アデル、何をする」

「読み上げます」

「何を」

「この告示が省いた部分を」

「お前が?」

「あなたが読んだら、処刑人の弁明に聞こえます。ラファエル様が読んだら、軍の介入に聞こえる。町の委員が読んだら、保身に聞こえる。なら、死刑台から逃げた先王夫人が読むのが一番悪趣味で、一番耳に残りますわ」

レイモンは苦い顔をした。

「自分で悪趣味と言うな」

「自覚のない悪趣味より上品よ」

ラファエルの兵が小さな木箱を処刑台の下へ置いた。台そのものには上がらない。封印された処刑台に上がることは、余計な象徴を作る。アデルはそれを見て、木箱の上に立った。高さはほんの少しだけだが、広場の視線を受けるには十分だった。深紅のコルセットが胴を締め、腰の薔薇飾りが傾き、白と金の汚れた裾が箱の角へ触れる。胸元の青い宝石の欠落跡へ風が当たり、アデルは一瞬だけそこを押さえそうになったが、やめた。欠けているなら、欠けたまま見せればいい。

「皆様」

彼女は声を張った。宮廷の広間で鍛えられた声だった。ざわめきが少しずつ沈む。

「そこに貼られた告示には、今朝の処刑停止が反革命勢力による妨害だと書かれています。私も名前を出されていますわ。先王夫人アデル。泥と煤で少々読みづらい姿ですが、本人です」

ざわめきが広がった。アデルはそれを待った。待ってから続ける。

「では、なぜ処刑が止まったか。第一に、処刑器具が不備でした。刃は軽く、溝は汚れ、固定板は歪んでいた。そのまま落とせば、一度で首は落ちず、首を割るだけになる。これは私ではなく、処刑人レイモン・サンソンが確認しました」

レイモンの名前で、広場がまた揺れた。アデルはすぐ次を重ねる。

「第二に、記録が不足していました。罪状には軍糧隠匿と反革命的流言がありましたが、証言者名なし、数量記載なし、処刑許可印なし。第三に、この町の処刑記録には重複があります。同じ名が二度処刑確認され、年齢不明、住所不明の者が複数、裁判記録より処刑数が先に整理されていました」

ラファエルの部下が、写しの束を掲げた。民衆の間にざわめきが広がる。町の委員たちは役所の前で青ざめている。監察官の姿はまだ見えない。だが、どこかで聞いているはずだ。

市場の方から声が飛んだ。

「罪人を助けるのか!」

アデルはそちらを見た。

「いいえ。罪を紙に載せるなら、せめて紙を整えなさいと言っています。首を落とすなら、せめて一度で落としなさいと言っています。革命の名で殺すなら、誰が、なぜ、どの記録で殺したか、後で読めるようにしなさいと言っています」

「貴族が何を言う!」

別の声。アデルは笑った。

「貴族だから言えることもありますわ。私たちは長く、きれいな言葉と汚い帳簿で人を動かしてきました。だから、汚い帳簿は見れば分かります」

広場が一瞬、妙な静けさに落ちた。自虐とも挑発ともつかない言葉だった。アデルは続ける。

「あなた方が怒るべき相手は、処刑を止めた者ではありません。あなた方の怒りを利用して、記録も整えずに首を数へ変えた者です。もし本当に罪があるなら、記録を出せばいい。証言者を出せばいい。数量を出せばいい。許可印を出せばいい。それが出ないのに、なぜ急いで刃だけ落としたがるのか」

後ろでレイモンが低く息を吐いた。アデルには聞こえた。彼女は振り返らない。ここで彼を見ると、声が少し変わる気がした。

役所の扉が開いた。監察官が姿を見せた。黒い外套、銀縁の眼鏡、整えた口髭。彼はゆっくり歩いてきて、木箱の上のアデルを見上げた。

「見事な演説です、先王夫人。だが、民衆の前で革命裁判の正統性を傷つける発言は、反革命的宣伝にあたる」

アデルは彼を見下ろした。

「出ましたわね、紙魚」

監察官の笑みが薄くなった。

「その呼び方は侮辱と受け取ります」

「ご自由に。侮辱だけは処刑記録より正確に受け取るのね」

監察官は広場へ向き直った。

「皆さん、この女は先王の夫人です。革命によって裁かれるべき者が、処刑場に立ち、我々の裁判を汚している。処刑人サンソンも同じです。王政の刃でありながら、今は革命を批判している。これは偶然でしょうか」

民衆が揺れる。言葉がうまい。敵を分かりやすく並べる。先王夫人。処刑人。ラファエル隊。これだけで、怒りの向きは作れる。アデルは木箱の上で少しだけ足の位置を変えた。薔薇飾りが揺れる。深紅のコルセットの下で、息を整える。

「そうね。私は先王夫人。レイモンは処刑人。どちらも綺麗な肩書きではありませんわ」

アデルはあっさり認めた。

「けれど、汚れた者が言ったからといって、記録の空欄が埋まるわけではありません。私がどれほど嫌な女でも、処刑許可印の不足は不足です。レイモンがどれほど処刑人でも、刃が落ちない事実は変わりません。ラファエル様がどれほど冷たい男でも、同じ名前が二度処刑確認されている帳簿は、二度処刑確認されています」

ラファエルがわずかに目を細めた。冷たい男、の部分に反応したのかもしれない。アデルは構わず続ける。

「人格で事実を消そうとする者は、たいてい事実に勝てません。だから人格を殴るのです」

監察官の笑みが消えた。

「あなたは、革命の敵として自ら名乗っているのですか」

「いいえ。私は私の敵を選んでいます」

「誰を」

アデルは告示の紙を指した。

「首を数で扱う者。記録の空白に人を落とす者。処刑を見世物にし、失敗すれば民衆のせいにし、成功すれば忠誠の数にする者。そういう者が、今の私の敵です」

広場は静かだった。完全な味方になったわけではない。だが、聞いている。聞いてしまっている。監察官はそれを見て、声の調子を変えた。

「では、先王夫人。あなたは自分が裁かれる時も、同じだけ記録を求めるのですか」

「当然ですわ」

「自分の罪にも?」

「ええ。私を殺すなら、せめて私の名前を正しく書き、罪状を空欄にせず、刃を一度で落としなさい。死ぬ時まで雑に扱われるほど、私は安くありません」

その言葉で、民衆の間に奇妙なざわめきが走った。笑いではない。感嘆でもない。死を語る女の声音が、あまりにも平然としていたからだ。アデル自身も、言ってから少しだけ胸が冷えた。死刑台から逃げた女が、死を遠ざけるためではなく、死ぬなら雑にするなと言っている。自分でも悪趣味だと思った。だが、嘘ではなかった。

レイモンが一歩前へ出た。

「俺も同じだ」

広場の視線が彼へ移る。

「俺は処刑人だった。首を落とした。だから言う。処刑は、怒りのはけ口ではない。数を増やす仕事でもない。道具が壊れていても、記録が空でも、民衆が望めば落としていい刃ではない。罪を問うなら裁け。殺すなら責任を残せ。責任を残せないなら、それは処刑ではない」

彼の声は大きくない。だが、処刑台の前では大きな声より届くものがある。人を殺す仕事をしてきた男が言う「責任」は、広場の石畳より重かった。

監察官は一瞬だけ沈黙し、それから笑みを戻した。

「では、サンソン。あなたはロベルト様の前でも同じことを言えますか」

レイモンは答える。

「言う」

「法廷で?」

「必要なら」

「処刑台で?」

アデルの背筋が冷えた。これは誘いだ。レイモンを処刑台へ戻す言葉。彼が乗れば、監察官の思うつぼになる。ラファエルも動きかけた。だが、レイモンはすぐには答えなかった。彼は監察官を見て、それから処刑台を見た。封印布。刃。石畳。民衆。紙束。アデル。ラファエル。全部を一度見てから、静かに言った。

「処刑台で喋るのは、首を置かれた者ではない。刃を落とす者でもない。裁く者だ。俺はその場所で話さない。法廷で話す」

アデルは息を吐いた。彼が選んだ。挑発に乗らず、処刑台ではなく法廷を選んだ。これは大きい。彼は自分で足を止めただけではない。言葉の置き場所まで選んだ。

監察官の顔から、また少し笑みが消える。ラファエルが低く言った。

「聞きましたか。本人が法廷で話すと言った。記録に残してください」

部下が即座に紙へ書きつける。監察官はそれを止められない。止めれば、今の発言を恐れた形になる。

「面白い」

監察官は言った。

「では、ロベルト様へお伝えしましょう。処刑人サンソンが、法廷を望んでいると」

「正確に」

アデルが言う。

監察官が彼女を見る。

「処刑人サンソンは、処刑台ではなく法廷で話すと言った。ついでに、先王夫人アデルは、あなたの告示が包装紙としては悪くないが中身は腐っていると言った。後半もお忘れなく」

監察官は答えず、踵を返した。黒い外套が広場を横切り、役所の方へ戻っていく。彼が去ると、民衆の沈黙がゆっくり崩れた。完全に味方になったわけではない。だが、朝の告示で作られた怒りの形は、一度溶けた。記録。許可印。証言者。二重処刑。法廷。そういう言葉が、民衆の口の中へ残った。怒りはまだある。だが、次に怒る相手を少し迷い始めている。

アデルは木箱から降りようとして、足元がふらついた。深紅のコルセットが苦しい。朝からろくに食べていない。ドレスは重い。薔薇飾りは傾く。彼女が転びかけた瞬間、レイモンの手が支えた。火傷していない方の手だった。

「大丈夫か」

「もちろん」

「そうは見えない」

「見えないだけです」

「顔が白い」

「ドレスよりは白くありませんわ」

「今のドレスは白くない」

「失礼ね」

レイモンは手を離さなかった。アデルはその手を見る。支えられている。処刑台の前で。民衆の視線がまだ残る中で。彼の妻子は海の向こうへ逃げ、自分はただの同行者で、捕虜で、元恋人で、先王夫人で、非常に面倒な女だ。それでも今、彼の手は彼女を支えている。意味を付けるな。アデルは心の中で自分に言った。意味を付けると、歩きづらくなる。

「もう大丈夫」

彼女は言った。

レイモンは手を離した。

ラファエルが近づいてきた。

「非常に危険な演説でした」

「褒め言葉?」

「警告です」

「受け取りません」

「でしょうね」

ラファエルはレイモンへ向く。

「あなたの発言も記録した。法廷で話すと言った以上、ロベルト側は動く。監察官は必ず報告する」

「分かっている」

「本当に?」

アデルが横から言うと、レイモンが彼女を見た。

「お前に言われるのか」

「ええ。私の確認は高価ですわよ」

「いくらだ」

「今なら毛布一枚と温かい食事」

ラファエルが言った。

「食事は用意させます」

アデルはぱっと彼を見た。

「本当に?」

「倒れられると困る」

「あなた、本当に褒め方も親切も最低ね」

「必要十分です」

「十分ではありません。温かい、の部分を忘れないで」

ラファエルは部下へ命じた。

「温かい食事を」

部下は一瞬、先王夫人とラファエルを見比べ、すぐに走った。アデルは少しだけ満足げに息を吐く。レイモンが呆れた顔をする。

「こんな時に食事か」

「こんな時だから食事です。あなたも食べるの。法廷で倒れる処刑人なんて、見栄えが悪いわ」

「また見栄えか」

「ええ。見栄えは大事。私を見なさい」

「お前は、見栄えをどう評価すればいいのか分からない」

アデルは自分の泥まみれの白金のドレス、煤けた深紅のコルセット、壊れた薔薇飾り、青い宝石の欠落跡を見下ろした。

「落ちていないなら勝ちですわ」

アデルはパンを噛んだ。レイモンは隣を歩いた。白と金のドレスの裾が泥を引きずり、青い宝石のない胸元へ風が当たった。

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