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夫人革命逃亡記  作者: 伊阪証
修正してない本編

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33/39

白い石畳

朝の薄い光が、アデルの白と金を基調としたドレスを照らしていた。アデルの白と金を基調としたドレスは、裾から藍と泥と炭粉を吸って重くなり、金糸の縁取りは擦り切れた場所から細い毛羽を出していた。深紅のコルセットは煤けて艶を失い、前面の締め紐の間には灰色の埃が入り込んでいる。腰回りの大きな薔薇飾りは、ラファエルの兵から借りた糸で縫い留められたせいで、かつての装飾というより戦場で補修された旗のようになっていた。胸元では青い宝石のない台座が朝の光を受けず、そこだけ小さく陰っている。彼女はそれらを一つずつ確認し、最後に自分の靴先へ付いた泥を見て、静かに顔をしかめた。

レイモンは少し前を歩いていた。縄は解かれているが、左右には兵がついている。逃げようとすれば即座に押さえられる距離だ。火傷した手には、アデルの袖から裂いた布がまだ巻かれている。その布も、煙と泥と乾いた血でくすみ、元が白と金の裏地だったとは分かりにくくなっていた。彼は時々その手を見下ろす。

ラファエルは馬に乗っていなかった。彼は荷車の横を歩き、時々部下から報告を受け、地図を開き、道を修正している。荷車には麦袋、炭袋、予備の車輪、修理具、折り畳まれた担架が積まれている。

「ラファエル様」

アデルが声をかけると、ラファエルは歩きながら視線だけを向けた。

「何です」

「捕虜を徒歩で連れ回すのは、あなたの軍では礼儀なの?」

「あなたは馬に乗れるのですか」

「乗れますわ。見た目より多芸ですの」

「その服で?」

アデルは自分のドレスを見下ろした。泥を吸った白と金の裾、深紅のコルセット、腰の薔薇飾り。乗れないことはない。だが、乗りにくいことは確かだった。

「馬の側が恐縮するでしょうね」

「では歩いてください」

「冷たい男」

「合理的です」

「合理を冷たいと言い換えると、たいていの男は少し見栄えが良くなるのよ」

ラファエルは答えなかった。アデルは舌打ちを飲み込んだ。彼がロベルトを危険視していることには重みがあった。

道は昼前に小さな集落へ入った。家は十数軒。石壁は崩れかけ、井戸の周囲には人が集まっていた。だが、朝の仕事のためではない。広場の中央に簡易の台が組まれ、その横に木枠と刃のついた処刑器具が置かれていた。固定板の角は削られ、刃を支える溝には乾いた血がこびりついている。

レイモンの足が止まった。アデルも止まった。ラファエルの兵たちは歩調を乱さなかったが、視線だけは広場へ向いた。台の上には男が一人、膝をつかされている。農夫のようだった。首を固定する板は歪み、刃を支える溝には昨日の血が乾いて黒くこびりついている。台の周りには民衆がいた。誰も声を大きく出さず、互いに目を伏せて立ち尽くしている。

台の脇に立っているのは、処刑人ではなかった。腕章を巻いた市民巡回の男が二人。片方は刃の綱を握り、もう片方は罪状を書いた紙を読み上げている。

反革命的流言、軍糧隠匿、共和国兵への協力拒否により。」

「止まれ」

レイモンが言った。

兵の一人が彼の前に出た。

「命令は」

「止まれと言った」

声は大きくなかった。だが、その声で周囲の空気が変わった。処刑台の男たちがこちらを見る。民衆も見る。ラファエルは足を止め、広場を一瞥した。

罪状を読む男は、こちらの一行に気付き、少し声を詰まらせた。ラファエルの軍章を見たのだろう。だが、彼は止めなかった。止めれば、自分の権限が疑われる。読み上げを続ける。

「共和国の敵として、ただちに処刑する」

「裁判は」

レイモンが聞いた。

ラファエルは答える。

「村の委員会です。記録はあるはずです」

レイモンは台へ近づいた。

その一言は、罪状読み上げの声より低く、だが広場全体へ届いた。綱を持つ男の手が止まる。民衆の視線が一斉にレイモンへ向いた。ラファエルの兵も動く。ラファエル自身はまだ手を上げていない。撃てとは命じていない。

市民巡回の男が怒鳴った。

「誰だ、処刑の邪魔をするな!」

「それでは殺せない」

レイモンは台へ近づく。声は冷静だった。冷静すぎた。アデルは胸の奥が冷えるのを感じた。妻子を追う夫でも、人助けをする男でもなく、今の彼は処刑場の職人だった。

「何だと」

「刃が軽い。溝が汚れている。固定板が歪んでいる。顎の位置も違う。そのまま落とせば、一度で終わらない」

男たちの顔が変わる。民衆がざわめいた。処刑台の農夫が顔を上げようとして、板に押さえられて動けない。彼の目だけが、レイモンを見た。

「貴様、何者だ」

「処刑人だ」

広場の音が消えた。

広場の音が消えた。ラファエルの兵たちが銃口を構えかけたまま静止した。市民巡回の男が持っていた紙片の端が小さく揺れた。

「『サンソンか。』」

誰かが群衆の中で呟いた。男は手首を押さえたまま後退し、周囲の民衆が一度に道を開けた。

市民巡回の男は顔を赤くした。

「処刑人など不要だ! 民衆が裁く!」

「裁くことと殺すことは違う」

民衆の間に、細い息の音が広がった。

レイモンは台を見たまま言った。

「殺すなら、殺せる道具を使え。苦しませるな。罪を問うなら記録を出せ。記録も道具もないなら、それは処刑ではない」

「黙れ!」

男が綱を引こうとした。レイモンの手が動いた。綱を握る手首を押さえ、角度を変えただけだった。男は悲鳴を上げ、綱を離した。刃は落ちない。群衆が息を呑む。もう一人の男が棍棒を振り上げる。ラファエルの兵が一歩出る。アデルも動いた。

「ラファエル様」

彼女は振り返らずに言った。

「この処刑、あなたの管轄ではないのでしょう?」

ラファエルは答えない。

「なら、今ここで失敗すれば、あなたの補給路に暴動が起きますわ。民衆の前で、首を割られた男が死に損なって叫ぶ。血が飛ぶ。子供も見る。次にあなたの荷車が通る時、誰が道を空けるのかしら」

ラファエルは少しだけ目を細めた。

「続けてください」

「続ける前に止めなさい。理屈は後でいくらでも飾れます。今は刃を下ろさせないことが先です」

ラファエルは片手を上げた。兵が即座に広場へ入る。市民巡回の男たちは抵抗しようとしたが、正規兵の動きには勝てなかった。綱を持っていた男は押さえられ、罪状を読んでいた男は紙を取り上げられた。群衆は逃げなかった。全員が、その場で凍ったように見ていた。

レイモンは処刑台の農夫へ近づき、固定板を外した。農夫の首には木の圧迫跡が付いている。彼は咳き込み、肩を震わせた。レイモンはその腕を掴んで立たせようとしたが、農夫は腰が抜けて立てなかった。

「罪状記録を」

ラファエルが言った。

兵が紙を渡す。ラファエルはそれを読み、顔を変えなかった。

「署名が三つ。証言者名なし。軍糧隠匿の数量記載なし。反革命的流言の内容記載なし。処刑許可印なし」

アデルは乾いた笑いを漏らした。

「紙に罪を乗せる前に、紙の体裁が死んでいますわね」

市民巡回の男が叫ぶ。

「こいつは麦を隠した! 兵に渡さなかった!」

農夫が咳き込みながら言った。

「子供の分だ。全部じゃない。袋の底だけだ」

「嘘をつけ!」

レイモンは農夫を見た。次に紙を見た。彼の顔は苦しかった。罪が全くないわけではない。だが処刑に値する形でもない。しかも裁判の体をなしていない。ここで彼が処刑人として言えることは限られている。無罪だとは言えない。政治家ではない。裁判官でもない。だが、これは処刑ではないと言える。

「処刑ではない」

レイモンは言った。

ラファエルは紙を畳んだ。

「この件は保留する。農夫は拘束。村の委員会の記録を再提出させる。処刑器具は封印」

レイモンは台の前で立っていた。農夫は兵に支えられて連れていかれる。彼は一度だけレイモンを見た。礼を言おうとしたのかもしれない。だが声は出なかった。レイモンも何も言わない。ただ、処刑器具の溝にこびりついた乾いた血を見ていた。

アデルは彼の隣へ行った。

「触らない」

レイモンの手が止まる。無意識に、溝の汚れを確かめようとしていたのだ。

「触れば、あなたは直し始める。直したら、これを使える道具にしてしまう。今は駄目」

レイモンは彼女を見た。目の奥に、痛みがあった。

「壊れた処刑器具の方がいいのか」

「今この場では、そうです」

「だが、次に使えば」

「次に使わせないために封印させる。あなたが直すのではなく、使えない理由にする」

ラファエルが近づいてきた。

「今の発言は有用だった」

「あなたに褒められると、服にまた汚れが増えた気分になりますわ」

「ロベルトの処刑班がこの程度である証拠が取れた」

「証拠」

レイモンが言った。

「今の男の首が割れるところを見たかったのか」

ラファエルは表情を変えなかった。

「見ずに済んだ。その上で、処刑班の不備と書類の欠陥を確認できた。結果としては良い」

レイモンの拳が握られる。アデルは一歩だけ前に出た。

「レイモン」

「……」

「今殴るなら、せめて右手はやめなさい。火傷が開きます」

レイモンが戻ってきた。

「行くぞ」

「処理は?」

「ラファエルが残る。俺たちは先に次の町へ送られる」

「送られる。まるで荷物ね」

「監視付きだ」

「捕虜だからでしょう」

「お前がそれを言うのか」

「正解すぎて腹が立つ時は、自分で先に言うのが上品ですの」

アデルは前を向いた。ラファエルの兵が移動を促している。レイモンは隣を歩いた。白と金のドレスの裾が泥を引きずり、青い宝石のない胸元へ風が当たった。

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