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夫人革命逃亡記  作者: 伊阪証
修正してない本編

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23/39

粉挽き小屋の少年兵

工房の煙が丘の向こうへ薄く流れた後も、レイモンの手には熱が残っていた。アデルが裂いた布は火傷の上で湿り、歩くたびにじくじくと痛むはずなのに、レイモンの顔は微動だにしなかった。彼女は白と金を基調としたドレス、前面の深紅のコルセット、腰回りの大きな薔薇飾りが泥に汚れるのを感じながら、それを横目で見て、何度目か分からない苛立ちを覚えた。痛いなら痛いと言えばいい。急ぎたいなら急ぎたいと言えばいい。妻子の名を出せば、彼は自分の感情を職務のように畳んでしまう。けれど畳んだところで、中身が消えるわけではない。焦りは袖口から煙のように漏れ、沈黙の形で二人の間に漂っていた。

「痛む?」

アデルは聞いた。

「問題ない」

「問題があるかどうかは、痛んでいる本人ではなく、その手を今後使う予定のある者が判断しますわ」

「俺の手を予定に入れるな」

「もう入っています。焼けた親方を運び、人形を直し、荷を押し、いずれその手を必要とする者が待つかもしれない手ですもの。あなたが粗末にしていい品ではありません」

レイモンの足がわずかに鈍った。妻子の話に触れると、彼はすぐ静かになる。アデルはその反応を見て、自分の舌が少し鋭すぎたことを理解したが、取り消さなかった。取り消すくらいなら最初から言わない。彼を生かすためなら、その焦りも罪悪感も使う。そう決めている。そう決めているのに、奥方という言葉を口にするたび、胸の奥で小さな棘が鳴るのは、まったくもって不愉快だった。

検問を避ける裏道は、丘の裾を縫って北へ折れていた。親方から借りた工房印は布包みの中で硬く鳴り、アンヌから借りた青い硝子片と、村から借りた針と指貫にぶつかる。逃亡の荷としては奇妙なものばかりだ。先王夫人の携行品としては、ほとんど悪趣味な冗談に近い。それでも、これらは金貨より安全で、宝石より話を通し、名前よりしぶとい。アデルは布包みの上からそれらに触れ、少しだけ機嫌を直した。

道の先で、笛の音がした。軍笛ではない。もっと下手で、息が続かず、ところどころ音が裏返る。子供が真似ているような音だった。レイモンはすぐに身を低くした。アデルも同じく木陰へ入る。丘の下には、小さな石橋があった。橋の手前に壊れた荷車が横倒しになり、その陰に少年兵が一人座り込んでいる。年は十二か十三。制服は大人用を詰めたものらしく、袖が余り、肩が落ちている。帽子だけは妙に新しく、胸には薄い革命章が縫い付けられていた。膝の横には短い銃がある。銃身は泥で汚れ、火皿のあたりが濡れている。まともには撃てないだろう。

少年は笛を吹こうとして、咳き込んだ。足首に布を巻いている。血が滲んでいた。荷車の車輪の下には、軍の小さな伝令袋が落ちている。逃げ遅れたのか、置き去りにされたのか。どちらにせよ、あのままなら夜までに冷える。軍へ戻れば処罰、道に残れば野犬か巡回、民衆に見つかれば制服ごと殴られる。少年はどこにも属しているようで、どこにも帰れない顔をしていた。

「回り道を」

レイモンが低く言いかけた。

アデルは彼を見る。

「できると思う?」

「危険だ」

「だから聞いているの。できると思う?」

レイモンは答えなかった。石橋を避けるには、川沿いへ大きく下り、湿地を抜ける必要がある。時間がかかる。妻子の手掛かりを追う身で、一刻を失うのは痛い。だが少年兵へ近づけば、軍に見つかる危険がある。レイモンは危険を数え、時間を数え、少年の年齢を見て、最後に自分の火傷した手を見た。助けられるかどうかではなく、見捨てられるかどうかを測っている顔だった。

「行きましょう」

アデルは先に立った。

「おい」

「あなたが迷うと長いのよ。どうせ放っておけないのでしょう。なら私が先に行った方が早いわ」

「撃たれるぞ」

「濡れた銃で? あの子の手では、私に当てる前に自分の肩を外しますわ」

「油断するな」

「油断ではありません。観察です」

アデルは木陰から出た。少年兵はすぐに銃へ手を伸ばしたが、痛めた足が動き、顔を歪めた。銃口は上がったが、手が震えている。アデルは歩みを止めず、距離だけを保った。撃たれないためではない。少年に、自分が撃てると思わせすぎないためだった。撃てると思った子供は怖い。撃てないと悟った子供はもっと怖い。なら、その中間に置く。

「止まれ」

少年の声は裏返った。

アデルは止まった。

「止まりましたわ」

「近づくな」

「近づいていません」

「誰だ」

「通りすがりの、迷惑な女です」

少年は意味が分からない顔をした。レイモンが少し遅れて木陰から出る。少年の目がそちらへ動いた瞬間、銃口も揺れた。レイモンは足を止める。処刑場を支配していた男が放つ重圧を前に、少年兵の息が詰まり、硬直した指先が銃口をわずかに揺らした。その立ち方に、少年は本能的な戦慄を感じた。

「軍の者?」

レイモンが聞いた。

「だったら何だ」

「足を見せろ」

「近づくなって言っただろ」

「血が出ている。足首なら放置すれば歩けなくなる」

「命令するな。俺は共和国の兵士だ」

アデルは思わず笑いかけたが、ぎりぎりで止めた。少年の震えた声に縫い付けられた共和国の兵士という言葉は、サイズの合わない制服と同じだった。大きすぎて、肩から落ちかけている。だが本人はそれを必死に掴んでいる。笑えば刺さる。刺されば少年は銃ではなく、誇りで暴発する。

「共和国の兵士様」

アデルは丁寧に言った。

「それならなおさら、足を失っては国が困りますわ。見せなさい」

「女に何が分かる」

「足を怪我した兵士が、次の伝令にも逃亡にも使えないことくらいは分かります。あと、その銃は濡れているから脅しにしかならないことも」

少年の顔が赤くなった。銃口がさらに揺れる。レイモンが一歩だけ前へ出た。

「撃ちたいなら、俺を狙え」

アデルは横目で彼を睨んだ。

「そういうところが悪いと言っているの」

「黙っていろ」

「嫌ですわ。奥方とお子さんを探す前に、子供の銃で撃たれて死ぬなど、私の旅程表にありません」

少年の目が動いた。

「子供じゃない」

「では、怪我を見せても泣かないわね」

アデルは即座に返した。少年は言葉に詰まった。泣かない、という一点を守るために、彼は足を少し前へ出した。完全に許したわけではない。だが拒絶は緩んだ。アデルはしゃがみ込まず、レイモンへ顎を向けた。

「あなたが見て。私は撃たれ役として立っておりますから」

「勝手に役を決めるな」

「あなたが撃たれるよりは優雅でしょう」

レイモンは少年へ近づいた。少年は銃を構えたままだったが、もう撃つ姿勢ではなかった。レイモンは膝をつき、足首の布を外す。傷は深くない。だが泥が入っている。捻挫もある。走ったか、落ちたか、荷車の下敷きになりかけたか。軍の靴は大きすぎ、足の皮がむけていた。

「誰に置いていかれた」

レイモンが聞いた。

「置いていかれてない」

「なら、なぜ一人だ」

「伝令だ」

「伝令袋は泥の中だ」

「隊が襲われた。農民だと思って近づいたら、違った。馬を奪われた。伍長は川へ落ちた。俺は命令書を持って橋へ行けと言われた」

「それで?」

「走った。足を挫いた。荷車が倒れて、袋が落ちた」

「命令書は」

少年は黙った。レイモンが泥の中の伝令袋を拾う。袋の紐は切れていた。中には濡れた紙が一枚。印は残っているが、文字は一部滲んでいる。アデルは後ろから覗き込んだ。

「読めます?」

レイモンは紙を開き、眉を寄せた。

「北の橋を閉鎖。処刑人レイモンと、反革命容疑の女の逃亡に注意。協力者は拘束」

少年の顔が強張った。銃口がまた上がりかける。アデルはわざと感心したように手を打った。

「まあ。私たち、有名人ですのね」

「ふざけるな」

レイモンの声が低くなる。

「ふざけていません。深刻な顔をしても橋は開きませんわ」

少年は銃を構え直そうとした。レイモンは伝令袋を手にしたまま、少年を見る。

「撃てば、その命令書を届けられない」

「お前がレイモンか」

「そうだ」

「捕まえれば、俺は」

少年が言った。

「褒められるでしょうね」

アデルが答えた。

レイモンが彼女を見た。少年も見た。アデルは続ける。

「足を怪我して、命令書を濡らし、隊とはぐれ、それでも国のお尋ね者を見つけた少年兵。話としては悪くありませんわ。上官はあなたの肩を叩き、周りの兵は笑い、誰かが硬いパンを一つ多くくれるかもしれない」

少年の目が少し揺れた。

「……なら」

「その後、あなたはまた走らされる。今度はもっと遠くへ。もっと危ない道を。怪我が治る前にね。だって、あなたは役に立つと証明してしまうのだから」

少年の唇から色が引いた。レイモンは黙っていた。アデルの声は優しくない。だが、嘘もない。使われる者の未来を、甘く包まず置いているだけだ。

「国のためだ」

少年は絞り出すように言った。

「ええ。国のため。民衆のため。共和国のため。どれも立派な言葉ですわ。ところで、その立派な言葉は、あなたの足の腫れを引かせてくれるの?」

「黙れ」

「黙りません。あなたは兵士のつもりでここに座っているけれど、今のあなたは怪我をした子供です。まずその事実から逃げるのをやめなさい」

少年の目に涙が浮かんだ。怒りによるものだった。恥によるものでもあった。泣くな。彼の顔はそう言っている。泣けば子供になる。子供になれば、共和国の兵士でいられなくなる。アデルはそこを見て、少しだけ声を落とした。

「泣いても兵士は辞められませんわよ。安心なさい。大人たちは、子供が泣いたくらいで荷を下ろしてはくれませんから」

残酷な慰めだった。少年の顔が崩れた。銃口が落ちる。レイモンがそれを足で遠ざけ、傷口へ水をかけた。少年は痛みで息を詰めたが、声は出さなかった。

「名前は」

レイモンが聞いた。

少年は答えない。

「名前がないと、呼べない」

「……ジュール」

「年は」

「十四」

アデルは即座に言った。

「嘘ね」

ジュールは睨んだ。

「十四だ」

「靴の中で足が遊んでいる。肩も足りない。声もまだ割れ切っていない。十二か、よくて十三」

「十四だ!」

「では十四でいいわ。年齢は武器ではなく、盾として使うものよ。必要なら大きく言いなさい」

少年は混乱した顔をした。否定されると思ったのに、使えと言われたからだ。アデルは自分の布包みから針と糸を出し、レイモンへ渡した。

「包帯を固定して。私は命令書を読む」

「濡れている」

「濡れていても、読めるところは読めます」

レイモンは少年の足首を巻き直した。火傷した手で布を扱うのは痛そうだったが、動きは丁寧だった。ジュールはその手を見ていた。焦げた布、赤くなった皮膚、泥に汚れた指。兵士の手とも、貴族の手とも違う。

「処刑人って」

ジュールが言った。

レイモンは手を止めない。

「首を落とすだけだと思ってた」

「そういう時もある」

「怖くないのか」

「何が」

「殺した人が、夢に出るとか」

空気が少し止まった。アデルは命令書から目を上げなかった。ここで先に反応すると、レイモンが閉じる。ジュールは悪意で聞いたのではない。子供の残酷さは、刃物ではなく無知の形をしている。知らないから真ん中を突く。知らないから遠慮がない。

レイモンは布を結び終えた。

「出る」

ジュールは黙った。

「出るが、足は巻ける」

その答えに、アデルは命令書を持つ指へ力を入れた。妙な答えだ。慰めでも、教訓でも、懺悔でもない。夢に出る。だが足は巻ける。地獄を抱えたままでも、目の前の包帯は結べる。それはレイモンの今を、ひどく正確に言っていた。

ジュールは自分の足を見た。

「俺、戻らないと」

「戻れば処罰される」

レイモンが言った。

「命令書を濡らした。隊とはぐれた。銃も使えない。上官がまともなら営倉、まともでなければ見せしめだ」

「でも、戻らないと脱走兵になる」

「そうだ」

アデルは命令書を畳んだ。

「選択肢は三つ。戻って罰を受ける。逃げて脱走兵になる。三つ目は、命令書を届けられなかったことにする」

ジュールが顔を上げる。

「どういう」

「あなたは襲撃で川へ落ちた。命令袋は流された。足を怪我して、近くの農家に拾われた。数日後、別の部隊に保護される。命令書は届かない。橋の閉鎖も遅れる。あなたは完全には無罪にならないでしょうが、反逆者を見逃した罪よりは軽くなる」

レイモンはアデルを見た。

「農家などあるのか」

「あります。避難溜まりの母親が言っていた北側の古い粉挽き小屋。今は人が減っているけれど、夜なら煙を立てずに入れる。親方の工房印を見せれば、職人経由で匿い先を探せるかもしれない」

「また借りを使うのか」

「借りは使うために増やしていますの」

ジュールは二人を見た。

「俺を逃がすのか」

「逃がすのではありません。あなたの足が治るまで、戦場から一時的に紛失させるだけですわ」

「紛失」

「物扱いが嫌なら、自分で歩ける足を保ちなさい」

少年は黙った。アデルは続けた。

「代わりに、知っていることを話して。処刑人の家族を見たか、聞いたか。妻と子供。処刑場の騒ぎの後に逃げた母子。下町の端、処刑人の家から出た者たち」

レイモンの目が鋭くなった。彼は少年を見た。今度は手当てをする者の目ではない。夫の目だった。父の目だった。ジュールはその圧に少し身を引いたが、アデルが先にレイモンの腕を掴んだ。

「詰めないで」

「……」

「今この子の頭を揺らしたら、記憶まで崩れます」

レイモンは歯を食いしばった。アデルの手を振り払わない。振り払えば、自分が焦っていることを認める形になるからか、それとも本当に彼女の言う通りだと分かっているからか。どちらでもよかった。

ジュールは額に汗を浮かべ、考えた。

「見たかは分からない。処刑場の後、下町から母子が何組か出た。泣いてる子がいて、女が二人、荷を持ってた。兵が追うなって言ってた。処刑人の家の近くは、民衆が怖がってあんまり近づかないから」

「どちらへ」

レイモンの声は低かった。

「南の水門じゃない。あそこは閉じてた。たぶん、染物屋の通りを抜けて、古い施療院の方。負傷者に紛れれば、検査が薄いからって伍長が言ってた」

レイモンの顔から血の気が引いた。施療院。病人、負傷者、避難民。そこなら確かに紛れられる。だが同時に、感染も、密告も、徴発も、死も近い。

「いつだ」

「二日前の夜」

「確かか」

「鐘が鳴ってた。処刑場の騒ぎの後、夜中に。俺は水門の伝令で」

レイモンは立ち上がりかけた。アデルが袖を掴んだ。

「今走っても二日前の夜には追いつけません」

「手掛かりだ」

「ええ。だからこそ、潰してはいけません。施療院へ行く道、検問、病人の流れ、全部を確認してから行く」

「急ぐ」

「急ぐことと、考えずに走ることは違います」

レイモンは彼女を睨んだ。アデルはその目を受けた。怖くはなかった。いや、少し怖い。けれど引くつもりはない。ここで彼を走らせれば、彼は妻子に近づく前に捕まる。あるいは、誰かを傷つける。あるいは、自分を壊す。

「あなたが奥方とお子さんを助けたいのは分かっています」

「分かるのか」

「分かりませんわ」

アデルは即答した。レイモンの目が揺れる。

「あなたの焦りの深さも、父親の気持ちも、夫の罪悪感も、私には分かりません。分かったふりをするほど安い女ではありませんもの。けれど、あなたが今走れば失敗することは分かります」

レイモンは黙った。息が荒い。火傷した手がわずかに震えている。ジュールは二人を見て、ようやく自分が何か重大なことを言ったのだと理解した顔をしていた。

アデルは少年へ向き直る。

「施療院へ行く道を描ける?」

「少しなら」

「描きなさい。字が下手でも構わない。橋、染物屋、水門、兵の詰所、夜に通れる路地。全部」

ジュールは伝令袋から濡れていない紙片を探した。なかった。アデルは親方からもらった油紙の端を切り、木炭を渡す。少年は震える手で地図を描き始めた。線は歪み、建物の大きさもおかしい。だが、道の順番は分かる。軍の子供は、字より道を先に覚えるのだろう。

レイモンはその横で立ったまま、地図ができるのを見ていた。アデルは彼の腕をまだ掴んでいる。彼は離せと言わなかった。アデルも離さなかった。今離せば、彼が走るかもしれない。そういう理由にしておけば、自分の手が彼の袖を掴んでいたいだけだとは考えずに済んだ。

地図ができると、アデルは確認し、布包みに入れた。

「上出来」

ジュールは少しだけ誇らしげな顔をした。すぐにそれを隠そうとしたが、遅かった。アデルは見逃さない。

「共和国の兵士様は、地図も描けるのね」

「馬鹿にしてるのか」

「褒めています。褒め言葉くらい素直に受け取りなさい」

レイモンが横でかすかに息を吐いた。アデルは彼を睨む。

「何か?」

「自分が言われたことを返している」

「学習能力が高いのよ」

「そうか」

その短いやり取りで、張り詰めていた空気がほんの少し緩んだ。ジュールは銃を見た。泥で濡れた銃。革命章。伝令袋。自分が戻れば、また走らされる。戻らなければ、脱走兵になる。アデルはその視線を追い、銃を拾った。

「これは置いていきなさい」

「駄目だ」

「持っていると兵士に見える。見つかる。撃てない銃は重いだけ。革命章も外して」

「それを取ったら」

「あなたは少しの間、怪我をした子供になります」

「兵士じゃなくなる」

「足が治るまでね。兵士でいたいなら、まず歩ける足を取り戻しなさい」

少年は革命章に手をかけた。指が止まる。レイモンは何も言わない。アデルも急かさない。章を外すということは、彼にとって服の飾りを取ることではない。自分を大きく見せていた言葉を、いったん下ろすことだ。ようやく、少年は縫い目を引きちぎった。布が少し破れ、革命章が掌に落ちた。

「捨てるのか」

ジュールが聞いた。

アデルは章を受け取り、銃の布包みに入れた。

「預かります。生きていれば、どこかで返せますわ」

レイモンが彼女を見る。

「また借りるのか」

「これは預かりです」

「似たようなものだ」

「違います。借り物は私が使う。預かり物は、持ち主を生かすために持つ」

ジュールはその言葉を聞き、唇を噛んだ。泣きそうだったが、泣かなかった。泣かないことに意味がある年齢なのだろう。アデルはそこを尊重した。泣けと言うのは簡単だ。だが、泣かないことで立っている子供から、それまで奪う必要はない。

レイモンは少年に肩を貸した。アデルは銃を荷車の下へ隠し、伝令袋から使える紐だけを取った。道の横に古い粉挽き小屋へ続く細道がある。そこまで運び、職人印を見せ、親方の弟子が知っているという古い職人仲間へ渡す。完璧ではない。だが、このまま橋へ放置するよりは生きる確率が上がる。

同行している下級女官とその二人の子供たちは、常にレイモンたちの気配を追って、一定の距離を保ちながら後に続いた。

「なあ」

ジュールがレイモンの肩を借りながら言った。

「処刑人」

レイモンは返事をしない。

「俺、戻らなかったら、悪い奴か」

レイモンの歩みがわずかに止まった。アデルも黙った。答えにくい問いだった。戻れと言えば少年は壊れる。逃げろと言えば、彼の中の兵士を殺す。正しさで切れば簡単だが、簡単な刃はよく肉を余計に裂く。

レイモンはしばらくして言った。

「生きてから考えろ」

ジュールは顔を上げた。

「え?」

「死ぬ前に善悪を決めるな。死ねば、それを直す時間もない」

少年は黙った。その答えが立派だったのか、ずるかったのか、アデルには分からない。だが、少年は少しだけ肩の力を抜いた。今はそれで十分だった。

粉挽き小屋は半ば崩れていたが、屋根は残っていた。中には古い粉袋と、使われていない石臼がある。アデルは入口に工房印を押した小さな紙片を挟み、職人たちが分かるよう目印を残した。ジュールを奥の乾いた場所へ座らせ、水と少しのパンを置く。パンは少ない。だが全部は渡さない。渡せば、また次で詰む。アデルはその計算をやめなかった。

「迎えが来るまで動かないこと。誰かに聞かれたら、川で流された。命令書は失くした。拾われた。これだけ」

「嘘だ」

ジュールが言った。

アデルは頷いた。

「そうね」

「嘘をついていいのか」

「死ぬよりはいいわ」

少年は答えなかった。アデルは彼の掌へ革命章を戻さず、代わりに小さな布切れを置いた。人形を直した時に余った白いレースの端だった。

「何これ」

「包帯の予備」

「こんなの、女の」

「包帯に性別はありません」

ジュールは不服そうに布を見たが、捨てなかった。アデルはそれで良しとした。少年が何を守るかは、少年が後で決めればいい。

小屋を出る時、ジュールがレイモンを呼んだ。

「レイモン」

彼は初めて名前で呼んだ。レイモンが振り返る。

「施療院に、母子がいたら」

少年は言葉を探した。

「間に合うといいな」

レイモンは長く黙った。喉が動いた。声は出にくそうだった。

「……ああ」

それだけだった。だが、アデルはその一音を聞いて、胸の奥が少し詰まった。処刑人に向けられた呪いでも罵声でもなく、少年兵からの、ぎこちない願いだった。それを受け取るレイモンの顔は、火傷より痛そうだった。

小屋を離れ、二人はまた丘道へ戻った。空は夕方の色へ傾き、橋の方から軍笛が聞こえる。命令書は届かない。橋の閉鎖は遅れるかもしれない。ジュールは少なくとも今夜、戦場ではなく粉挽き小屋で眠る。アデルの布包みには、さらに余計なものが増えた。濡れた命令書、少年の描いた地図、革命章。借り物でも預かり物でもない、危険物に近い。だが使える。使えるものは、危険でも持つ価値がある。

レイモンは無言で歩いていた。だが、先ほどまでとは違う。焦りは消えていない。むしろ施療院の手掛かりを得て、内側で燃え上がっている。けれどその火は、ただ暴れる炎ではなくなっていた。地図という形を得て、道という形を得て、進む先を持った。

「行くわよ」

アデルが言った。

「施療院へ」

「ええ。ただし、走らない」

「急ぐ」

「急ぎます。でも走らない。あなたは火傷している。橋は閉じかけている。私たちは目立つ。さらにあなたは、今にも誰かを押しのけて突っ走りそうな顔をしている。そんな男を連れて正面から施療院へ入るほど、私は恋に溺れていません」

レイモンは彼女を見た。

「恋?」

アデルはしまったと思った。だが顔には出さない。出してたまるものか。

「言葉の綾ですわ。元恋人が焦って死にかける姿を見る趣味はない、という意味よ」

「そうか」

「そうよ」

レイモンは前を向いた。アデルも前を向いた。沈黙が落ちる。けれど、それは気まずいだけではなかった。ジュールの笛の下手な音が、まだ耳の奥に残っている。共和国の兵士だと言い張った子供。銃を下ろし、章を外し、最後にレイモンの家族の無事を願った少年。その顔もまた、レイモンの中に置かれただろう。処刑した者の顔の山に、また一つ、生きている子供の顔が混じった。

アデルは布包みの上から革命章に触れた。硬い。安物。だが、子供が自分を兵士だと信じるために必要だった物だ。アデルはそれを返すかどうか、まだ決めなかった。生きていればどこかで返せる。最近の自分は、そればかりだ。返すためには生きなければならない。生きるためには、また誰かを利用し、助け、借り、預かり、嘘をつく。なんて忙しいことだろう。死刑台で首を落とされていた方が、予定表としてはよほど単純だった。

だが、単純な死より、面倒な生の方がアデルには似合っている。

「ねえ、レイモン」

「何だ」

「あなた、少年に名前で呼ばれていましたわね」

「それがどうした」

「少し嬉しかった?」

「分からない」

「またそれ?」

「本当に分からない」

アデルは笑った。少しだけ優しく、少しだけ意地悪く。

「では、私が代わりに記録しておきます。火傷した手で少年兵の足を巻き、脱走ではなく紛失にしてやり、施療院への地図を受け取った。ついでに、レイモンと呼ばれた」

「記録するな」

「嫌ですわ。あなたが忘れるでしょう」

レイモンは黙った。図星だった。彼は殺した顔ばかり覚えている。助けた顔は、自分だけではすぐに取り落とす。なら、拾う者が必要だ。アデルはそれを慈悲とは呼ばなかった。恋とも呼ばなかった。記録。投資。逃亡の帳簿。そういう名で包んでおけば、胸の奥が余計な音を立てずに済む。

丘の向こうに、施療院へ続く古い道が見えてきた。夕暮れの薄い光の中、道は灰色に沈み、遠くでまた鐘が鳴った。レイモンの足が少し速くなる。アデルはすぐに追いつき、並んだ。

「走らない」

「分かっている」

「本当に?」

「分かっている」

「なら結構。奥方とお子さんを助ける前に、あなたを私が縛って運ぶ羽目になるのは避けたいもの」

「縛るな」

「必要なら縛ります」

「できると思うのか」

アデルは笑った。

「できると思わせるのが、女の腕ですわ」

下級女官と子供たちの微かな足音は、二人のすぐ後ろから絶えることなく聞こえていた。

レイモンは呆れたように息を吐いた。ほんの少しだけ、いつもの顔が戻った。アデルはそれを確認し、前を見た。施療院には、彼の妻子の手掛かりがあるかもしれない。あるいは、もう何もないかもしれない。どちらにせよ進むしかない。死ななかった者は、面倒な道を選ばされる。アデルは汚れた裾を持ち上げ、夕暮れの道へ足を踏み出した。

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