第六十一話 魔術大会開催の知らせ
久しぶりの更新となります!お待たせしてすみません!
あれから、少女ミリアは私達の施設で保護され、同じクラスで共に学習に励むことになった。さらに驚いたのは、彼女は氷属性魔術を使うのが得意だということ。それでスケールとすぐに仲良くなった。
「氷属性魔術はね、とにかく、冷たいものをたくさん想像するんだ。自分が冷たいと思うものとかを思い起こすんだよ」
「なるほど……俺は魔術というより、槍を使った物理攻撃も同時に使うからなかなかに難しいんだ」
授業の合間に時間さえあればこうして魔術の話で盛り上がっていた。
ルミナとの実践練習で忙しい私は、最近他の三人の元にいけていない。だからそれぞれがどのような練習方法で、果たしてどのぐらい成長しているのかすら、分からずにいた。唯一少し知っているのはスケールのことだけ。スケールの元には一回だけ行ったことがあるから。
「ねぇ、そういえばさ、ルティアとリアの方は最近どうなの?私別れて以降、二人の練習の様子見てなくて」
私は自分の一つ後ろに座る二人に声をかけてみた。
「そうね、確かに魔術練習の時はお互い離れたところにいるからなかなか見せられないもんね」
ルティアとリアは引き続きアネモスの指導の下で練習を続けていて、実践練習で苦戦している……というところまでは見た。でもあれからどうしているのかは分からない。
「私はね!使える魔術の幅が増えたんだよ!」
と、リアが右手を伸ばして前のめりになりながら答えた。
「そうなの?」
「うん!今まで連発できなかった上級魔術を使えたりとか!」
リアはいつもと何も変わらない無邪気さを全開にして嬉しそうに答える。ただその攻撃名を言われても見てみないと分からない。
強そうな言葉の羅列だけ聞いても……ね……
「……たまにはさ、みんな一つの部屋に集まってお互いに現状を見せあったりしてもいいんじゃないかと思うんだけど……」
話を聞けば聞くほど益々そう感じた。私がそう言葉を漏らすと、リアもスケールもルティアも軽く頷いたように見えた。
そういう時間を作れるよう、少しお願いしてみるか。
✳︎
休憩時間。私達はテラスでいつものように昼食をとることにした。窓から差し込む日の光が暖かい。アネモスに運んでもらった食事も、湯気から香る野菜と出汁の香りがとてもいい。そしてこの時間はアネモスともお話しができるのでちょうど良い。
普段の授業中は、アネモスはいない。彼女は施設の管理者であって、生徒でも先生でもないわけだから当然だけど。
「ねぇ、アネモス、今度時間があれば一度みんなの練習状況を共有できる場が欲しいなって思うんだけど、どうかな」
私は運ばれてきたトレーに乗ったスープを人匙スプーンで掬って口に運びながら私の向かいの椅子に座って同じように昼食を取り始めるアネモスに尋ねる。
「実はその話をしようと思っていたところだったの」
そう言って、アネモスは胸ポケットから折り畳まれた一枚の紙を取り出して、それを机の上に広げて見せた。「これなに?」とリアが興味津々でその紙を覗き込む。
「実は、ミリステッド国では年に一回、“魔術大会”と呼ばれる大会があるんだ」
アネモスはそう説明を始める。
確かに、文字が小さくてしかもただ黒ペンで書かれたという程度の、色も絵もない、メモ書きの様な紙だったから、リアの席からでは覗き込まないとよく見えない感じだ。
「魔術大会って?」
次はルティアが聞いた。
「魔術大会は、年に一回、志願した魔術師達が集まって一対一で勝負してお互いに魔術の強さやレベルなんかを競い合う、魔術を使ったトーナメント型の大会だよ」
話によると、ミリステッド国に住んでいて、6歳以上の魔術師であれば誰でも参加できるという。毎年五十人を超える者がいろんな地方や村から志願して集まり、交流を深められるイベントだという。
「えー!面白そう!」
話を聞いて一番に手を挙げたのは、やはりリアだった。
「リアは本当に魔術好きだもんね」とアネモスもうんうんと頷く。
「他に参加条件はないのか?」
次にスケールが聞いた。
「そうね、魔術大会では、自分の武器じゃないといけない、とか、自分が有利になるように改造した武器は使えない……とか。そういうルールはあるかな」
アネモスはそう答える。
確かに、使う武器によって差が出てしまうのは良くない。できるだけ対等に戦わなければ、どちらかが武器を理由に不利になるのは対戦する以前の話だ。
すると何故かその答えを受けたスケールは、何かに気づいたように「あっ」と小さく声を上げた。
「でも、そうなると俺達今現在では自分の武器ないですし、買いに行くところからですね」
「確かに……」
私はそれを聞いて考えた。
私達がこれまで使ってきた武器は自分のものではない。それに練習用に作られた武器だ。今のままでは参加したくてもできない。
「あれ……?こないだ私が言ったこと、忘れちゃった?」
なんの話だっけ、と私達は顔を見合わせる。記憶力が高いからなかなか忘れることもないはずなのに、なぜかその時の行動だけ思い出せない。
しばらくそうしていると、アネモスはやがてクスリと軽く笑って言った。
「君たちの壊れた武器を預かって、鍛治師に直してもらうよう、依頼したって話だよ」
「あー!!!」
答えを聞いて、私は思わず大胆な反応をしてしまった。どうしてこんな大事なことを忘れているんだ。他は今すぐ映像として映し出せてしまうぐらい、ものすごく鮮明に記憶にあるのに。
チラリと他の三人の様子も見るとあんぐりと口を開けて硬直していた。
「その武器の修復も完成したって、ついこないだ連絡が入ったよ」
それを聞いて、私達はもっと硬直してしまった。しばらくして、申し訳がなさそうにスケールが口にした。
「なんか本当に何から何までごめんなさい。俺達、まともにお返しできてないし、流石に申し訳ない」
「いやいや、そんな!いいから頭を上げて……額ぶつけちゃうよ」
テーブルに額がついてしまいそうなほど深く頭を下げるその様子に、アネモスは少し困惑したように両手を振る。そして言葉を続けた。
「………………それに、みんなの分もそうしようって決めたのは、やっぱり、あなた達の話を聞いて、この武器であなたの最大の宿敵である者に立ち向かって欲しいなって思ったから。他じゃダメだって言った理由も分かった気がして」
アネモスはほんの少し言いづらそうに、机に置かれた紙と机の木目を見つめながら静かに言った。お昼時で周りは賑わっている中、その一言で、私達gs囲んでいるこの机の周りだけ、どこか静かになった気がした。
アネモスは、顔を上げてさらに言った。
「あの武器に付けた血も傷も、きっとみんな、君達の命と祖国を侵食し続けている、“長”への復讐に繋がっていくものなのだと、私はようやく理解した。他の武器にしたら、今まで溜めてきたそれが、一度なくなってしまうから」
私はアネモスの言葉を聞いて、自然と体が固まってしまった。ただ、そう言う彼女の不純物の一切ない翡翠色の両目を見つめて。視界がだんだんぼやけていってようやく、自分が瞬きすらしていなかったことに気づくほど。
確かにそうだ。スケールは、そう言っていた。あの槍に残した血は当然拭いてはいたけれど――祖国から追放される直前に、支配に侵された子供を涙ながらに刺し殺すことになった時から、いや、もしかしたらもっと前から、血を拭き取る手が、どうも重く感じていた。
「それを……分かってくれるのか」
スケールも少しだけ眉を持ち上げて驚きを含ませた声で言った。
「私は、敵とかもいないし、誰かに追われたこともない。復讐なんかもしたことない。でも、やっぱり魔術を極めてきた者として、ここで色々な子供達をみてきた者として、百パーセントではないかもしれないけれど、少しだったら理解できる部分もあるなって」
アネモスは尚も言いづらそうに言い、私達とは目も合わせず、下を向いたまま、どこか語気も弱く沈んでいるように思った。
だから、私は言った。
「でも、それがたった一パーセントだったとしても、理解してくれるのは、嬉しいという一言だけでは片付けられないよ」
アネモスはそれを聞いてようやく、しっかり顔を上げた。そして、数秒の沈黙の後……ほんの少し、口角を上げたように見えた。
「ありがとう……」
アネモスは、そう小さく口にした。
優しい鍛治師のガーディさんに依頼の報酬として貰った武器。ずっと愛用していた。だけど、私が起きて最初に目にしたとき、それは普通の人なら、処分するのが当たり前なほど壊れていた。
捨てるのも仕方がない。新しいのを買おう。そっちの方が安く済むかもしれない。そもそも直すのなんて不可能だ。
などという感情が渦を巻いていたけれど、でも本当は私だって、最初に手にした武器で、最後まで戦い抜きたいと思っていたのは事実だ。
「じゃあ、私達は、その武器で、魔術大会に出られるの……?」
静かな優しい囁き声のような響きで、今度はルティアが聞いた。アネモスは無言で優しく微笑んだ。
「せっかくこの流れになったから、取りに行こうと思うんだけど……一緒にいくよね?」
その一言で、私も、ルティアも、スケールも、リアも。皆表情を緩ませた。
「「「「もちろん……!」」」」




