交差する運命6
(待ってろよ!ミホ!)
ダンは急いで泉の水を汲むと、再び馬を走らせた。
ミホは大事な仕事仲間であり友人だ。ミホの置かれた境遇を知ってからは、その数奇な運命に同情したし、それに負けずに生き抜いてきた強さに尊敬の念も覚えた。
そんな彼女の悲願だった息子との再会を、こんな後味の悪い形で終わらせる事なんて出来ない。
当事者のミホとレンは勿論の事だが、何より気がかりなのはシヴァの反応だ。
ダンは自分の左手首に巻き付けられた銀のブレスレットをチラッと見た。
シヴァは身内に甘い。単なる仕事仲間のダンに対しても、己の魔力を込めたお護りを持たせたくらいだ。
(ガロンが傷つけられただけでエリア一つ無くすぐらい暴れるつもりなんだ。もしもミホが死んじまったら…)
壊滅状態になった首都の様子を想像して、ダンは身震いをした。
もしそんなことになったら、歴史上最悪の出来事として後の世に語り継がれ、人間と魔物の関係修復はもはや不可能になるだろう。
(ミホ!絶対死ぬんじゃねぇぞ!!)
戻って馬から降りると、シヴァがミホを抱きしめて静かに泣いていたので、ダンは焦った。
「嘘だろう!?おい、ミホ!泉の水だ。飲んでくれ!」
シヴァはダンを見て柔らかく微笑んだ。
「ありがとう。ミホの意識が戻ったら飲ませるとしよう」
「!! 生きてんのか!? ったく、まぎらわしい真似すんじゃねぇよ!!」
寿命が縮んだじゃねぇか、とダンは腹立ち紛れに思わずシヴァの頭を軽く叩いたが、シヴァは気を悪くするどころか上機嫌だった。
「悪い、思わず感極まってしまってな」
「その反応からすると、ミホは大丈夫なんだな?」
「ああ。本当にミホには驚かされっぱなしだ。ガロン、それにダンも聞いてくれ。子供が出来た」
「え?」
「は?」
ガロンとダンはポカンと口を開けた。
「恐らくミホも妊娠した事に気付いてないだろうが、間違いない。先程から私の魔力をグングン吸収して内側から回復魔法をかけている。我が子ながら末恐ろしいよ」
そう言いながらもシヴァは嬉しそうに目を細めている。
「魔物って胎児の頃から魔法使えんのか?」
「いいや、そんな話は聞いた事がない。恐らく生命の危険を感じて本能でやっているんだろう」
「マジか…」
驚き呆れているダンと対照的に、ガロンはパァっと顔を輝かせた。
「じいちゃん、それって俺に弟か妹が出来るってこと!?」
「そうだ」
「いつ?いつ生まれるの?」
「10ヶ月以内には生まれるぞ」
「俺、頑張って卵のお世話する!毎日綺麗に拭いてやるし、日向ぼっこもさせる!」
「はははっ、人間は卵では産まれないんだ」
「えっ、そうなのか?」
さっきまでの悲壮感は何処へやら、シヴァとガロンは家族が増えると喜んでいた。
(生まれる前から魔法を使うなんて、何でもありかよ…。こんな奴らと戦争して勝てるわけねーわ。改めて歴代の勇者って凄かったんだな…)
そう思いながら視線をずらすと、レンが信じられないものを見るかのようにミホを凝視し、立ち尽くしていた。
「お母さん……な、んで?」
(あちゃ〜、こりゃまずいな)
ダンは今のレンの心境が手に取るように分かって同情した。
ダン自身も子供の頃に父親を亡くし、母一人子一人だったのだ。
もしも母親に再婚したと言われたら、これまで苦労した分も幸せになって欲しいと思う反面、誰だよソイツ、いつの間にそんな関係になったんだよ?俺に一言の相談も無しかよ、と複雑な思いを抱くだろう。
いい歳した大人でもそう思うのだ。思春期真っ只中のレンが傷つくのも無理はない。
「おい、2人とも。めでたい話で浮かれるのは分かるが、もう少しレンの気持ちも考えてやれ」
ダンがそう言うと、シヴァとガロンは顔を上げてレンを見た。
「ああ、そうだったな。レン、こちらに来てミホの側についてやってくれ」
「俺はガロンだ。レン、ヨロシクな」
しかしレンは泣きそうな顔をして首をゆっくりと横に振りながらジリジリと後ずさりし、最後には背中を向けて駆け出していった。
「おい! レン!」
「レン! 待ってくれ! 話を聞いてくれ!」
ダンとショーンが呼びかけながら同時にレンを追いかけるが、レンは止まらない。
「嫌だ!何も聞きたくない!誰も信用できない!大人は皆嘘つきで自分勝手だ!」
レンの叫びと同時に、晴れた空から雷鳴が轟いた。




