交差する運命5
丘の中腹の馬車目掛けて元気よく駆け上がるガロンと、その後を必死に追う騎士の姿を捉え、シヴァはスピードを上げようと馬の腹を蹴った。
(頼む! 間に合ってくれ!)
ガロンと人間を戦わせるのは避けたかった。
一対一ならばガロンが人間に遅れをとる事はない。しかし戦争が終わった事を知っている今、ガロンはどうしても受け身になってしまう。反撃するのを躊躇った結果、隙をつかれ怪我をする可能性もある。
仮にガロンが勝ったとしても手放しでは喜べない。もしも反撃を受けた人間が運悪く死んだりしてしまったら、後々面倒な事になるからだ。ここは森ではなく、人間の領域なのだから。
今回の戦争は魔物にとって「正当防衛」だった。被害妄想に捕われ、勝手に我らの領域を侵した愚か者を排除したに過ぎない。
しかしここで人間を傷付けてしまうと、奴らは自分達の事は棚に上げて、ここぞとばかりに言い募るだろう。
「やはり魔物は極めて危険な悪しき存在だ」と。
先に手を出したのが人間だとしても「首都で暴れた魔物を討伐する為」と言う大義名分がある。
勝っても負けても、損をするのはこちらだ。
そんな思いも虚しく、騎士がガロンに攻撃を仕掛けた。
「ガロン!」
てっきり戦闘が開始するかと思ったが、そうはならなかった。
現実は想像していたよりも、もっと酷かった。
辿り着いた先で見たのは、ショーンの腕の中で上半身血まみれで意識を失っているミホと、悲しんでいるガロン。そして涙を流しながら茫然自失状態の少年。その手はミホの血で濡れていた。
「嘘だろ…こんなの…あんまりじゃねぇか」
ダンの言葉で目の前の少年がレンだと確信したシヴァは、怒りの矛先を失ってしまった。
レンがガロンを攻撃したのは、勇者として己の義務を全うしようとしたにすぎない。真実を知らないレンにとって、魔物は母親の仇なのだから恨んでいるのは当然だ。
ミホはレンがガロンを狙っていることに気づき、それを止めようとしたのだろう。愛する我が子が、もう1人の息子を傷付けないように。
お互いがお互いを大事に思っているからこそ起こってしまった悲劇。
運命の悪戯と言うには、あまりにも残酷過ぎる。
(もしもあの時、レンを無理矢理にでも保護していれば、こんな事にはならなかったのに…)
炎に包まれる森でレンを見かけたあの時、シヴァは一瞬迷ったが、森を鎮火させる事を優先した。
レンの保護を優先したら確実に戦闘になり、その間に炎はもっと燃え広がるだろう。それにシヴァもレンも無傷ではすまず、後々遺恨も残すことになる。そう思っての判断だった。
しかしその判断が、こうも残酷な未来につながるとは…。
(後悔しても仕方がない。今はミホを救う事が先だ。ガロンと…レンの為にも)
ショーンの説明では、傷は塞がったが光属性の回復魔法が効かないという。
(神官の治癒魔法も光属性のはずだが…。以前私の施した回復魔法のせいだろうか?)
あの時は外見に大きな変化は見られず、副作用もおきなかった。しかし実は闇属性の魔素が体内に留まり、それが光属性の回復魔法と反発しているのかもしれない。もしそうならば、今回もシヴァの回復魔法は効くだろう。
「ミホ、聞こえるか? 絶対に助けるから諦めるんじゃないぞ」
シヴァはミホを左腕に抱きかかえるようにして座り、右手でミホの片手を握り目を瞑った。
そうしてミホの体の隅々に魔力が行き渡るよう、慎重に回復魔法をかけていたシヴァだったが、しばらくするとハッと目を開け、マジマジとミホを見つめた。
「…ミホ?」
呼びかけても返事はなく、ミホは固く目を閉じたままだ。
ポタリ、とミホの頬に水滴が落ちた。
シヴァは震える手でミホをギュッと抱きしめ、その肩口に顔を埋めた。




