交差する運命7
「…何だよ、それ…。俺はずっと騙されてたのか…」
初めはショーンに抱きしめられたまま黙ってリアムの懺悔を聞いていたレンだったが、事実を知るにつれショーンから体を離し、リアムを正面から睨んだ。
リアムの事を、民の為に力を尽くす立派な人だと本気で思っていた。
公私にわたって世話をしてくれてたアルヴィンに対しては、恩すら抱いていたというのに。
「こんな人達をずっと尊敬してたなんて…馬鹿みたいだ…」
「本当にすまない。どうしても国の滅亡を阻止したかったんだ…」
「だから何をしても構わないって? ふざけるな!!」
勇者になる為の訓練は辛く厳しかったけど、別にそれは構わない。
許せないのは、お母さんに対する仕打ちだ。
俺を勇者にするのに反対しただけで、怪我を負わせて魔物の棲む森に捨てたなんて、どうしてそんな酷い事が出来たんだろう?
「…先生も、知ってたの?」
「ああ。レンに会って間もない頃、森で魔物に襲われた所を助けられたという話を不審に思って、アルヴィン殿を問いつめた。彼はミホさんを森に置き去りにした事を後悔して、正直に話してくれたよ」
「なんで!? なんで教えてくれなかったの!?」
「…あの時、事実を知ったとして何もできなかったろう? 勇者として力をつける事でしか、お前に生き残る道は残されてなかった。だから言わなかったんだ」
「そんな…、だからって…」
レンの目に悔し涙が滲んだ。
ショーンの言う通り、あの頃の自分は事実を知っても何も出来なかっただろう。
彼等に反発して飛び出した所で、この厳しい世界で生き抜く知恵も力もない子供に待っているのは悲惨な最期だけだ。
ショーンが黙っていた気持ちは理解できる。だけど納得できない。
自分の胸の内に沸き上がる激情のまま、レンは叫んだ。
「信じてたのにっ! 嘘つき! 嘘つき! 嘘つきぃぃっ!!」
リアムが恥じ入ったように目を伏せて俯き、ショーンは泣きそうな顔で「黙っててごめん」と謝ったが、到底、許せそうになかった。信頼していた分、裏切られたショックが大きかったのだ。言い表せない怒りと悲しみで、頭がどうかなりそうだった。
その時、焦ったようなダンの声が聞こえた。
「嘘だろう!?おい、ミホ!泉の水だ。飲んでくれ!」
(お母さん! 嫌だ、死なないで!)
正気に戻ったレンは慌てて母親の元へ駆け寄ろうとした。しかし「子供が出来た」という信じられない言葉に、凍り付いたように足が止まった。
「妊娠」「我が子」「弟か妹」
喜びを隠そうともしない魔物達の弾んだ声が聞こえる度に、レンの心臓は締め付けられるように痛んだ。
「きっと彼等が助けてくれる」というショーンの言葉から察するに、きっとこの魔物達がお母さんを助けて今まで一緒にいたのだろう。彼等の言動からは、仲睦まじい様子が伺える。
(つまり、お母さんはこの魔物と…)
レンの胸の内に、再びモヤモヤとどす黒い感情が広がっていった。
(生きてくれていたのは嬉しい。本当に嬉しい。だけど…だけど…)
「お母さん……な、んで?」
生きてたのなら、どうして会いにきてくれなかったの?
俺が勇者になる事を猛反対するぐらい、心配だったんじゃないの?
それとも俺の事を諦めて、新しい家族を作ったの?
だから、さっきこいつを庇ったの?
なんで? なんでだよ!?
魔物達に親しげに名前を呼ばれたが、レンは近づくのを拒否した。
悲しみと怒りが一辺に押し寄せてきて、感情を制御できそうにない。
未だに意識を取り戻さない母親の事は心配だったが、この場にいると自分が何をしでかすか分からず、レンは彼等に背を向けて走り出した。
「待ってくれ! 話を聞いてくれ!」
「嫌だ!何も聞きたくない!誰も信用できない!大人は皆嘘つきで自分勝手だ!」
神官様も、隊長も、先生も…お母さんも。
信じていた世界はレンを裏切り、足元から崩れ去って行った。
どうしていいか分からない。
どこでもいいから何処かに逃げ出したかった。
ぐちゃぐちゃの感情のままに叫んだ時。
バリバリバリバリッ! ドーンッ!
閃光が閃いたかと思うと物凄い雷鳴が轟き、大地に衝撃が走った。
「おっと、無理矢理空間を繋いだせいで、凄い音が鳴ったなぁ」
気付くとレンの目の前に、黒い影が立ちはだかっていた。
「……誰だ?」
「自己紹介しなくとも、お前ならわかるだろう? 迎えにきたぞ」
ニヤッと余裕のある笑みを浮かべながら、魔王がレンを見つめた。




