未来の約束
誤字の修正をしました。
「ミ、ミホさん、気持ちはよくわかりますが…お、おちっ、落ち着いて…くっ下さい」
怒り心頭で周りの見えなくなった私の耳に、あわあわと焦った様子のショーンの声が聞こえた。
ショーンは震える手で私を引き寄せると、自分の背後へと押しやった。まるで魔王様から私を庇うように。
彼は魔王様に何か言おうとしたが声にはならず、しばらく口をパクパクさせた後でゴクリと生唾を飲み込んだ。
極度の緊張の為だろうか?背後から窺った顔色は、もはや青を通り越して白に近い。
「ショーンさん、これは私の問題です。巻き込むつもりはないので…」
「いいえ」
白い顔のまま、ショーンさんはきっぱりと言った。
「自分にとってもレンは掛け替えのない大事な弟子です。このまま黙って記憶を奪われるつもりはありません。…自分も一緒に戦います」
そんな私達2人を黙って見据えていた魔王様が、ニヤリと笑った。
「はははっ!よくぞ言った!そうでなくては!!」
上機嫌で笑う魔王様を前にして、私達は2人ともポカンとした。だって、あれだけの啖呵を切ったのだ。不敬だと手打ちにされても不思議ではない。
「母は強し、とはよく言ったものだ。この私にあのような口をきくとは。人目も憚らず大泣きされた時は心が折れたかと思ったが、本当にお前は面白い」
くっくっくっ、と愉快そうに笑いながらこちらを見る目は温かい。
緊張が解けたショーンさんが、ヘナヘナと力が抜けたように座り込んだ。
「お前の言う通りだ。こんなふざけた運命なぞ、さっさと壊すべきだと常々私も思っている。ソレイユは家族に会いたがっていたが、自分の贖罪に巻き込むつもりはさらさらなかった。しかし残念ながら運命に捕われている身では抗うことは出来ない。だが、お前は違う。お前はこの世界の理の外れにいる異端者だ。ああ、怒るなよ。褒めているんだ。お前のおかげでこの世界は変わりつつある」
魔王様はそう言って湖を指し示した。
そこに映されていたのは、ダンとラーソンの姿だった。2人は並んで床にどっかりと腰を降ろし、大量の芋の皮むきをしていた。声は聞こえないが、2人で何やら楽しそうに話しながら作業をしており、時々小突き合いながら笑っている。皮を剥いたジャガイモの入った桶を受け取りにきたフィンが2人の会話に加わり、長い尻尾でダンの二の腕を軽く叩いて離れていった。
何の事はない、いつも通り料理の下処理をしている風景が映ってるだけだ。
水鏡がゆらりと揺れて、次に映ったのは幹部達だ。イチゴのロールケーキを食べながら和やかに話しているから、多分4ヶ月前の定例会議の様子だろう。
「あの…これが何か?」
一体どんな変化が起こったかと固唾を飲んでいたが、映し出されたのは見慣れた光景で、私は首を傾げた。
「刃物を持った人間が魔物達に警戒されずに受け入れられている。これは間違いなくお前の影響だ。幹部達にしてもそうだ。いずれも種族の長としてプライドが高く一筋縄ではいかぬ者達ばかりだ。種族間でのテリトリー争いも多く発生していた。だが、お前を幹部に召し抱えた後は発生していない。何度も共に食事をとるうちに幹部同士の関係性が良くなり、種族間の問題も話し合いによって解決するようになったからだ」
愛おしそうに水鏡を見ていた魔王様の視線が、再びこちらに向いた。
「極めつけは、シヴァの伴侶になった事。そして女神様の愛し子を味方に付けた事だな。運命をぶっ壊すと息巻くお前と、共に戦うとまで言わせるとは」
魔物と人間、両種族のトップクラスの実力者を手中に収めるとは大した奴だ、と魔王様は笑った。
「心のままに行動するがいい。私は邪魔などしない。それに…」
魔王様はテーブルのフルーツタルトに手を伸ばして一口齧った。
「叶うならばお前の息子とも、こうやってお茶を楽しみたいと思っているのだ。今までこちらにやってきたソレイユの子孫は、いずれも成人していたからな」
(魔王様って子供好きだったのね。…でも、だからか)
かつて攫われた子供達を助ける為に、自ら現地まで乗り込んだのは。
あの時は本当に驚いたけれど、魔王様のベースとなっているソレイユは家族を心から愛していた。だからこそ、子供達を攫われた親の悲しみや私の怒りを理解してくれたのだ。
家族を助けたい、という彼の願いは叶った。おかげで自分はこの世に生まれてきたのだ。
だけど、彼自身は報われただろうか?
幸せの定義は人それぞれだけれど、運命に捕われた魔王様は幸せそうには見えない。
だったら、せめて願いを叶えてやろうじゃないか。
「ありがとうございます。その時は2人の為に、腕によりをかけて特別なお菓子を作ると約束します」
ほんの一時でも、幸せを感じてもらえるように。
読んで下さってありがとうございます。




