予想外の展開
「何だかすっかり疲れちゃったわ」
「自分もです。あまりにも予想外な事ばかりで驚きました」
「さっき聞いた事は、やっぱり秘密にしておいた方がいいかしら?」
「そうですね。シヴァさん達の記憶は既に変えられていますし、真実を話しても混乱するだけでしょう」
「…そうよね。蓮を取り戻して魔王様と戦わせないようにするっていう目的は変わらないわけだし」
魔王様から口止めはされなかった。いくら記憶を上書きできるから、といっても一定の条件は必要なようだし、ここは私達の判断に任せるという事だろう。
「はい。絶対に阻止しましょう。レンがこれ以上悲しい思いをしないように」
「ええ。蓮は今頃どうしてるかしら?」
「恐らく王女を城に返す為に首都に戻っているはずです。クリフォード将軍と分断された事で指揮系統も乱れてますから、仕切り直すにしてもまずは国王に状況報告をするでしょう」
「それなら向こうが体勢を整える前にこちらから出向いて叩くのも一つの手よね?」
「仰る通りですが、魔王軍を首都に向わせるつもりですか?」
「いいえ。送り込むのはクリフォード将軍の軍隊よ。凱旋したように見せかけて、相手が油断している所でクーデターを起こしてもらいましょう」
「成る程。それならば魔物のせいでアビラス王国が滅亡したとはなりませんね。あくまで表向きは、ですが」
「クリフォード将軍に汚れ役を押し付ける形になってしまって申し訳ないけれど…」
私の言葉にショーンは首を振った。
「そうとは限りません。確かにクリフォード将軍は一部の者から反逆者と言われるでしょう。ですが後世では圧政から民を救った英雄と讃えられるかもしれない」
何事も表裏一体です、というショーンにミホは頷いた。
「そうね。とにかく今日の所は帰って休みましょうか。シヴァやクリフォード将軍と相談するのは、明日以降でもいいでしょう」
まだ時間はある。
そう思っていた私の考えは、翌日もたらされた報告によってあっさりと覆された。
◆◇◆◇◆◇
「ごめん、ちょっと意味が分からない。悪いけどもう一回説明してもらえる?」
私の耳がおかしくなったのかしら?と首を傾げていると、シヴァから耳を軽く引っ張られた。
「現実逃避をしても結果は変わらん。現在レンと聖騎士達は国賊として捕われ、牢に入れられているそうだ」
「それは確かなのですか?」
ショーンの問いに、シヴァが溜息をついた。
「残念ながらそのようだ。レン達が森を出る直前、グレゴリーの眷属の蜘蛛が2匹、奴らの馬に飛び乗って荷物に紛れ込んだ。そのまま城について行って、見たままの情報を送ってくれた」
「しかし一体何故そのような事態に?聖騎士を国賊扱いするなんて正気の沙汰とは思えない」
ショーンの呟きに、シヴァは全くだと同意した。
「レン達が罪を犯したわけじゃない。王女を城に送り届け、国王に謁見した際、戦況を聞かれた聖騎士達は正直に全てを話した。どうやらそれが国王の逆鱗に触れたらしいな」
「どうして?」
「王女の魔力暴走が原因で、多くの味方が死亡した挙げ句、アンデッドとなった為にやむを得ず切り捨てた。王女の父親でもあるアビラス国王にとっては、確かに受け入れがたい話だろうな。元を辿れば戦争を起こした国王の責任だから同情はしないが」
シヴァは肩をすくめた。
「王女は泣きながら自分の罪を償いたいと言ったようだが、戦争体験による神経衰弱という名目で幽閉され、箝口令が敷かれた。口外した者は舌を切り取るとまで言ったそうだ。どうやら国王は聖騎士と勇者に全ての責任を押し付けることにしたようだな」
「馬鹿な事を!!」
「愚かな!!」
ショーンとクリフォード将軍の怒声が重なった。
「すぐにでも王都に帰り彼等を救わねば。私の部下達の回復はまだですか!?」
「少なくとも後2日はかかる」
「全員でなくとも構いません。100人程いれば近衛兵と十分にやり合える。急がねば」
ショーンはクリフォード将軍の背後で、ウロウロとせわしなく歩き回っていた。
「国王は何を考えている?聖騎士と勇者を捕らえるという事は、神殿を敵に回すということだぞ。まさかそれすらも忘れてるのか?」
女神信仰の信者は世界中にいる。それ故、神殿はどの国にも属しておらず、国家間の問題については常に中立の立場を貫いている。総本山である神殿がアビラス王国の首都グラードの城壁内に立地しているから、長い間手を携えてきたにすぎない。聖騎士が属しているのはアビラス軍ではなく神殿だ。此度の戦争に参加したのも、アビラス王国の滅亡を阻止する為に協力したのだ。
謂れのない罪で聖騎士を投獄するなど、長きに渡って王国に敬意を払い、協力してきた神殿に対しての裏切り行為だと言えよう。
女神様の代弁者として神官の頂点にいるリアムが一声かければ、世界中に派遣されている聖騎士がすぐに集まるだろう。派遣されている人数は各国わずか20人程度だが、近隣諸国の聖騎士だけでも100人にはなる。城を制圧するには十分だ。
「クーデターを起こす前に、神殿がアビラス国王に聖戦を仕掛ける可能性もありますね」
ショーンの言葉にクリフォード将軍が頷いた。
「城を落すだけなら構わないが、他国の軍が便乗してアビラス王国に乗り込んでくる可能性もある。そうなると土地が荒らされ、多くの民が犠牲になる。一刻も早く首都に帰らねば」
2人の話を聞いて、シヴァとオリヴィアが顔を見合わせた。
「なんだか私達が手を下すまでもなく、勝手に自滅して行きそうね」
「そうだな」
「何のんきな事言ってるのよ、2人とも」
私はぎゅっと拳を握った。ざわざわとした胸騒ぎが止まらない。
相手は女神様の意向を無視して、無理矢理勇者の降臨をさせた奴だ。一度成功したのだから、次もやろうとするに違いない。あの身勝手な国王にとって、勇者とは都合のいい駒にすぎないのだ。
「あの国王は滅亡の理由を魔王様の復活だと決めつけてるのよ。きっとまた代わりの勇者を召喚しようとするはずだわ。そうなったら蓮は邪魔なはずよ。一刻も早く助けに行かなくちゃ」
蓮。蓮。お願い。私が行くまで、どうか無事でいて。
お待たせしました。
今回も読んで下さってありがとうございます。




