選ばれし者3
レンは、他の少年達とつるむ事なく一心不乱に訓練を受けていたから、エルマーは彼に対してクールなイメージを持っていた。しかし実際に話してみると、人懐っこくて良く笑う少年だった。
小さいとは思っていたけれど、自分より3歳も年下で驚いた。
というのも、普通は聖騎士の試験を受ける前に、別の訓練場で基礎を学んでくるからである。基礎を身につけ、腕を磨くのに2〜3年はかかるので、試験に臨むのは主に15歳以上の少年だった。
噂によれば、レンはある日突然アルヴィン隊長に連れられて来られ、午後だけ訓練に参加するようになったらしい。無試験で訓練場に通っている事を、他の少年が快く思うはずはなかった。
レンは訓練に参加する時はいつも礼儀正しく挨拶するし、他の少年も挨拶を返すのだけれど、それ以上は踏み込まない。あからさまな虐めをする事はないけれど、「お前は俺達とは違うんだ」というスタンスを崩さない。
そういう意味では、エルマーも少しの間だけ居心地の悪い思いをした。
訓練が始まって、エルマーの剣や槍の腕前を目にすると、誰も何も言わなくなったけれど。
レンに声をかけたのは「こんな強い風の中で行水するのは寒いだろうな」と単純に思っただけである。たまたま納屋に立てかけてあった板が目に入ったので、少しは役に立つだろうと思ったからだ。
そのことが、余程嬉しかったのだろう。
以前は休憩時間になると、一人離れたところに座り、静かに体を休めていたレンだったが、今はニコニコとエルマーのところにやって来て色々と話をするようになった。
今まで寂しくないはずがなかったのだ。
あの時声をかけて本当に良かったと、エルマーは思った。
しかし、話をしてみて、レンが浮いている理由が他にもある事がわかった。
彼はかなりの世間知らずだったし、行水など独特の行動も多いからだ。
例えば、休憩中にポポルの実を分けてあげた時の事だ。
レンは固い殻を割ろうといつまでも悪戦苦闘していた。
「何やってんだよ?ポポルを食べた事ないのか?貸してみな。こうやるんだよ」
レンから実を取り上げて、ヘタをクルクルと軽く回してみせた。
固い殻が先の方から花が開くように割れていくのを、レンは興味深そうに見て、中から出てきた半透明のプルプルした白い果肉を軽くつついて笑った。
「面白いね。中身はなんだかクラゲみたい」
「クラゲって何だ?」
「海にいる生物だよ。こんな感じに半透明で、綺麗で不思議な生き物なんだ。体のほとんどが水で出来てて、骨もないくせに毒を持ってる」
そう言うと「いただきます」と小さく呟いて、美味しそうに頬張った。
(その辺にいくらでも生ってるポポルの実を知らないくせに、どうして遠い海の生物を知ってるんだろう?)
「お前、海を見た事あるのか?」
「うん。僕の故郷は島国だったから。釣りに行ったり泳ぎに行ったりした事もある」
「へ〜、レンは異国人だったのか。何ていう国?」
「ニッポン。ニホンともいうけど」
「どちらも聞いた事ないな」
「・・・すっごく遠いし、小さい国だから」
「食べる前にいつも何か呟くのは、ニッポンの習慣か?」
「うん。食べるっていうのは、命を頂くという事だから、その命に対する感謝の言葉なんだって。あと、食事を作ってくれた人とか、目の前の食事に関わった人達への感謝も含まれてるって、お母さんが言ってた」
「・・・すごくいい言葉だな」
そんな風に考えた事はなかった。生きていく為に食べる、腹を満たす為に食べる。ただ、それだけだった。
「毎日体を洗うのも?」
「うん。汗を流すのは気持ちがいいし、清潔にしていれば、病気になりにくくなるって」
「へ〜、そうなのか」
レンの独特の行動には、きちんとした理由があり、感心させられた。
その一方で、レンはこの国の歴史や地理に疎く、女神様や歴代勇者の話もほとんど知らない為、エルマーが話す事をいつも興味深そうに聞いていた。
そんな訳でレンと話すのは面白かったし、弟が出来たようで嬉しかった。
しかし、一緒に過ごすうち、やはりレンは自分達と違うと思い知らされる事になった。




