選ばれし者
黒衣の魔女に会ってから一ヶ月後、エルマーは試験に合格し、聖騎士訓練所への入門を許可された。百人程の受験者の中、合格したのはエルマーを含め三人だけだった。
以前通っていた訓練所との違いに、エルマーは酷く驚いた。
訓練生は二十人程しかおらず、一人一人に指導者がつくのだ。
現役の聖騎士に師事する事が出来るのは僥倖だった。
厳しい試験をくぐり抜けた訓練生達は皆、選ばれた者という自負を持っており、それぞれ訓練に励んでいた。
そんな中、レンという少年は異質だった。
自分よりも半年程早く彼は入門していたらしいが、それにしては体は小さく、筋肉もそんなについていない。訓練に参加するのも午後からだ。
そのくせ、隊で二番目に実力があると言われている副隊長のポールから直々に指導を受けていた。
隊長達が何も言わないところを見ると何か事情があるのだろうが、特別扱いされているのは明らかだった。その為、他の訓練生からは敬遠されていた。
しかし弱々しい外見とは裏腹に毎日厳しい稽古に必死に食らいついており、エルマーは素直に感心していた。日に日に上達するのが目に見えて、その成長ぶりは驚く程だったのだ。
ただ、話す機会がなかったので、本人に伝える事はなかったのだが。
レンは訓練後に行水する習慣があり、その事でしばしば他の少年達に影で揶揄われていた。しかし彼はその事を気にする様子もなく、その習慣を変える事はなかった。
ある日の事。その日は強い風が吹いていた。焚き火の近くで行水しようとしているレンに気付いたエルマーは、納屋に立てかけてあった大きな板を持ってレンの側に行った。
「これで少しは風よけになるだろう?終わるまで持っててやるから、さっさと済ませろ」
レンは目を丸くしてエルマーを見つめた後、嬉しそうに笑った。
「ありがとう。助かるよ。すぐに済ませるから」
レンは焚き火の中から焼けた石を火搔き棒で搔き出すと、桶の中に入れた。ジュワッという音がして、桶から湯気が立ち上った。
「・・・そんなやり方があるのか。お前、頭いいな」
素直に思った事を口に出すと、レンは照れたように笑った。
「そうかな?俺はまだ魔法が上手く使いこなせないから、こうやって工夫するしかないんだ」
思いがけない言葉にエルマーは驚いた。
「え?お前、魔法が使えるのか?」
「午前中、神殿で魔法の講義を受けてるけど、コントロールが上手く出来なくて」
魔法が使える人間は、稀にだが存在する。けれど、魔法を使えばそれだけ気力や体力を消耗するはずだ。レンがそんな状態で午後の激しい訓練をこなしていたと知って、エルマーは目の前の少年に尊敬と畏怖の念を抱いた。
レンは手早く行水を済ませると、改めてエルマーにお礼を言った。
「お前、すごいんだな。俺、エルマーっていうんだ。よろしくな」
「俺はレン。こちらこそよろしく。エルマーの事は知ってた。すごく実力のあるやつが入ってきたって隊長が言ってたよ」
思わぬ賞賛の声を聞いてエルマーはビックリした。
「本当に!?師匠からは毎日怒られてばかりだぜ」
「ギーさんは実戦を想定した訓練をするんだ。実力のない者には到底ついていく事が出来ない、って隊長が言ってた」
「お前、そんなに隊長と話す機会があるのか?」
怪訝に思って首を傾げると、レンはどこか寂しそうに笑った。
「・・・俺、身寄りがなくて隊長の家で世話になってるんだ。食事の時とか、話題は訓練の事が多くなるから」
「ああ、そうだったのか。だから聖騎士を目指してるのか?」
「いいや」
レンの目が暗く光った。
「魔物を滅ぼす為だ。俺のように、親を魔物に殺された子供を増やさない為に」




