氷の魔鉱石10
最近体調が優れず少しずつしか更新できなかったので、今日は話をまとめて書きました。少々長いです。
私の言葉にエドガーは馬鹿にしたように鼻で笑った。
「後で私がお届けしますよ。ご協力ありがとうございました。それでは失礼します」
グリムが話を引き取り、4人は帰途についた。
見送る為に門を出ると、外にはいかにも貴族御用達というような豪華な馬車があった。黒いボディは金で縁取られ、ドアには剣に蛇が絡み付いている絵が金で描かれていた。恐らくエドガーの家の紋章なのだろう。
エドガーが馬車に乗り込むと、御者が鞭を振るった。ハーマンは馬を馬車に並走させ、グリムはその後に続いた。
ルイスは馬上から申し訳なさそうに私達を振り返った。
「こんな事になってしまい、申し訳ない。あの魔鉱石は恐らくお宅の物だと思うが、相手が悪い。エドガー様が出てきてしまっては私達ではどうにもならん。面目ない」
「あなたが謝る事はない。宰相のご子息であれば貴族社会でも力があるでしょう」
「・・・ここだけの話、エドガー様は裏社会にもかなり顔が利くという噂だ。普通ならエドガー様が直接足を運ぶなんてあり得ない。ドルチェは目立ちすぎた。もちろん、あなた達に落ち度はないが、あの方の誘いを断った事で目をつけられるかもしれない。今後、気をつけてくれ」
ルイスはそう言い残すと、前の三人を追いかけるように去って行った。
「薄々感じてはいたが、やはりオーティスに依頼したのはあの男で間違いないだろうな。嫌な相手に目をつけられたもんだ」
「そんな相手に魔鉱石を渡して良かったの?すごく高いんでしょう?」
「確かに美しいし希少な石だが、個人的には高値を付ける意味が分からん。魔王様もいい厄介払いが出来たと思って譲ってくれたんだろう。冷凍庫として活用する前はただ封印しているだけで使い道がなかったからな」
「・・・そうなの?」
「なにせ物凄い気分屋な石だからな。膨大な魔力を利用しようにもコントロールが出来んのだ。心配せずとも、持て余されてすぐに戻ってくるさ。それより腹がすいたな。食事の支度を頼む」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「つまらないな。もう少し抵抗するかと思ったのに」
エドガーは氷の魔鉱石を弄びながら呟いた。
直接的ではないものの、ドルチェは今までにエドガーの駒を五つもダメにしている。
キムはドルトという良い遊び場を提供してくれた男だったが、いつのまにやら乗っ取られ、今や消息は掴めない。
オーティスはドルチェを手に入れるという依頼も果たさず、あろうことか貸してやった駒を殺して投獄された。
ニコラは貸した駒を使って魔鉱石を手に入れたまではいいが、誤って魔法を発動させて暴風雪の餌食となり、駒と共に使い物にならない状態だ。その上、ドルチェの人間に救出されてすぐに魔鉱石を手放している。
どいつもこいつも使い物にならず、イライラした。
その一方で、自分の思い通りにならないドルチェに興味が湧いた。
一体どんなやつかと思って自ら出向いたら、見目よい夫婦だった。特に男の方は見た事もない美青年だった。が、所詮は権力に抗えないただの庶民だった。自分たちの今の生活に波風が立たないよう、あっさりと魔鉱石を渡したのがその証拠だ。
菓子を作っているのも、ただの愚かな女だった。
あの時流した涙は嘘ではないだろう。だが、生きているのかも定かではない息子の為に菓子を焼いているとは理解しがたい。安物の毛布やローブなどにこだわるくらいなら、さっさと子供を見限って貴族相手に商売した方が余程生産的だろうに。
「ああ、つまらない。もっと奴らが足掻く姿が見たかったのに」
その時、ふとある疑問が浮かんだ。
(どうしてあんなに落ち着いていられるんだ?
この魔鉱石がなければ、アイスキャンディを売る事は出来ない。商売が出来なくなるというのに、一向に慌てる様子もなかった。奴らはまだ何かを隠し持っているのか?)
そう思った時、手の中の魔鉱石が眩いばかりの光りを放った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
食後、シヴァと二人でベリーを摘んでいると、来客を知らせる鐘の音が響いた。
「今日は随分と来客の多い日だな」
やれやれと呟きながらシヴァがのんびりと門に向った。門を開けると、真っ青な顔をしたエドガーとハーマン、そしてグリムとルイスが立っていた。
「おや、あなた方でしたか。何か忘れ物でも?」
「とぼけるな。魔鉱石の魔法を発動させただろう。私を殺す気か!?」
「何の事ですか?女神様に誓って私は何もしてませんよ」
「ならどうして突然馬車の中で暴風雪が吹き荒れたんだ!?慌てて飛び降りたから無事だったが、馬車は氷漬けだ!!」
「ですから、私は何もしてません。氷の魔鉱石が勝手にやった事でしょう」
「魔鉱石が勝手に!?どういう事だ!?」
「珍しいからご存じないのも無理はありませんが、永久凍土は氷の魔鉱石が自ら作り出していると言われています。気温が暑すぎるので、自分の適した環境にしようと魔鉱石自身が魔法を発動させたんでしょう」
「知ってて何故黙ってた?」
「あなた方がこの事実を知らないという事を、私は存じませんでしたので。魔鉱石を管理する以上、当然何らかの用意はしている物だとばかり」
「そんな危険な物を国内に持ち込んだのか?」
「冷凍庫として使っている分には何の問題もありませんでしたよ。先程も言いましたが、うちは氷の魔鉱石を使って一ヶ月以上の営業実績があります。お客様に迷惑をかけた事もない。それに、先程お渡しした魔鉱石はうちの物ではない可能性がある。責めを負うべきは持ち主のニコラさんではないですか?」
エドガーに憎々しげに睨まれても、シヴァは全く動じなかった。
「では冷凍庫を寄越せ」
「お断りします。アレはうちの大事な商売道具です。オーナーが私達の為に作って下さった特注品ですよ。持ち主が定かでない魔鉱石と違って、あなた方に渡す理由もない。魔鉱石の管理の為に必要というのであれば、ニコラさんに売りにきた男に尋ねてみてはいかがですか?祖父の代から受け継がれているのなら、管理の仕方も当然ご存知でしょう」
先程自分が口にした理屈をそのまま返され、エドガーは怒りでわなわなと震えた。
「ご主人、そういわずに協力してくれないだろうか。あのままでは被害が広がってしまう」
ルイスの言葉にシヴァは肩をすくめた。
「うちの魔鉱石であれば責任を持って回収しますが、先程も言ったように冷凍庫は特注品だ。魔鉱石の力を封じる役割を担っているんです。形や大きさが合わなければ役に立たないでしょう。仮にうちの魔鉱石だとしても、罪に問われるのはごめんだ。暴風雪を起こしたのは管理能力のないこの国の人々なのだから」
「・・・いいだろう。あの魔鉱石は昨夜盗まれたそちらの物だと認めよう。この国に持ち込んだ事について罪には問わない。ニコラに売りにきた男は相応の処罰をする。さっさと回収してくれ」
「魔鉱石は今どこにあるんです?」
「馬車の中だ。ここからそう離れてはいない。首都に向う途中の道に馬を放した状態で馬車を止めてある」
「初めに断っておきますが、回収するには馬車を壊さなければいけません。帰りはどうされます?それに弁償なんてとても出来ませんよ」
「被害が近隣の住民や首都に広がるよりかはましだ。許可する。御者を先に帰らせて別の馬車を迎えに寄越すよう手配している。弁償する必要もない。」
「わかりました。ところでエドガーさん、あなたはヘキサドマーケットの名誉会長でしたね? うちはお宅の出店者によって何度も酷い営業妨害を受けている。あなたの権限で二度とうちに関わらないよう女神様に誓ってもらえませんか? もちろん、お客様としてなら歓迎しますが」
エドガーは目を瞑り、大きく息を吸って何とか怒りを鎮めた。
「エドガー・ド・シャルルの名に置いて、ヘキサドマーケットの関係者には、商品を購入する以外、二度とドルチェにかかわらせないことを女神様に誓う」
「ありがとうございます。では早速魔鉱石の回収に向います。お疲れでしょうから、あなた方はここで休んでいて下さい」
◇◆◇◆◇◆◇◆
シヴァが荷馬車に冷凍庫を乗せて魔鉱石の回収に行っている間、私は四人を食堂で持てなした。
「ここまで往復してきて暑かったでしょう。こちらをどうぞ。お口に合えばいいんですが」
そう言ってアイスクリームを出すと、四人は驚いて私を見た。
「これは・・・一体どうやって?」
「ああ、うち製造用にもう一つ冷凍庫があるんで。昨夜壊されたのは販売用です」
「馬鹿な。氷の魔鉱石を二つも用意したというのか?」
「そうみたいですね。私はそんな高価な物が使われてるなんて、昨日まで知らなかったんですけど」
頬をかきながら答えると、ルイスは呆れた顔をした。
「どうりであんな簡素な納屋に置いてあったわけだ。鍵をかけていたとはいえ、不用心すぎると思った」
一方、エドガーはアイスクリームをじっと観察していた。
「これが噂のアイスクリームか。果汁を凍らせた氷菓とは違うという話だが・・・」
エドガーはアイスクリームを一口食べると、目を瞑った。
舌の上で甘く冷たいクリームが溶けていくのを楽しんだ後、静かにため息をついた。
「・・・美味い。これをヘキサドマーケットで売れないとは実に惜しいな」
エドガーの言葉を受け、ルイスとグリムもアイスクリームを食べ始め、それぞれ感嘆の声をあげた。ハーマンも手を伸ばしたのをみて、私は内心「勝った」とガッツポーズをした。
しばらくするとシヴァが帰ってきた。ハンマーで凍った馬車を容赦なく壊してきたらしく、服や髪のあちこちに破片がくっついていた。
「無事に回収できましたが、馬車のドアをたたき壊しました。ご容赦いただきたい」
シヴァの言葉にエドガーは笑い出した。
「我がシャルル家の紋章を滅茶苦茶にするとはいい度胸だ。だが、許可したのは他でもない私だからな。今回の件は全て不問にしよう」
迎えの馬車が来て、エドガーは再びドルチェを後にした。
馬車の中で、エドガーはうっすらと微笑を浮かべた。
(子供の頃から周りにいたのは媚び諂う退屈な奴らばかりだった。しかしあの二人は違う。面白い。いつか必ず手に入れてやる)
話を書き始めて、半年経ちました。
感想やレビューを書いて下さった方、ブックマークをして下さった方、これまで私の稚拙な文章を読んで下さった皆様、ありがとうございます。すごく励みになりました。
来年も頑張って更新したいと思います。
皆様、良いお年をお迎えください。




