氷の魔鉱石9
シヴァの言葉にエドガーは満足そうに目を細めた。
「賢い方だ。話が早くて助かりました」
「うちの物だと証明できない以上、時間をかけても無駄でしょうから」
シヴァはため息まじりに言った。
「私は有能な人物は嫌いではない。ドルチェの菓子はあなたが作られているんですか?」
「いえ、私の妻です」
エドガーが私を真っ直ぐに見た。
「あなたでしたか。私もいくつか食べさせていただきましたが、どれも美味しかったです」
「ありがとうございます」
「屋台で終わらせるのはもったいない。どうです?ヘキサドマーケットに店を構えませんか?これは個人的な願いでもあるんです。あなたの作る菓子は、毎日でも食べたくなると貴族の間でも評判ですよ」
(前も似たようなことを言った奴がいたな・・・)
「そう言っていただいて、とても光栄です。ですが私は、子供達に食べてもらいたくて菓子を作ってるんです」
エドガーの目がスッと冷たくすがめられた。
「我々貴族よりも、庶民の子供の方が大事だと?」
(何だこいつ?)
少々むっとしていると、シヴァが口を開いた。
「私達には息子が二人います。一人は知人に預けていますが、もう一人は攫われて行方知れずなんです。首都は人や物が世界中から集まる場所だ。私達の息子も、もしかしたらこちらに連れてこられているかもしれない。妻はいつも息子の事を気にかけています。文化も食生活も違う場所で、息子がちゃんと食べているか、眠れているかと。もしかしたら息子が食べてくれるかもしれないと、そう願いを込めて菓子を作っているんです」
思いがけないシヴァの言葉にうっかり涙がこぼれ、私はあわてて皆から顔をそらした。
シヴァが私の気持ちをわかってくれていること、そして、まだ会った事もない蓮を息子だと言ってくれた事に感動し、深く感謝した。
涙を拭いて姿勢を正した私を、ルイスとグリムが気の毒そうに見ていた。
エドガーは冷たい目で観察するように私を見ていたけれど、やがて肩をすくめた。
「なるほど、そういう事情があったのなら仕方がないですね。気が変わったらいつでも声をかけて下さい。我々はあなた方を歓迎しますよ」
「ありがとうございます。魔鉱石を取ってきますので、少々お待ちください」
シヴァは席を立つと、昨夜入れていた皮の袋に魔鉱石を入れて持ってきた。
「どうぞ。こちらが持ち帰った魔鉱石です」
エドガーは袋から魔鉱石を取り出して光にかざした。吸い込まれそうな透明な青が、光に反射してきらめいた。
「実に美しい。膨大な魔力を秘めていなくとも、宝石としての価値もありそうだ。こんな貴重な物を、あっさり手放してもいいのですか?」
(自分が渡せと言ったくせに、嫌な奴だわ)
「オーナーに判断を仰ぎたくとも、時間がかかるので。盗まれた私達の魔鉱石の行方は、首都の警備隊と役人に任せる事にします」
「賢明な判断です。では私達はこれで失礼しよう。ああ、ニコラ邸のドアを壊して侵入した事、魔鉱石を持ち去った事については不問にしますよ。ニコラにもそのように伝えましょう。ここにいるルイスとグリムが証人です」
エドガーは上機嫌だったが、私はどうしても納得がいかなかった。それが表情にでていたのだろう。エドガーが勝ち誇った顔で私を見て聞いてきた。
「何か言いたい事でも?」
「・・・昨夜貸した毛布とローブとマフラーを返してもらうよう、ニコラさんに伝えてもらえます?」




