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勇者の母ですが、魔王軍の幹部になりました。  作者: 野山 歩


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氷の魔鉱石8

 泥のように眠っていた私達は、再び来客を知らせる鐘の音によって起こされた。

 おそらく正午くらいだろう。もう少し寝ていたかった・・・。

 ノロノロと身支度をすませて門を開けると、ルイスと見知らぬ三人の男が立っていた。

 一人はルイス達と同じような制服を着ていたので、警備隊だと言う事が伺えた。

 もう一人は体のあちこちに傷跡のある眼光の鋭い男で、戦士のようだった。

 最後の一人は、見るからに貴族の子息といった青年だった。金髪碧眼の整った顔立ちで、仕立ての良い服を纏い、微笑を湛えて静かに立っている。ただ、こちらを観察するような眼差しが、妙に冷たく感じられた。

 ルイスの横に並んでいた警備隊の男が一歩前に進んで話しだした。


「初めまして。私は西のエリアの警備を担当するグリムです。こちらは宰相閣下のご子息でヘキサドマーケットの名誉会長であらせられるエドガー様。こちらはエドガー様の護衛を務められているハーマンさん。

 突然の訪問で申し訳ないが、昨夜のニコラ邸での騒ぎについて、少々お聞きしたい」


「ああ、なるほど。中へどうぞ」


 シヴァは四人を中に招き入れて事務所へと案内し、ソファーに座るよう勧めたが、実際に座ったのはエドガー一人で、後の三人はソファの後ろに立っていた。

 お茶を出してもハーマンは受け取ってくれず、戸惑っているとエドガーが微笑んだ。


「お気遣いなく。どうか気を悪くしないでいただきたい。この者は用心の為、自分で用意した物以外口にしないのです。どうぞお座りください。お話を伺いたい」


「・・・わかりました」


 私はシヴァと並んで、エドガーの対面に座った。


「さて、こちらのルイスから伺ったんですが、昨夜ニコラ邸のドアを壊し侵入したのは、あなたで間違いないですね?」


「・・・人命救助の為に仕方なくやった事です。一刻を争う事態でしたので。昨夜の状況をお聞きではないのですか?」


「ええ、聞いております。ルイスとグリムが証言してくれました。

 ニコラ邸が凍りついていて、中にいた人間は意識が朦朧とした状態で凍えていた、と」


「その通りです。二人は無事ですか?」


「ええ。あなたのおかげで一命は取り留めたようです」


 私はホッと胸を撫で下ろした。


「良かった。間に合って・・・」


「さあ?それはどうでしょう?二人とも手足の指が壊死していたと聞いております。これから先は何かと不便でしょうね」


 エドガーの言い草に、私はカチンときた。


(助けたのは余計なお世話ってこと?感じ悪いな、この人)


 ちらりとシヴァを見ると、同じように感じたようだけど、眉をひそめただけで黙っていた。


「さて、単刀直入に言いましょう。昨夜ニコラ邸から持ち出した物を、こちらに渡していただきたい」


「・・・おっしゃっている意味が良く分かりませんが」


 シヴァは不機嫌さを隠そうともせずに言った。


「とぼけても無駄ですよ。あなたがニコラ邸から氷の魔鉱石を持ち出したのは聞いています。こちらのルイスの他に、もう一人、何と言ったか・・・若い警備員からも証言を得ています」


「お言葉ですが、その魔鉱石は元々うちの物ですよ。盗まれた物を取り返しただけです」


「それを証明する事は出来ますか?盗んだ犯人を目撃したとか?」


「・・・犯人は見ていませんが、昨夜うちの冷凍庫が破壊されて、部品として使っていた魔鉱石が盗まれたんです。その後、氷の魔鉱石の暴走で暴風雪(ブリザード)が起こったので、場所を特定する事が出来ました。あの二人のどちらかが盗んだに違いありません」


 エドガーは微笑した。


「それだけでは彼らが犯人だと断定は出来ないですね。ただの偶然かもしれない。

 はっきりしているのは、ニコラが買い取った魔鉱石をあなたが持ち去った、という事です」


「氷の魔鉱石は稀少な石です。おいそれと手に入る物ではない」


「確かに。しかし可能性はゼロとは言えない。なにせニコラは我がヘキサドマーケットが誇る世界屈指の魔石商です。毎日珍しい石が集まってくる。氷の魔鉱石を取り扱っていても不思議ではない。一介の菓子屋が持っている方が不自然でしょう」


「魔鉱石の持ち主は、ドルチェのオーナーです。彼は資産家で私達に必要な物を揃えて下さっている。冷凍庫もその一つです。売りにきた男はどこで入手したと言ってるんですか?」


「祖父の代から受け継がれてきた物だと。金が必要になったので売る事にしたそうです」


 そんなの嘘に決まってる。反論しようとした私をシヴァが制した。


「なるほど。うちから盗まれた魔鉱石だと証明できない以上、持ち主はニコラさんだという事ですね。では、なぜニコラさんではなく、あなたにお渡ししなければならないのでしょう?」


「ニコラから私に管理して欲しいと依頼を受けたのです。無理もありません。あの手では普通の生活に慣れるのも時間がかかる。ましてや仕事など難しいでしょう。

 納得がいかないのであれば、裁判にかけてもいいですよ。ただ、もしもあなた方の魔鉱石だというのであれば、危険な物を国内に持ち込んだ事に対して何らかの処罰があるかもしれませんね」


「危険な物?ドルチェがアイスキャンディを売り出してから一ヶ月あまりですが、街の人を危険な目に遭わせた事はありません。同じ草でも使い方によって毒にも薬にもなる。問題は扱う人間によるものだ。

 ですが、あなたの言う通り持ち出した魔鉱石がうちから盗まれた物とは断言できません。残念ですが、我々はこの国の人間ではない。裁判になっても勝てる見込みはないでしょう。ニコラ邸から持ち出した氷の魔鉱石はお渡しします。どうぞ、お好きになさって下さい」

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― 新着の感想 ―
こんな時こそ女神への宣誓じゃないの?
うわ…こうやって手に入れる為に盗ませたとしか思えない。性格悪すぎる。
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