氷の魔鉱石5
広大な丘の上には貴族や豪商の邸宅が点在していたが、幸い目的の屋敷は低い位置にあった。
真夜中であった為に人通りもなく、私達は真っ直ぐに目的地へと辿り着く事が出来た。
馬上で受ける風に冷気が混じり、心地よく感じたのは束の間だった。
目に飛び込んできた光景に、皆しばし言葉を失った。
屋敷を中心に、月夜に照らされた雪が白く輝きながら渦を巻くように舞っており、そこだけが切り取られたような別世界だった。二階建ての大きな屋敷の屋根には厚く雪がつもり、窓という窓は凍り付いている。屋敷から半径3メートル以内の場所は、円を描くように雪や霜で覆われた銀世界となっていた。
しかしその外は青々とした草木が茂っており、丁度境界線辺りに植えてあった木は、屋敷側が白く、外側が緑色という状態だった。
敷地が広かった事もあり、まだ周りには被害が出ておらず、私達はひとまずホッとした。
「どうやら屋敷を冷凍庫に見立てたみたいだな。中の人間が生きていればいいが・・・」
シヴァは馬から下りて厚手のローブを羽織ると、目だけ残してマフラーで顔を覆った。次に手袋をはめて、ラーソンから借りたハンマーを握りしめた。
「危ないからお前はここにいろ」
そう言って暴風雪にひるむ事なく真っ直ぐに屋敷に進むと、凍った扉をガンガンとハンマーでたたき壊し始めた。
事情を知らない人間が見れば、完全に強盗だ。
「・・・あの、主人が扉を壊したのは、人命救助の為って証言して下さいね」
後で弁償しろとか言われたらどうしよう、と呟く私にルイスが苦笑いした。
「大丈夫ですよ。しばらくしたら門番の知らせを受けた役人がやってくるでしょうが、この有様を見れば一目瞭然です。ご主人はすごい方ですな。私達はこの暴風雪に阻まれ、これ以上動けずにいるというのに・・・」
「仕方ありませんよ。軽装であの中に入るなんて自殺行為です。それに主人は寒さに強いので」
(何てったって製氷機だし)
普段のシヴァなら魔法を使って秒で解決できただろう。
けれど、今は人目がある以上、普通の人間の振りをしなければならない。
シヴァは壊した扉から中に入り、しばらくすると一人の男を肩に担いで出てきた。
「もう一人中にいる。この人の介抱を頼む」
シヴァはそう言い残すと、再び屋敷の中に入って行った。
男の体は完全に冷えきっていた。顔は色を失っており、睫毛や眉毛は白く凍って、意識も朦朧としていた。
「しっかり。これを飲んで」
私は家から持ってきた毛布で男をくるむと、酒の小瓶を男の口元に当て、無理矢理飲ませた。
半分は口元から溢れてしまったけれど、半分は飲んでくれた。
その証拠に、飲んですぐに男は激しくむせた。ラーソン自慢の強い酒は、飲んだ瞬間に喉が焼けるように熱くなる。次第に体も温まるはずだ。
男の咳が治まった頃、シヴァが別の男を担いで出てきた。
その男のぐったりと伸びた指先は黒ずんでおり、右腕に蛇のタトゥーが見えた。
シヴァは自分のローブとマフラーを脱ぐと男に着せた。
私は意識を失っていた男の頬を容赦なく叩き、苦しそうに喘いだ口に残りの酒を注ぎ込んだ。
その間、シヴァは軒先のつららを折って砕くと、雪と一緒に皮の袋に入れて口をぎゅっと縛った。そして手袋を外すと、皮の袋と一緒に私に押し付けた。
「ミホ、手袋をはめてこれを持っていてくれ。落とすなよ」
「え?もしかしてこれに魔鉱石入ってるの?」
「ああ。周りを氷で囲んでいるからしばらくは落ち着いてるはずだ。だが急がないと。ダンの家まで案内を頼む」
シヴァの言葉にルイスが反応した。
「チェスター、この人達を案内しろ。私は二人の介抱と後処理の為に残る」
「わかりました。こちらです」
私達はルイスと男達を残し、ダンの家を目指して馬を走らせた。




