氷の魔鉱石4
「美しい。噂でしか聞いた事のない氷の魔鉱石を手にする事が出来るとは」
ニコラは、雫のような形をした氷の魔鉱石をランプの光にかざした。
ヘキサドマーケットで魔石商を営む自分でさえ、魔鉱石を実際に見るのは初めてだ。
アクアマリンにも似た淡い透明な水色の魔鉱石は、ニコラの手の中でキラキラと輝き、美しい光を放った。
「噂話を聞いた時はとても信じられなかったが、まさか本当に屋台の機材の部品にしているとは。キーナ人は物の価値を知らないとみえる」
元の魔物の特性によって威力や魔力が左右される魔石と違い、魔鉱石は元々莫大な魔力が備わっている。
伝説級の魔剣などは、ほとんどに魔鉱石が使われているのだ。
マグマを固めたような炎の魔鉱石が嵌め込まれた魔剣は、一振りで辺り一面を焦土に変えるという噂だ。
この氷の魔鉱石を使った魔剣はどれほどの威力があるだろう?
貴族や軍は金を惜しまないに違いない。
ニコラは黒い絹の布を敷いたテーブルの上に魔鉱石を置き、金庫から小袋を出すと、魔鉱石を盗んできた男に渡した。差し出された男の右腕には蛇のタトゥがあった。
「良くやってくれた。これは約束の報酬だ」
男は中身を確認すると胸にしまった。
「確かに。毎度どうも」
「いつもながら見事な手並みだな。依頼してすぐに手に入れるとは」
「これまでで一番楽な仕事だったぜ。見張りもいない粗末な納屋に置いてあったんだからな」
「誰にも見られてないだろうな?」
「俺を誰だと思ってる?そんなヘマしねぇよ。それじゃ失礼するぜ」
男は部屋から出て行こうとした。が、いつまでたっても扉の前から動かない。
「どうした?」
「扉が開かねぇ。どうなってやがる!?」
「鍵はかけていないはずだが・・・」
ニコラは扉に近づき試してみた。確かに開かない。
ドアノブがいやに冷たい。よくよく見れば、隙間から白い霜が覗いている。
「・・・扉が凍り付いている?」
よく見れば部屋の壁全体が白っぽく変化しており、触れると冷たかった。
「氷?馬鹿な。部屋の中だぞ?一体どうなってる!?」
室温が急激に低くなり、全身に鳥肌が立った。
「誰かいないか!?ここを開けてくれ!」
二人掛かりでバンバンと扉を叩いてみるが、何の反応もない。
そのうち、手が冷たくなり感覚が無くなってきたので、息を吐いて温めた。
気温が低いため吐く息は煙のように白く、息を吸うと鼻と肺が痛くなった。
薄手の服しか身につけていない男達は、手足を擦りながら寒さをしのぐ為に身を寄せ合った。
「何だ?何が起こってるんだ?魔法攻撃か?」
男の言葉にニコラはハッとした。
「まさか、氷の魔鉱石が?」
しかし、魔鉱石はテーブルに置かれたままだ。
誰も呪文の詠唱をしていないし、魔法は発動しないはずだ。
しかし、原因はそれしか考えられない。
このままでは凍え死んでしまう。
「誰かぁ〜、助けてくれ〜、ここから出してくれ〜」
男達の悲痛な叫びが部屋の中で響き渡った。




