ドルチェ5
ダンの朝は早い。日の出とともに家を出て、菓子工房へ出勤する。
到着するとまず事務所に行き、前日の売り上げを報告した後、用意された朝食を皆で食べる。
朝食の席であれこれ首都の話をし、その後、ミホが前日に焼いた菓子を荷台に積み込み、弁当を持たされて首都に帰る。
大概は夕方まで店を開けているが、売り切れたときは早々に店じまいをして市場を見て回ったり、冒険者ギルドに行って顔なじみと世間話をする。
週に一度、虹の日には小麦や砂糖を仕入れ、翌日の朝、工房に持って行く。
ミホとシヴァは女神様の日と花の日を休日にしているため、ダンは休みを一日ずらし、太陽の日と星の日を休日とした。
女神様の日・・・中央広場(工房は休み。朝、商品を受け取りに行く)
太陽の日・・・休み
月の日・・・北の広場
花の日・・・東の広場(工房は休み。朝、商品を受け取りに行く)
星の日・・・休み
虹の日・・・南の広場
オーロラの日・・・西の広場
こんな具合に週の予定を決めて販売している。
2ヶ月もすると、それぞれのエリアで客層も好みも違う事がわかってきた。
例えば低所得労働者の多い北ではクッキーが飛ぶように売れるが、価格の高い商品は全く売れない。逆に、西では少々価格の高い詰め合わせやシフォンケーキが人気なのだ。
焼き菓子は多少日持ちするとはいえ、やはり早いうちに消費したいし、何より無駄を省きたい。
シヴァは売り上げ状況を分析して、エリアごとに売れる商品をミホに教えた。それを受けてミホは前日に作る菓子の数を調整する。
おかげで最近は売れ残りも少なくなり、ミホも新作を作る余裕が出てきた。
◇◆◇◆◇◆
その日、朝食の野菜雑炊を食べながら、ダンはいつものように首都の話をした。
「最近西のエリアでは、貴族の使いと思われる客がちょこちょこ買いにくるよ。お嬢さん方にはシフォンケーキが人気で、マダムにはパウンドケーキが人気のようだ」
「へえ。貴族の人にも気に入ってもらえたのね。違う味のシフォンケーキも焼いてみようかしら」
「あと昨日、金持ちの商人らしいおっさんに色々聞かれたよ。どうしてオーロラの日にしか店を出さないかとか、どこで誰が作ってるのかとか。商品を卸して欲しいから紹介しろってしつこかったな」
「ダンの手に余るようだったら、こちらに来るよう言ってもらっていいぞ。販売先を広げるのは悪くないが、相手が信用できるかどうか見極める必要もあるからな」
「そうだな。どっかで見たようなおっさんだった。もし相手がどうしてもって言うときは、俺の休みの日にここに連れてきてもいいか?」
「ああ。突然は困るが、事前にわかっていればこちらも準備ができる。そうしてくれると助かるよ。だが、お前の休みが潰れる事になるぞ?」
「別に構わないさ。デートする相手もいないしな。ここにいた方が美味い物にありつける」
「あら、ダンってモテそうなのに」
「最近じゃ、寄ってくるのは子供ばかりだ」
「気になる人がいるなら特別なお菓子を用意するわよ」
「ははは、その時は頼むぜ。今日はこれから子供に会いに行くんだろう?」
「ええ。最近は友達の影響か、言葉使いが乱暴になってきちゃって」
「まあ、13、4の頃は、親の言う事はきかねぇよな」
「日に日にたくましくなるのは嬉しいんだけど、前みたいに甘えてくる事も無くなると、ちょっと寂しくなるわね」
「友達の手前、恰好付けてるだけだろう。相変わらずお前の事は大好きだよ。今頃首を長くして待ってるはずだ」
「だったらいいんだけどね。ダン、これ今日のお弁当。今日は中央広場だから、いつもより人が多く集まるんでしょう?頑張ってね」
「ああ、ありがとう。そっちこそ良い一日を」
荷台に商品を積み終えると、ダンは馬に鞭を打った。




