ドルチェ2
食事が済んだところでシヴァが言った。
「ダン、早速で悪いんだが打ち合わせをしたい。現在の首都の状況を教えてくれ」
「ああ、構わないぜ。ここでやるのか?」
「いや、隣の部屋を事務所に改装してある。移動しよう」
シヴァは立ち上がると、ドアとは反対方向に向っていき壁に手を置いた。不思議に思って見ていると、壁がするすると横に移動して隣の部屋に繋がった。
「何だこれは!こんなもの見た事ないぞ。魔法でも使ったのか?」
ダンが驚いて叫ぶと、ラーソンが豪快に笑った。
「わはははは、すげーだろ。これを作ったのは俺だぜ。存分に誉め称えて構わないぞ」
「なんてこった。こんなもの首都中探しても無いだろう。お前、実はすごい奴なんだな」
「なんだ、今頃気付いたのか?・・・何てな。確かに作ったのは俺だが、教えてくれたのはミホなんだ」
「本当か?」
驚いてミホを振り返ると、彼女は笑った。
「私の故郷は、他の地域と比べると家が小さいの。狭い空間を効率よく使う為に、家具や建具に色んな工夫がされているわ。私はそれを見て知ってたから伝えただけよ。実際に見た事も無いのに、ちゃんと作ったラーソンは本当に器用ね」
ミホの賞賛に、ラーソンは胸を張った。
「細かい細工なんかは苦手なんだが、こういう絡繰りみたいなのは昔から得意なんだ。遊び心があっていいよな」
「ラーソンて子供の頃に物を分解して、お兄さん達に叱られたりしなかった?」
「なんでわかったんだ?」
「うちの子もそうだったから。男の子って物を分解して構造を調べたりするのが好きよね」
ミホが懐かしそうに言った。なぜだかその笑みが少し寂しげに見えた。
(それにしても、キーナ国というのは随分進んだ国らしいな)
テーブルに並べられた料理の数々といい、移動する壁といい、初めて見る物ばかりだ。
何よりダンが感心したのは、用を足す為にトイレに入った時だった。良い香りのする観葉植物が天井から吊るされており、不快な匂いを感じなかった。後から聞いた所によると、横に備えられた手洗い場の水が、汚物を流す作りになっているらしい。
何より短期間でこれだけの施設を作る技術と資金があるという事は、かなり豊かな証拠だろう。
キーナ国は遠い辺境の国だ。教養も無い田舎だと思われている。
だがそれは間違いだとダンは認識を改めた。
シヴァやミホの知識、ラーソンの技術力がそれを物語っている。
(不思議だな。以前の離れのような豪華さは無いのに、こっちの方がよほど豊かに感じる)
ダンがしみじみと部屋を見渡していると、シヴァが声をかけた。
「ほら、さっさと部屋に入れ。ミホ、片付けが終わったら後でこちらに来てくれ。一緒に今後の方針を決めたい」
「わかった」
‘一緒に首都一番の菓子屋と酒屋をいちから作っていく方が面白いと思わないか?’
あの日の若様の言葉が思い出される。
(あの誘いを断らないで良かった。ここにいたら知らない世界が見えてくるようだ。首都一番の菓子屋と酒屋を作るのも夢じゃないかもしれない)
ダンはワクワクしながら事務所に入った。




