ドルチェ1
「嘘だろ・・・何だよ、これ」
一ヶ月ぶりにドルトの門をくぐったダンは、そのあまりの変わりように言葉を失った。
菓子工房と酒蔵を建てる為に改装工事をするというのは聞いていた。が、これはもはや改装というレベルではない。
「驚くのも無理ないな。上からなら全体がよく見える。軽く外壁を歩いてみないか?」
ダンはポカンと開けた口を閉じる事も忘れ、シヴァに促されるまま外壁の屋上へと登った。
上から見た景色は、以前のドルトと全く違っていた。
見慣れた建物は食堂のみで、多くの冒険者を収容していた宿泊施設は跡形もない。代わりに真新しい施設が建てられている。小さい方が菓子工房で大きい方が酒蔵だというのは説明されずともすぐにわかった。
敷地の中央にあった豪華な庭園や噴水は家庭菜園へと姿を変え、塀の内側に沿って果樹が植えられていた。そればかりか外壁の屋上にもプランターが置かれ、様々な野菜やベリー類が植えられている。
驚いた事に、あの美しい離れの建物も無くなっており、シヴァ夫妻とラーソンの住居がそれぞれ建てられていた。
「離れまで壊しちまったのか・・・あのまま利用するとばかり思ってたぜ」
「ああ、確かに綺麗な建物だったな。だが普通に生活するには広すぎて管理が大変だ。これくらいが丁度いい」
「しかし、たった一ヶ月でここまで変わるとは驚きを通り越して呆れるぜ」
「若様が優秀な技術者を国から派遣してくれたからな。建材も元々あった施設の物を利用しているから、費用も抑えられたし、時間も短縮できたんだ」
「外壁の屋上にまでプランターを置いたのも若様の指示か?」
「いや、私の趣味だ。ゆくゆくは畑にエールの材料のホップを植えるから、畑の延長としてな。うちで出来た野菜はうまいぞ。そろそろミホが食事の準備を終えた頃だろう。食堂へ移動しよう」
食堂の中も驚く程変わっていた。まず面積が半分になっている。テーブルには花が飾られ、窓際には何種類かのハーブの鉢植えが置いてあった。全体的に明るく清潔感に溢れているのは、掃除が行き届いているからだろう。以前は油臭く、冒険者達の喧噪に溢れていた場所が、心地よい空間になっていた。
一足先に食堂に来ていたラーソンがダンに気付き、陽気に声をかけてきた。
「おう、ダン!久しぶりだな。元気してたか?」
「ああ。ラーソンも相変わらず元気そうだな」
「随分変わっちまったから、驚いただろう?」
「全くだ。何年も働いてた場所のはずなのに、初めて来た気分だぜ」
ラーソンの隣の席に座って談笑していると、ミホが料理を持ってやってきた。
「ダンさん、お久しぶり。今日はダンさんの職場復帰祝いだから、御馳走作って待ってたのよ。沢山食べてね」
テーブルには見た事のない料理が沢山並べられた。彩りも良くどれも美味そうで、何から食べようかと迷ってしまう。ダンはひとまず目の前にあった皿を指差した。
「これは何だ?」
「キノコと鳥肉のドリアよ。熱いから気をつけてね」
ミホがよそってくれたそれを一口食べ、ダンは目を見張った。口の中一杯に、これまで味わった事の無い濃厚なうまみが広がったのだ。
「美味い!おい、シヴァが持ってるのは何だ。美味そうだな。俺にもくれ」
「家で採れた野菜で作ったピザよ。新鮮だから甘みがあって美味しいわよ」
ミホが一つ一つ説明しながら給仕をしてくれたおかげで、ダンは全ての料理を堪能する事が出来た。
「ミホ、全然食べてないじゃないか。そろそろおまえも座って食べろ」
「そうね。そうさせてもらおうかな」
シヴァは自分の隣の席の椅子を引いてミホを座らせると、飲み物を注いであげた。ミホはありがとう、と微笑んで嬉しそうにそれを飲んだ。ただそれだけの事なのに、二人の間の空気が甘く感じられて、思わずダンは目をそらした。
(仲のいい夫婦だな。一見クールなシヴァがあんな事をするとは)
思わずにやけてしまった口元を手で隠すと、同じように口元を覆ったラーソンと目が合った。
誤字の報告していただいた方、ありがとうございます。
夜中のテンション+睡魔と戦いながら執筆しているんで、恥ずかしい間違いが多いです。




