プロポーズ秘話
(ああ〜、どうしよう)
シヴァが入浴している間、私は寝室で頭を抱え込んでいた。
シヴァは私の至らない所を叱ってくれるし、心から心配してくれる。
これまでもシヴァとガロンの優しさに何度も救われた。
2人の事は大好きだし、家族になれて本当に嬉しい。
その気持ちに嘘はないけれど、私の心は沈んでいた。
冷静になった今、蓮と亡くなった旦那に対する後ろめたさがどんどん湧いてくる。
それに、シヴァに対しても申し訳ない気持ちもあった。
プロポーズを受けたのは、私の心がかつてない程、弱っていたからだ。
少年達の命を危険に曝してしまった事で、私は自責の念に苛まれていた。
そんな状況の私にとって「お前の抱える罪悪感も一緒に背負ってやる」というシヴァの言葉は何よりの救いだった。
支えてくれる存在がいるという安心感を得て、私は楽な方に流されたのだ。
(私って最低)
せめてシヴァに恋していれば良かったんだけれど。
シヴァに至近距離で見つめられて、ときめいた事もあるけれど、彼に対するこの感情は家族愛だと思う。
もちろん、これから少しずつ恋愛感情に変わるかもしれない。
だけど今はまだ私の心が追いつかない。
「プロポーズを受けたのに勝手だとは思うけど、その…夫婦の営みというか、男女の関係になるには、まだ心の整理がつかないの。本当に申し訳ないんだけど、もう少し時間を貰えるかな?」
就寝前に恐る恐る正直な気持ちを伝えたら、シヴァはあっさり「いいぞ」と頷いた。
「さっきも言ったが、元々お前の気持ちを優先するつもりだったんだ。無理強いするつもりはないから安心しろ」
「ごめんなさい」
「こんな形でお前を娶ってしまって謝るのは私の方だ。それに子づくりに励まなくとも、お互い既に子供がいるしな」
そこまで言ってから、シヴァは慌てて付け足した。
「別にお前に性的魅力を感じないと言ってるわけじゃないぞ。私が言いたいのは、この件に関して気に病む必要はないという事だ」
「ありがとう。でも本当に私で良かったの?」
(シヴァだったら、もっと良い相手がいくらでも選べるだろうに)
そう思って聞いたのだけれど、シヴァは違った意味でとらえたようだ。
「確かに我々エルフにとって、生涯を共にする伴侶とするには、人間の寿命は短過ぎる。だが例え短くとも、お前やガロンと共に過ごし、同じ景色を見るのは幸せな事だと思う」
「エルフが長寿なのは知ってるけど、具体的にどれくらい?」
「個人差はあるが、800年から900年は生きるな」
「そんなに!」
仮に私が80まで生きたとしても一緒にいられるのは40年余。シヴァの人生の10分の1にも満たない。
「因みにガロンの寿命は?」
「リザードマンの平均寿命は150年程だ。強い個体だと200年生きた例もある」
「…そう」
家族に先立たれる悲しさを私は知っている。
大事な人を失い、心にポッカリと穴が開いたような喪失感。
もしも私一人だったら、あの悲しみと寂しさから立ち直る事は出来なかったと思う。
何とか乗り越えられたのは、蓮がいてくれたから。
いつの時代にも不老不死を求める権力者がいるけれど、彼等は大切な人々を見送り、一人残される覚悟があるのだろうか?
「そんな顔するな。2人を看取る覚悟は出来てる。最後まで面倒見てやるさ」
きっとこれまでシヴァは沢山の別れを経験しているのだろう。
でもだからって寂しくないわけじゃないと思う。
頭では分かっていても、あんなにも大事にしているガロンとの別れに、彼が平気なはずが無い。
一人残されたシヴァを想像して、心がきゅうっと痛んだ。
せめて一緒に過ごす間だけでも、幸せにしてあげたい。
でも、私に何が出来るだろう?
彼の優しさに、私は何を返してやれるだろうか?
とりあえず毎日美味しいご飯を作ってあげよう。
支えられるばかりじゃなく、私も彼を支えてあげられるようになりたい。
私を伴侶に選んで良かったと、後々思い出してもらえるように、彼を大事にしたいと心から思った。
コミカライズ用に書き足しました。




