ムーリスのギルドにて
リーとジークを追ってギルドに入ると、ヒヤリと空気が冷たく感じる。
厚い石できた壁が空気を冷やしているのだ。それに、建物の中にも水路が引かれている。冷たい水だったから涼がとれるのか。もう一つ、風の通りがいいのも一因かもしれない。沢山の冒険者らしき人達が、裸足になって水路に足を浸していた。
ここは、とても広いくて天井が高い。なのに柱が少ないから、ざっと見渡す事ができた。ここのギルドも、受付と食事処が分かれている。右が受付カウンター。左が休憩所と食事処が一緒になっている。今まで見たどのギルドよりも、賑わっていて戦闘用の装備をした人達があふれていた。
今まで街の中では、いかにも冒険者っていう格好をした人はいなかった。それにオアシスっていう特殊な場所だから冒険者は少ないのだと思っていたので意外だった。
受付カウンターの窓口が五つもある。列になって並んでいる冒険者がいるってことは、依頼もソコソコあるってことだよね。
四人ほど並んでいる真ん中の列の最後尾に並んだ。すぐに隣の列に並んでいた、背中に大きな剣を背負った、これまた大きな男の人に話しかけられた。ムキムキの筋肉をしていて、一目でそうとわかるほど鍛えられている。無駄に白い丈夫そうな歯を見せニカッと笑った。
「お嬢ちゃん達は、このギルド初めてだろう?」
なんで分かったのだろう? そんなにお上りさんに見えたのか。
不思議に思った事が顔に出てたのか、さらに笑みを深めると自分の背後をくいっと親指を立てて示した。
「こっち並びな。その列の受付をしている彼はまだここに勤めはじめたばかりなんだ。まだ慣れていないから他の二倍はかかるぞ。見たところ、この街に着いた登録をしに来たんだろう?」
「ありがとうございます。じゃぁ、リーあっちに並ぶ?」
宿も探さなきゃならないし、早く登録が済むならそちらのほうがいい。私達は、彼の言うというとおりにしようと列を移動した。
「しっかし、別嬪さんだなぁ。あぁ、俺はロッキード、この街で冒険者になって十三年目だ。ようこそムーリスへ」
ロッキードさんが挨拶したのは、もちろん私じゃない。
しげしげとロッキードさんが見つめるのはファーランだ。
「ご忠告ありがとう。アタシ達、今日この街に来たばかりなのよ。アタシはファーラン、こっちがレーン。それからセシルリールとジークよ」
人がいるところでは、セシルリールを子供扱いするというのが、ルールだ。だからファーランはリーの紹介をしたのだけど、リーには敬語を使っているところしか、見たことがないから違和感を感じる。
「もう、宿は決めたのか?良かったらいい宿を紹介するぞ?」
ロッキードさんてぱ、ファーランに対して下心満載に見えるんだけど。一目惚れか?一目惚れなのかっ!
私、落ち込まなきゃいけないとこ?
勝ち負けじゃないってことは、百も承知だけど、鼻の下を伸ばし、落ち着かない様子で、ファーランを伺い見るロッキードさんに言いたい。
ソレハオトコデスヨ?
全面敗北を認めるけどさ。今のファーランはなんだかフェロモン過多で、色っぽいんだよ。
「あら、嬉しいわぁ。お酒と食事が美味しいトコ、紹介して下さる?」
そっと、ロッキードさんの左手をやんわりと握り、下から覗き込むように目を合わせる。そして、相手がどぎまぎしたところで、笑顔を見せ『下さる?』ときたもんだ。
うっわぁ。それ、夜テクなんじゃ。
「もっもちろん!」
あっ、一瞬で真っ赤になった。しかも首から耳の裏まで真っ赤だよ。さすが夜の蝶だった経験があるわ。落ちてる、完全に落ちてる。
ここぞとばかりに、ファーランに握られた手の上から、右手を重ねてファーランの手を撫でている。
嫌な顔せずに、ニコニコと微笑むファーランも侮れない。何気にやんわりと手を抜こうとしているように見えるけど、ロッキードさんは放そうとしなかった。
「ここの受付が済んだら、宿まで案内してやるぜ。オヤジの作る煮込み料理が最高なんだ。あぁ、あとリッキーエイルの蒸留酒はおかみのお手製でな、これまた絶品なんだよ」
ファーランの手を握ったまま、宿の宣伝を始めてしまった。ジリジリと後退しているファーランに、これまた徐々に距離を詰めようとするロッキードさん、いい勝負になってきた。
「あらぁ、素敵。リッキーエイルの蒸留酒にはちょっと五月蠅いのよ?」
「そりゃあ、なおさらだ。ここの湧き水を使った蒸留酒を呑まないなんて、人生を大損してるぜ」
興奮してきたのか、鼻息が荒くなってきたロッキードさんは、ファーランに顔をドンドン近づけていく。まさか、キスするつもりじゃないだろう。それは、それで楽し……………………ファーランに睨まれた。なんで私の考えている事が分かったんだ?
「ロッキードさん、お顔が赤いわ、具合でも悪いのかしら?手を離してくださる?これでは、貴方の熱が測れないわ」
おぉっと、ファーランうまいっ! 動揺もみせずに自分の手を取り返すと、すっとロッキードさんの額に自分の手をあてて、ゆっくりと唇を釣り上げる。魅惑的な笑みを、崩さずにそっと内緒話をするようにロッキードさんの耳に何かを語りかけた。
プシューと音がしない事が、不思議になるくらいにロッキードさんは更に赤くなり、ふらりとよろめいた。一緒に並んでいた男の人が慌てて、ロッキードさんを支えてくれたので、倒れなくて済んでいた。
いったいファーランは何を言ったんだ?ロクなことじゃなさそうだけど。
疑いの目を向けると、楽しそうに笑って人差し指を立てて口元にあてた。
あぁ、私が男だったら惚れるわ、その仕草。
その後すぐに、ロッキードさん達の順番になり、クエストの終了申請だったらしくあっという間に、私達の順番になり、私達もさっさと手続きを済ませる事が出来た。となりはまだ、さっき同じ人が手続をしていて、冒険者らしき人はかなりイラついていた。
ロッキードさんのお薦めは確かだったと言おう。お姉さんは馴れた手つきで全員分のギルドカードを登録してくれて、ついでとばかりにリーに果物をくれたのだ。小さくて一口大の大きさの果物は、ほんのりと紅く色づいていて、楕円型だ。グミの実に似ている。リーが咀嚼した途端にあたりに瑞々しくて甘酸っぱい香りが漂い始めた。
「チーコリの実よ、疲労回復に効果があるの。小さいのに旅をするなんて偉いわね。まだまだ先は長いけれど頑張るのよ?」
どうやら子供好きなお姉さんだったらしい。カウンターからわざわざ身を乗り出してリーの頭を撫でていた。
ソレ、セイレイオウサマデスヨ。
そうか、人外と旅をするっていう事は、こーゆー何気ない仕草にドキドキするのね。
リーが精霊王だと知ったらこの受付のお姉さん、卒倒するんじゃないだろうか。
「よぉしっ!じゃぁ行くかっ!ファーラン、約束は絶対だぞ?」
元気を取り戻したロッキードさんが、無駄に大きな声でそういうと、ファーランの手をむんずと掴んだ。捕獲されてるし。そして何故かジークを見て勝ち誇ったように笑った。
………………………………ロクなことになってない気がする。
ロッキードさんに勝手に恋敵認定をうけたジークは多分なにも分かっていない。
周囲にそれとなく気を配りながら私の後をついてきているだけだ。
リーと手を繋いでファーラン達の後を追いながら、デレデレの顔をしたロッキードさんに心の中で謝った。
ごめんなさい。ソレ、ニンゲンデモナイデスヨ。




