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竜の友達

 似てはいないけれど、そういえば、髪と目の色が一緒だ。翡翠はラメが入っているみたいにキラキラしていないけれど。


「あれ?さっき直接会ったことはないって」


「あぁ、そうですね。前に会った時は卵の中でしたから。ちょっと変わったオーラを出している卵だなぁとは思っていたのですが、ここまで変り種が孵化するとは考えてもいませんでしたよ」


 意味を掴みかねている私に、翡翠が竜の生態について教えてくれる。竜の寿命は卵から羽化して千五百年から二千年なのだそうだ。竜はこの世界の希少種で人化が出来る王族となると、とても狙われやすい。種族が違うといえども、意志の疎通が出来る。そして、強い。だが人間とはあまり関わらない。

 ある時、それならば、竜の子供を攫ってしまい、人間の為の道具になるように洗脳してしまえばよいのではないかという考え方が主流になってしまった時期があった。国を魔物から守る為に、子供の頃から躾てしまおうという理屈だ。

 人間はこっそりと竜の卵を盗んで、育てようとしたらしい。まぁ、勿論そんなにうまくいくはずもない。親が黙っているわけがないのだから。むしろ、圧倒的に弱者の分際で子供を攫ってくるなんて、その発想はすごいと思う。たぶんヒヨコと同じように刷り込みを期待したんだろうね。卵から産まれるからさ。後先を考えない人間って怖いわ。


 一度、その策が成功した事があった。けれど見事、子竜を手懐けたその国は、一時の間だけ思惑通りに栄えたのだという。でもすぐに、子竜を探しに来た親竜に滅ぼされてしまった。


そこで起きた悲劇は親と子の戦いだったという。人間を守ろうとする子竜を屈服させ、親竜は子供を無理矢理連れ帰った。だけど、連れて帰られた子竜は、竜の暮らしに馴染めずに、心の病気になってしまい結局、衰弱して竜にしてみればとても短い人生に幕を閉じてしまったそうだ。人間との暮らしに馴れすぎてしまっていたのだ。子竜にしてみたら、実の親竜が自分を育ててくれた家族を殺した上に、守るべきと教えられた国ごと滅ぼされてしまったのだから。


 それからこんな悲劇を繰り返さない為に、竜は卵の中にいるうちに教育を施される事になった。卵に話しかけ、竜とはどういう生物なのか、卵の親はつきっきりで卵を温めるようになったんだって。それまでは、産んだら放置だったらしいよ。つまり別に温めなくても子供は生まれるってこと。

 どうも、半信半疑でやってみたその方法は、とても効果があったらしく、卵が孵化してすぐの竜でも言葉が話せ、親をキチンと認識する事が出来るようになったんだって。卵の中で聞いたことはすべて覚えているらしい。

 だから、直接会ったことはないけれど、ファーランの記憶的には再会という表現になるのね。


 卵のうちから奇妙なオーラを醸し出しているファーランをちょっと見てみたかったなぁ。


 ちらりとファーランを見ると、バチリとウィンクされた。

 どうしよう、なにから突っ込めばいいのか迷うよ、コレ。

 

「さっき精霊から聞いたけれど、レーン様ってばマーリンダイトに行きたいんですってね。丁度いいじゃない。アタシが乗せてあげるわよ。だからレーン様も一緒にセシルリール様に頼んでよ、アタシがお仕え出来るように」


 乗せてあげるわよって言った?言ったね。スキー場のリフトも乗れない高所恐怖症なめんな、無理に決まってるじゃないのよっ!全力でお断りだ。


「高所恐怖症だから、無理。空飛ぶとかなにその拷問」


「ハッキリ言うわね。小娘の癖に。飛ぶ生き物のアタシに、まぁ。いいわ、その喧嘩買うわよ」


 唖然として、ファーランを見る。小娘の癖にって言った。思わずポロリと涙がこぼれた。


「あら、イヤだ。レーン様ってば気が強そうなワリに打たれ弱いの?泣かないでよ、後で翡翠様にアタシが起こられるのよ」


 慌てるファーランに勢いよく首を振る。どこまでも自分本位なその台詞にさらに涙が浮かんでくる。どうやら、ここにきて少し弱っているのだと自覚してしまった。悲しい訳じゃない、嬉しかったんだよ。

 

「違う、ごめん。ちょっと情緒不安定で」


「なに、溜め込んでるとあんまり良くないわよ。会ったばかりで、よく分からないけど、かえってそのほうがいいこともあるわ。もし話せる事があるなら聞くわよ?」


「レーン、乱れてる。抑えろ」


 ファーランの、ちょっとだけ心配するような声と、ジークの堅い声。

 精霊が騒ぎ出すまでに、落ち着かなければならない私。

 深呼吸を三回繰り返す。嬉しすぎても、悲しすぎても、怒りすぎても精霊が騒ぎ出すんだから。


「アンタ、人間よね?」


「あぁ、それが何か?」


「別に、今はいいわ。レーン様も落ち着てきたみたいね」


「うん、ごめんなさい。ファーランに小娘って言われてつい嬉しくて」


 本音を言っただけなのに、ファーランとジークが苦い顔をして私を見る。その後ファーランが片頬をひくつかせながら歪んだ笑みを見せる。なんでそんなに変な顔してるのよ。


「いやぁ、アタシ、自分が変な性癖持ってるって自覚あるけど…………。レーン様マゾッ気あるの?喜ぶとかないわー」


 目を細めて私を見るファーランに、紅茶にむせるジーク。一瞬、何を言われたのか分からなかったけれど、すぐに否定しなければならない事に気づいた。


「ばっ…………」


 しまった、いつもの調子で馬鹿じゃないのって言いそうになったよ。慌てて言い直す。


「マゾじゃないよっ。ただ、普通って感じで嬉しかったの。街の人達は、私を好いてくれてはいるけど、なんか尊敬が混じってるし。畏怖みたいなものもありそうだし。なんか神様扱いだし」


 精霊王の妃だなんて言われ始めてから、あまり普通の接し方をされていなかったから嬉しかったんだよ。

 多少、卑屈になっている気もするけど、怒らせたらいけないって雰囲気を感じる。精霊が制御不能になるほど感情を高ぶらせてはいけないという、暗黙の了解があるような空気が居たたまれなかった。

 

「この間、自分がもう普通じゃないて言うのは、理解したつもり。だけど、私は私なんだもの」


 いくら精霊王の妃と呼ばれても、私は「礼羽 香蓮」であることに変りはない。かしこまられるのも嫌だし、神様扱いも嫌だ。

 ジークは普通に扱ってくれるけれど、最近、私の感情を抑えることに熱心で、壁を感じる。それが寂しいと思っていた。だからファーランが私の感情の起伏を気にしないような、言葉を言ってくれたのが嬉しかったのだ。


「あら、じゃぁ、レーンって呼んでもいいかしら?」


 茶目っ気たっぷりにファーランが片目をつむる。そっとハンカチを私の頬にあてて涙を拭いながら、友達なら様付けして呼ばないものねと言ってくれた。


「うん」


「ファーランっ!!」


 私の返事をかき消すように、翡翠の鋭い叱責がとんだ。


「なにを馬鹿な事を言っているのですか。レーン様に無礼を働くなど許しませんよ」


 翡翠に怒られて、撤回されたら嫌だ。間に入ろうと口を開きかけた所で、ファーランに目で止められた。


「でもさぁ、翡翠様。翡翠様達も悪いと思うわよ。この子、普通の子じゃなぁい?貴族のお姫さまじゃないわよね? 急にお妃さまって言われたら気の毒よ。今までのお妃さまとは違うじゃないの」


 ファーランっ!! 男前!! 今ならちょっとだけ惚れるかも!!


「アタシ竜族だから、そこいらへんの魔物より強いし、別に食べる物にも困ってないし、なにより本人が望んでるんだから、友達でもいいじゃなぁい?」


 今までのお妃さまってのがどんな感じだったのか、気にはなるけど今はスルーだ。私は今、普通におしゃべりしてくれる友達が欲しい。私の顔色を窺わない人が欲しいんだから。その調子だファーラン、翡翠に言ってやって!なんて思った私が馬鹿だった。


「ついでに、売られた喧嘩も買わなきゃいけないし?アタシ、レーンの高所恐怖症治さなきゃならないみたいだから」


 それ、治さなくていいから。

 無理に喧嘩も買わなくていいと思う。


「だから、リフトにも乗れないし、ランドマークタワーだって無理なんだから、空は飛べませんっ!高所恐怖症は治らない!」


 なぜか、ファーランが驚きに目を見張った。悲鳴のように叫ぶ。


「アンタ渡り人? ついでに日本人?!」


 私、まだファーランには詳しい話してないのにと驚く。その場が妙な空気に支配された。時が止まったかのように誰も動けなかった。


「おはよう。香蓮、支度はできた?ん?お客かな?」


 のんびりとした口調のリーが東屋に顔を出す。


「香蓮、やっぱり日本人」


 誰にも発音できないはずの真名をファーランはあっさりと口にした。そう、リーの目の前で。体は一応男のファーランが。

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