癒しは大事だと思います
気力、体力が限界です。
ルークさん、鬼だよ。鬼。容赦ないから。
あぁベットが恋しい。フカフカのベットで寝たい。
私は今、街を半壊してしまったお詫びもかねて、キリュームの街でテントを立てて生活している。
勿論、私が言いだした事なんだけど。他人の家を壊しておいて自分だけちゃんとしたベットで寝るなんて、良心が痛んだから。家を壊された人達は、知り合いの家に居候したり、テントで生活している。それを見たら責任とるだけじゃダメじゃないかと考えた。
けれど、旅で慣れていたはずの地面で寝る事より楽なはずのテント生活が辛い。
何故かって、家作りが遅々として進まず、かれこれ二ヵ月目に突入するからですよ。
気になってしまったんだよね。
生活レベルが。
人の為を思ってさ、こうしたらいいんじゃないかとか、ああしたらいいんじゃないかとか。手を出してしまって、出したはいいけど、あまりに面倒になってきて、後で後悔することが多いのよね、私。
原始的なトイレとか、排水と給水ならば知識として持っていたのが最初だった。
といっても、本当に素人に毛が生えたぐらいのものだけど。詳しいことは分からなくても、創意工夫は出来るくらいの知識があった。単に高校生の時にアルバイトしていたのが、水道工事の会社だったってだけなんだけど。夕方に帰ってくる、社員のオジさん達が、今日の水道のつまりはなんたらかんたらやら、これがこうなってあぁなって、勾配がどうのとか、話しているのを横目で見つつ、たまに話にまざって教えて貰ったりしていたのだ。
街を一から作るならば、給排水設備をキチンとしようと提案しのは私だ。衛生的な意味でも重要な事だから。これは一度旅番組で見た事がある、流水流れる溝で用をたすトイレを考案。角度をつけて上から下に家々を通って最後に畑の近くに溜まるように考えた。肥料にしやすいように工夫もした。後は、街の中に一本大きな水路を作って、洗濯場を常設しようってのと、ついでじゃないけど、大きな銭湯を温泉を掘って作るでしょ、井戸は一軒に一つ台所に完備しなければ。
私の知識なんて雀の涙ほどの助けにしかならないけれど、本職の建築家さんのマートルさんキージュエさんと一緒に水晶とにらめっこの日々が続いた。最後に、ルークさんと共同で大まかな設計図を書いて誰の目にも分かるようにしていく。防護壁を先に作ったおかげで、街の建物はじっくりと考え、綿密な設計がされた。
人生初じゃないかというくらいに、頭使ったよ。自分が必要だと思う道具を精霊に頼んで作ってもらいながら、嵐になった時に氾濫しないように一時的に水路の水を堰き止める水門作ったり、まぁこれはマートルさん達からの助言だったんだけどさ。
で、今やっと水路の確保が終わって、家やら店やら住居作ろうってトコなんだけど。
精神力がもの凄く削られていくんだよね。精霊に頼むときに頭で映像を再現しながら頼むのよ。失敗しないように少しずつ進めていくから、作業も中々進まないし、時々頭がショートしそうになる。
なのに、ルークさんてば、ニコニコ笑いながら。
「なに休んでるんですか。ほら、街の人達が待ってますよ。さっさと作業進めますよ」
って、冷気放つんだよ。魔法なんか使えないはずなのに、体感温度が下がるんだよ?
もう、ルークさん人間じゃないんだろうと思う。やっぱり鬼だ。
で、冒頭に戻るのね。フカフカのベットで眠りたい。
そして、たいして知識もないくせに、温泉だの排水だのと手を出すんじゃなかったと、後悔してます。 行き詰るとイライラするし、イライラすると精霊がざわざわ、ピリピリするし、お坊さんのように瞑想しろってなるし。あぁ、無茶苦茶な事言ってるよなぁ私。
やっと一日が終わって、テントに敷き詰めたクッションに寝転んだところだ。
もう、嫌。お休み欲しい。自分の責任だけど、一日くらい休んだってバチは当たらない…………はず。
実際は休めないんだから、心の中で愚痴を言うくらい許してもらおう。精霊が騒ぎ出す前に頭を真っ白にすればいいのだから。
一人でゴロゴロまったりしていると、テントの扉が持ち上がり、可愛い可愛いミューミューちゃんが顔を見せてくれる。
「おねぇちゃん、今晩は」
癒しが向こうからやってきてくれました。ガバリと起き上って座って手招きをする。ミューミューちゃんの後ろからお兄さんのミュートくんも顔をだした。
「今晩は」
ミュートくんは栄養失調による衰弱をしていて寝たきりになっていた。ミューミューの怪我の具合を確かめに家に行った時には、青白い肌に虚ろな目をしてボゥと空を見つめながら横たわっていたんだ。元々丈夫な体でなかった上に、自分の分の食べ物をほどんどミューミューに分け与えてしまっていたらしい。
全く生気を感じられない瞳に、正直いえばゾクリと背筋が震えた。もう、そんなに長くないのではないかと思うほど儚く見えた。私が気づかなかっただけで、そんな状態の人達がこの街には沢山いた。魔物の襲撃や、仕事がなくて王都へ働きに出ていく人達が後をたたないこの街では、家には困らない。家の中で徐々に弱っていく人達が大勢いたのだ。私には見えなかったというだけの話だった。
街が半壊して、やっと動けない人達に私が気づいたのだ。多分、ジークは知っていたのだと思う。ソコソコの食べ物はある。けれど、全員を賄うほどのものはなかったし、お金がない人は目の前に食べ物があっても買うことが出来なかったのだ。
私は本当の飢えを知らない。
この世界に来てからも、ジークが食糧を分けてくれていた。例えお腹がいっぱいにならなくても、食べる物はあった。
日本にいた頃は、言わずもがなだ。国も、世界も違うのだから仕方がないといえばそれまでだけど、生まれて初めて、気軽に食べ物を残した事、捨てた事を心の底から後悔した。子供が子供に食べ物を分けて、自分は死にかけてるって事実に胸が痛んだ。
まだ、時々フラフラして杖がなければ上手に歩けていないミュートくんも、逆に言えば翡翠達が用意してくれた食糧のおかげで杖があれば歩けるようになるまで回復したと言える。青白かった顔色も、頬にほんのり桃色がさすようになっていた。それを見て本当に良かったと思う。手遅れになる前に、回復出来る体力が残っていた事に感謝した。
ミュートくんが少しずつ元気になっていくうちに、ミューミューちゃんと仲良くなって、毎晩こうしてお茶を飲みながら話をする事が習慣になっていた。
「今日はなんのお話?」
キラキラと目を輝かせて、もう定位置となった私の隣にミューミューちゃんが座り、足がうまく動かないからと用意した椅子にミュートくんが腰かけるのを待つ。
見計らったように、翡翠が飲み物とお菓子をお盆にのせて現れた。
温かいミルクとビスケットを手にとり、子供達がほんのり笑う。
胸の奥がほんわかと暖かくなった気がする。うん、癒されてる。
さっき、愚痴を吐き出したいと思った事など彼方に吹っ飛んでしまった。
「うーん、今日はシンデレラのお話しにしようか?」
「シンデレラってなに?」
ミューミューが可愛らしく首を傾げる。ツインテールに結んである髪が左右に揺れた。
娯楽が少ないこの街では、昔話も立派な娯楽になる。ミューミューちゃんがあまりに喜ぶので、私が小さい頃に読んだ童話や、昔話を一日に一話と決めて話していた。
「シンデレラは名前だよ。いや、本当は渾名というか、呼び名だった気もするけれど。どうだったかなぁ」
原題が『灰かぶり姫』で、火が落ちた暖炉の灰で暖をとって寝ていたから、灰かぶりと義姉に呼ばれているというような話だった気がする。あまり詳しくは知らないので、名前でいいことにしておこう。
子供達を相手に『シンデレラ』を話し終える頃には、いつの間にかジークとリーがテントの中でくつろいでいた。




