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幕間 蓮

 読んでいただき、ありがとうございます。その頃の蓮のお話ということで、こちらを読まなくても本編には影響はありません。他視点が苦手な方は安心して飛ばして下さい。

 ふと、ジークの気配がなにかに包まれるのを感じた。そして、ジークの気配が消える。

 死んだ訳では無さそうだ。なにかに邪魔をされているような感覚だった。アイツいったい何をやらかしやがったんだ。

 ジークは巻き込まれ型のトラブルメーカーだ。本人の意図する所ではないけれど、もう哀れを通りこして感心するほどにいつでもトラブルに巻き込まれている。

 人探しをするには、風の精霊を使う事が一番の早道だ。世界中のどこにいても風が見つけてくれるからだ。おそらくGPSより確実に場所を特定できる。

 俺が契約している風の精霊は中間くらいの位にいる奴だが、こいつの上の位の精霊が関わっているに違いない。じゃなければ、俺が気配を追えなくなる事の説明がつかないからだ。


 くっそー。ジークに香蓮を探すの手伝ってもらおうと思ってるのに。


 俺は今、マーリンダイトにある俺の家でこれからの方針を決めかねていた。


 この世界で俺に出来ないことはないはずだった。勇者という称号は伊達じゃない。戦えば戦うほど、訓練すれば訓練するほどスポンジが水を吸うように強くなった。

 今じゃ、俺に勝てる人間なんていない。

 精霊に頼る事のない、全属性の攻撃魔法が使えるのは勇者だけだからだ。


 まぁ、精霊魔法も使えないわけじゃない。中位の光と風と時空の精霊と契約できている。だから香蓮を探す事なんて簡単なはずだった。


 風の精霊にイメージを伝えて探させれば良いのだから。

 ところがだ、この世界に来ていることは間違いないのに、香蓮を見つける事が出来ない。風の精霊のみならず、時空の精霊までが香蓮に関して消極的な反応を示す。香蓮の事となると途端にモヤがかかるように精霊との意思疎通ができなくなるんだよな。


 あっという間に見つけ出せると思っていたのに、早4日。念入りに魔法をかけておいたネックレスをしているはずなのに見つけ出せない。ここにきて、俺は焦っていた。


 一人より協力者がいたほうがよいと、ジークに連絡をつけようと気配を探った所で、いきなりジークの気配が消えたのだ。場所はドーランド大陸のエーダー・フェール国の北のはずれ。辺境もいいところだ。ここらへんに村なんかあったっけかな。


 本棚から、魔王を倒す旅をした時に作った地図を取り出す。

 頭の中の地図と照らし合わせて、ジークが消えたあたりを探す。

 多分ここだ。このあたりには街が一つしかないらしく、キリュームという名しか見当たらない。


 えーっと寄ったっけかな。


 記憶の底を探ってみるけれど、この街に訪れた記憶はなかった。


 しっかしジークの奴使えねぇ。

 俺が困ってるってのに、こんな辺境に居るなんて。

 ここから普通に旅して、二年近くかかるだろうが。

 まぁ、時空の精霊と契約した俺にとっては、二年もかからないけどな。


 それでも、半年はかかるかもしれない。

 この世界の魔法はやたらと制限が多い。

 例え精霊と契約としていたって、そう都合の良いものではなかった。

 時空の精霊と契約していれば、一度行った事のある街ならば、魔法で移動できる事になっている。だが、半径百キロ圏内と決まっている上に、大陸が違うとこの魔法は使えない。悲しいことにこの国は一つの大陸が異様に広い。ついでに街が少ない。百キロ圏内に次の街がないなんて事もザラだ。


 一度、契約した時空の精霊、トキオに範囲をもっと広げろと文句を言ったら、精霊の長や精霊王でないとそんな事は出来ないと拗ねられた事がある。じゃぁ、精霊の長を探せばよいのかと言えば、勇者の分際で馬鹿な事を言うなと今度は怒られた。分際ってなんだっていう話だ。どんだけ偉いんだよ精霊の長とやら。


 ここで時間を半年も無駄に出来るわけがない。


 ジークを迎えにいくよりも、香蓮を探して色々な街に行ったほうが効率的だ。

 香蓮は突然この世界に放り出されてしまって、どんなに心細い思いをしているだろうか。

 こちらの言葉も分からない上に、着のみ着のままだ。街の近くならばまだいいけれど、荒野のど真ん中なんて恐ろしい所に放り出されていたとしたら、想像するのも嫌だ。

 まだ、魔物もうろついているし、治安も良いとは言えないこの国で、香蓮が一人でいるかと思うと居てもたってもいられない。

 

 俺が原因だという事が分かっているだけにやり切れなかった。

 怪我をしてなければいい。誰かに酷い目にあわされていなければいい。


 まさか、王女が法を侵してまで追いかけてくるとは思っていなかったし、彼女の実力を軽く見ていた。

 俺の世界の座標を指定できて、なおかつ俺の場所まで指定しなければ、異世界への魔方陣は作動しないはずだった。目印がなければ無理だというのに、彼女は俺への恋慕だけを糧にしてやってのけてしまった。そして香蓮を殺すつもりでこの世界に転移させてしまった。それも、座標を特定せずに。


 繰り返し何度も、恋愛対象には見れないと断ったにも関わらず、彼女は俺を想い続ける。

 一体どうしたら俺を諦めるよう、説得できたというのだろう。


 俺の中で恋愛対象は香蓮だけだというのに。

 香蓮は俺の特別なんだ。

 弱くて、泣き虫で、ヘタレな俺をいつでも庇ってくれて、守ってくれた。

 昔から正義感が強くて、女みたいだと虐められていた俺を助けて庇ってくれる。

 情けないと思いつつ、いつか香蓮を守る立場になると誓っていた。

 俺の計画通りにいけば、高校生に入る頃には、香蓮の隣を堂々として立つ資格を持てるはずだった。

 この世界に召喚されて計画が大幅に狂ったけれど、離れたにも関わらず俺が求めるのは香蓮だけだった。

 こちらに突然召喚されて、わけも分からず勇者になって、戦いに身を置けたのだって香蓮ともう一度会う為にだった。

 正直、この世界の人間の為に戦えるほど俺は勇気も根性も持ち合わせていなかった。

 根本的に俺は戦いに向いていないヘタレなんだ。

 戦いの度に香蓮と会う為だと自分を奮い立たせていた。

 魔王を倒せば、元の世界に戻る魔法を教えてくれるという約束だったから。


 王女は強くなった俺を好いてくれたけれど、決して俺の本質を知っていたわけじゃない。

 なによりも、俺をこの世界に呼び込んだ国の王女だ。一部欠けて使い物にならなくなっていた魔方陣を修復した本人でもある。

 恋愛感情などもてるはずもなかった。

 王女さえいなければ、この国に来る事もなかったし、血を見ることもなかった。

 そして今回の事を許すつもりはない。香蓮を一刻でも早く見つけなければならないから、王女の件は棚上げしてあるけれど。香蓮を見つけたらそれ相応の報いは受けてもらうつもりだ。

 

 どうしてもこの国の人間を信用できなくて、孤独で辛くていっそのこと死んでしまおうかと思った事もあった。これは夢で、俺は事故かなんかに巻き込まれていて、本当はベットの上で治療されているのかもしれないと。死んでしまえば目を覚ますのではないかと、細い糸のような、自分でもそれはないと分かっている希望に身をゆだねたくなったんだ。

 それを止めたの皮肉なことに、憎き恋敵、聖司と同じ顔をしたジークだった。

 最初は顔を見るのも嫌なほどジークが嫌いだった。あの清廉潔白ですと言いたげな、細面の腹黒を思い出せてくれるからだ。アイツさえいなければ、香蓮の興味は全部俺のものになっていたはずだったのにと、何度思ったか分からない相手だ。中身が違うとしても、良い感情を持てなかった。

 結論から言えば、ジークは驚くほどチョロかった。

 出会った当初は、義理人情にあつく、その上正義感が強すぎて、あっという間に悪い奴に騙されるわ、変な女に引っかかるわ、ありとあらゆる詐欺に引っかかっているのではないかと思うほどだった。

 一度かかった詐欺には二度と引っかかることはなかったし、六年もたてば色々な経験のおかげでマシな大人にはなっている。女嫌いにはなっちゃったけどな。あれだけホイホイ騙されてたら、そりゃ女性不信にもなるだろう。

 逆に女嫌いになってくれて、トラブルに巻き込まれる回数が減ったのだから俺的には良かったと思っている。

 なんだかんだと面倒をみている内に、いい奴だとわかり今じゃ大親友だ。

 人生なにが起こるか本当に分からない。

 

 香蓮を見つけられなくて、不安になっている俺のそばにいて欲しいと素直に思う。


 まぁ、今すぐどうにもならないことを嘆いても仕方がない。そんな暇があったならば、香蓮を探す事のほうが先だ。


 ここから転移できる街には行き尽くしてしまった。明日からは南側を重点に置いて香蓮を探そうと決める。黒髪に黒い瞳なんて珍しいからその街に行っていれば目立つはずなんだ。だから、すぐに見つかる。


 無理矢理自分にそう言い聞かせながら方針を決め、次に訪れる街を決めようと地図を睨んだ。


 どうか、無事でいますように。

 どうか、次の街で手がかりが掴めますように。


 ちなみに風の精霊が、香蓮とジークを探せなくなってしまったのではなく、場所を知っていても俺に知らせる事が出来なくなっていた事に気づくのはもう少し先の話だ。

 

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