街が半壊していました
街、半壊でした。
自分のした事だと、言われても全く実感がない。でも、やっぱり私がやったんだろう。
竜巻や、雨や、雷、炎に地震といわゆる天災と言われるものを集中させたということだ。
街の人達の命綱だった防壁もボロボロになって崩れ落ちている。
不幸中の幸いは、怪我をした人間はいないってことだけだ。
目が覚めてすぐにキリュームの街に来た。私が目にしたものは、瓦礫の山となった家や防壁だった。
半分ぐらいは居住可能な状態で残っていたけれど、傷がついていない建物はなかった。
目の前の光景を茫然と見る。
街の人達が、瓦礫を撤去する為に総出で後始末をしている。足元から震えが登ってきた。立っていられなくなりそうな程の震えによろめく。その感情に反応して、また光の渦が出てきそうな気配を感じて慌てて気持ちを落ち着けようとする。
そんな私の腰を引き寄せて、頭に頬ずりするのは、言わずもがな大人になったリーだ。
「香蓮、落ち着いて。大丈夫って言ったろ。これは精霊の暴走の結果であって香蓮がわざとしたことじゃない」
「わざとじゃなければしていいって理屈は通らないよ。これは」
「通るさ。香蓮は僕の妃だもの。君はここに存在するだけで、人々に恵みをもたらす存在なんだから」
通してはいけない理屈だよ、それは。
この街の人にしてしまった事とは別の話なのだから。
この力は私の身に余る。常に平常心を保つなんて私には出来なそうもない。
「ねぇ、リー。私はどうすればいいの?なにをどうすれば、この街の人達に許してもらえるの?」
とても、怒っているだろう。ミューミューだって、もう会ってくれないかも知れない。
ミューミューに会いにここまで来たのに、自分のしでかした力の暴走の結果を目にした途端に足が震えて歩けなくなっている。
ごめんなさいと言葉で言ったところで、許してはもらえない事をしてしまったんだ。
「おや、簡単ですよ。レーンさん。いえ、レーン様。精霊王様のおっしゃる通り、貴方の存在こそがこの国のそれどころかこの世界の救いであり、希望なのですから」
街からルークさんが杖をつきながら歩いてくる。どこかに隠れたい衝動に駆られるけれど、ここはちゃんと向き合わなくてはいけない場面だと踏みとどまった。励ますように腰に回された腕に力がはいる。
私がここに立っていられるように、リーの服を握りこむ。これだけで、勇気をもらっている気がするんだ。
隣でなにも言わずに立っていたジークに緊張が走って、さっと身構える。
それを感じたのか、ルークさんは苦笑いを浮かべた。今日はアイスブルーの髪を一つに束ねているからか、昨日よりもより冷たい印象を受けた。
「それとこれは関係ありません。本当に申し訳ありませんでした。私にできることなら精一杯やらせていただきます」
頭を下げた途端にジークがチッと舌打ちをして、私の頭を上げさせる。
「馬鹿か、お前はっ!」
なぜ怒鳴られるなければならない。今はそれどころではないんだから、ちょっと黙っていて欲しい。ムッとして黙っててと言おうとすると、ルークさんが大きな声を上げた。
「素晴らしい!!レーン様。なんという素晴らしい心ががけなのでしょうかっ!!レーン様にできる事なら精一杯なんて、恐れ多くも勿体ないお言葉を頂き、私、感動のあまりに涙が出そうです。これで街は安泰です。そうですか、レーン様にできる事をなんでもやって下さるのですね!!」
え?なにその大事な事だから二度いました的な、芝居がかった台詞は。謝る立場でこんな事を思うのもどうかと思うんだけど、すっごく胡散臭い。涙なんて一滴も出そうじゃないよね?
疑問に思うよりも早く、街の人達がルークさんの声を聞いて飛び出してくる。止める間もなく私達の前に膝をつき頭を下げ始めた。
「ありがたや、ありがたや」
なんで頭下げられてんの私。私が頭さげなきゃいけないのに、これじゃあべこべだよ。
私も膝をついて頭を下げようとして、今度はリーにも止められた。両脇をジークとリーに抱えられています。なにも冷や汗かいてまで止めなくてもいいのにジーク。
「今、お前はこの世界では最高位にいるんだ。例えそれが正しかろうと大勢の前で膝をついて頭を下げたりされたら困るんだよ」
なぜジークが困る。私、個人の問題じゃないか。ちゃんと謝る事ができないなんて人としてダメでしょうが。
「では、レーン様。お言葉に甘えまして、お願いしてもよろしいでしょうか?あぁ、勿論、レーン様が出来ないことなど申しませんから」
笑顔が黒い。真っ黒だ。早まったのか私。一体なにをお願いされるのか、見当もつかない。
一気に背筋が寒くなる。けれど、私がやった事は笑顔で許されていいことではないともう一度心に刻みこむ。どんな無理な事でも聞かなくてはいけないんだから。
ゴクリと、唾を飲み込んでルークさんの言葉を待つ。
「それではですね、まずはこちらをご覧下さい」
ルークさんが懐から取り出したのは、想像したものを映し出す水晶玉だった。
覗き込むと高い二重の防壁に囲まれた畑とたわわに果物が実った果樹園にサトウキビ畑もある。そしてまた防壁がありそこにはどっしりとした石造りの家々が建ち並ぶ街が映し出されていた。石畳で整備された道があり、排水の整備もされているように見える。とても広く大きな綺麗な街並みだった。
これが一体どうしたというのだろうかと、首を傾げると、ルークさんは笑顔で「この街を再現して下さい」と仰った。
「え?無理でしょう?」
思わず言うと、ルークさんがさらに黒い笑顔になる。ちょっと怖いんだけど。
「レーン様、失礼ですが貴方はご自分の価値を分かっていらっしゃらない。私は無理な事は申しませんと言ったはずです。貴方のその力があればこれくらい朝飯前なのですよ」
そんな事言っても街一つ造り上げろって。そう思ってリーを見るとニコニコと笑顔で頷かれてしまった。
出来るのか。この街を私の力は造ってしまえるのか。それはもう…………。
衝撃で言葉が出ない私の代わりに、リーがルークさんを見据えた。
「いいだろう。当分の間は作物の実りの加護もおまけに付けてやる。ただし僕達の事を国の連中に話さないことが条件だ。この規模になると借りるとはいえ香蓮の負担になるんだ。簡単に出来ると思ったら大間違いなんだよ」
そんな事を約束させたって、街が一つ急に現れた隠す事なんか出来ないと思うんだけど。
「レーンとセシルリールの魔法で作ったと明言しなければいいんだ。素知らぬ顔で奇跡がって言ってくれたほうが都合がいい」
ジークに耳打ちされ、よく理解は出来なかったけれど頷いた。
「でもどうすれば街が造れるのか分からないよ」
そう呟くと、キッと素早くルークさんが私を見る。そして、ニヤリと笑った。
「承知いたしました。お名前を出さないよう、街の者に徹底させさせます。そして、レーン様。ご安心下さい。私がどうすれば良いのかお教えします」
その時、私はルークさんの背後に悪魔の尻尾と羽が見えた。
そしてそれはあながち間違いではなかったとすぐに知ることになる。
私は主張したい。ルークさんは眼鏡をかけたほうがいいと。
そうしたら心おきなく言えるのに。
腹黒眼鏡って。




