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肩書が追加されているもよう

 ジークの言いたいことはしっかりと分かっていた。

 竜騎士に見つかるといけないはずだ。ということは、町長さんにも息子のルークさんにも怪しまれてはいけないのだろうと想像がつく。町長さんは鋭いようには見えなかったけれど、その分ルークさんが周囲や街に油断ならない目を配っている。だから竜騎士に会いたいとわざと大げさに言ってみたんだけど。

 そう、わざとだったんだ。おかげでルークさんは警戒を解いたはずだった。

 けれど、今、私は警戒を解いたんじゃなかったの?な心からの笑顔(に見える)を惜しみなく振りまいているルークさんに連れられて、竜騎士が降り立ったと考えられる街の右端にある大きな広場に来ていた。


 なんだか、ルークさんには得も言われぬ迫力がある。あの笑顔が曲者だと、私は思うんだよね。だって、にっこり笑いながら、「そうですか、竜騎士にお会いなったことがないのですね。幸いまだ青空が広がっています。雨が降るにしたって少しぐらいの時間はありますよ。私が案内しますから、ぜひ一緒に竜を見に行きましょう。竜を見た事がないなど人生を損をしていますよ」と、流れるように言った後にガッシリと腕を掴まれてしまった。どこからどう見ても爽やかな笑顔で。


 そりゃもう、怖かった。誰がってジークが。怒った時の聖司にそっくりなんだもん。ちょっと懐かしくなってしまったよ。余計な事言いやがってって言われているのがヒシヒシと伝わってきてるんですけどね。気にしたら負けのような気がするので気にしない。なんの勝負もしてないけどさ。

 そして、今、ここまで連れて来られてしまったのだ。杖をついて足を引きずって歩いているのに、ルークさんの歩くスピードは速かった。私が普通に歩くよりも速かったから、驚いた。私がとろいんじゃないかって突っ込みは受け付けないからあしからず。


 最初に街を見て回った時に、なぜここで市場を開かないのだろうと思ってたんだけど、それは竜騎士の発着場だったからなんだと知った。


 大きな緑色の鱗を煌めかせながら、竜が座っている。竜だ。竜ですよ。見上げるような大きさの竜が目の前にいる。物語にしか存在しなかった竜だ。その圧迫感に人々が畏怖を覚える気持ちがわかった。圧倒的な存在感。そして、瞳に浮かぶのは知性の光だ。犬や猫よりも遥かに意志を感じさせる瞳をしている。なぜ、人を背にのせているのかが不思議になってしまうほどだった。

 なぜだか花のようないい香りがあたりに漂っている。竜騎士はここらへんでは珍しいらしく、沢山の人達が集まってきていた。

 ガシャンと鎧がこすれあうような金属音を立てて、全身を鎧に身を包んだ人が竜の背から飛び降りる。

 すごく重たそうなのに、よく飛び降りたりできるもんだと感心する。あの鎧姿でどうやって竜の背に乗ったんだろうか。


「伝令である。王から発令された手配書だ。勇者の仲間である、孤高にして気高き戦士、ジークハルト・アルダイトが王の婚約者であらせられる精霊王の妃におそれおおくも横恋慕をし連れ去った。ジークハルト・アルダイトを捕縛し、次期王妃となられるレーン様をお救いするのだ。重要な情報には賞金も出る。些細なことでも良い、村の役場、もしくはギルドに届けでるように」


 私の特徴をつらつらと言いだした竜騎士の声を遠くに聞きながら頭を抱える。竜騎士が発した言葉は全く私の理解の範疇を超えていた。

 超えすぎて宇宙まで脳味噌が飛んで行ってしまったかもしれない。今、私の頭の中身は家出中で空っぽに違いない。


 知らないうちに私の肩書に王様の婚約者が追加されている。

 ちらりと目が覚めたら精霊王のお城のベットだった朝を思い出す。あの時、実はお城でなにかあったとかそういう事なんだろうか。いや、なんかあったに決定なのか。私は今ジークに連れ去れている最中なのだから。


 ないわ——――――。ほんとにないわ—――――。


 女嫌いのジークが横恋慕。へそで茶が沸かせるわ。最近なんか触るとかなりの確率で殴られるのに。そこに愛やら恋やらが目覚めるはずがないんだから。そもそも、私の好みは大きくなったリーなのだからして、あのマッチョな王様は問題外なんだけど。プロポーズされた覚えも全くないし、いったい全体どうしてこんな伝令をすることになったというのだろう。

 今はリーの魔力も抑えてるし、私も髪の色を変えているから竜騎士と正面で会っても気づかれないはずだ。今すぐに立ち去りたいけれど、ここで帰ったほうが目立つ気がするし。


「ねぇ、リー。精霊王の妃って、精霊王の奥さんって言ってなかった?」


 とりあえず一番不思議に思ったことを聞いてみる。


「うん。そうだけど?なんで?」


「なんで結婚してるのに、王様の婚約者になれるわけ?」


 そうそう、ここも大問題。人妻ってことになってるのよね私。


「なんで結婚していると王様の婚約者になれないの?」


 おっと、斜め上からのお答えを頂きました。この国の結婚観念って一夫多妻とか一妻多夫とかなの?


 予想外の答えに、次になにを聞けばいいのやら、迷っていた私に助け船を出してくれたのはジークだった。横恋慕の上、逃避行中らしいけれど。


「精霊王には戸籍がないからだよ。精霊王の妃は書類上は独身だろ。そこを突いているんだ。精霊王は人ではないから、その妃は人と結婚してもいいだろうってことなんだろう。昔から精霊王の妃に人の王が求婚することはよくあることなんだ」


 その後に続くのは、精霊王の妃の力が自分のものになるだろう?で間違いないね。

 そうか、この力は王様にとってとても都合に良いものなのか。

 そこまで考えて、リーの顔を見る。でも、リーの戸籍ってこの間ギルドで作ってもらったけど。

 

 なんだか嫌な予感がする。ちらりと下を見ると、リーが全開の天使の微笑みを私に向けていた。


 くそっ。もうショタコンでいい。

 可愛いぞ。可愛いんだよリー!!


「もちろん、僕は許すつもりはないからね。ねぇ、香蓮、やっぱり、さっさと身も心も一緒になったほうが何かといいと僕は思うんだよね」


 六歳児の容姿でとんでもない発言をして下さる。なに、精霊王って生まれたばっかでもそういう知識ありなの。身も心も一緒になる方法をご存じで?


 ちょっと安心していたのに。なにも知らない天使のような心をもっているものとっ!!


 くすくすとリーは可笑しそうに目を細めると、口をとがらせて拗ねたそぶりを見せた。


「香蓮は大人の僕をキチンと見てくれてないから。僕はこれでもかなり我慢してるんだよ。人間は難しいからさ。感情や行動、想いに理性、一致しないものが多すぎて僕には難解だよ。特に香蓮は混乱が落ち着いてない分もっと難しいよ」


 なんか見透かされてるのね。難解だとか言いながらわかってるじゃないか。


 クエェ?


 突然竜が首を傾げるような仕草をする。何かを気にするように、足元を見ている。

 まだ続く私達の特徴を読み上げている竜騎士がチラリと足元を見て、目を見開いた。興味を惹かれて私も背伸びをして見えるか試してみる。

 沢山の人が集まってきていて、もう前が見えなくなってきていたからさ。

 背伸びをしても見えないなぁと思った時、竜騎士の怒号が響き渡り、集まってきていた人達が息を飲む。一瞬でその場が緊張に包まれた。


「無礼者っ!」


 シャーッと鋭い金属が擦れるような音がしたと思ったら、ブンッと何かが風を切るような音と小さい悲鳴があがる。

 一体、何がと思う間もなく、私の前に立っていた人達が一斉に回れ右をして我先にと逃げていく。

 なにが起こったのか分からない私は動けずに、たたらをふんでよろける。


 人が逃げ出して開けた視界に赤く濡れた剣を持つ竜騎士と、見覚えがある小さい子供が見える。


 倒れる子供の周囲に赤い水たまりが静かに広がって。

 子供はどう見てもミューミューにそっくりで。


 私の視界が色を失くして白くなっていく。


 ここは、子供を大切にしているんじゃなかったのか。


 遥か遠くで、「やめろっ!レーン!」とジークの声がしたけれど私にこたえる術はなかった。




 

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