精霊王のお城
目を覚ますと、見知らぬ天井が見えた。
まだ薄暗くても分かる。眠った時と違う部屋だ。起き上がると隣には子供のサイズに戻ったリーが規則正しい寝息を立てている。
眠った時はお城で案内された和風の部屋だったはずだよね。
昨日仕事の話をされて、そういえば、何が出来るんだ?と悩み始めたところに、可愛いメイドさんが『お風呂のご用意ができました~』とか言ってきて、お風呂に入ったとこまでは覚えてる。
お風呂に入って温まったら、目が開かなくなるくらいに眠たくなって、そのままベットに潜り込んだんだっけ。
そこまで思い出して、不愉快な事も思い出した。自然と額に皺が寄る。
でっかいサイズのリーが当たり前のように一緒に寝ようとしたんだよね。そんで子供に戻って貰ったんだった。妃とか、精霊王だとか、お坊さんのように悟りを開かなければとか、色々考えたくない事が次々聞かされて旅の疲れがドッとでたんだろうなぁ。
ぐぅぅとお腹が鳴る。昨日は夕飯も食べずに寝てしまったから。
部屋というか、ベットなのだろうか。三方を壁に囲まれている、四畳半くらいありそうな大きなベットだ。ふわふわのスプリングか効いていてまるで高級なホテルにあるベットのようだった。分厚いカーテンが下ろされている所に四つん這いで進む。薄らと光が漏れているから、ひょっとしたらもう朝なのかもしれない。そっとカーテンの隙間から外を除くと、眩しい光が部屋にふりそそいでいる。眩しくてよく見えず、何度か瞬きをしていると、ふんわりと甘い匂いがどこからか漂ってくる。その匂いでまた、ぐぅぅぅとお腹が鳴ってしまう。このところロクなもの食べてなかったからなぁ。いや、文句を言えるような立場じゃ無いことは分かっていても、干し肉と薄いスープの生活はちょっと辛かった。
光に目がなれると、その部屋がやけに開放的な部屋だと分かる。
窓がなく、壁も少ない。高い天井に大理石のような白いツルツルの床とところどころに立っている太い柱が特徴的な部屋だった。元々が広い部屋だとおもうけれど、あるはずの壁はなく外へと続いている。それが余計にこの部屋を広く感じさせた。外には明るい日差しと沢山の樹木や、色とりどりに咲く日本では見たこのない花達が見えた。
通気性が良すぎて、冬は凍えそうな家の作りだなぁ。どうやって冬を越すのだろうか、と寒がりの私はつい思ってしまう。誰もいないその部屋にそっと足を踏み出すとひんやりとした床が気持ちいい。そのままペタペタと音を立てながら、いい香りのするほうへと足を向けると、美しいとしかいいようのない、手入れの行き届いた庭が広がっていた。
部屋のすぐそばに、テーブルと椅子があり、その上にサラダやパンの朝食が並んでいる。甘い香りはここから漂ってきているみたいだ。テーブルの横で紺色のメイド服をきた薄い緑色の髪をした女の子がセッティングをしている。ここの人だろうか。私が話かける前に、気配で気づいたのかこちらを振り返る。
「おはようございますぅ。ゆっくり寝ていなくていいんですかぁ?久しぶりのベットじゃないですかぁ」
鈴を転がすような声とはこういう事か。耳に心地良く響く高い声に自然と笑顔になってしまった。
「おはようございます。あの、ここは一体?私はどうしてここにいるので…………あれ?翡翠?」
ここがどこなのか聞こうとして、目の前の少女が緑の長にそっくりなことに気づく。昨日は男の子だったんだけど、今はどう見ても女の子にしか見えない。それも頭を撫でくり回したくなるほどの可愛い美少女なんだよ。
「は~い、翡翠ですぅ。レーン様ってば、昨日メイドさんにポゥッてしてたのでぇ、メイドさんになって見ましたぁ。因みに朝食は、私と玄武の協同作業ですぅ~」
ちょっとテーブルから離れてくるりを一回転をする、フワリとスカートがふくらんで広がり元に戻る。こちらに向きなおってポーズをつける翡翠は、秋葉を彷彿とさせている。男の子にも女の子にもなれるなんて。うん、もう変態でもいいや。可愛い可愛い。猫耳つけたいぐらい可愛い。そして、私の趣味がバレてる。危険――!
「ここが精霊王のお城ですよぅ。昨日の夜、セシルリール様ったらベットが気に食わないと夜中に言い出しまして、この城まで移動したんですよ」
ここが、精霊王のお城か。別名魔王城。想像していたよりも、明るくて綺麗だ。窓や壁が少ないのには驚いたけれど、おどろおどろしい血に塗れた城って感じではない。良かった、白骨死体とか見たくない。
「ジークは?」
「今、お庭で鍛錬中ですよ」
そういえば、旅をしている間も毎朝剣を振っていたっけ。精霊王の城と聞いて、ジークがいなかったらどうしようかと思ったけれどちゃんと一緒で本当に良かった。
「今日は、仕事を探したり、必要なものを揃えなきゃって言ってたでしょ?ここって昨日の街に近いの?」
「昨日の街はもう行けないぞ」
ジークが木の間から姿を見せた。顔を洗って来たのか、布を首からかけている。結構いつも激しい動きで鍛錬しているのに、息の乱れも見えないってどんだけ体力あるんだろうか。
ジークの顔見ただけで自然と体の力が抜けていく事が分かった。初めての場所にいるからかな。自分が思うよりも緊張しているのかもしれない。
「おはよう、ジーク。起きたら知らない場所だったから驚いたよ」
「おはよう。あぁ、昨夜ちょっとな」
「リーがベットが気に食わないって言ったんだって?私、起きなかったみたいで」
そういうと、ジークは一瞬鋭い目をして翡翠を睨みつけた。けれどもすぐに普通の顔に戻り、私にむけて頷いた。
「あぁ、よっぽど疲れていたんだろ。セシルリールが大騒ぎしているのに、お前ときたら呑気に寝ていたからな」
ボヤくように言うジークに、さっき鋭い目をしたように感じたのは気のせいだったかと思いなおした。
「呑気って失礼な」
「失礼もなにも本当のことだろう。あぁ、昨日セシルリールが持って帰ってきたギルドカードは情報が間違っていたから、新しく作り直すぞ」
「レーン様、揺すっても叩いても起きなかったんですよぅ?」
叩かれて揺すられたのか。全然覚えてない。この旅の疲れであっという間に眠りに落ちたもんな、起きないはずだと自分でも思う。
「さっき昨日の街には行けないって、言ってたけど。違う街が近くにあるの?」
トッキーにお願いすれば、行ったことがある街にはいつでも行けるんじゃなかったけ?と思いつつ首を傾げると考えが伝わったのか、ポンッとミニサイズのトッキーが現れた。ちょっと待って、考えただけで精霊に伝わるってちょっと問題かも。そんなことを考える私に、訳知り顔でトッキーはうんうんと頷く仕草を繰り返す。
「ご心配には及びません。レーン様の激しい感情以外は伝わりませんから。ただ、名前を呼ばれたり、考えたりしてくださった時にはすぐに参ります」
なんと便利な。すごく便利な小人さんを持ってしまった気分だ。微妙に物騒だけど。
「ちょっと昨日の街は問題が発生したんだよ。だから今日は他の街のギルドに顔を出そうと思っている」
なんかだその問題とやらを聞いたらいけないような気がして、私は小さな疑問を流すことにした。
その問題と今このお城にいる理由を結びつけたらいけない気がする。
ここは、日本人特有の空気を読むところに違いない。だってジーク言いたくなさそうだもん。
知らなくていいことというものはあるもんだ。
そう、結論付けて私とジークは何日かぶりにまともな食事についたのだった。
あけましておめでとうございます。更新が遅くて申し訳ありません。なるべく次話は早く更新できるように頑張ります。




