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八精霊と名付け

 ゴホンと、わざとらしく咳払いをして、私の頭に頬ずりするリーの頭を押しやった。大きくなっているのに、小さい体の時と変わらないスキンシップは勘弁して欲しい。


「王様との話は終わったの?」


「もちろん。たいした話でもないからさ。ちょっと釘さして置いただけだから。やっと長達を紹介できるね。長と真名の交換をする必要はないけれど、主として名前をつけてあげてよ」


 ポイッとばかりに私の手を払い除け、やっぱり頬ずりするリー。邪魔だ。もとの可愛いリーならば喜んで私から頬ずりするけど、この姿じゃただのセクハラだ。

 そんな私の心中を察するスキルは持ち合わせていないようで、リーが指を鳴らすと長達が姿を現した。


「右から、炎、水、土、風、植物、闇、光、時の属性だよ。香蓮の好きに名前をつけてあげて」


 ズラッと並ぶ麗しい美青年達。皆が期待を瞳に込めて私を見ている。

 八人分の名前なんてすぐに思いつけないけれど、子犬のような期待に満ちた目を裏切れない。


「やっぱり名前に棒線が入ってなきゃダメなの?」


「別にそんな決まりはないから」


「じゃぁ、朱雀すざく青龍せいりゅう玄武げんぶ白虎びゃっこ翡翠ひすい闇主あんしゅ煌主こうしゅ、トッキーで」


 安易だと笑われても仕方ないけれど、これしか思いつかない。中華ファンタジーが好きだからしかたない。炎ときたら朱雀でしょってなるんだよ。ちなみに時といったらトッキーになる。これは譲れない。


 キラキラとした光の粒子が広がり、一瞬目の前が真っ白になる。視界が元に戻った時には煌びやかな刺繍を施された長袍チャンパオに身を包んだ長達が立っていた。長袍は中国の民族衣装で、首が詰まっていて、長いワンピースのような服だ。袖口が広がっているのも特徴で、私が最も萌える服だったりする。不味い、鼻血が出るかも。


「おぉっ!なんだこの服。恰好いいな、おい」


 一番最初に口を開いたのは元気が良さそうな朱雀。


「体を締め付けないので動き易いですよ」


 怜悧な印象の青龍。


「玄武、玄武、うん、いい名前。なぁ、この刺繍の生き物に変幻できそうなんだけど。なぁ、あんまりいい予感しないんだけど」


 どうもスローペースな話し方をする、おっとりしていそうな玄武。


「俺の刺繍は、サスベールタイガーみたいだよ。ほら、強そう!ね、俺最強ってことだよね」


 朱雀と同じで元気が良さそうだけど、あまり頭が良さそうじゃない白虎。


「名と一緒に服を与えられるとは。中々良いイマジネーション力ですねぇ。これなら新種も期待できるのでしょうか」


 あくまでイメージだけど、斜めに構えて理科や科学の先生を思い起こさせる雰囲気の翡翠。


「おい、闇主。私のほうが刺繍が綺麗だな」


「それはお前の主観に過ぎない。美しいと感じる感性というのはだな…………」


 仲の悪そうな煌主と闇主。闇主は少し理屈っぽそうだ。


「何故ですか。なぜ私にだけ刺繍もなければ、名の文字もないのですか。皆さん素敵な異国の文字を贈られているというのに…………もしやっ私先ほどの時空間の扉でなにかそそうを…………」


 ネガティブトッキー!!やばいっ!テンション上がる!なにこのネガティブ!可愛いじゃないかっ、苛めたいじゃないか。某漫画の「いじめる?いじめる?」が口癖のリスを思い出させるぞ。なんで壁に頭くっつけて沈んでるの?!


 それにしても、属性が性格にも反映していそうだ。わかりやすいし、性格が把握しやすそうで面白いけど。私が名前と共にイメージしたらしいもの達が刺繍された長袍は、朱雀達はそのまま四聖獣が、翡翠は木の上で休んでいる鳥、煌主は稲妻のようなものがアレンジされたもの、闇主は月が浮かぶ夜空と海が細かく刺繍されている。トッキーは無地だ。ごめんトッキー。流石に長袍に時計の刺繍はどうかと思ったんだよ。でも時計以外に思いつかなかったの。


「お前の国は着物とかいう服じゃないのか。以前、アイツが作っていた服とは違うな」


「これはお隣の国の民族衣装だから。蓮ってばこっちで着物作ったんだ。どうやって作ったの?」


 こっちに反物があるとは思えないんだけど。


「今度、服屋に連れて行こう。実践したほうが早い。しかし、あまり目立つ格好は避けたほうがいいと思うが。異国どころか異世界の人間だと知られるとあまり都合が良くないからな」


 確かに、この世界の人間ではないとバレたら、召還魔法を使える魔法使いに合わせてもらえなくなるかもしれない。


「あっ!!そうだ、トッキーにお願いがあったんだよ」


 あのとてつもなく便利な魔法で、セルアージュまで連れていって貰えばいいじゃないか。

 

 壁に向かっていじけていたトッキーは、弾かれたように姿勢を正し、私に満面の笑顔を向けた。


「なんでしょう?私に出来ることならば、喜んでお手伝いさせていただきます」


 私がセルアージュへの扉をお願いすると、やっぱり満面の笑顔で口を開いた。


「無理です」


「それじゃ、明日にでも…………えっ?ダメなの?」


 まさかの断り文句を、キラッキラの笑顔で言われてしまい耳を疑った。だって、顔の表情だけ見れば断っているように見えないよ。


「レーン様が実際に行った事がある場所にしか、お連れ出来ません。行った事がない場所になりますと、その時滞在している街の中でしたら可能です 」


 使えねーーーー!


 なにその使えないさ。結局ちゃんと旅しなきゃダメなんじゃん。楽出来ると思ったのに。魔法ってもっと便利かと思ってたよ。


「香蓮」


 呼ばれたので、リーを見ると微妙な顔をしてトッキーを指差している。そのまま視線を移せば、再び壁に頭をつけてぶつぶつと何かを呟いている。その分かりやす過ぎる態度になんだかSっ気が刺激されてしまう。


「あぁでも、行った事がある所に行けるってことは、どこかに家を借りれば夜はそこに帰って寝ればいいってことかな?食事も一旦家に帰れば大きな荷物を持たなくてもいいんじゃない?一部屋倉庫にすればいつでもどんものでも取り出せるんだろうし。ね?」

 

 しまった、あまりの可愛さにフォローをいれてしまった。背中に漂う哀愁がほっとけない気にさせるんだよね。私の言葉に一喜一憂するトッキーは、すっかりご機嫌がなおったらしい。キラキラスマイルを再び浮かべて、私の目の前に立っている。立ち直り早すぎだから。


「それならば、お役に立てると思います。前代の精霊王様のお城がリー様の住まいになりますので、そちらに送り届けることが可能でございます。もう代替わりなさいましたから、城にありますものは全てリー様とレーン様のご自由になさって良いかと存じます」


 いや、待て。前代の精霊王のお城って別名魔王城ともいうんじゃ…………。バッタバタとなぎ倒された魔族のあんなものやこんなものがあったりしないのか?


 顔を引きつらせた私とは反対にリーがポンと嬉しそうに手を叩いた。


「そういえば僕もまだ行ってなかった。その城ならば僕が案内出来るよ。この城にいると中々面倒そうだからそっちに移動しようか?」


 魔王城に?!

 私の頭の中には、暗雲立ち込めるおどろおどろしいお城しか浮かばない。気が乗らないかも。


「ねぇ身分証は?どうするの?ギルドで作ってもらわなくても大丈夫なの?」


「あぁ、大丈夫。さっき貰ってきたから。あぁ、そういえば路銀を稼ぐ予定だったんだっけ。でも、働くっていっても香蓮ってなにが出来るの?」


 そう聞かれて、私は始めてソコに気づいた。そういえば、あっちの技術って約に立つものあったっけ?


 パソコンのスキルはパソコンがないって一点でアウトだ。一応、簿記三級ならば持っている。後、会社で取るように言われた福祉コーディネーターの資格に、書道が初段。これって何か役に立つものあるのかな?




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