第9話 お願い
屋上。
日本の学校によっては閉鎖されている場所もあるだろうが、こちらの学校は開放型だった。
生徒がだいぶいる。楽しそうな会話があちこちから聞こえてきて、学食と変わりない環境だった。
「どこに行こうか。屋上って意外と混んでるだね」
「うん。そうだね」
花見の席を探す人のように二人で探した結果。
「あ、あそこが空いてるよ。あそこにしよう。落ち着けそう」
隙間を発見した。
「わかった。そこに行こうか。ガラシア君からどうぞ」
「ガラシア君って言いにくいでしょう。ガッチャンでいいよ。地元だとそう呼ばれていたから」
「そうなの。じゃあ、ガッチャンにするよ」
「うん!」
ガラシア君=ガッチャンになった。
二人で並んで座って、お弁当を広げる。
二人とも寮の学食から貰ってきたのは、おにぎりだった。
他にもサンドイッチやフランスパンもあったのに、同じものを選んでいたらしい。
気が合うみたいだ。
「ブライン君は、なんて呼ばれていたの?」
意外と答えずらい質問だ。
ブラインの過去の描写って、原作だと少ない。
記憶の片隅にある断片を拾っていく。
「若?・・・いや、若様? 違うか・・・えっと」
住民からは若か若様。それか、そのままのブラインだったはず。
オレの記憶だと、それらだった気がする。
やり込んでも、ここら辺は曖昧だ。彼の過去編は少ないんだよな。
「お! BB! 久しぶりだね。元気だった」
「え??」
オレとガラシア君の会話の中に異物が混入。
隣に座って来た男性を見て、数秒止まる。
彼の顔を一生懸命見て、自分の頭の中で、この人物(ゲームの記憶)を思い出していた。
「あ。あなたは・・・まさか」
摩周湖のように透き通っている瞳に、空色の髪を持つ男性。
これは、オレの記憶の中では一人しかいない特徴の持ち主。
Tier2メンバーの一人。
ジルベルト・ルーフォンだ。
ルーフォンから想像できるだろうが、ロッティの一つ上の兄だ。
「いや、妹が悪かったね。入学式で君に迷惑をかけたと、人づてで聞いてね。直接謝りたくて、学校で会えたらいいなと思っていた所だったよ。うん。次の日に会えるなんて私はラッキーだね」
「え。いや」
ジルベルト・ルーフォンは、妹とは違い。
めちゃくちゃいい奴。
顔にも容姿にも優し気な雰囲気があり、口調も穏やかで話しやすい。
そんな人だから、当然人望もあって。
だからこそ、これから行われる次の生徒会選挙で勝ち上がっていくわけなんだよ。
ルーフォン家の跡取りは彼ではない。
ロッティが跡目だ。それは、彼女が正妻の子で、ジルベルトが妾の子だからだ。
でも、彼とロッティを同時に並べたら、間違いなくジルベルトが次期当主だと誰もが思う。
それくらいに、優秀で人望があるのがジルベルトだ。
残念ことに、ロッティの力は特殊過ぎて、優秀だとは言いきれない。
人望の方も・・・そのままの性格で終わると、言わずもがなだ。
「BB。そんなに畏まらないで。昔のように、ジル兄と呼んでいいんだよ。君と私の仲だからね」
ほら、とても良い人だ。
本当にあれと半分でも血が繋がってるのかと思うくらいにいい人なんだよ。
「あ。はい」
BBってたしか・・・。
オレの脳内にある情報を探し出す。
BB。ブライン・ブラックだったっけ?
えっと、最初に彼がブラインをブラックと呼び出して。
でもそれだと、瞳の色を小馬鹿にした感じるからって、呼んだ本人が嫌がってさ。
ええっと、たしか。ブラインに、ブラックを合わせて。
BBだったかな。
あだ名的な位置の呼び名だったはずだ。
オレもよくこの流れを覚えてたな。これは、貴族連合側に入った際にある一瞬のワンシーンの場面だったはずだぞ。
オレは今のを思い出せたことで、自分を褒めに褒めまくった。
「家族も同然の君に遠慮されるのは嫌だな・・・妹の事が嫌になっても、私の事は嫌わないで欲しいな」
祖父が生きていた時代は、婚約者同士で家族の付き合いがあった。
だから、ジルベルトとも幼馴染のようなものだったはず。
「あ。はい。それは当然ですけど。別にロッティの事も嫌いじゃないですよ」
「あれ? 人づてで聞いた話とは違うな。君がかなりの拒絶をしたって話だったが・・・」
誰から聞いたんだ?
新入生挨拶は新入生だけの話だけど。
「ええ。まあ、ロッティが自分と付き合うのは嫌かなと思ったので、完全な他人でいた方が良いでしょう? 自分のようなしがない領主では、釣り合いが取れませんからね」
「・・・それはすまない。君が気を遣ってくれたか・・・本当に妹が失礼な事を言った。BB本当にすまないね」
心からの謝罪。頭も下げているし、誠意の塊のような人だ。
「いえ」
普通さ。悪役令嬢のお兄さんも、同じように悪役になるよな。
でもリミットタウンは違うわけか。
なんでこのお兄さんは、こんなにいい人なんだよ。
やっぱ、あの会社の人たちは、変態集団なんだよ。こっちの情緒を破壊しに来るわけよ。
「なにか。お詫びをしたいのだが・・・なにか、お願い事があったりするかい? 何でも聞いてあげるよ」
「え・・いや、それは別に。ジルさんが悪いことをしたわけじゃないのですし」
「いやいや。妹が本当に迷惑をかけたんだ。兄である私が償わねばね」
「ですが・・・」
マジでいい人過ぎんだろ。妹のせいにして終わりでいいじゃん・・・。
というかさ。この人と出会うタイミングがおかしいぞ。
原作だと、生徒会選挙前だったはず。久しぶりに会えて嬉しそうに笑う一枚絵が出てくるんだ。
それが今のタイミングに変わってるのはなんだ?
それに最初からめちゃくちゃ笑顔だ。
「いいよ。お金でも何でも、援助できる事はなんでもしてあげよう」
そんなに言ってくれるなら、このタイミングでは出来ない事をお願いしよう。確認したい事があるんだ。
「・・・じゃ、じゃあ。ジルさん。ダンジョンに連れて行ってもらえます?」
「え? ここの学生ダンジョンかい?」
「はい」
「それは・・・」
「先輩であるジル兄さんが一緒だったら、自由許可前でも入ってもいいんですよね?」
「それはそうだけど・・・ね」
危険だよ。
と言う感じの困惑した顔をしていた。
「お願いします。見学したいんですよ」
「・・・んんん。わかった。先生に聞いてみるよ。放課後、2ーCに来てくれ。私が案内しよう」
「いいんですか。ありがとうございます」
「うん。それじゃあ、先生方に聞いてくるから、ここでお暇しよう。BB。また会おうね」
「はい!」
手を振って挨拶してくれた彼は爽やかに帰っていった。
ガラシア君が聞いてくる。
「今の人って? 知り合いなの??」
「うん。ロッティのお兄さんさ」
「え!? に、似てないね???」
「性格がだよね?」
「あ。そ。そうだね」
不思議と顔は似てるんだよね。美形な男性なんでね。
「感じが良さそうな人だったね」
「まあね。ジル兄さんもああいう人だね。変わらないみたいだ」
幼い頃もああいう感じだった。ブラインの数少ない過去回想シーンでも、彼は常にフレンドリーな人だった。そう彼ともう一人も、とにかくブラインにフレンドリーなんだ。
「ブライン君。ダンジョンに行きたいの? どうして?」
「うん。下見しておきたいんだ。あとはチェックしたい事があってね」
「チェック?」
「うん。自分の人生の正念場になるね。ダンジョンで確認しないとさ・・・」
「え? じ、人生の??? 学校は始まったばっかりだよ」
「そうだよ。始まってすぐに試されているのさ。自分はね」
オレにとっては、いきなり山場となった。
実はさっきのお願いは意外と重要なんだ。
勝負は始まったも同然であるわけよ!
オレの運命。全てはロッティの兄次第となった。
ジルベルトが上手く導いてくれたら、試験戦闘も上手くいくかもしれないのだ。




