第10話 ビルド構成
学生ダンジョン。
アーケミア特別支援学校の一角にあるダンジョンの事。
学生がモンスターと戦うための訓練に使っている場所だ。
許可証をもらえば、学生でいる間は自由に出入り出来る。
最初の許可階層は1階層。
全部だと30階層まであることになっている。
だが、その先もある。
エクストラの存在だ。
これは普通の学生であれば無縁の領域でここまでの実力者は学生では出てこない。
オレはそれを知識として蓄えている。
これは他の学生よりも優位な点だろう。
この世界でオレはチート的な存在じゃないけど、この知識の量がチートだと思う。
折角得てる知識だ。他の人よりも上手く使って乗り切っていこう。
本来であれば、2ターン目の20日目にダンジョンに入ることになっている。
ダンジョン見学という学年全体でダンジョンに侵入するイベントが発生するんだ。
この時に先生から許可証をもらえる設定になっている。
だからゲーム上だと、3ターン目からダンジョンの予定を組み込むことが出来る。
「と言う事は、オレはそれらよりも前。18日も前にダンジョンで特訓できるわけだよ。だから、こっちこそラッキーだな。彼にあそこで会えたのはさ・・・」
ジルベルトの教室に向かう途中。
オレはブツブツ呟いていた。
今回、自分が実験したいことの為に、彼の権力と人望を若干使ったって話だ。
たぶん先生方も彼の提案なら否定しないはずさ。
なんてたって、ジルベルトはゲーム上でTier2のキャラだからね。
かなりの実力者でさ。
新入生一人を守り切れると、先生方も信じてるだろうから、彼からの提案にあたふたするはずがないのさ。
これはオレのTier表の中の話だよ。
2は、物語に影響を与えるキャラの一人って話ね。
ちなみに1は、世界に影響を与える話。
さらにちなみにガルシア君は5で、超モブ的存在。
原作だと、大筋の物語に関係ないキャラだった。
だけど今のオレと彼の関係は友人だ。
彼は話しやすいし、大切な友人としてこれから仲良くしていこうと思う。
「すみません。ジルに・・・」
駄目だ。
ジル兄と言ったら失礼になるかもしれないから、言い直そう。
「ジルベルトさんはいらっしゃいますか?」
先輩の一人に聞いたら。
「え・・・あ。はい。ちょっと待ってください。ジル様! お客さんですよ。後輩君みたいです」
呼び出しに応じてくれて、教室の奥に行ってくれた。
同級生なのに、様呼びなのか。
オレはそこに驚いていた。
「ん後輩? おお。BB。来てくれたか」
教室の中央で皆に囲まれても、一人煌めいている男性がこちらにやってくる。爽やかな笑顔が崩れない。眩し過ぎる。陽キャ中の陽キャだ。
なんでこんな愛想がいい人が、ロッティのお兄さんなんだよ。
どうなってんだルーフォン兄妹は!?
「はい。ジル兄さん。許可って下りました?」
「うん。大丈夫だ。私が君のそばにいたら大丈夫だという話になったよ」
「それじゃ。お願いしたいです」
「今からかい?」
「放課後の都合が悪いですか? 別な日がいい感じです?」
「いいや。私は大丈夫なんだよ。それよりね。君こそ大丈夫かい? ダンジョンは危険なんだよ」
「承知の上です。目的の為には危険を冒さないと。勝てませんから」
「目的? 勝てない?」
そう。勝てないんだよ。
オレは死神たちに匹敵する力を得ておかないと、たぶん生き残る道って作れないと思うんだ。
だから、ダンジョンでの死の危険なんて屁でもないね。
こちとらすでに死んだ感じだしさ。
死に物狂いは当たり前なわけよ。
それにもうすでに死にかけているようなものだしね。
「お願いします。連れて行ってください。迷惑にならないようにしますから」
「わかった。それじゃあ。いこうか」
「はい!」
去り際、教室の方から黄色い声援が聞こえてきた気がした。
元々のジルベルトファンに加えて、ブラインにもファンが生まれたのかもしれない。
ブラインには悪いけどさ。ブラインって結構なイケメンなんだよ。
元のオレでは、足元にも及ばないほどに、超イケメンだからさ。
かなりモテるんだろうけど、オレ自体がこのモテモテ状況に慣れないから、どう答えたらいいのか分からないや。
学生ダンジョンは、校舎脇の転移装置から進む。
「それじゃ。いくよ。いいかい。BB」
「はい」
「じゃあ。ここの魔法陣に立ってくれ。私と一緒に移動しよう」
「はい」
転移装置の上に立つと、彼とオレの体が光に包まれる。
瞬き一つしただけで、景色が変わった。
学校の雰囲気は消えて、ダンジョンの気配となる。
学生ダンジョンは、不思議ダンジョン。
色々な形に変わる。区切りの階層から全く違う印象となる。
1階層は、洞窟ダンジョンでジメジメッとしている。
「見学ってボスまでかい?」
「いいえ。違います。普通にモンスターと戦いたいだけです」
「雑魚で良いのかい?」
「はい」
オレの目的は雑魚狩りではない。モンスター相手にやりたい事があるのさ。
これはこれからの為にも、そして試験戦闘に向けても重要な事なんだ。
「あ。いましたね」
「さっそくいたみたいだけどね・・・・BB。君。武器は? 持ってるように見えないんだけど・・」
ジルベルトは、オレの体を見て、武器を探している。
それは意味ないよ。オレ持ってないもん。武器を買うお金もないしね。
「持ってないです」
「え?」
「ちょっといってきます」
「ま。まって。持ってないのはまずい。あれは・・・」
スライムだ。
うにょうにょと動いて、いざという時に機敏と動くモンスター。
ジルベルトがオレに武器について聞いた理由は一つ。
物理攻撃で倒す場合は、刃物系じゃないといけないからだ。
この世界のスライムは、拳などの打撃系だとダメージが通らない仕様なんだ。
彼は、お前じゃ倒せないだろ。という意味で心配してくれているんだ。
だけど、それがいい。
打撃無効化状態で調べたい事があるのさ。
◇
「ほい!」
スライムの胴体に拳が当たった。命中はしたけど、ダメージはない。
スライムのHPバーに削られた様子がない。
今の拳の触れあいでスライムのステータスが徐々に分かっていく仕組みだ。
これは面白い。戦わないと敵は調べられないようだ。
「ほいほいほい」
三連打してもダメージは入らない。しかし、全てのステータスが開示された。
これで調べる状態に入れる。
「調べる!」
ステータスが完全に浮かび上がった。
スライム
HP 30
MP 8
攻撃力 11
防御力 13
魔攻 22
魔防 22
速度 23
スキル開示なし
ステータスのみの開示だ。
モンスターはいたってシンプルステータス。
七項目に収まる。
オレよりはステータスが弱いけど、問題なのは打撃無効の性質だ。
「しかし、オレの実験はこれじゃない。やりたい事はこっちだ!」
攻撃が入らないのに、殴り続けるオレを心配するのはジルベルト。
後ろで武器を構えて待機してくれている。何かあれば駆けつけてくれるらしい。それまではオレの好き勝手にさせてくれるみたいだ。
配慮の塊か!
「BB・・・それは意味が・・・私が出ようか?」
「いいえ。やめてください。今、実験中ですから」
「し、しかし。それだと、いつまで経っても・・・」
雑魚に苦戦しているように見えているから、凄く心配してくれているんだ。
ゲームだとそんなに接点がないから、ジルベルトからブラインへの感情を知らなかったけど、この人やっぱり良い人だよ。
「出た! 13発目か」
13回目の打撃で、攻撃が通る。
会心の一撃。クリティカルヒットが飛び出たらしい。防御力無視のダメージが敵に入って、32のダメージが入った。
ブラインの攻撃力通りの一撃だ。
これで一つ目の情報を手に入れた。
この世界もリミットタウンのゲーム時代と同じクリティカル攻撃をしているんだ。
通常のゲームであれば。
クリティカル攻撃というものは、ダメージ1.5倍などの効果が多いだろう。
しかし、リミットタウンのクリティカル攻撃は、自身の攻撃力分のダメージが敵に入るという中々珍しい仕様だ。
相手の防御力を完全無視する貫通攻撃となるのがクリティカル。
この仕様が結構変わってるから、気付いていない人も多いらしい。
だからこそ、このクリティカルでビルドを組む人が少ないんだと思う。
オレ以外のプレイヤーは、普通にゲームをプレイしたいと思うはずで、オレが少し変なんだと思う。
苦労の末開発した連撃会心ビルド。
多分リミットタウンのプレイヤーにはいないと思うんだよ。
「す。凄いぞ。BB・・・よく倒せたな」
彼の表情は複雑。おそらく彼の目には苦戦しているように見えていて、ラッキーで敵を倒したと思い込んでいるからだ。
「次にいきます。スライムをひたすら殴りたいんで」
「え・・・し、しかし」
ほら、苦戦してるように見えているから、やめさせようとしているな。
言葉の歯切れが悪い。
でもオレが意見を押し通して、ここからスライムを探す事となった。
歩き回って他のモンスターが出たら、ジルベルトに任せて、スライムが出たらオレが出る。
なぜ君はスライムだけを狩ってるんだと言われたから、実験ですと答えた。
何の実験なんだと聞かれても、説明のしようがないので、実験ですと強めに答えた。
納得していない顔をしているけど、彼はブラインの事が好きだから、結局の所、オレの指示通りに動いてくれた。
◇
オレの実験はこれだ。
昨晩、熟練度を使って自分のステータスの運の数値を100にしておいた。
クリティカルを出すのに必要なステータスが、運であるからだ。
運の数値100で会心が出る確率が5%。
ステータスの数値のマックスが1000なので、会心の値の限度は50%となる。
運の値がクリティカルになるのを知っているプレイヤーは、会心が100%にならない時点で、運が死にステだと思っている。
わざわざ大切な熟練度をそちらに使ってまで上げるメリットがないと思うものなんだ。
しかし、ここがミソ。
このゲームの開発会社は、運についての説明を十分にしていない。
と言うかステータスについてもそんなに詳しい説明をしない。
このクリティカル発生率も、オレが何度も調べたから分かった事だし、クリティカルが防御力無視の貫通攻撃だと分かったのも自分で調べたからだった。
だからね。ほんとうにここのゲーム会社は説明をまったくしないんだよ。
いや、しないんじゃないか。最初からする気がないと思うんだ。
自分の力で、この世界を理解しろスタンスを崩さないんだ。
まあこの事は誰も調べようとは思わないよな。
だって、防御無視ってのはさ。
防御貫通の技や装備があるから、クリティカルでわざわざ出そうと思わないんだ。
だから代替できるものがあるのに、わざわざいらないステータスの運をあげようと思わないんだよな。
ゲーマーって、キャラの攻撃力を上乗せしていて、最大火力を求めたいものなんだよ。
うお! 今回は一万ダメが入った的なね!
それに運の数値を上げちゃうと、他の攻撃力や防御力などの戦闘に直接関係する基礎ステータスを疎かにする恐れがあるんだ。
だから、余計に上げられなくなるんだよね。
オレが考えた連撃会心ビルドに手をつけようとは思わないんだよ。
やっぱり不親切の極まりなのが、リミットタウンってわけよ。
そして、今のオレはこの数値がゲーム時代と同じかどうかを調べていた。
会心を得る率を確かめている。
1体目13。
2体目25。
3体目18。
4体目23。
5体目35。
平均して22回程度。回数が5回だと確率計算を安定させるには足りないけど、これでだいたい5%に近いはずだ。これでもかなり運が良いと思う。
こうなるとほぼゲーム時代と同じと考えていい。これならば、オレのこの先の人生設計は、ゲーム時代に考えた連撃会心ビルドで行けるはずさ。
お金を節約しながら、この先を戦える優秀なビルド。
それが、連撃会心ビルドだ。
武器が己の拳だけになるから、武器にお金を使わないので、その費用分を町に使えるお得なビルド。
しかも、拳には隠しの存在でとあるお師匠様がいる。その人が、この世界にもいるかは賭けだけど、いるんだったら、彼女に会いたい。
師事を仰げば、最強クラスの武闘家になれるんだ。
んで。オレって、このゲームをかなりやり込んだわけよ。
全部で100回以上は回したはずさ。
その内、70回以上を序盤に回している。
序盤で効率よく回った方が、最終的に良い結果に結びつくと思ったからね。終盤で結局はブラインが死んじゃうから、そこに至るまでの最適化を図るためにも、ビルドは単純で難しくない構成にしたかったんだ。
それで、序盤を何度も回すと分かった事は、第一に金だ。
とにかく金が足りない。
何かをしたい時に決まって足りないのが金になる。
だって、ブラインを強化する以外に、町も強化しないといけないから、生きていくのに必要な金は倍以上なんだ。
だから、ステータスよりも金が重要。
それで極力金を使わないビルド構成を考えた結果で、オレは運を上げるという暴挙に出た。
たぶん、他のユーザーは通常通りに攻撃と防御。または魔法攻撃か魔法防御。これらの主となるものを上げて、序盤を乗り切ろうとする。
でもこれも間違いじゃない。普通の遊び方だとそっちが正しいまである。
しかしオレは、そこを捨てた。
運頼みの戦闘は、難しいけど面白い。
オートバトルだから、序盤で勝ち進むのが、かなり困難となるんだけど、そこはこっちの操作でカバーする事にしていた。
たとえば、敵の攻撃モーションが入ると即座に攻撃範囲外にまで逃げるという禁断のヒットアンドアウェイ戦法。
敵の性質や技を知り尽くさないと出来ない戦い方をオレはしていた。
このビルドの序盤は、攻撃力や防御力がおざなりになって、雑魚も同然となるからね。
敵の攻撃に負けやすいからさ。
「よし。決まった。ジル兄さん。ありがとう。満足したよ」
「え? 終わりかい?」
スライムを五体破壊して帰ろうと言ったら、ジルベルトが戸惑っていた。
彼的にはもっとここにいるのかと思ったらしい。
「うん。これで解散したい。兄さん。どうやって帰るの?」
「ああ。各階層にある転送装置に戻ればいいんだよ」
「そうなんだ。じゃあ、こっちだね」
「お。今ので道を覚えたのかい?」
「まあね」
マッピングも出来る地図は最高さ。
今の歩きで、学生ダンジョンの一階層の半分が記録された。
これで迷う事もない。
「優秀だな。君は・・・・そんな子を馬鹿にするとは。自分の妹ながら・・・呆れてしまうな」
兄妹仲は悪くない。むしろ良い方。
それなのにジルベルトはロッティを擁護しなかった。
彼も、妹のあの態度についてかなり怒っているらしいね。
ブラインって、序盤でジルベルトに会うことはないから、彼はこういう心情だったのか。
正直今のオレは新鮮な体験をしてる。
「いや、ジル兄さん。それも仕方ないよ。自分の家はもうないに等しいからね」
馬鹿にするのもしょうがない。
実際にリミットタウンを見てきた自分としても、あれは領土じゃない。更地だ。
建物だってほとんどないから、焼野原でもいいもんね。
「君は・・・聖人か。あれだけ馬鹿にされてもそう言えるのか・・・・うん。やっぱり。君とは家も関係なく、個人的に付き合おう。妹と君が結婚しなくても、私は君のお兄さんでもいいかい」
「ええ。もちろんいいですよ。幼馴染ですもんね」
「ああ。これからも頼むよ。BB」
固い握手を交わして、オレは悪役令嬢の兄を手に入れた。
とても爽やかな好青年なので、彼を裏切らないようにしよう。
それにTier2だしね。優秀さではTier1にだって劣らないのさ。




