第11話 序盤にしかない売ってない謎の装備
ジルベルトと早めに別れた理由はこれ。
売店が開いている間に、学校に戻っておきたかったんだ。
こちらは、普通の売店とは違い。装備類を売っている特殊売店。
武器や防具。アクセサリーも売っている。
店主は、ミストさん。
煙草を吸いながら店番をしている。
コンプライアンス度外視の人間だ。
昨今のゲーム・アニメにはいないだろうね。
ある特定層の人間たちの文句も無視する。色々と配慮しないキャラクターだ。
「お。見ねえガキだな」
右目に十字の傷があるミストさんは、口も悪い。
「はい。新入生です」
オレは元気に返事した。
「元気なガキだな。新人ぽくていいぞ」
容姿とそのタバコを吸う姿から、破天荒そうに見えるが、この人は意外にも真面目な生徒が好き。
描写が少ないから分からないけど、元軍人ぽい過去が見え隠れしている。
「はい!」
返事を元気に!
返事で、不快になる人は少ないだろうからね。
「んで、新人がこんなところに何の用だ? 買い物すんのかよ?」
「はい!」
「まだいらねえだろ。ダンジョンなんてまだまだ先だぞ。実技訓練もまだだ 。準備なんて必要ないだろ?」
「はい! でも欲しいものがあって」
「ほう。新人の癖に欲しいものがあるのか」
ギロリと睨んできたような気がした。
品定めをしてきてるのかも。
「春の目覚めってありますか?」
「ん?」
「春の目覚めです」
「・・え、いや・・・あ、あんなのが欲しいのか?」
「はい! ありますか?」
「まあ。あるな。こいつだろ」
渋々だけどミストさんは、棚から商品を取り出してくれた。
所々が欠けているデザインのピアスが、春の目覚め。
能力だけじゃなく、観賞用としても使えないダメダメピアスとして有名だ。
「はい。それです。それください!」
「おい。これなんかに金を払うのかよ」
「はい」
「全然使えねえんだぞ」
「はい!」
「見た目も悪いしよ」
「はい」
「それでもいいのかよ?」
「お願いします。いくらですか」
「10Gだ」
「これで」
お金を取り出して、ミストさんの前に置く。
彼は受け取っても戸惑っていた。
「マジかよ。こんなの買う奴いるのかよ」
「そんなに心配になるなら、なんで入荷したんですか?」
ゲーム時代では気にならなかったけど、今気になって聞いてみた。
「まあ。これはよ。古い友人が作った奴でさ。そいつ、商売の才能がないから、代わりに売ってくれって言ってきてな。でもヤバいだろ。効果も、見た目もよ」
「はい。そうですね」
「お前・・・それを知ってんのに買うのか」
「はい」
こんなに心配してくれる代物は『春の目覚め』というピアス型のアクセサリー。
効果は運の値を1.5倍にするだけのもの。
まあいらない装備だと思う。序盤であれば、なおさらいらないと思う。
10人いたら10人がゴミ装備だというだろう。
しかもこれ、期間限定だから、このアイテムを見つけにくいんだ。
でも、このゲームをやり込んだオレが、真っ先に手に入れたいものである。
「マジかよ・・・まあ、欲しいってなるなら、売るけどよ。あとで返品はしてくんなよ」
「大丈夫です。最後まで使います」
「これをか・・・嘘だろ」
と言って、ミストさんは手渡してくれた。
「ありがとうございます。また何かあったら買いに来ますね」
「ああ。ひいきにな~」
春の目覚め。
初期のステータスに対してだと、ほとんど意味がない装備だ。
初期の運を1.5倍にしても微々たる増加だ。
100前後が150くらいになるだけだからね。
でもこいつの真価はそこじゃない。
一年目の春の五日目までに販売されるアイテムが春の目覚め。
一年目の夏の百日目から五日間で販売されるのが夏の兆し。
一年目の秋の二百日目から五日間で販売されるのが秋の予兆。
一年目の冬の三百日目から五日間で販売されるのが冬の眠り。
この四つを集めると、新たなアイテムになる。
超激レア装備『春夏秋冬運便り』
これが、オレのビルドと相性が最高となる。
効果は、運の効果が二倍となるである。
運便りは、運が与える影響の効果全てに対して、力が及ぶんだ。
だからこその最強アイテムだ。
これを全部で40Gで買えるなんて、ユーザーも、ここの世界の人たちだって思わないよね。
うん。雑魚アイテムが世界最強なんて誰も思わないさ。
運の値の効果ってのは、なにもクリティカルに対してだけじゃない。
バトルだと、相手のクリティカルを防ぐ効果もあるし、ラッキー系のスキル発動率も補完したりする。
それに、モンスターを倒した際のお金やドロップアイテムに対しても繋がっていくんだ。
運値1000で、お金取得は二倍。ドロップ率も二倍。
レアドロップアイテム率は20倍。
これらの効果を、春夏秋冬運便りで二倍と出来る。
つまり、レアドロップ率が40倍になるんだ。
1%のドロップ率だったら40%になるんだよ。
これは脅威!
ゲーム好きなら分かってくれるはずさ。
これはヤバい。チートだろって思うよ。
だって、ほぼ二回に一回は、敵からレアが出てくるんだ。
やばくないか。この効果!
まあそのかわり、序盤の苦労は相当なものなんだけどね。
◇
寮に戻る途中で、オレは考え事をしていた。
「準備は出来た。オレが考えていたビルドで、このまま進んでもいいと思う。生身なら、なおさらあのビルドがこの世界でもっとも刺さるはずさ」
自分自身が戦いにビビらなければ、オレの戦闘スタイルはこの世界で通用すると思う。
アタッカー。バランス型。速度重視。
これで組み込む。
まず、運の値を170にする。
このアクセサリーの1.5倍の効果で、200を超過。
これでクリティカル率を10%にする。
こうなると、10発殴って、1回は敵の防御力を無視する攻撃になるんだ。
序盤攻略でここが重要だ。
20発殴って1回だと、チュートリアルバトルで苦労するのが目に見えているからな。
熟練度をそこに使うのはためらう所なんだけど、ここでそこまでの強化をするしかないのさ。
次に、思考系統が必須だ。
思考並列は、ゲームと同じであれば時間を遅らせるイメージ。
スキルランクは10まであって、最大値になると10秒まで伸ばせる。
思考加速は、思考並列のクールダウンを加速させる効果。
スキルランクは同じく10あって、最大値になると並列の再利用が1分となる。
次に必須なのが、肉体加速だ。
思考並列発動中に、普通に体を動かせるようになるパッシブスキル。
これはこのスキルの最中だけしか発動しないから、取る人が少ないと聞く。
しかも、熟練度100も必要だから、取得ハードルが高い。
この時点では誰も取得しないだろう。でもオレはやる。
今、スキル取得画面で取っていった。
運を170。
これに使った熟練度は104。
次に思考並列と加速をランク2に。
これに使った熟練度は60だ。
最後に肉体加速で、100を使って、使用した合計の熟練度は264。
なけなしの300。これがほぼなくなった事で、他の成長はない。
これからまた貯めないといけないな。
「オレの準備はここまで完璧だ。あとは、彼女に出会うための準備をしないとな」
所持金は残り503G。
すでにめちゃくちゃ金がねえ。
さっきのモンスター狩りで得られた24Gを足してもそのくらいだからな。
どうやって稼ぐかも考えないといけない。
それに今から必要なものを準備するのにも、お金が必要なのさ。
どうしよう。貧乏まっしぐらなんだけど・・・。
それに、町にもお金が必要なんだけど、それもどうしよう!?
帰りの並木道で、嘆きたい気持ちを抑えた。
◇
自分の寮の部屋の前に到着。
ドアノブに手をかけて入る準備をしたら、隣のドアが開いた。
「ちっす。どうも」
眠気眼の人と目が合った。あくびもしているから、さっきまで寝ていたらしい。
「あ。どうも・・・え?」
オレが驚いた理由は、この人が女性だったから。
え、この寮って、男女兼用?
巨大寮だから、男女で区切られてると思ってたのに、同じ階層に男女が入ってたのかよ。
しかも隣が女性!??
ここの描写ってあんまり多くなくて、学食の一枚絵くらいしか見たことが無かったから、衝撃だった。
眠そうな彼女は、ふらふら歩きながら、どこかへ消えていった。




