第8話 初めての友人
学校の初日。
ゲームで言ったら、1ターン目の最初の二歩目。
ここなんて、普通にゲームをしていたら、まったく気にしない部分だ。
まず最初に行われるチュートリアルの一環として、オリエンテーションが組み込まれている。
ここらが説明の部分で、それらが終われば、ブラインの予定を組んで実行ボタンをポチ!
そしたら、ここって飛ばされるイメージがあったから、今がまさに、この世界で生きているんだという実感が湧くところだ。
時間が飛ぶことはない。
現実の世界と同じ感覚で、オレは生きている。
これからへの迷いと期待の狭間の中でオレは、授業の準備や食事などを済ませてから、学校に登校する。
◇
「マジか・・・なんで?」
教室に入る手前で、ポツリとつぶやいた。
オレの新たな人生には困難がくっついてくるらしい。
彼女が先回りでオレの席の前にいる。どうやらしばらく待っていたようで、こちらを発見するとぱぁっと明るい顔になった。
「おはよう!」
ここは我慢して席に着くしかない。
カバンを自分の机の上に置いて、出来る限り彼女の方を見ないで、カバンから教科書などを出した。
「おはようございます」
人として、返事だけはする。いかに死神が相手でも、それだけは忘れちゃいけない。人間性を捨ててまで生き延びようとは思わないからね。どうせ死ぬなら人として死にたい。
まあさ。死神にも挨拶するなんて、オレはお人好しかもしれないよね。
「ブライン君!」
「なんでしょう」
彼女の声の大きさと、彼女の顔が目の前に来たので、ついついカバンの中身を全部出しちゃった。目の置き所に困る。
出来る限り目を合わないように黒板の方を見た。
「ボクとパーティーを・・・」
ほら来た。ヤバい。それ以上会話したら、断りづらくなるぞ。
止まりなさい姫様! 血気盛ん過ぎますぞ。血眼になってまでオレを誘おうとしてますぞ。
諦めなさい。前からお断りしてますからね。
「ああああ」
オレの前の席の人が叫んだ。
「「え!?」」
オレも驚いたが、オレの方を見ていた彼女も驚く。
二人で前の席の人を見た。
「初日から忘れちゃった・・・どうしよう?」
前の男の子が、キョロキョロしだした。
オレと目が合う。
「あ。君・・・ブライン君!」
「どうも」
ゲーム時代でも知らない子だ。オレ、主要人物以外ってあんまり覚えていないんだよね。Tier4くらいまでなら覚えてるんだけど、完全モブだな。この子・・・。
えっと、会話が一瞬出来たから、調べるコマンドが発動できたのか?
とりあえず見る事が出来るな。
調べると人物図鑑に記録された。
相変わらずゲーム時代からここだけは超便利だ。
ガラシア・ランパート。
職業は戦士。
でも取っているスキルが戦士系じゃない。
鍛冶のスキルが並んでる。
火加減・鍛錬・打ち直し。
それぞれのランクがⅡまでいってる。鍛冶の初心者じゃないな。
「ブライン君。ペンって余ってる?」
「ペン?」
急に何の話?
「おら、ペンを忘れちゃったみたいなんだ。昨日の夜から机の上に置いてさ。今朝の準備までしてたのに、置いたままにしちゃったみたいなんだよ。貸してちょ」
ああ、なるほどね。
筆記用具を持って来なかったのか。
「いいよ。自分のを貸すよ。ちょっと待ってて」
「ありがとう」
オレの机の中にしまった用具箱を出す。
ちなみに余裕で貸せる。ペンは四本も持って来ているからね!
「はい。どうぞ」
「ありがとう。助かったよ」
赤い髪がボサボサになっていて、寝癖のようにはっちゃけている髪型の青年。
体も小さめで、戦士になるには辛い所だろう。
それでもこの学校で頑張ろうとするなんて、偉いな。
「あれ? 姫様? なんでこんなところに」
さっきから姫様が近くにいるのに、まったく気付いていなかったらしい。
のんびりしてる。この子は癒しだ。
友達になろう!
違う。ぜひ友達になってください。
死神たちから離れるためにも、オレはTier1とは違う友達を作っておかないと駄目なんだ。
「ボクは、ブライン君を・・・」
誘おうとしているんだけど、っていう発言が出てくる前に。
『キーンコーンカーンコーン』
チャイムが鳴った。
予鈴の合図だから、ここから席に着かねばならない。
なので、口を尖らせた姫様が。
「ブライン君。また!」
ちょっと不満そうな顔で、力強く伝言を言い渡してきた。
またというのが厄介だ。
次があるらしい。
「はぁ。またか」
「ブライン君。そんなに姫様が嫌なの?」
「ん? 自分が?」
「うん。昨日もそんな感じだったよね。素っ気ないから、嫌いなのかなって」
「いや、嫌いじゃないよ」
「じゃあ、なんでそんなに冷たいの。おらと話す時は普通なのに」
「まあ事情が事情でね・・・」
というか。
この子、鋭くない?
のんびりしてる感じがあるけど、ちゃんと人を見ているな。
「事情ね・・・その謎の事情で近寄りたくないのかな?」
「まあ、大きく分けるとそうなるね」
近寄りたくないというよりかは、死にたくないに近い。
彼女は可愛い子だし、出来たらそばにいたら嬉しいけど、死にたくないが勝ります。
「じゃあ、おらが手伝ってあげようか」
「手伝うって?」
「ほら、友人がいれば、諦めるでしょ。姫様ずっと君を勧誘しようとしてるもんね。おらと組んでれば、誘わないんじゃない」
「いいの。でもガラシア君が大変になるんじゃないか」
「そんな事はいいよ。でもね。おらね・・弱いんだよ。ごめんね」
「大丈夫だ。自分も雑魚雑魚だ」
まだステータスが宜しくない。
雑魚に変わりがないんだ。この子とそんなに変わりない。
「それ、昨日も言ってたね」
「そう。雑魚雑魚なのよ」
いずれは強くなるつもりでもね。今は雑魚だと受け入れておくべきさ。
「ハハハ。雑魚雑魚コンビで行こう」
明るい彼も確かに雑魚だ。
基礎ステータスが、オレとほぼ変わりがない。
ガラシア・ランパート。男性15歳。職業戦士。
HP 77
MP 11
攻撃力 17
防御力 24
魔攻 21
魔防 16
速度 24
精神力 63
知力 83
運 71
スキル 0/10
成長P 51
戦闘スキルなし。
パッシブスキルなし。
内政スキルあり。
火加減Ⅱ
鍛錬Ⅱ
打ち直しⅡ
目利きⅣ
友達みたいな知り合いになると、相手の能力まで分かってしまうシステムは、今後も役立つだろう。
今までの出来事を生身で体感してきたけど、どうもこれだけはゲームっぽさを感じるな。
唯一のゲームっぽい部分だと思う。
それにしてもガラシア君か。
ゲーム時代でもあまり記憶がないな。
前の席にいたのだって・・・ああ、でもたしかに開始時点で赤い髪の子がいた気がしたけど、でもその後で見たっけ? 赤い子なんていたかな。
ゲーム本編で絡んだのを見た事がないや。
まあ、もしかしたら、ゲーム時代もこういう部分を大切にするべきだったのかも。
それに、ゲームとは違う流れを作り出さないといけなからちょうどいいと思う。
彼との縁は、大事にしていこう。
「これからよろしく」
「うん。おらの手帳出すから、交換しよう」
「交換?」
「情報交換。生徒手帳を並べると、共有できるんだよ。同じパーティーになるのって、これで申請するらしいんだ」
「へえ」
そんな事が出来るのか。
あれ? オレって、そこの部分を読み飛ばしてたのか?
実は、ゲーム時代にはない展開にワクワクしていたりする。
案外面白いものだな。新たな展開ってさ。
「おら。ここじゃ友達いないから、初めての友達だ。ありがとう」
「いやいや。こちらこそ助かったよ。自分も知り合いが・・・」
いるにはいるけど、あれじゃどうしようもないや。
ここで普通の子と知り合えるのは助かる。
モブって大切だよね。
オレも現実世界じゃモブっぽいから、こういう人がいると安心するわ。
「おら、鍛冶師なんだ。武器とか防具で困ったら相談に乗るよ。親父にも相談できるよ」
「へえ、親子で鍛冶師なんだ」
「うん。でも実家は商売で負けた鍛冶師だからさ。腕は良くても、お店はてんでダメダメ。貧乏なんだよ」
「そうなんだ」
鍛冶師で有名なのは・・・。
王都にあるリファング商工会が一番かな。
蹄王リーヴァがいる所で、あそこには彼をはじめとして有数の鍛冶師がいて、有名な武器や防具のほとんどがあそこで生成されていて、個人でも町でも、あそこに買い付けに行くのが、このゲームの定番だった。
そういえば、町や村での鍛冶ってあんまり儲からないし、良質の武具って作りにくいんだよな。
たしか、設備投資と職人をしっかり用意すれば、強武具を作れた気がしたけど、そこまでの経費がな。かなり高いんだよね。
鍛冶の建物からして、費用が高いから、外から買い付けした方が安上がりだったりしてさ。
あんまりメリットがない。
だから、リミットタウンで生産するって、他との違いを生み出しにくいんだよな。
でも親父さんの腕が良いってことはさ・・・。
うちのリミットタウンに来て、作ってくれたりしないかな。
強武器とかを自前で作るのもありかもしれないよな。
「じゃあ、ほとんど自分と同じだね。自分の町もボロボロだもん」
「リミットタウンの事だよね」
「あれ、知ってたんだ」
「有名だよ。襲撃事件があったんでしょ」
「まあ、そうなんだよね。なんで知ってるの?」
「それはね。みんな同じだと思う。ロア王国の人なら新聞で読んでるんじゃないかな。一面に書いてあったよ」
「そうなんだ」
それで故郷の壊滅が、全国的に周知されているってわけか。
なるほど。これが序盤の評判値の上がりにくさなんだな。
ゲーム時代の設定って、ここにあったのかもしれないな。
裏設定かな?
あの会社、設定資料集とか出してないから、よく分からないんだよな。
きっと設定資料集を出しちゃうと、真エンドが簡単になるから出してないんだよな。
「だから腹が立つ人が多かったんじゃないかな。あの時さ」
「あの時? ああ、ロッティの事か」
「うん。君が大変なのは皆知っているからね」
「そっか。ありがたいね」
そうだ。それが理由か。
ロッティにあれだけ言われたのに、他の学生たちがあれこれブラインに言ってこなかったのって、ゲームの進行にとって、必要ない事だから余計な描写を入れないのかと思っていたけどさ。
どうやら違うみたいだ。
まさか、ここにも理由があったとは。
今、体感している現実と、あのゲームがリンクしているのなら、リミットタウンってさ。
相当な数の裏設定があるんじゃないか。
色んな所を作り込んでから、ゲームにしてるのか?
とんでもないスタッフだな。やっぱり変態集団だ!
「ブライン君。お昼になったら、一緒にどこかで食べようよ。たぶんさ。お昼も姫様が君のところに来るよね」
「そうだね。逃げよっか」
「うん。そうしよう」
モブにもモブの意地がある。
オレも実生活じゃ、そっち側の人間だから。
気が合いそうだ。
◇
学校の授業は、ゲーム時代で学べることと人間としての基礎の事だった。
この世界の歴史。
現実世界の中学生くらいの国語。
小学生程度の数学。
これらが現実感があるものだけど、難しくはない。
オレでもやれる範囲だ。
次にスキル、魔法などの戦闘系の物から生活系の物まで、色々なものを勉強していくらしいが、オレはやり込んでいるから大丈夫。座学はほぼ勉強しなくてもいけそうだ。
次に選択授業について。
やってもいいし、やらなくてもいい科目。
主に内政職を勉強するらしく。
鍛冶師や錬金術師、薬師などになりたい人向けの授業が多めらしい。
オレには基本関係がないが、勉強しておいて損はなさそうだ。ゲーム時代とは違って、ターン制よりも時間もあるし、面白そうでもある。
最後に実技。戦闘訓練の事だ。
模擬戦闘を繰り返して、熟練度をあげていく。
このゲームの成長は、経験値で勝手にレベルアップしていくんじゃなくて、熟練度で得ていって、それを自分の意思で割り振っていくスタイルだ。
強敵や特定の出来事でも、熟練度は得やすくなっているので、何事も経験が大事という事だ。
戦い以外でも経験値を得られるのは、独特な成長システムと言えるだろう。
噂だと、交渉だけで、ブラインを成長させた人がいたらしいしね。
「まあ。こうなると・・・オレは」
授業中、先生の説明を聞いていると、ガラシア君が振り向いて来た。
「お昼ご飯。どこで食べる? 教室にはいない方がいいよね」
「・・だね。屋上にでも行こうか」
「それありだね。屋上にしよう」
人懐っこい子と友人に慣れた有意義な学校初日の午前であった。




