第7話 リミットタウンへ
寮の自室は、ゲーム時代に見たデザインとほとんど同じ。
一人部屋で、広さはベッドと机で一杯一杯になるくらいで、一人用の小さなクローゼットもある場所だ。
ずっとここにいたら狭いと感じるかもしれないけど、寝るだけの場所なのでオレは気にしない。
机の上には、パソコンのような通信機器があって、これでいろんなところから来る連絡を受け取る。
この世界は、現代日本のような機器がいくつかある。冷蔵庫とか家電製品もあったりする。日本が作ったゲームだから、中世ヨーロッパファンタジーよりかは、現代的なファンタジーに近くて、でも風景だけが中世風だ。初期大陸だと、ほとんどが日本の景色じゃない。
ごちゃ混ぜジャンルに相応しい。ごった煮な感じだ。
「えっと。とりあえずメールボックスみたいな奴を開いておけばいいんだよな。ゲーム時代と同じだといいけど・・」
ゲームの操作とは違い。
一人称でやらないといけないから、メニューボタンワンクリックで出せていたのとは訳が違う。
色々と手間がかかる。
「開いた!」
開くと要件のみの手紙が届いていた。
――――――――――――――――
若様へ。
資材搬入が明日には完了します。
どの位置に、どの施設を建てるかまでは、私では決定できません。
町の作りは、若様がご決断ください。
お戻りになるのであれば、いつ頃かどうかをこちらに返信してください。
バーランド・アイスマン
――――――――――――――――
「バーランドさんからメールが来てるってことは、ゲーム時代と流れが同じでいいんだな。最初の建物の準備から始めるであってるわけだよ・・・・よし、今のうちに考えておこう。その前にメニュー確認をしてからと」
視界の端にあるメニューを開く。
目線が一人称になっても、ゲーム的要素が残っている世界。
これは、オレにだけ見えるオプション機能なのか。
それとも、ロッティたちにも見えているものなのか。
よく分からないけど、オレはそれを使えるんで、有効に使うに限る。
こんな疑問で頭を使っても意味ないから、使えるものは使う精神でいこう。
メニューにあるものは。
ステータス―――開くと、オレの情報が詰まってる。
個人の成長はこっちで行なうみたいだ。でもジョブ選択がない。
どこか特別な場所で選択するのかもしれない。
勝手に変えられないのは知らなかった。
たしか、ゲーム時代はここから変更の手続きが出来たはずなんだ。
タウン―――――リミットタウンのもの。
開くと、町と民の情報が載っている。
ここから更にタウン建設などのコマンドがあるはずだけどそれがない。
もしかしたら、まだチュートリアルを受けていないから?
いや、そもそも機能がないのか?
または解放がまだなのかもしれない。
ここはおいおい考えておこう。
地図――――――ここでもマッピングが出来るらしい。
ワールドマップに加えて、個別の土地分もあるみたいだ。
ここ以外は、???の未開の地となっているから。
オレが実際に歩かないと、表示されないみたい。
だけどその場を歩いてしまえば、色々と確認が取れるから便利だぞ。
オレが視界で捉えた場所を把握するみたいで。
今、廊下に誰かいるってのも分かる。
でも???ってなっているから。
まだオレが出会っていない人だと思う。
ミニマップにして表示できるから、非常に便利な機能だと思う。
調べる―――――これは視線でコマンドが入るみたいで。
人物や物にフォーカスするとその説明が入る。
図鑑機能と連動しているようだ。
ゲームの説明文と同じっぽいから使用することはほとんどないだろう。
オレはこの世界の住人だったんだぞ。
ほとんどを網羅していると思う。
スキル・魔法――覚えたスキルや魔法の一覧。
成長ツリーもあるので、ここで習得するはず。
無職状態でもツリーはある。
このゲームは基本的にだけど。
ジョブは特定のもの以外は重要じゃない。
ジョブにあるスキルを取得していく事の方が重要で。
成長曲線を自分で描くんだ。
まあ、そこがゲーム初心者だと難しいポイントでもある。
???―――――?で表現されているけど、これはたぶんゲームと一緒だと。
おそらくは、仲間の管理画面だ。
ここを開くと、パーティーメンバーとタウンメンバーに別れる。
パーティーだと個人。タウンだと町護衛の団体だ。
転移――――――転移位置の記憶場所一覧。
ゲームで言う、ファストトラベルの位置だ。
現在使用可能なのは、この寮の部屋。
それと、学校の屋上。
リミットタウンの領主の館。
三カ所に飛べるようになっている。
これは帰還の指輪によって出来るっていう設定だったはず。
この世界では希少な特級術具のアイテムだ。
まあ、ゲームでもリミットタウンと学園生活。
双方を同時攻略しないといけないからの措置だろうね。
それが現実となった今でも出来るって事だと思う。
そして本来ならば。
「最後の項目に、セーブロードとタイトルに戻るボタンがあるはず・・・でもここにはない。オレは本当の意味でこの世界に来てるってことだよな。帰り道がない。やり直しもきかないってことだわ」
絶望感はその点にある。
でもそれだけに気持ちが囚われていたら、オレは死ぬのを待つだけになる。
だからこそ、ここで踏ん張るんだ。
生きてやる!
絶対に生きてやる。
開発者の思惑通りの死にはいかないぞ!
よし。とりあえず、戻ってみるか。やるべきことをやっておこう。
ここで、オレは転移を使おうと綺麗な指輪を眺める。ふと疑問に思った。
「あ、そうだ。これ、どうやって使うの? コマンドを選択したら、そっちに画面が切り替わるのがゲーム時代だけど。実際に使うってなるとどうやるんだ?」
とりあえず飾す。天上に向かって、手をあげてみた。
「何も起きないよな・・・リミットタウン! とか言えば飛んだりするのかな」
この何気ない一言で、体が薄っすらとなる。掲げた手が消えていった。
「は? ええ。ええ。え!?」
混乱の中でオレの視界が切り替わった。
◇
世界が切り替わった。
オレの視界の先にいるのは、ちょび髭がトレードマークの中年男性。
自慢の髭を撫でながら話す。
「お、いつのまに若が!? お帰りなさいませ。若様」
ダンディオブダンディ。
忠誠心の塊こと、バーランド・アイスマンさん。
クソゴミ化したリミットタウンに残ってくれる漢気を持つ。
レッドピック家の執事兼町の守護者の人だ。
有能な彼がいるからこそ、ブラインが学生としていられるわけなのだ。
「バーランドさん・・・ですよね?」
「はい。そうですが。若、どうかなさいましたか? まさか、私だと認識していない。え、まさか、私が見えていなかったなんて・・・・そんな、私って死んでしまったのですか。私に足がありますよね。幽霊になって消えていませんよね」
冗談が好き。
というわけじゃなくて、この人は天然ボケの人である。
ゲーム時代から会話を思い返すと、なんだか噛み合わない印象が強い。
「いやいや、ここに生きてますって。足はありますよ」
「よかった。いつの間にか死んでいたのかと・・・」
なんで死んだのを気付かないんだよ。
・・・・・。
ってあなたにツッコンでごめんなさい。
オレもそうなのかもしれないんだった。
いつの間にか死んで、この世界に転生してる可能性だってあるもんな。
いや、でもこれって転生なのかな?
よく考えたら、オレってなんでこの世界にいるんだ?
ほら死んだばかりの頃って覚えているよな。
死因とかでさ。
交通事故が起きたとか、隕石が落ちたとか。食あたりで・・・
うん。やっぱり直近の記憶ってないや。
もしかして、死んでないとか?
いやいや、死んだんだよな?
だからこそ、ここで死んだら、また死ぬってわけで・・・。
いやいや、実はこの世界もゲームの世界だったりして。
でも匂いを感じるしな。所々が違うから、それもないか。
現実感があるからな。
「若。私が連絡を入れたから。こちらに来てくれたのですか?」
「はい。そうです」
「申し訳ないです。学生生活をお楽しみだったと思いますが。お呼び立てしてしまい。せっかくのハッスル青春ライフを中断させてしまいましたね。ハッスルハッスル」
学生生活が、どんなライフだと思ってんだ。この人。
腰を振るな。
ダンディなのに発言と行動が変だぞ。
「いやいや、まだ初日ですからね。せっかくの学生生活なんて言えませんよ。まだ満喫してませんもん。しかも寝てもいないんで一日も経ってません」
「そうでしたか。それはよ・・・くもないですね。若にはお友達がいないという事で・・しくしく」
バーランドさんが、ハンカチを出して泣いた。
「初日ですって、まだ何もしていないのに、友達が出来たら凄くないですか」
「あ。それもそうですね」
この人のテンションどうなってんだ。ケロっとなったぞ。
「ああ。でも、友達じゃないけど。ロッティから婚約破棄されましたよ」
「そうでしたか・・・まあ、どっちもいいですね。あの方との結婚はあんまり興味ないですね」
町が悲惨でも、そこはあんまり気にしないらしい。
彼女との付き合いは、お金の面で収入源の一つだと思うのだが、バーランドさんはそこも立て直す気だ。ゲーム時代よりも、町を何とかしようと思ってるように感じる。
「せっかく若が来てくれたのです。それでは計画をお願いしたいですね。何から作りましょうか!」
「そうですね。オレに案があるんですけど、それに意見ってもらえます?」
「ほうほう。すでに若には計画があったのですね」
「ええ。あります」
「聞きましょう若様」
オレの案を発表。
これは、ゲーム時代から考え込んだ最強の砦建築だ。
「まずは、中心地だけを碁盤の目で作ります。人々が流動しやすいように、歩きやすいようにします」
碁盤の目で街中を作る。歩きやすさを重視して、人の流れを良くする。
「そして、その周りには第一の壁を作ります。長方形で行きますよ」
「第一? 他にも作るんですか?」
「はい。第一は市民を守るための壁です。敵からの襲撃を受けた時に第一の壁の中に入り込んでもらいます」
「・・・町の人々を守るための壁ですか。なるほど」
「そうです。命を守るための壁が、第一の壁です」
第一の壁の役割は、絶対死守の壁だ。
ここを越えさせないための防衛をする。
オレは、この町では人を殺させない。
死んだら駄目なんだ。
ゲームだった時代も、そうだった。
病死ならいいんだけど敵に殺されると厄介なんだよ。
とある事情があって、危険な状態になる。
「次にですね。第二の壁は、第一よりも大きくして、囲っていきます」
「第一の壁よりも大きな範囲で壁を作れと言う事ですか。なるほど」
理解が早い。
ここはゲーム的なのかな?
違うか。この人が優秀なだけかもしれない。
「そうです。そこは、第二エリアとして、農業と工業エリアにするんです。生産ラインを第二の中にして保護します」
「つまり第二の壁は、そちらを守るため?」
「はい。そうです」
第二の壁の役割は、生産ラインの死守。
ここをやられるのもまずい。籠城も可能にするために出来る限りここも守る。
でもいざとなったら、第一の壁に入れるようにすればいいから、捨ててもいい場所とする。
リミットタウンは、何が何でも人命が第一なんだ。
捨ててもいい命なんて一つもない。
それがたとえ、この町の住民。モブであってもだ。
皆を大切にするんだ。
たしか、公式も、モブにだって生命を感じるゲームだとかで宣伝していたな。
一人一人に個性を入れ込んでいるから、設定はしっかりされているって話だ。
「そして、最後に。第三の壁をダイヤ方式にして作ります」
「ダイヤですか・・・」
「はい。ひし形ですね。第二の壁よりも少し大きめのひし形で囲うんです。それで、外面で耐える。そして外面が耐えられなかったら、第二の壁まで引きます。そして、第三と第二の壁の間。そこをキルゾーンにします」
「キルゾーン?」
「はい。敵を誘き寄せてそこで狩り続けるんです。こちら側が一方的に殴れるように改良します」
「・・・なるほど。あらゆる武器の射線を通りやすくするのですか」
彼はオレの殴り書きの設計図を見て頷いてくれた。
「しかし、これは最終形態の町になったらです。今の初期段階ではこれの通りには作れない」
人材も無ければ、そもそも素材もない。現段階だと無理がある計画だ。
「今だと・・・そうですね。外側に壁を作るのも無理ですね。周りの木々もありますし。この設計だと、広範囲で作りますから、土地の開拓も必要となります。それに人手がまだまだ足りないですしね。拡大したくても、これには遠く及ばないです」
これはあくまでも理想の町。
ここを目指して、オレは頑張らないといけない。
資材、労働力、財力。あらゆる部分で力及ばずだからだ。
「そうですね。評判をあげて人も呼ばないと駄目でしょうね」
「ええ。そこが厄介です」
評判値。
リミットタウンには魅力・実力・特産物。
三つの力を評価した。評判値がある。
これが高くないと、質の高い人が来ない作りで、ここが悪いと、ガラの悪い連中が来て、町で暴れ回るというバットイベントを次々と起こしてくる。
折角町を大きくしても、その中に足を引っ張ってくる人間が来ると、町の発展の妨げになるから危険だ。
そこで、早めに評判値を上げて、良い人を呼んでこないといけない。
悪い奴が少し来ても、良い人の割合が多いと、悪い奴も悪だくみが出来ずに、更生していくってのも、このゲームの面白いところだった。
人が人を良くするって言う仕組みが面白いんだ。
ゲームっぽくない挙動だと思う。
「まずは、製材所。それと、公共のトイレ。あとは、住宅ですね。それらなら作れます。なので第一の壁はまだいらないです。襲撃まではあと少しありますから」
「襲撃?」
「ええ。あるんですよ。まだね」
「こんなにボロボロになったのにですか?」
「ええ。この町は限界の町。リミットタウン。時間も、資材も。食料も、人も。全てがギリギリの状態で始まる。でも、自分は諦めない。必ず立て直して、皆で生き残ります」
「・・・そうですね若。この私も微力ながらお手伝いします。最後までお供します」
「はい。お願いします。バーランドさん」
この人と二人三脚で、オレは次の時代のリミットタウンを作らないといけない。
住民を完全に守りつつ、何度も来る襲撃に耐えられる町をだ!
目指すは襲ってくる敵を完封。
じゃないと、おそらく真エンドは見られない・・・と思うんだ。
頑張るぞ!
オレ・・・ブライン・レッドピックは、この先も生きるんだ。




