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リミットタウン 限界の町と瀬戸際の君  作者: 咲良喜玖
怒涛の十日間

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第6話 騎士の死神

 初日の夕飯。

 学生たちが集う寮の食堂にて。


 寮の食堂は用意してくれたものを全員に平等に提供するスタイルじゃなくて、自分が食べたいものを注文形式でやってくれる。気前のいい食堂だった。ゲーム時代ではここの描写が少ない部分だったから、オレとしてはそんな事になってるとは思わずで、驚きポイントだった。

 

 まあこういう仕組みだと、当然の事だが、自分の席というものがない。 

 学生たちは、次々に空いている席に、勝手に座っていって、一人一人が自分のタイミングで食べるようだ。

 ここにはたくさんの学生がいるので、食堂前の列で待ち状態が発生したりする。

 オレはたまたま上手く進めて、自分が食べる分の食事をすぐに準備できた。

 二人一組の席が空いていたから、そこに一人で座り、主食のパンを食べていると、また絶望した。

 初日から絶望してばかりいるオレ。

 正直ね。

 食事くらいはさ。

 落ち着いた状態で食べさせて欲しいものだよ。頼みます。死神さんたち!


 

 「ここの席。いいか」


 分厚い筋肉の鎧が学生服の上からでも分かる男。

 武骨な騎士様がこちらにやってきた。


 「・・・どうぞ」


 自分でも思う。声を出すまでに時間が掛かってるんだ。この人に会ったくらいで動揺してちゃいけない。


 「失礼する」


 あらゆる食事がチョモランマ。

 聳え立つくらいに、盛り付けがされた料理の数々。

 普通の人ならば、無理な量であっても、あなたの体であれば、全てが吸い込まれていくのでしょう。

 相手の食べる量に呆然となったオレを、真剣なまなざしで見つめてくる男の名は・・・。


 「僕はノア・ラインガルドだ。よろしくブライン」


 ノアに名乗っていないのに、オレの名前をノアが言い当てた。

 これもおかしい。

 彼との出会いはもっと後だ。

 それも、その時のやりとりは・・・。


 『僕はノア。君は?』


 である。

 ノアは最初素っ気なくて、ブラインに興味がなかった。

 あの入学式で、ブラインはロッティから名指しされている。

 強烈なやりとりをしているから、名前を覚えていてもおかしくないのに。

 自己紹介時に、名前を聞くって事はだ。

 あの時のロッティの言葉をそもそも聞いていないか、それか興味が無くて覚えていないって事だ。

 でも、今回は覚えているようだ。

 ・・・まさかだけど、あの時のオレの返答のせいで、ノアの好感度も高くなってるのか?


 「・・・自分はブラインです。よろしくノアさん」

 「僕のことはノアでいい」


 飯を食いながらぼそぼそと話すノアは、体が大きな癖に声が小さめ。

 ゲームの設定だと、たしか仲が良い人以外にだと、人見知りの性質があって、引っ込み思案でもあって、表にほとんど出てこない性質を持っているって話だった。

 普段の学校や行事の中でも、基本目立たない行動を取る。

 学校時代は、警備とか挨拶をするだけの人物で、モブっぽい動きをしていて、学園祭などの大型イベントなどでも、立ち位置的には控えめな位置にいたりする。


 だがしかし、ノアは戦闘になると狂戦士になる。

 ゲーム中だと、タンク・近距離型・防御重視のトップクラスの騎士だ。

 今のテンションはその時の十分の一くらいのテンションであると思う。かなり穏やかだ。

  

 「ブライン。あとそれと・・・」

 

 彼が山盛り料理を半分くらい食べ終わった頃。

 どこから仕入れたんだというくらいパンが出てきた。小さな女の子くらいのフランスパンを持っている彼が、話の続きを話しだした。


 「それとって、なんの事かな?」

 「うん。あの場面で、よくロッティを挑発したね」


 半分にボキっと折ってかじる。ワイルドな食べ方で質問してきた。

 でも話し方は穏やかなので、行動と性格のギャップが激しい。

 画面の頃は何も違和感が無かったが、目の前にすると違和感だらけだ。イカツイヤンキーの外見と行動をしているのに、中身はめちゃくちゃ大人しいオタクみたいな感じがする。


 「あれが挑発になるのかな。自分としては普通の返しだったけどね」


 思った以上に話しやすい。

 この人の根が真面目だからかもしれない。

 まじまじと見るとさ。ヤンキーだけじゃなく、熊さんにも見えるんだよな。

 この人の肩とかに、今日の晩御飯が全部乗っかるくらい筋肉が大きいんだよ。

 小さい子供だったら、彼の体自体がアスレチックになりそうだ。


 「彼女だったら挑発とみるはず。だから、今後の学生生活。大丈夫そうかい?」

 「まあ・・・それはどうだろうね」


 あの執念深い女が、何もせずに終わらせるとは思えない。

 という心配から発言してくれている気がする。


 「もし大変になったら僕が守ろう。僕がブラインの近くにいたら、撃退してみせるよ」


 え。なんで。それを今?

 今のは、ノアルートを進めた先の会話じゃないか?

 そうだ。このセリフは三年後だ。卒業後の会話にある。

 騎士団長編の冒頭。ブラインとノアが、協力体制に入る時のセリフだ。

 

 オレがこの世界にいると、流れが全く違ってしまうのか?

 それとも、用意されているセリフとは違い、オレが変な行動をしてしまったからなのか。

 いずれにしても、フラグは折ったはずなんだぞ。

 じゃあ、ここも出来る限り折るに限る。

 死神たちとは関わらないようにしないと。

 

 「いや、それはやめておこう。自分に加勢したら、君もあれに目をつけられる。護衛はいらないよ。君も君もで大変だろ」


 これで俺はフラグを折る。

 とにかく騎士団長ルートは、激戦の内乱編に突入するから、回避に越したことはない。

 ノアも避けるべき人物だ。


 「ふっ。窮地に立っても、他人の心配か・・・」


 窮地って、そんなにヤバい事になるのか。

 まさか、フラグを折った事で前よりも状況が悪化する。そうなる事も考えないといけないのかもしれないぞ。

 いやいやいや、まずいな。

 悪い方向に向かうなんて考えてなかったぞ。

 でもたしかにだ。フラグを折ったら折ったで、別の問題が出てくるもんな。

 オレって馬鹿だ。そっちを考えてなかった。

 でもさ。流れに乗ったら乗ったで、それは行き着く先が決まってるんだよな。


 ・・・・。


 地獄だなこの世界。何をしようにも雁字搦めになっていて、息苦しさを感じる。

 どうにかして攻略法を見つけないと・・・。


 「まるで、君の方が騎士だな・・・僕のパパみたいだ」


 ノアは騎士団長をパパと呼ぶ。

 熊さんの見た目からは想像が出来ないくらいに、発言が可愛らしい。だから、この時ばかりは子熊に見える。


 「ノア。君はお父さんが騎士なのかい」


 知ってるけど、ブラインはこの時点だと知らないはず。

 ここは知らないふりでいかないと。

 

 「え。知らないのか。君はゴア・ラインガルドを知らない?」

 

 そりゃもちろん。知ってますよ。

 ロナ王国の緑櫻騎士団団長ゴア・ラインガルドは、封技の壊し屋(キャンセルクラッシュ)のゴアと呼ばれている人だ。


 キャンセルクラッシュとは、一定距離の敵に叫びを聞かせる技で、効果範囲内にいる敵の魔法以外の行動をキャンセルさせる技だ。しかも、それが悪質なのは、そのスキルを使用した際に出るクールタイムを強制発動させる。かなりのチート技だ。敵からしたら最悪技で、勝手にクールタイムになるから下手をしたらその戦いの際に必殺技を使用できなくなるんだ。

 のちにノアも使えるようになるから、害悪親子と言える。

 

 ゴアは、内乱時に、ロッティの家が主となる貴族連合戦で先頭に立ち戦う人だ。

 その時、ブラインはノアと共に別の戦地で活躍するけど、ゴアの活躍はこっちにも文章で伝わっている。

 内乱時には彼からの手紙が来ていた。


 「ゴア? 君のお父さんなんだね」

 「あ。ああ。そうだ」

 

 とにかくすっとぼけて、上手く切り抜けよう。


 「じゃあ、ブライン・・・君は僕の事を知らずに接してくれたのか・・・」


 向かいの席の俺に届くか届かないかのぼそっと言った一言。

 表情に変化がないが、声に若干の嬉しさが混じっているように感じる。

 

 「ごちそうさまでした。じゃあ、ゴア。自分は失礼するね」


 またねとは言わないぞ。出来たらそばに来ないでくれ、主要人物たち!


 「あ。うん。ブライン、また」

 

 こっちは『また』って言ってないのに、そっちから『また』って言われたぞ!?

 何をしたわけでもないのに、なんだか彼に気に入られてしまったらしいわ。

 どうしよう・・・。

 おいおいおい。オレはどうすれば、君たちのフラグを折れるんだ?

 折るにはどうしたらいいんだ!?

 どうやったら、嫌われるわけよ!


 何だかこの先の人生に、嫌な予感を持ったまま自室に戻った。



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