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リミットタウン 限界の町と瀬戸際の君  作者: 咲良喜玖
怒涛の十日間

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第5話 聖女の死神

 先生の説明は、今後について。

 発言内容は、大体ゲームの説明内容と同じだった。

 何周もこの学校で過ごしているオレにとってだと眠くなる話ばかりだったから、話半分にして聞いていた。

 なので、オレはこの説明よりも重要な事を考えてた。


 

 ブラインの人生はここからが鬼門。

 なのに、展開がかなり違うのが気になる。

 もっと難しい状況に追い込まれるのかもしれない・・・。


 原作の姫様ルートは、たしかセリフ2から始まるルートだ。

 一日目の帰り道。

 寮へと帰宅する途中の並木道で偶然出会って会話する。

 『君、災難だったね。ロッティが相手じゃしょうがないよね』

 そうだ。これだ。これが始まりだ。

 さっきのよりも素っ気ない感じのやりとりだった気がする。

 好感度抜群の会話じゃなくて、興味的には薄い味付けだった気がするんだ。

 帰りの道中だって、あまり会話もせずだったし。

 あんなに一気に親しくなるような雰囲気じゃなかったはずだ。


 でもオレって、第一段階のフラグを折っていると仮定してもいいんだよね。

 ロッティのスタートを一気にぶった切って、三択のルートすらも外していったんだから、そう仮定してもいいはずだ。

 だとしても、道が違えたとしても、彼女と親しくなるのは危険だから、つかず離れずで今後もいるべきだ。



 オレの右斜め前、四つ分向こうの席がレインの席。

 日本の学校のような形式のアーケミア特別支援学校。

 日本文化と西欧人が融合した形に見えて、独特の雰囲気がある。 

 ゲーム画面だったらあまり気にしなかったが、現実の中だと違和感が半端ない。

 クラスメイトが全員外人みたいに感じて、いたたまれない。

 オレの魂が、日本人だからかな。



 ふと気づいたら彼女がこっちを見ていた。

 ウインクをしてる。

 気付けってか。 

 返事をしろってか。


 オレは気付かないふりをして、スゥッと目を逸らした。

 教室の左後ろにいるので、左側の窓辺を見た。 

 外を見る振りをして、視界の端で彼女を見て見ると。


 ぷくぅっとほっぺを膨らませて怒っている気がする。

 ごめん。

 オレは君とは一緒にいられないんだ。

 君のことは可愛いと思うけど、オレは生きていきたいんだよ。

 すまない。

 本当にすまない。


 ◇


 この日はオリエンテーションで授業が終わり、すぐに放課後となる。


 「はぁい。終わりです。明日から授業をしますから、今日は解散ですよぉ」


 この一言が出てくる前から、オレは外に出る準備をしていた。

 先生の挨拶直後に教室を出る。悪いけど姫様の相手をしたくないからね。

 あの感じだと、速攻でオレの所に来そうだった。


 1ーAの教室を出て、学校の玄関に向かう。

 長い廊下を歩いていると、1ーCの教室の扉が開く前に女性の声が聞こえてきた。


 「・・・失礼しました・・・ごめんなさい・・・失礼しました」


 オレがその扉の前を通り過ぎようとすると、突然女性が飛び出してきた。

 オレの肩と彼女のおでこがぶつかる。


 「うわぁ。ご。ごご。ごめんなさい。前を見ていませんでした。失礼しました」


 おでこを赤くした女性を見て、オレはまた絶望した。

 

 「あ! あなたは、ブラインさん。あの人を跳ね除けた方ですね」


 名前を言い当ててきたのは、マリアンナ・クバン・アクア。のちの大聖女様だ。

 今は聖女として成長していくための修行の身。

 まだまだと言われているけど、この段階でもかなり強くて、皆よりも優秀だ。

 この先の学校での経験で、作中最強クラスの実力を持つこととなる人物だ。

 美しさの中に凛とした強さを持ち、戦いを経験していく内にどんどん精悍な顔つきになって一番カッコよくなっていく女性なのだけど、普段の彼女はおっとり&サバサバ性格の持ち主だ。相反する性格を持っている不思議な女性で、結構ドジでもある。

 ちなみに戦闘中はドジをしない。そこが救いだ。


 「自分の肩のせいで、あなたのおでこを赤くさせてしまいました。すみませんでした。それでは」


 ここは謝って立ち去るに限る!

 とにかく触れちゃいけない。

 つうかなんで、こんな初日から死神たちに会わないといけないんだ!

 オレに死ねって言ってんのか。

 リミットタウンさんよ。

 なあ、オレに死ねって言ってんのかよ。

 どうしても殺したいのか。この世界はさ!!!

 

 「お待ちになってください。今、お帰りですか」

 「え。まあ。そうですけど」


 オレの辞書に、こんなシーンがないんです。

 どう対応したら良いんですか。

 リミットタウンの開発メンバーさんたち、会話の選択肢をください。

 出来れば一択で・・いや、駄目だ。あそこの開発者はひねくれているから、死の選択肢をよこすはずだ。


 「一緒に帰りませんか」

 「え。どうして?」

 

 あまりにも自然にお誘いしてくるから、こっちも普通に聞き返してしまった。


 「どうしてって言われましても。私が一緒に帰りたいからです。駄目ですか?」

 

 帰りの道中は、誰もが同じになるに決まってる。

 だって皆、同じ寮に帰るのだから・・・。

  

 だから、ここでオレが断っても意味がない。

 結局は同じ道を変えるしかないのだ・・・。

 はぁ、観念するしかないか。


 1ーCのクラスメイトたちが、今のオレたちのやり取りを見ていた。

 女子生徒たちは頬を赤らめ、男子生徒たちはオレを睨む。

 思春期ならではの男女カップル誕生の瞬間のような感じだろう。

 こちらが綺麗な女性であり。そしてブラインも、かなりのイケメンだ。

 だから、なおさら皆の興味がここに集中するんだ。


 「・・・あ、はい。わかりました。寮までですね」

 「はい。ありがとうございます。ブラインさん」


 承諾すると、彼女がオレの隣に来て、並んで歩く事となった。これで仲良く一緒に帰りましょうとなってしまったのだ。

 現世で、普通の状態だったらかなり嬉しいけど、これは緊張感がある事態だ。だって、これは死へのランデブーなのさ。一歩間違えたら、オレの首元には死神の鎌がそっと置かれるわけなんだよ。

 それで、選択を数手間違えたら、その鎌はオレの首を刎ねるわけさ・・・。

 こわっ!?


 ◇


 学校から寮までの並木道。

 他の学生もいる中で、二人で歩く。

 本物のカップルだったら嬉しい所だが、今の彼女は悪意のない死神だ。綺麗な顔なのに、その隣で鎌をちらつかせている。


 「ブラインさんは、ロッティさんがお嫌いなんですか」

 「え」


 誰にでも優しく基本のんびりとした性格で、聖女らしい振る舞いが多いマリアンナだが、彼女は意外とズバッと物を言う。

 遠慮しない子だ。


 「新入生の挨拶・・あれは良くない。失礼な人です。さすがに頭に来たのではないかと思いまして、聞いてみました」

 「ああ。それは、あんまりですね」

 「あんまり?」

 「はい、興味ないです。感情では判断しません。嫌いとかではないですね」


 正直な話、ロッティの事は、好きじゃないけど、嫌いでもない。

 ロッティは色々と終わってる性格をしているが、別に気にしていない。ゲーム時代もメインキャラの一人だったし、彼女との付き合いは自分の中では上手くしていた感じがするし、それにブラインとなった今のオレは、生きる残るための行動をしようと思っているから、彼女のことを好き嫌いで判断していない。

 利用できるのであれば、彼女の事も使うつもりではある。

 でもオレが彼女のそばにいたら、確実に死ぬと思うんで、とりあえず離れるべきなんだ。

 

 「あれだけ言われても怒ってないんですか?」

 「はい。大抵のことはさらっと受け流せるので」


 オレ的には、まあまあ腹が立つよ。

 でもブラインはそういう人間じゃない。

 前向きをモットーにしているから、彼になりきる意味でもさらっと受け流そうと思う。


 「凄い・・・あなたこそ、聖人なんですね。聖女様みたいです」


 聖女様? 男なんですけど? 聖男?


 彼女のキラキラした目に圧倒されそう。

 急に尊敬の眼差しのような輝きを出してきた。


 「えっと、マリアンナさんは、彼女が嫌いなんですか」

 「はい!」


 この人って本当にズバズバと物を言う子だよな。

 ゲームの時から不思議だったけど、聖女という役職を持っているにしては、聖人っぽくない。

 誰にでも良い顔をするわけじゃなくて、気に入らなければ顔に出すし、気に入っていればその声にも変化がある子だった。かなり好き嫌いのハッキリした子だ。性格的には聖女とは程遠い様な気がする。


 「あの言い方が嫌いなんです。人を小馬鹿にしているのが特にです!」

 「そ、そうですか」


 この年頃の女の子なら、敵対関係にある子にはこういう感じで接するのかな。

 まだティーンだもんな。

 話に学園ものも入っているから、設定的にも個性のぶつかりあいになるのかもしれない。オレが体験したゲーム時代よりも、より人間らしいのかもしれない。

 あんまりここを深堀した事がないから、改めて体験すると、ブラインの人生って青春の真っ只中だったんだな。


 「でもあなたが気にしていないのであれば、私も気にしないようにします」

 「自分が気にしていないから? どういうことです」

 「馬鹿にされたあなたが気にしていないのに。私が勝手に怒っていたら、私があなたを馬鹿にしたようなものですよね?」

 「ああ、なるほど」


 たしかにそうだ。

 結果的にロッティの言葉を肯定したようなものだものな。


 「ですから、私は怒りを鎮めて日々を過ごすことにします」

 「ええ。そうしてください」

 「はい。なので、これからも会ってくれます?」


 話が繋がってねえ。

 脈絡どこ行った。迷路にでも迷い込んだか。

 この子大丈夫なの?

 前よりもぶっ飛んだキャラになってる気がする。


 「自分とですか?」

 「私の前には、他に誰もいませんが?」


 マリアンナが、キョロキョロ周りを見た。

 天然ボケか? それとも確信犯か。

 これ以上聖女のそばにいるのも危険なような気がした。


 「いえ。自分とは会わない方が良い。自分と同じ場所にはいない方がいいでしょう」

 「え!?」

 「失礼。自分と一緒の所をロッティにでも見られてしまったら、あなたが大変になるはずだ。ここでお別れとします。では!」


 我ながら素晴らしい言い訳が発動したと思う。 

 これなら彼女を傷つけずに立ち去る事が出来る。

 さらば、美しく優しい死神よ!

 お暇させていただく。


 「・・ちょ。ちょっとおまちくだ・・・」


 オレは猛ダッシュで寮へ急いだ。

 後ろの方では『お待ちになって』という声が聞こえたが、すべて無視して突き進む。

 彼女とも離れて暮らさねば。

 オレは聖女ルートにも行くわけにはいかない!

 

 だって、その道も死のルートのはずだからさ。





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