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リミットタウン 限界の町と瀬戸際の君  作者: 咲良喜玖
怒涛の十日間

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第4話 お姫様の死神

 教室に入って自分の席に着席すると、学級での最初の出来事が起きた。

 その事件は、原作で経験のない事。

 正直言ってオレは、戸惑って絶望している所だ。

 ブラインを死へと誘う一人の死神がオレの目の前に現れたんだ。


 『レイン・スタークス』


 雨の魔法少女がニコニコの笑顔をオレに見せつけてきた。


 「ブライン君! よくあのロッティに言い返したな。君、凄いぞ」


 目をつけられたくない人にさっそく目をつけられてしまった。

 まずい。

 せっかく死亡ルートから外れたのに、さっそくとんでもない道に入り込みそうになっている。

 そんなに目を輝かせてオレを見ないでほしい。

 出来るだけ君に近寄りたくないんだ。

 笑顔の死神さん、その鎌こっちに向けないでください!


 「どうも」


 精一杯で返答をする。

 咄嗟だったけど、お姫様には素っ気ない返事に変えた。

 これで、君はブラインに呆れて、自分の席に帰って欲しい。

 お願いします!

 席に戻ってください。

 君とは離れた席のはずなんだ!


 「君の挑発、痺れたねぇ。あのロッティの顔・・・思い出しただけでも、ボクは笑いが止まらないよ! うんうん。いいね。ブライン君は素晴らしい」


 姫様のゲーム内での初期状態は、お淑やかだったはずだ。

 一人称だって、私と言って控えめな感じで学生生活を送っていた。一年生の時なんて特に大人しさ全開であったのに。

 それに彼女は、コミュが進んでいく内に、グッと仲が深まるタイプで、最終的にはボクっ子になるわけだが。

 ・・・・・。

 あれ? え!? ちょっと待って。

 なぜ出会ったばかりで、この話し方になってるんだ。どういうことだ?

 好感度ってカンストしたの?

 まだ親しくないぞ。君とオレ!

 出会ったばっかりだよ。君とオレ!

 出来たら会いたくなかったよ。オレと死神!

 

 「いえ。どうも」


 頼む。気付いて。

 それ以上君と話したくないんだよ。


 「あ。そうだ。ボクはレイン!」


 彼女はオレの態度に気付いてくれず、そのまま自己紹介に入った。

 親指を自分に向けて、胸を張る。その姿はお世辞抜きに可愛い。可愛い死神って、どうしたらいいんだ!


 「君はボクの事! 知ってるかい?」


 それは当然だ。君の立ち絵を何度も見ている。ゲーム越しで何度も会ってるよ。

 でも今は初対面だ。返答はこっちにする。


 「知りません」


 少し冷ため。冷蔵庫を開けたくらいの涼しさの返答だ。


 「え? ブライン君は貴族だよね」


 貴族だったら、お国の姫様を知って当然。

 彼女にとって大きな衝撃だろう。

 体を仰け反らせるくらいに驚いているから、驚き具合で言えば強めだろう。

 

 「はい。そうなんですが、自分。貴族の端くれな者で世間知らずであります。色んな方が初対面なので、ご無礼となりますが、あなたを存じません」

 

 オレ、嘘ついてます。あなたの事、めっちゃ知ってます。

 雨の魔法少女レインさんですよね。一撃必殺の範囲魔法の達人。

 戦闘時の極悪な性質の魔法と、普段の明るい性格に、かなりのギャップがあるお姫様。

 こんなに明るいのに、魔法は異常に悪質なんですよ。あなたはね!

 

 「え、そうなの。凄い珍しい人だ。ボク、嬉しいな」


 誰もがあなたを姫様だと知っているから、オレが珍しいって事?

 まずいか。今ので気に入られちゃったか?

 今の返事はミスだったか。

 この展開って、原作にはない展開だからさ。

 どうやって対応したら良いかが分からないぞ。

 とにかくゲームのままだと、Tier1と仲良くなるのはまずい。

 今までやり込んだルートのエンディングに入っちゃ駄目だ。

 主要ルートって潰しておかないと駄目なんだよ。全部死亡ルートだからな!

 とにかく死神たちとは、関わったら駄目だ。危険だ。


 「ボクはね。レイン・スタークスだよ。よろしくね」


 クソ! この人、オレから離れない。

 諦めねえ。


 「そうですか。自分はブライン・レッドピックです。よろしくお願いします」


 無難な挨拶に収めて、オレは一礼をしてから横を見る。

 彼女の視線を外して、あなたにはこれ以上興味ありませんよと態度で示した。

 苦肉の策で、彼女に席に帰ってもらおうとしたのだが。


 しかし。


 「ねえねえ。君さ」


 オレの顔の正面に入ってきやがった。

 目の前が彼女の顔だけ……満面の笑みだけが見えて、他に何も見えない。


 「な、なんでしょうか」


 自分の発言直後で、オレは元々見ていた方向に顔を戻した。

 彼女から視線を切ったつもりだったが。


 「あのさ」


 こっちにも来た!

 なんとしてでも、オレの目線から外れないという気概を感じる。

 画角に入り込もうとする執念にも感じた。


 「え。なんですか?」


 もういいから。

 ってな感じのニュアンスで断り続けているけど、彼女には刺さらない。

 オレの行動を理解してくれない。

 周りの生徒たちはオレを睨んでいるから、オレの行動の意図がよく分かっているのに!

 この子にだけ通じてない。


 「ボクとパーティー組んでよ」

 

 その提案、オレに死ねと言っているのか。レイン!

 本音で言えば、あなたはめちゃくちゃ強いから、一緒にやりたいけどね。

 それだとまずい。

 君と一緒にいれば、オレは死亡ルートに入ってしまうのさ。

 だからごめん。


 「あ・・・自分・・・」


 まるっきりゲーム時代と同じなら、ここでスキルの思考加速と思考並列が欲しい。この返答の合間に考え事が出来ると思うんだ。

 あれさえあれば・・・でも今は・・・。


 「君って面白いからさ。ボク、気に入っちゃったんだよね。これから一緒に学園生活を楽しもうよ!」


 そんなに嬉しそうに言うなよ。

 受け入れたくなるだろうが! 

 でも受け入れてしまったら、死神を受け入れたのと同じだ。

 常に、喉元に鎌を置きたくないんだ。死神に添い寝されたくないんだ。


 「ええっと・・・すみません。自分とレインさんでは、実力が違いすぎて、足手まといになって、失望させてしまうので、辞めておきます。ごめんなさい」


 周りの視線が痛い。

 『お前、姫様からのお誘いを断るのかよ』的な雰囲気を感じる。

 でも今のオレにはそんな視線関係ねえ。

 今が、オレの死線なんだから、あんたらの冷たい視線を浴びたって屁でもないわ。

 

 「実力? 君ってどんな実力なの?」


 レインがオレの顔の前に両手を出した。

 はい、君の学生証見せて!

 というポーズだ。

 

 学生証には、その学生の魔法やスキルが記載されているので、彼女は見たいと思ったのだろう。

 ・・・・。

 誰が見せるか。

 今の段階で自分の手の内を明かす馬鹿がどこにいるんだ。

 いいか。姫様。

 Tier1は、いずれは味方で、いずれは敵になるかもしれない連中なんだぞ。

 このゲームって、絶対にTier1の誰かとは敵対関係になるんだからな。

 味方であり敵。

 それがリミットタウンなんだ。

 超シビアな人間関係なんだよ。


 「自分、雑魚です」

 「だから、どんななの?」

 「自分、雑魚なんです」

 「それでどんなスキ・・・」

 「ごめんなさい。雑魚雑魚なんです」

 

 相手の顔が意地になってきた気がしたけど、そうなるんだったら、こっちだって意地になって返答していく。

 ここは引けない。引いたら負けだ。そして死だ。


 「ボクはそんなの気に・・・」


 しないって言おうとしていたはず。

 ここで止まったのは、先生が教室に入って来たからだ。


 「はぁい皆さん。自分の席に着いてね。ん? 立ってる子がいるわね。そこのあなた。どうして席に座らないの?」

 「あ。ごめんなさい先生」


 注意した時の先生の表情が曇っていたが、レインが振り返って顔を見せると、先生の顔はすぐに元に戻った。

 さすがに姫様を叱り続けるのは、学校の先生では難しい。


 「姫様でしたか。席に着いてくださいね」

 「はい。ごめんなさい」


 姫様は基本素直で良い子なんです。 

 だから、こっちだってお断りし続けるのも気が引けています。

 席に戻る前、彼女は俺の方に振り返った。


 「ブライン君。またね」

 「あ。はい」


 またね!?

 またがあるの!!!!!

 やめてよ~~~~。笑顔の死神さん!

 オレ死にたくないんだ~~!?




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