第4話 お姫様の死神
教室に入って自分の席に着席すると、学級での最初の出来事が起きた。
その事件は、原作で経験のない事。
正直言ってオレは、戸惑って絶望している所だ。
ブラインを死へと誘う一人の死神がオレの目の前に現れたんだ。
『レイン・スタークス』
雨の魔法少女がニコニコの笑顔をオレに見せつけてきた。
「ブライン君! よくあのロッティに言い返したな。君、凄いぞ」
目をつけられたくない人にさっそく目をつけられてしまった。
まずい。
せっかく死亡ルートから外れたのに、さっそくとんでもない道に入り込みそうになっている。
そんなに目を輝かせてオレを見ないでほしい。
出来るだけ君に近寄りたくないんだ。
笑顔の死神さん、その鎌こっちに向けないでください!
「どうも」
精一杯で返答をする。
咄嗟だったけど、お姫様には素っ気ない返事に変えた。
これで、君はブラインに呆れて、自分の席に帰って欲しい。
お願いします!
席に戻ってください。
君とは離れた席のはずなんだ!
「君の挑発、痺れたねぇ。あのロッティの顔・・・思い出しただけでも、ボクは笑いが止まらないよ! うんうん。いいね。ブライン君は素晴らしい」
姫様のゲーム内での初期状態は、お淑やかだったはずだ。
一人称だって、私と言って控えめな感じで学生生活を送っていた。一年生の時なんて特に大人しさ全開であったのに。
それに彼女は、コミュが進んでいく内に、グッと仲が深まるタイプで、最終的にはボクっ子になるわけだが。
・・・・・。
あれ? え!? ちょっと待って。
なぜ出会ったばかりで、この話し方になってるんだ。どういうことだ?
好感度ってカンストしたの?
まだ親しくないぞ。君とオレ!
出会ったばっかりだよ。君とオレ!
出来たら会いたくなかったよ。オレと死神!
「いえ。どうも」
頼む。気付いて。
それ以上君と話したくないんだよ。
「あ。そうだ。ボクはレイン!」
彼女はオレの態度に気付いてくれず、そのまま自己紹介に入った。
親指を自分に向けて、胸を張る。その姿はお世辞抜きに可愛い。可愛い死神って、どうしたらいいんだ!
「君はボクの事! 知ってるかい?」
それは当然だ。君の立ち絵を何度も見ている。ゲーム越しで何度も会ってるよ。
でも今は初対面だ。返答はこっちにする。
「知りません」
少し冷ため。冷蔵庫を開けたくらいの涼しさの返答だ。
「え? ブライン君は貴族だよね」
貴族だったら、お国の姫様を知って当然。
彼女にとって大きな衝撃だろう。
体を仰け反らせるくらいに驚いているから、驚き具合で言えば強めだろう。
「はい。そうなんですが、自分。貴族の端くれな者で世間知らずであります。色んな方が初対面なので、ご無礼となりますが、あなたを存じません」
オレ、嘘ついてます。あなたの事、めっちゃ知ってます。
雨の魔法少女レインさんですよね。一撃必殺の範囲魔法の達人。
戦闘時の極悪な性質の魔法と、普段の明るい性格に、かなりのギャップがあるお姫様。
こんなに明るいのに、魔法は異常に悪質なんですよ。あなたはね!
「え、そうなの。凄い珍しい人だ。ボク、嬉しいな」
誰もがあなたを姫様だと知っているから、オレが珍しいって事?
まずいか。今ので気に入られちゃったか?
今の返事はミスだったか。
この展開って、原作にはない展開だからさ。
どうやって対応したら良いかが分からないぞ。
とにかくゲームのままだと、Tier1と仲良くなるのはまずい。
今までやり込んだルートのエンディングに入っちゃ駄目だ。
主要ルートって潰しておかないと駄目なんだよ。全部死亡ルートだからな!
とにかく死神たちとは、関わったら駄目だ。危険だ。
「ボクはね。レイン・スタークスだよ。よろしくね」
クソ! この人、オレから離れない。
諦めねえ。
「そうですか。自分はブライン・レッドピックです。よろしくお願いします」
無難な挨拶に収めて、オレは一礼をしてから横を見る。
彼女の視線を外して、あなたにはこれ以上興味ありませんよと態度で示した。
苦肉の策で、彼女に席に帰ってもらおうとしたのだが。
しかし。
「ねえねえ。君さ」
オレの顔の正面に入ってきやがった。
目の前が彼女の顔だけ……満面の笑みだけが見えて、他に何も見えない。
「な、なんでしょうか」
自分の発言直後で、オレは元々見ていた方向に顔を戻した。
彼女から視線を切ったつもりだったが。
「あのさ」
こっちにも来た!
なんとしてでも、オレの目線から外れないという気概を感じる。
画角に入り込もうとする執念にも感じた。
「え。なんですか?」
もういいから。
ってな感じのニュアンスで断り続けているけど、彼女には刺さらない。
オレの行動を理解してくれない。
周りの生徒たちはオレを睨んでいるから、オレの行動の意図がよく分かっているのに!
この子にだけ通じてない。
「ボクとパーティー組んでよ」
その提案、オレに死ねと言っているのか。レイン!
本音で言えば、あなたはめちゃくちゃ強いから、一緒にやりたいけどね。
それだとまずい。
君と一緒にいれば、オレは死亡ルートに入ってしまうのさ。
だからごめん。
「あ・・・自分・・・」
まるっきりゲーム時代と同じなら、ここでスキルの思考加速と思考並列が欲しい。この返答の合間に考え事が出来ると思うんだ。
あれさえあれば・・・でも今は・・・。
「君って面白いからさ。ボク、気に入っちゃったんだよね。これから一緒に学園生活を楽しもうよ!」
そんなに嬉しそうに言うなよ。
受け入れたくなるだろうが!
でも受け入れてしまったら、死神を受け入れたのと同じだ。
常に、喉元に鎌を置きたくないんだ。死神に添い寝されたくないんだ。
「ええっと・・・すみません。自分とレインさんでは、実力が違いすぎて、足手まといになって、失望させてしまうので、辞めておきます。ごめんなさい」
周りの視線が痛い。
『お前、姫様からのお誘いを断るのかよ』的な雰囲気を感じる。
でも今のオレにはそんな視線関係ねえ。
今が、オレの死線なんだから、あんたらの冷たい視線を浴びたって屁でもないわ。
「実力? 君ってどんな実力なの?」
レインがオレの顔の前に両手を出した。
はい、君の学生証見せて!
というポーズだ。
学生証には、その学生の魔法やスキルが記載されているので、彼女は見たいと思ったのだろう。
・・・・。
誰が見せるか。
今の段階で自分の手の内を明かす馬鹿がどこにいるんだ。
いいか。姫様。
Tier1は、いずれは味方で、いずれは敵になるかもしれない連中なんだぞ。
このゲームって、絶対にTier1の誰かとは敵対関係になるんだからな。
味方であり敵。
それがリミットタウンなんだ。
超シビアな人間関係なんだよ。
「自分、雑魚です」
「だから、どんななの?」
「自分、雑魚なんです」
「それでどんなスキ・・・」
「ごめんなさい。雑魚雑魚なんです」
相手の顔が意地になってきた気がしたけど、そうなるんだったら、こっちだって意地になって返答していく。
ここは引けない。引いたら負けだ。そして死だ。
「ボクはそんなの気に・・・」
しないって言おうとしていたはず。
ここで止まったのは、先生が教室に入って来たからだ。
「はぁい皆さん。自分の席に着いてね。ん? 立ってる子がいるわね。そこのあなた。どうして席に座らないの?」
「あ。ごめんなさい先生」
注意した時の先生の表情が曇っていたが、レインが振り返って顔を見せると、先生の顔はすぐに元に戻った。
さすがに姫様を叱り続けるのは、学校の先生では難しい。
「姫様でしたか。席に着いてくださいね」
「はい。ごめんなさい」
姫様は基本素直で良い子なんです。
だから、こっちだってお断りし続けるのも気が引けています。
席に戻る前、彼女は俺の方に振り返った。
「ブライン君。またね」
「あ。はい」
またね!?
またがあるの!!!!!
やめてよ~~~~。笑顔の死神さん!
オレ死にたくないんだ~~!?




