エピローグ ブライン側
「君たちか」
捨てられた子供。攫われた子供。親がいるのか、いないのか、それとも殺されてしまったのか。
子供たちの表情からは、それらを読み取れない。
それにこんな悲しそうな顔をされては、どうにも明るい顔では話しかけられなかった。
でもせめて声だけは明るくいきたい。暗い気持ちにさせたくないからね。
「えっと、オレの名は、ブライン! この国の弱小貴族だ。えっとね。君たちを預かりたいと思ってさ。王様にお願いしたんだ」
「預かるって何ですか。あなたの奴隷になれと」
猫耳の女の子が言ってきた。
彼女の後ろに数人の獣人が隠れる。
リーダー的存在のようだ。
「違うよ。奴隷じゃなくてさ。オレの町に来ないかい? なんもないんだけどさ」
「・・・何にもない?」
「うん。実はオレの町。ほとんど壊滅してんだよね」
「じゃあ、労働力ですか。それって奴隷ですよね」
「違うよ。奴隷は嫌だ」
「でも、何もない場所で働けって事でしょ。奴隷じゃないですか」
「働けは言わないよ。でも、今のオレの町は、みんなで協力して生きてるから。まあそれを働くと捉えると、働くになるね・・・」
オレの町は今全体が働く形になっている。
何かに専属的に従事しているわけじゃなくて、専門的な能力を持っている人以外は、色んな仕事をしている段階だ。
井戸の水くみとか。建築資材の搬入とか。農作物の運搬とか。
色んな雑用をその日に動ける人でやるみたいな事だ。
専門的に分けた仕事以外の事は協力してやる形なんだよな。
「人手不足だから来いと言ったらどうですか。奴隷の身なんですから」
凄い目が怖い。悲しさの奥。何かに恐怖していた目だ。
あの環境だもんな。人を信じられるとは思えない。
「生意気な・・・若様に口答えするとは!」
マリンさんが怒りそうだったんで、オレが制止する。
「マリンさん。待ってください」
「しかし。生意気な口は許してはおけません」
「まだ生意気でもない」
「ですが」
「マリン!」
「わ。若様」
「黙っていなさい」
「は。はい」
大人しくしてもらおう。高い忠誠心は良いんだけど、今はそれが余計だ。
「君。名前は?」
「私は・・・言えません。名前はありません。捨てたのですから」
「捨てた?」
「このような身分まで落ちたら、私は私と名乗れない」
「???」
この子、何か深い事情があるのか。
「でもさ。君の顔には捨てたって書いてないよ」
「え!?」
「だってさ。綺麗さっぱり捨てたらさ。その顔が悔しそうになるわけないもんね」
「はっ!? 私の顔が!?」
彼女は、自分の顔を両手で触り始めた。
「うん。だからさ。拾おう! 君の名前」
「・・・・私は・・・また名乗っても良いのでしょうか?」
「いいさ」
なんで名前を言うのにそんなに躊躇するんだ?
「私は、シリウスです」
「シリウスか。良い名前だね。苗字もあるの?」
シリウスね。
彼と同じ名前だな。
「・・・はい。アイキャットです」
「シリウス・アイキャット・・・・シリウス・アイキャットだって!?」
「は、はい。それがなにか?」
「いや。ちょっと待ってね」
思考加速を展開。
不思議に思われないように高速で物事を考える。
シリウス・アイキャット。
ゲームにおいて、Tier1キャラの名前だ。
来年学校に編入してくる青年で、たぬきの獣人。
獣王国編の時の入り口になる子だ。
獣王国は族長合議制で国家が運営されていて、族長が六人いる。
彼はその中の族長の息子、アイキャットの次期当主でもあるんだ。
だから仲が良くなると、彼らとの交友関係もスムーズになって・・・。
って同姓同名か?
いや、このゲームで同姓同名ってな。混乱するよな。
普通ゲームでそんな設定にするってないし。
今回が特別・・・。
いや、どうなんだ。
「どうしましたか? あの・・・」
「あ。いやなんでもない。シリウスちゃんね」
「ちゃんはいりません。私は、シーアって呼ばれる事が多かったです」
「シーアね。わかった」
「それに歳もそんなに離れていませんから、ちゃん付けは・・・」
「いくつ?」
「14です」
「???」
シリウスと同じ歳だ。
どういうこった!?
そこも同じなの。
でも、10歳くらいの・・・小学生の女の子に見えるんだけど。
「アイキャットってさ。獣王国のアイキャットかい」
「・・・・」
かもしれない。ちょっと押していこう。
「まさか。君は族長の娘?」
「・・・あ、あなたはなぜ知って・・・族長の知り合いですか?」
「いや、知り合いじゃないけど。世界情勢は知っているつもりさ」
「そうです。そのアイキャットです」
「そうか・・・そのね・・・」
どういうこと???
待ってくれ。アイキャットってたぬきだぞ。
親父もたぬき。息子もたぬき。
でもずっと気になってたんだよな。
キャットってついているのに、猫じゃねえのがさ。
一族の重鎮たちもたぬきだったしさ。
それに、猫って少ないイメージがあるな。獣王国編の時にあんまり存在していなかった気がする。
「そのアイキャットの子なのに、どうしてこんなところに?」
「・・・・クーデターにあって・・・父も母も失いました。命からがら逃げて、流れ着いた先で、子供狩りに遭い。奴隷に」
「それはいつ?」
「二年前です。獣人ですから、奴隷ではあまり売れずに回されました。移動は他の子よりもしてきたと思います」
「二年前・・・」
父と母を殺された?
アイキャットが無くなったって事?
いや、あるよ。
たぬきがやってる。
キャット付いてる癖にたぬきがね。
・・・。
・・・・・・。
おい。まさか。あのアイキャット。偽物か?
この子が本物??
「獣王国ってさ。下剋上がありなの?」
「ありです。あの大陸はこちらよりも弱肉強食ですから。過去には幾度か。当主が変わっている時代があります」
「それってなり替わるって事?」
「はい。アイキャット。ナーゼドッグ。ラングタイガー。アウリスバード。リップタートル。ラダントーポ。この名を継承します」
「・・・・ん? ってことは、例えば。アウリスバードを誰かが倒したら、それがアウリスバードになるって事?」
アウリスバードは鳥がやってた記憶がある。
「はい。そうです」
「じゃあ。犬とかが代われるわけだよね。犬がアウリスバードを名乗れるって事だよね?」
「そうです」
・・・・。
なに!? じゃあ、たぬきがやってたのは。
「アイキャットは、たぬきに負けたのか」
「・・・はい」
「な!? じゃあ、あいつは偽物か」
「あいつ?」
「いや。なんでもないよ」
おいおい。
これがゲームと同じ設定なら、どんな設定を組み込みやがってんだ。
開発者メンバーさんよ。
主要キャラの一人が偽物なのかよ。誰が見抜けるんだ。あのストーリーでさ。
この子が本物って事だろ。
「それなら・・・」
どうする。直接対決させるか?
本物のアイキャット対決。
面白そうだよな。どっちが実力が上か。
あいつを負かしてみるか。結構強いんだよな。
でもさ、シリウスはTier1の中ではそんなだったんだよ。
そうか。あいつが偽物だから実力が高くないのか。
なんだったら、ジュニアの方がバケモンだからな。
「わかった。君をオレの家の養子にしよう」
「え?」
「シーア・レッドピック。これでいこう」
「はい?」
別名で学校に送り出す。
これの方が面白そうだ。
真エンドに近づいてるような気がする。
まだ見ぬ真実がどこかにあるんだとしたら、そのきっかけの一つがこの子のような気がするんだ。
だからこそ、オレのそばにいさせた方が面白いと思う。
「来年。君は出会う事になる」
「だ、誰にでしょう」
「シリウス・アイキャットに」
「え!?」
そう偽物のアイキャットに、本物をぶつけるんだ。
これでどうなるんだ。この世界!
「どの形に動くかは君次第。オレは君のしたい事を応援しようか」
「・・・・なにを・・・言って?」
「六つの族の一つにいた子なんだ。獣人たちの心に弱肉強食が刻まれているのなら、君は見ておくべきじゃないか。今のアイキャットをさ」
倒すも、無視するのも。君次第。
選択をそちらに任せるのが面白い。
オレじゃない物語があってもいいと思うんだよ。
「・・・・本当に来年の学校に来るんですか? あのアーケミアですよね」
「そう。彼はアーケミアに入学してくるよ」
「・・・彼・・・私と同級生。それはアンバーかもしれません」
「アンバーね。本当の名はアンバーか」
「彼がシリウスを乗っ取ったんですね」
「そう。君は剥奪されて奪われた。今の状況だとそうだね」
「・・・やります。私・・お願いします。ブラインさん」
「おし。手続きをしておく。ここでなら、すぐに出来るはずだ」
王都ならば、養子縁組の手続きは簡単だ。
すぐにでも出来るはず。
ダグノスの娘にして、オレの妹にしてしまえばいい。
「マリンさん!」
「はい」
「手続しますよ」
「了解です」
「この子は、これからオレの妹にします。マリンさんも大切にしてください」
「はっ」
「いいかな。シーア」
「・・・はい。妹・・・それでは、ブラインさんが、お兄様ですね」
「うん。どう呼んでもいいよ。君はもう妹だからね」
「・・・ありがとうございます。お兄様」
「血が繋がらなくても、これからは兄妹だ!」
「はい」
獣人の子を妹にしてみた。
これはオレが初めて動かしたと言える物語だ。
どう見ても振り回されてねえ。
こっちから振り回してやる!
かかって来い。リミットタウン。
オレと勝負だ!




