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リミットタウン 限界の町と瀬戸際の君  作者: 咲良喜玖
英雄の孫

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第16話 ユタ?

 「凄い。若様・・・まるで、クロノ様のような動き・・・」


 マリンには、彼の背中が英雄の背中に見えていた。

 重なる面影は、先代と先々代と同じ大きな背中だ。


 『・・・・』


 そしてジュニアも、自分が勝てない相手に勝ち切った男の背中を見ていた。

 漢らしいその大きな背中は、父と同程度の背中だと思っている。


 「ん!?」『!??!』


 二人が同時に気付く。後ろを振り返って、今置かれた状況を把握していった。



 ◇


 「はぁはぁ。どうだ。誰だかわかんないから名乗れよ。オレの名簿に刻んでもいいぜ。あんた強かったってな」

 「くそ・・・こ、このガキが・・・なめやがって」


 嘘だろ。まだ起き上がるのか。

 挑発してみたけど、まさか起き上がってくるとは。


 「まだ生きてんのかよ」

 「当たり前・・だ」


 立ち上がった奴の顎を見れば血だらけ。

 あの感触でアッパーが入ったんだから、顎は砕いてるはずだ。

 それに足元が今ふらついたから、脳震盪くらい入ってんだろ。


 「なんで話せんだ?」

 「・・・ぺ・・・ああ。血が出たわ。クソが・・・ちっ。ぶっ殺してやるからいくぜ・・・」


 まさか。自動回復の力がある?

 戦闘中自動回復があるなんて、ゲーム時代だったら、魔王の幹部クラスとか。災厄モンスターとかの。化け物たちだけの特権だぞ。

 

 「待て。ジョバン」

 「ん・・・てめえ。なんでここに来た。お前の担当は和大陸だろ」


 どこからともなく、ヌルと人が現れた。

 やたらと力を感じる杖を持っている。おそらく魔道士だ。

 

 「表が騒がしい。お前、騒がれたぞ」

 「なに? ここを見つけても、奴らは踏み込めなかったじゃねえか」

 「今まではな。でも今失敗したのは、あそこのガキをここに入れた事だ」

 「あそこの?」


 敵二人はオレではなく、オレの後ろを見ていた。 

 となると、ガキはジュニアだけだ。


 「あれは近衛の長の息子だぞ」

 「・・ちっ。じゃあ、今外で騒がしいってのは・・・」


 よく気付いたら人の走る音が聞こえてくる。


 「貴様ら、この国は奴隷を禁じているのだぞ。逮捕だ。連行する」


 と威勢のいい声も聞こえてきた。

 ジュニアがらみで人が来るって事は、近軍か?


 「ちっ。ここまでか」

 「おい。待て。お前ら何者だ」


 ここから消えようとしているから、オレが聞いた。 

 この敵とはまた会う気がする。


 「・・・この男・・・見たことがあるな」

 「ん? オルネラが覚えてんのか? 人の顔を?」

 「ああ。こいつは、英雄の孫じゃないのか」

 「英雄の孫?・・・ああ、あの注意しろと言われていた奴か」

 「クロノの孫。ブラインだ」


 こいつら、オレの名前を知ってる?

 でもオレさ。こいつらを一回も見たことがないんだけど。


 「誰だ。なんでオレを知っている」

 「有名人だからな。お前」

 「そうだな。消える前に教えておいてやる。次会った時にビビってもらおう」

 

 男たちは名乗った。

 最初に名乗るのは急に現れた杖を持った男。


 「私はオルネラ。天魔衆(ユタ)のオルネラ」

 

 天魔衆(ユタ)?

 何の名称だ。組織名か?


 「俺はジョー・バンダ。天魔衆(ユタ)のジョバンだぜ。クソガキ」

 

 敵の体が消え始めた。

 転移が始まってる。


 「待て。天魔衆(ユタ)ってなんだ? おい。お前ら何者だ」

 「私たちは・・・あなた方の成り行きを見ている。今回はここまでにしておきましょう」

 「ちっ。ああなりゃ、残念だがここは捨てるしかねえか。おい。英雄の孫。俺と会うまでに、勝手にくたばんじゃねえぞ。次にあったら俺がぶっ殺すからよ」

 「ちょ。勝手に消えんな。待て」


 謎の男たちは消えていった。


 「なんだ。あれは・・・天魔衆(ユタ)ってなんだ? クソ。訳が分からない」


 これは、オレの知るリミットタウンじゃない。

 ・・・・。

 いや、待て。

 オレが知らなかっただけかもしれない。

 真エンドがあるって話。

 それってもしかして、まだ隠された話がどこかに眠っているって事かも。

 17のルートのどこかにさ。

 どれかを・・・違うな。

 どれかだけじゃなくてだ。どれもが大切なルートで。

 真のエンドを目指す何かが、このお話の中にあるんだ。

 天魔衆(ユタ)もその一部。

 何らかのタイミングで登場するはずのものか?

 そうじゃない。

 何らかのタイミングですでに登場していたとかか?

 ほら、物語の主軸の中に隠れていた組織とか。

 裏の設定とかでさ。


 んんん。

 ここは難しいな。まだ話の全容が見えていないからな。


 「貴様ら、容赦はしないぞ! 捕まえてやる」


 近衛軍が入って来た。

 オレたちも拘束されそうになるが。


 『・・・・!』


 ジュニアがオレとマリンさんの前に立って、紙を出した。


 『この人。味方! ここの敵を倒してくれた』

 

 先頭にいる男性が、ジュニアに気付いた。


 「あ。ジュニア様!? 危ないでしょう。父君が怒ってらっしゃいましたよ」

 『父が?』

 「はい。冒険者組合の騒ぎに気付いた父君の命令で我々がこちらに応援に来たのです」

 『そうか。すまない』

 

 という会話すらも紙で行なう。

 ジュニア。面倒じゃないの?


 「協力者ですか」

 『そうだ』

 「わかりました。では、この方たちを解放します」


 近衛軍は、売られるはずの人間たちを解放していった。

 この仕事のために、彼らもたくさんの人で来てくれたようだ。

 

 「あなた方は、どなたでしょうか」


 オレはこの人を見たことがある。思い出しながら挨拶をしよう。


 「オレは、ブライン・レッドピックです。こちらはマリンさん」


 オレが頭を下げると同時に彼女も同じように頭を下げた。


 「そうですか。ブラ・・・ブライン?!」


 驚いた顔で思い出した。

 ハリスさんだ。

 ハリス・キミッグ。

 ライトニングの片腕の人だ。


 「あれ、知ってましたか?」

 「当然です。英雄クロノのお孫さんですね」

 「まあ。そういう時もあります」

 「時って。常にでは」

 「普段はあんまりそういう感じじゃないんで」

 

 と言うか肩書きが重い。

 普通のブラインがいいんだよな。


 「ご謙遜を。この状況。あとで説明してもらっても?」

 「ええ。いいですよ。でも少し休ませてもらえますか」

 「はい。どうぞ。こちらは救出を急ぎます」

 「はい。お願いします」


 彼らに全体の救出を任せて、オレは部屋の隅で休んだ振りをしてマリンさんを手で呼んだ。

 

 「若様?」

 「マリンさん」

 「オレだと目立つんで、マリンさん。この現場で動いてもらえます?」

 「何をです?」

 「資料などを押収される前に、読んでもらえますか」

 「なるほど。敵の情報を得ろと」

 「はい。お願いします。オレだともろに目立っちゃうんで」


 近衛軍の兵士たちがチラチラこっちを見てる気がする。

 英雄の孫だから、気になるんだろうな。

 滅多に王都になんて来ないし。


 「では、早速仕事に入ります」

 「お願いします」


 マリンさんは、近衛軍に混ざりながら辺りの資料を読んでくれている。

 押収される物的証拠を、押収される前に見ていく感じだ。


 『・・・・』 

 「ん?」


 彼女を見ていたら、隣にジュニアが来ていた。

 紙を出してる。


 『お兄さんも凄い』

 「オレが? いや、オレはたいしたこと無いよ。君の力の方が凄い」

 『自分は勝てなかった』

 「それはね。相性の問題さ。雷の状態異常を無効化されたら、攻撃が入りにくいでしょ」

 『うん。だから、押し切らないと・・・』

 「まあそうだね。速度。パワー。それで敵を圧倒するのもアリだな」

 『お兄さん』

 「ん?」

 『修行をつけて欲しい。お兄さんみたいになりたい』

 「オレ? いや、なんでオレ? 君はお父さんっていう素晴らしい見本がいるじゃないか」

 

 ライトニングと同じ戦法を持つんだ。

 父親を追いかけた方が良いに決まってる。

 

 『父は父。お兄さんは違う』

 「ん?」

 『参考にするべきだけど、違う力を手に入れるためには、お兄さんを観察した方が良い』

 「・・観察ね・・・」

 

 要は流派の問題って事?

 動き方の違いを勉強したいって事かな。


 『弟子にしてください!』

 「い。で、弟子!?」

 

 ブラインとライトニングって、どのルートでも仲が悪くなることってないけど。

 凄く親しくなるわけでもないんだ。

 それが師弟関係になる???

 一体どういう流れでこうなるんだ?


 「あなたはまだまだです。若様の指導を得るのは早い」

 『え!?』「え?」


 彼も驚いたけど、オレも驚いた。

 いつのまにか、オレたちの間にマリンさんがいた。


 「それに若様は学校がありますから指導をする時間などない。無理です。なので私が稽古をつけてあげましょう」

 『お姉さんが?』

 「ええ。リミットタウンに遊びに来なさい。そしたら私が武芸の基礎を教えてあげましょう」

 『ほんと!』

 「ええ。あなたは見込みがありますから」

 『やった。父に聞いてみる』

 「そうした方がいい。親御さんの許可は取りなさい」

 『うん!』


 と、嬉しそうな顔でジュニアはどこかに行った。


 「ちょっといいんですか。マリンさん」

 「ええ。お任せください。彼は中々筋が良い」

 「そういう問題じゃ」


 王家に近い人間の子供を預かるって、怖いなぁ。

 一つ間違えたら、こっちも死にそうだわ。

 責任とか取らされてさ。

 

 「それよりも若様。こちらを」


 彼女のメモを見た。

 あの行動の中で情報をまとめてくれていた。


 「敵は、ユタって言ってたけど。そんな名称は出てきてないね。組織名だと思うから、意図的か・・・」


 隠しているなら組織名なはず。

 だってジョーって名前はここにある。ここは隠していない。

 人名を隠していないって事だ。


 「はい。ありませんでした。ですが、ここの人身売買の裏ルートは存在しているようですね。各国に・・・」

 「ええ。ダイナガルトへの販売ってありますね」

 

 ロア王国の王都だけじゃない。他の地域についても販売ルートがある。あのミルス帝国にもだ。

 船での移動経路まで記されている。


 「各国に繋がってるのか。ここの問題だけじゃない・・・それに、裏側の裏にユタがいる。それが分かっただけでもいいか」


 近衛軍の仕事が終わりそうになった。

 ハリスさんが来る。


 「ブライン殿! ここでの作業も終わり、撤収するのですが・・・王城に来て頂けますか?」

 「オレがですか?」

 「はい。事件の詳細の報告をしたいと思いますので。当事者の方にも来て頂きたい」

 「そうですか。わかりました」

 「ありがとうございます」

 「いえ。お仕事ご苦労様です」


 本当に大変な仕事だからね。

 ここって、確か色んな仕事をするのが近衛軍だった気がする。

 騎士団と魔法師団は対外戦争。

 近衛軍は国内にも対応するから、仕事的に忙しいのはここだったはずだ。


 「はい。それでは案内します」

 

 ハリスさんについていった。


 

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