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リミットタウン 限界の町と瀬戸際の君  作者: 咲良喜玖
英雄の孫

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第13話 事件発生 光と闇の事件

 翌日の早朝。


 「若様。起きてください。行きましょう」

 「あ、はい。行きます」


 目覚めると彼女に抱きしめられている。そんな状況にも、もう慣れてきた。

 寝る時も抱きしめられているのに、起きた時も抱きしめられている。

 これはある意味じゃ幸せな事なんだろうけど、今のオレは何も思わない。

 彼女が毎晩悲しそうに泣くもんだから、全然欲情みたいなものが湧かない。

 むしろ、この人の心をどうやったら癒せるのだろうかと思うばかりである。


 「ん? ちょっとなんで??」


 パジャマから着替えをしようとすると、マリンさんが協力してくれる。

 万歳みたいにして服を脱いでいると、彼女がオレの服を引っ張った。


 「若様。お着替えの服はこちらですよ」

 

 新しい服を上から被せてくれる。

 

 「あの。なんで? オレ、自分で出来ますよ。着替えなんて・・・」

 「いいんです。私におまかせください。若様。昔はこうやって、私がお手伝いしたものですから」

 「そりゃ、昔はね」


 子供の頃の話だよね。


 「そうです。こんな小さな赤ちゃんの頃からですね。三人で悪戦苦闘して・・・大事な弟を・・・」

 「弟?」

 「いえ。こちらの話でした。若様を弟だなんて、失礼しました。お許しを」


 オレの事を弟だと思ってんの?

 そっか。そういうことか。

 そうだとすると、今までの行動の辻褄が合うな。

 弟の為にお金を出すって感じでしょ。

 お姉さん的な動き方。

 うんうん。これなら納得するわ。


 「全然いいですよ。マリンさん。オレが、ちゃんとした弟になりましょう!」

 「え?」

 「大丈夫。弟としてちゃんと守りますからね。安心してください。任せて!」


 だから泣かないで。毎晩泣かれるのも悲しいから。


 「若様。まるで、お二人のような・・・・・ああ、本当にうれしいです。このまま死んでもいいです」

 「いや、それはやめて欲しいな」


 この反応。もしかしてオレ間違えたか。

 回答に失敗したか!?

 

 「若様。私の忠誠は若様にだけです。何があろうとも、若様以外に捧げませんから、信じてください」

 「え? あ、そ。そうですか」

 「はい」


 とりあえず丸く収まったな。じゃあ下を履き替えるか・・・。


 「どうぞ」

 「いやさすがに。それは五歳児くらいの子で」

 「ささ、どうぞ」

 「出来ないから!」


 このやりとりに時間が少々かかったのである。



 ◇


 「ほらマリンさん。遅れる所だったじゃありませんか」


 ギリギリで列車に乗った。

 

 「いえ。若様が着替えてくれれば、間に合っています」

 「いや。無理だから」

 「スッと。私が履かせたものを!」

 「出来ないし。オレ丸出しになるし」

 「減るもんじゃありません。私ならスッと出来ました」

 「減るもんです」

 

 女性の前で出せってか。あそこでイチモツを出せってか。

 ヤバい人です。この人も変です。

 すみません。マリアンナと同じくらい変な人を発見しました。

 

 「子供の頃はやらせてくれましたよ」

 「子供だからね」


 大人に近い今にやったら大変な事になるわ!


 「ああ。もう疲れたぁ。えっと指定席だよね」

 「はい」

 「そこ行こう」

 「はい。こちらですね」


 東西線の列車は、新幹線型。

 皆が進行方向を向いていて、座席が左に2。右に3になっている。

 

 オレたちは、左の列の席の前から三番目だった。


 「こちらですね」

 「うん。じゃあ、どっちがいい?」

 「私は廊下でいいです」

 「わかった。オレが窓ね」

 「はい」


 廊下の方が良いのかな。

 まあ本人が良い方でいいでしょ。

 

 しばらくして。

 

 「若様。六回は泊まらねばなりませんね」

 「ですね。結構遠いですからね」

 「どうしましょうか。泊まれない場合もあるかと思いますが」

 「まあ、その時はその時ですね。上にでも寝ますか」

 「わかりました」


 野宿してもこの人強いしね。なんとかなるでしょう。


 ◇


 王都までの長い道のり。

 ファストトラベルを求めるだけの旅なのに、凄く長く感じた。

 移動は合計で11日。

 ロア王国の王都にまで行くのに遠回りだったから時間が掛った。

 

 「ここが王都か」

 「若様?」

 「あ。やっと来たなって」

 「そうですよね。初めて来たような口ぶりでしたね」

 「ええ。おぼえてますよ・・・」


 って来たことがあるのか。

 ブラインってここに来た事があるのか!

 ちょっとわからねえ。過去編ください。オレ見てません。


 「若様。あっちがなんだか騒がしいですね」

 「あれ? そうですね。行ってみますか」


 王都の一角が何だか騒がしい。

 建物の中が原因そうだけど、外に人だかりが出来ていた。


 「おいおい。何があったんだ」

 「少年が助けに行ったそうですよ」

 「それって大丈夫なのか。裏路地だろ」

 「ええ。冒険者組合が引き受けなかったみたいで」

 「まずいだろ。それ」


 人だかりの会話を聞いて、オレは中に行ってみた。


 入って分かった。ここはギルド会館だ。


 「ん? 珍しい場所が騒がしいな」

 「若様? こちらに何の用で」

 「いや。何があっただけでも聞いておこうかなって。気になるんで」


 中の騒がしさは冒険者らの会話だった。

 だから、比較的暇そうな受付の人に話を聞く。


 「何がありましたか?」

 「冒険者さんですか?」

 「いいえ」

 「それではお答えが出来ませんね」

 「そうですか。残念です」


 引き下がろうとしたら、隣から声が聞こえた。


 「私が冒険者です」

 「え?」


 マリンさんが真顔で答えていた。


 「あなたが?」

 「これを」


 マリンさんが冒険者を証明するカードを出した。

 この人、身分証を持っていた。


 「これは・・・マリン・ケットシー。まさか、三子のマリン?」


 カードを見た受付の女性の声が震えていた。


 「そう呼ばれた時期もありました」

 「すみませんでした。お許しください」

 「いえいえ。若様は冒険者じゃありませんから」

 「若様・・・三子のマリン・・・まさか、この方がレッドピック家のご当主? 英雄クロノのお孫様?」

 「そうです。ブライン様です」

 「なんと、これは大変失礼しました。どうか、私の失礼を許してもらいたいです」

 

 なんか大事になってる。

 あなたは何も悪くないんだけど。


 「いえいえ。謝らないで。全然大丈夫です。はい」

 「ありがとうございます」

 「ええ。本当に気にしないでください。気を悪くなんてしてませんので」

 「ああ。素晴らしいご当主様で」 

 「当然です。若様ですから」

 

 何が当然なのかは分からない。

 でも、彼女が自慢げになってるから、これでいいや。

 

 「それで何があったんです」

 「はい。冒険者組合に必死に訴えていた親御さんがいまして」

 「ん?」

 「あ。最初から説明しますと・・・」


 丁寧に話を聞くと。

 冒険者組合に一人の女性がやってきて。

 自分の子供が攫われたと訴えた。

 その依頼を頼もうとしていたらしいのだが、いかんせん彼女が持っている所持金が少なく、その金額だとDランク相当の仕事内容しか取れない額だったようで、なのでもう一度しっかり彼女の話を聞くと、攫われた場所が秋月と呼ばれる裏ギルドの本拠だったらしく、それだとランク的にはBランク相当の任務になるから、発注が出来ない問題に陥り、そこでひと悶着があったらしい。

 問題は平行線を辿るかと思いきや、一人の少年が。


 『・・・・・』


 女性の肩に手を置いて、紙を置いていった。

 その時の紙には、自分に任せておいてくれ。

 と書いてあったらしい。

 少年が一人で裏ギルドに突入してしまったという事で、ギルドを含めて一般人も混乱状態になっていたようだ。


 「なるほど。その少年が危ないんですね」

 「そうですが、どっちもですね」

 「ああ。そっか。攫われた子もですね」

 「はい」

 

 マリンさんが口を出した。

 少し怒ってる気がする。ちなみに態度には出ていない。

 

 「それはどこです?」

 「王都の裏。闇の雰囲気が漂う。貧民街です」

 「あそこですか。正確な場所は?」

 「行く気なんですか」

 「子供だけを向かわせるなんて出来ません。私が行きます」

 「しかし、報酬が・・・」

 「私はいりません。子供の命が報酬です」

 

 助かった命が報酬。

 ってのは、無報酬で良いって事だな。

 

 「しかし、冒険者は」

 「私は冒険者じゃありません。それに相変わらず損得で引き受けるのですか。冒険者と言うものは」 

 「それは・・・そうですね。そうなっています」

 「ええ。だから残念ですね。それで場所は」

 「わかりました。こちらです」


 地図に記してくれた。


 「あ。あそこですね。急ぎます」

 「ありがとうございます。マリンさん」

 「いいえ。お礼は救ってからです」


 マリンさんが動き出したので、オレもついていった。


 「若様。あなたは、あそこで待っていてください」

 「駄目ですよ。オレも行きます」

 「駄目です。危険です」

 「却下です」 

 「下がりなさい。若様は!」

 「下がりません。オレはついていきますよ」

 「・・・・はぁ。ほっとけないのですね?」

 「当然ですね。少年なんでしょ。その子たちは」

 「クロノ様にそっくりですね。ブライン様は! 頑固だ!」

 

 怒っていたマリンさんは最後に笑っていた。

 その顔は今まで一番うれしそう。素敵な笑顔だった。


 


 

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