第12話 そのお金があったら・・・
「こ、ここは・・・」
列車の窓から街道を見たマリンさん。目が悲し気で、どこか寂しそうだった。
「どうしました?」
「いえ。なんでもありません」
「そうですか? 具合が悪いんですか?」
「いいえ。大丈夫です。若様」
「本当ですか?」
「ええ。大丈夫ですよ」
「マリンさん。オレの用事に付き合わせちゃってるんで。具合が悪くなったりしたら、本当に申し訳ないんでちゃんと言ってくださいよ。お休み取ってもらいますからね!」
「ええ、体は大丈夫なんですよ」
「本当ですね!」
「ええ。本当です・・・あなた様は、本当にお二人に似ている・・・・」
と言ったマリンさんは柔らかい表情になった気がした。
オレの頬に手を置いて、優しく包んでくれた。
「お守りします。私が、必ず・・・二人の分まで」
「え? あ、はい」
とにかく必死そうなんで、彼女の気の済むままにしておいた。
マリンさん。
毎回寝るたびに、寝言を言ってるからな。
気になるっちゃなるけど、言ってくれるまでは、強引には聞き出せないからな。
デリケートな話だろうし。
誰だっけ。
ベルクとアスカって、何かの話で聞いたことがある気がするんだよな。
昔話かな。リミットタウンのさ。
「若様。ミカン食べますか?」
「まだあるんですか?」
「はい。あ~ん」
オレのおやつタイムがまた始まったのだった。
◇
「もう少しかな」
大都市の雰囲気が近づく。
遠くから見ても建っている建物が大きい。
「マリンさん、ルードックに到着したら、すぐに王都に行きましょう」
「若様。お会いになられなくても?」
「ルーフォンにですか?」
「はい」
「会ったらどうなると思う」
「それは大歓迎でしょう」
「でしょ。何日拘束されるかな」
「ああ・・そうなりますね。まずいですね」
マリンさんは、察してくれた。
フィルドがブラインを見たら確実に。
『ブライン帰って来てくれたか。我らの盟友。私の大切な英雄よ! ついに帰還してくれたのだな。急げ。宴を始めよ!』
だろうな。
あの人面白おじさんだから。飲めや、騒げやの大騒ぎになるだろうからな。
それに普通はさ。よく来たなだよな。でもブラインに帰って来てくれたかって絶対に言うと思う。
家族だと思ってるんだよ。ロッティの件が無くてもさ。
「だからこそこそして、次の便の列車に乗らないといけないんだよ」
「たしかに・・・」
マリンさんと結託して、ここを移動しようという事になった。
大都市ルードックは鉄道の南北線に加えて、東西線が存在する。
東西線は、王都にまで続く鉄道なので、何もせずとも採算が取れる路線だ。
宣伝などをしなくても多くの人が勝手に乗ってくれる路線。だから、ここの列車で席を取るのも難しい。運が良ければ、割り込める形だ。
それに対して、南北線はリミットタウンに一番近い都市のウエストシティとここを結ぶ路線。
実は、ここに鉄道があっても、基本採算の取れる鉄道とは言い難い。
なのに、なぜ南北線があるのか。
それは言わずもがな。ルーフォン家のせいだ。
あの家が、英雄とはすぐに連絡を取り合いたいのだとして作り上げたんだ。
大幅マイナスってほどじゃないが、トントンか、やや下がり目の路線をいまだに支える大貴族。
ルーフォン家は、利だけで動く家じゃない。義でも動く家なのだ。
「チケットが取れたらいいな。ここは運だな」
降りてすぐに駅員さんに確認を取る。
マリンさんはテキパキ動いてくれていた。
◇
「無理ですか」
「ん~。ちょっと待ってくださいね」
駅員さんは、列車の席の情報を調べてくれた。
「次の列車ですよね」
「はい。乗りたいのですが、無理ですかね」
「・・・・空いてないですね」
「そうですか。ではその次は」
「待ってください。まとめて見てみます」
今日一日の列車で空きを探してくれている。
駅員さんはとても親切な人だった。
「どうでしょう?」
「ああ、これは今日は難しそうです。乗車率が、120ですね」
120って、席に座れてねえじゃん。
ここって西の始発だよね。どうなってんの。
「わかりました。明日はどうでしょうか?」
「はい。明日だと……早朝の列車が空いてますね。指定席しかありませんが」
「いいです。そこを二席」
「わかりました。お二人で10万です」
10万?!
おい。クソ高いぞ。どうなってんだ!?
ぼったくり???
「わかりました。これで」
払えるの!?
なんで、お給料ほぼ出してないですよ。
それに、リミットタウンよりもお金持ち!!!
「それではチケットはこちらです。どうぞ」
「ありがとうございました」
マリンさんがこっちに来てくれた。
「取れました。若様・・・残念な事に明日になりましたが」
「いえ。いいんですよ。しかし、そんな大金どこから・・・マリンさん、何か危ない事でも・・・」
まさか、体でも売ってんじゃないよね。
嫌だよ。そんな事だったら。
「ああ。そこが気になりましたか。あれはですね。今まで私が使わなかったお金です」
「ん?」
「あれは、旦那様やクロノ様から頂いたお金ですよ。いわばお小遣いですね」
「え、大金をぽんって出せるんですか?」
「はい。1000万近くは持っていますから」
「・・・・」
「持ってるんです。私・・・はい」
ちょっと待った。都市よりも金持ちなんですが。
それよりも、1000万ってメイドさんが貯められるものなの?
お小遣いだとしても、マリンさんにあげ過ぎじゃない。クロノとダグノスさ。
「・・・あれ。でもじゃあ。なんで一部屋?」
単純に疑問に思った。
お金の節約って理由で、列車の部屋を一部屋にしていたはず。
「はい若様。今日の宿を探しましょうね」
マリンさんがオレの背中を押してくる。この力が強い。どんどん押されていく。
「あの。なんで一部屋・・・」
「どこがいいでしょうか。若様」
はぐらかされたオレは、マリンさんが大金持ちで会った事を知ったのである。
「ちょっと。なんで一部屋だったんですか・・・」
「今日はお高めの所にしましょう!」
本日のブラインは、メイドさんに全力で誤魔化されたのであった。
めでたし。めでたし。




