伝説の英雄とリミットタウン三人衆 下
英雄に救われた子供たちは、半ば強引にクロノに連れていかれる事となった。
少年たちが乗っていた壊れた馬車は使い物にならず、その近くに止めた敵の男たちの馬車の方が使えた。
だからクロノは。
「これを拝借するか。どうせクズのものだ。盗んだんじゃない。これはいわば戦利品だ」
と堂々と敵のものを使って家に帰り始めた。
「お、おっさん。運転できるのか」
「ああ。大丈夫だ。一応貴族だからな。馬の扱いは義務だ」
「え・・・お、おっさんが貴族?」
どうみても普通の気の良いおっさんにしか見えないベルクは、クロノが貴族かどうかを疑っていた。
「見えないか」
「う。うん。悪いけど」
「いいな。お前。正直者だな。いいぞ。俺は正直者が好きだ。ガハハハ」
少年の頭を鷲掴みにして、クロノは豪快に笑った。
「や、やめてくれよ」
命の恩人だから強く出られなかった。そういうわけでもなく、この人に褒められたのが嬉しかったベルクだった。
「さあ乗れ。俺の街までいくぞ」
「「「は、はい」」」
漢と三人の子供の小さな旅が始まった。
◇
しばらくして。
「なんで襲われてたんだ?」
そこが気になるのが遅すぎる。
御者の役割をしてくれているクロノに、呆れるわけではないが、疑問を持ち続けるベルクである。
隣にいるクロノの顔を見て答えた。
「俺たち。冒険者の一団にいたんだ。その子供」
ベルクは自分自身を指差した後に、二人の少女を指差した。
「親が冒険者だったか」
「うん。それで、団長たちが何かの戦いで、同じ冒険者か傭兵団の恨みを買ったみたいでさ。どこかの一団に追われる羽目になって、団が壊滅した。大人たちが俺たちを生かすために犠牲になったんだけど・・・俺たち、子供たちだけで逃げきろうとしたけど、出来なかったんだ」
「そうか。お前らだけになったのか」
「うん。兄さんたちも途中で死んだんだ。だから俺が急いで逃げようとしたんだけど。馬も上手く操れなかったから、最後は駄目だった」
見かけた時に馬車がふらついていたのはそういう事か。
クロノは運転しながらそう思った。
「そうか。じゃあ。お前らは、身寄りのねえガキか」
「は、ハッキリ言うんだな。おっさん!」
「ああ。ここを誤魔化してもしょうがねえ」
「・・・・そうだよ。誰もいねえ。俺たちのそばには、俺たち以外誰も・・・・」
ベルクが顔を伏せそうになったら。
「馬鹿!」
クロノがその頭を軽く殴った。
「いてえ。なにすんだよ」
ベルクが自分の頭を擦る。
「お前たちの周りに人がいない? いや、人はたくさんいるんだぞ。結論を急ぐな。お前らが狭い世界しか見てねえだけだからな」
「・・・だ。でも・・・」
反論をしたかった。しかし。
「俺らにはもう大切な家族がいねえんだよって言いたいのか?」
「そうだ! 俺たちの家族はもう・・・」
先に言われてしまった。
「そいつはいねえよな。殺されちまったんだからな。じゃあ。そいつらとお前らは血が繋がった家族だったか?」
「一部はそうだ」
「そうか。それは悔しい。悲しい。辛い。だが、お前らは生きた。ならば、お前らはその彼らの分まで生きねばな。彼らが生かす判断を取ってくれたからこそ生きねば。お前らが今を生きているのは、彼らの行動の結果だ」
「・・・・・・」
自分が生きられたのは、親や団長たちが命を賭してくれたから。
それは少年にだってわかっていることだった。でも悔しさが先に来て愚痴を言いたくなっていた。
「だから心配すんな。そのバトン。俺が受け取ろう」
「え?」
「任せろ。ガキがガキを育てるなんて出来ねえ。ガキはガキのまま。俺に育てられろ。まとめて面倒を見てやる」
「お。おっさん?」
「お前が先頭に立って、後ろのあの子たちを育てるなんてしなくていい。俺に任せろってんだ。お前もガキなんだからな!」
「・・・・い。いいのか」
「ああ。お前はこれから俺の息子だ。いいか」
「で、でも・・・」
「血が繋がらなくたって、俺がお前を大事に思えば、お前は俺の息子だ。どうだ!」
「・・・お。おっさん・・・す、すまねえ。俺・・・おっさんを頼る」
「カカカカ。まかせろ!」
頼れる大人がいない少年は静かに泣いた。
クロノは隣にいる少年に微笑みかけるだけで、それ以上は言葉を発しなかった。
◇
もう少しでリミットタウンへ。
「そうだ。名前は? 聞いてなかったな。歳も教えてくれ」
「俺はベルク。ベルク・ラウ。9歳」
クロノは後ろの二人にも話しかけた。
疲れ果てて寝ていた二人が起きていたからだ。
「お前らは」
「私は、アスカ・インター。9歳です」
「そうか。そんで、そのちっさいのは」
「・・・マリン・・・」
マリンはまだ幼いので名前だけを言えた。
四本の指を出していたので、4歳だった。
「マリンな。皆、良い名だ。全部俺の子になったからな。俺の街で気兼ねなく暮らせ! ほれ。もうすぐ見えるぞ。俺の街だ!」
リミットタウン最盛期。
クロノがいた時は、街であった。
人も、物も、全てが流れている。
多くが流れると、経済も潤沢となり、人々の幸せにも繋がっていく。
しかし、かの地は、英雄と共に歩めたために、たとえ自身の懐事情が悪くなったとしても、彼らはその街に住もうとしていた。
「お~い。ダグノス!」
入口から声を掛けると、伝言が始まった。
面白いことに、この街の人々は領主の言葉を街中に知らせるのだ。
「ダグノス様が英雄様に呼ばれてるぞ」「ダグノス様」「ダグノ・・・」「ダグ・・・」
その様子を見て、ベルクは変わった街だなと思った。
彼らがお屋敷に向かうと、そのお屋敷の前にはダグノスがいた。
「親父? なんで帰って来たんだ? ルーフォン家に遊びに行くって言ってたじゃねえか」
ダグノスが戸惑うのも無理もない。数日前にクロノが急に『ちょっくらいってくるわ』と言って出て行ったばかりだったからだ。
「すまん! 取りやめた!」
「なんでだよ。ジャンさんが不貞腐れるぞ」
「ハハハハ。かもな」
「かもなじゃねえよ。絶対だ。あとで愚痴愚痴言われるんだからな」
親友が会いに来ないとわかったら、三日以上はあちらの家族たちに文句を言うだろう。特に息子に言うはずだ。
フィルドにすまんと思うクロノだった。
「それよりな。これを拾った」
クロノが子供三人を自分の前に並べた。
「ん?」
見知らぬ子供を見て、ダグノスが首を傾げる。
「これ」
息子が戸惑うから、クロノは子供たちを更に前に出した。
「子供だよな? どこの子だよ」
「拾った」
「おい、何してんだ親父。攫ったんじゃねえだろうな」
「拾ったって言ってんじゃねえか」
「馬鹿言え。どこに子供が落ちてんだ。それに落ちてたって、どこに拾う奴がいるんだ」
「道端に落ちてた。それに拾う奴はここにいる」
「ふざけんな。この子ら、疲れた顔してんじゃねえか。親父のせいだろ」
「違うわ。襲われてたから、疲れたんだろう。たぶん」
「んだと。それを早く言え。ボケ親父」
「は!?」
ダグノスは、一番小さい女の子を優しく抱きあげた。
「君たち。俺についてこい」
「「え!?」」
「早く。この馬鹿親父じゃ駄目だ」
「「は。はい」」
ダグノスは三人を自分のお屋敷の中に連れていった。
「アルフィナ! 急げ。風呂の準備しろ」
「はい」
「今すぐだ」
「わかりました。若旦那様」
指示を受けたメイド長が動く。
「バーランド。部屋を用意しろ。それに服もだ。この子たちを保護する」
「わかりました。若旦那様」
執事に命令を下ダグノスは、自分の前に三人の子供を並べた。
それぞれの子供の頭を優しくなでる。
「お。俺たち・・その・・」
周りがキビキビ動く中、何も出来ない事で、いたたまれない気持ちになったベルクに気付いたダグノスはそれ以上を言わせない。
「いいんだ。気にするな。君たちは、親父に拾われたのが気の毒だったな」
「え?」
「俺が拾えば、すぐにでも休ませたのにな。ハハハ」
「・・・・」
彼らの目には涙があった。でもそれを流させない。
ダグノスはそういう男だった。
「ほらほら。明るくいなさい。俺の街に来たんだ。笑顔が大事だ」
「「「は・・・はい」」」
「そういえば、親父は君たちに何て言って、ここに連れて来たんだ?」
「・・・・俺たちの事を子供にしてくれるって・・・・い、言ってくれて・・・あの・・・その・・・」
「ああ。そうか」
ダグノスは、そういうと。
彼らの頭を撫でた。
「そいつは駄目だ。それは禁じる」
「「「え?」」」
この家に入る事を拒絶されたと思い。
全員が悲しそうな顔をした。
しかし、ダグノスの思いは別にある。
「俺の子供にする」
「「「はい?」」」
話の流れが急に変わり、三人が慌てて返事を返した。
「親父は駄目だ。親父の元じゃ、碌な成長をしない。いいか。俺が立派になったのは、お袋のおかげだからな!」
親父流の子育ては危険。
だからダグノスは。
「そのお袋に育てられた俺の方が親父よりも絶対にいいんだ。いいか。俺の方が親父よりも大切にするからな! 安心して、この街に住め。お前ら、俺に任せてくれ」
自分の子と同じように育てる事を決意したのがダグノスである。
こうして、リミットタウンの三人衆。通称ダグノスの三羽烏と呼ばれる子供たちが誕生したのである。
後に成長する事になる彼らは、ダグノスがブラインに残した最高の戦力となるのだ。




