伝説の英雄とリミットタウン三人衆 上
ブラインが誕生する一年前。
領主がまだクロノであった時代。
クロノがルーフォン家を久しぶりに訪問するために列車に乗車していた時の話。
ウエストシティからお忍びで移動中。
駅で一泊してから二つ目の駅を通り過ぎたあたりで、外の違和感に気付く。
「ん? なんだあれ」
三台の馬車が走っていて、先頭を走る馬車が後ろを走る二台の馬車に襲われているようにクロノの目には映った。
なぜなら、先頭の馬車からは煙が上がっていた。後ろから魔法を撃ちこまれたようだ。
馬も左右に振られて走っているから、馬車自体がふらついている。
「あれは・・・しょうがないな。俺が出よう」
列車の窓を開けて、天井に移動する。
すると周りの乗客が騒ぎ始めて、気付いた車掌が窓から上を見る。
「お客様。危険です。何をしているのですか。大変危険ですぅ!」
「いやいや。騒がせてすまないね。俺。ちょっくら降りるわ」
「は?」
「運賃は先に払ってるから、途中下車に文句はねえだろ」
「そ。そんな問題ではないのですがぁぁぁぁ!?」
駅を過ぎたばかりの列車。
当然速度は落としていない。速度マックス状態の列車から、男性が飛び降りた。
「クロノバースト」
クロノ・レッドピックのオリジナル技。
時魔法で足場を作り、物体を加速・減速させる。
今回は本人の移動を助けるために、自らその足場に足を掛けて、踏み込む速度を最高にした。
空を飛ぶようにして、彼は宙を駆けていった。
「「「「え!?」」」」
列車に乗っていた客一同が大声で驚くが、その列車も進んでいくので、声が遠退いていった。
しかし、その客の中には、あの技を見たことがあるものがいた。
「あれは、クロノ様!?」
「「「「えええええええええ」」」」
英雄クロノが同乗していたのか。
一目見たかった客たちは、彼が見える位置の窓に近づこうと急いでいた・・・。
◇
二台の馬車の挟み撃ちにより、先頭の馬車が転がされた。
横転する馬車の脇に追いかけていた馬車が止まる。
一人ガラの悪い男が飛び出した。
「逃がすか。お前らは皆殺しだ」
男とは反対に、横転した馬車からは、小さな男の子が飛び出てくる。
話しかけてきた男には目もくれず、先に中の荷台に話しかけていた。
「・・・に、逃げろ。アスカ。早く逃げるんだ。マリンを連れて遠く行け」
「で、でも。ベルク。あなたは?」
「俺のことはどうでもいい。お前たちは逃げろ」
「嫌だよ。い。一緒に逃げよう」
「無理だ。俺たちはもう壊滅したんだ。一緒はもう無理なんだ」
「そんな・・・・だって」
「早く逃げろ。俺がこいつらを」
小さな男の子は果敢にもガラの悪そうな男に立ち向かった。意外にも鋭い切れ味の剣技に、ガラの悪い男も後手に回る。
「クソガキが。大人しくしろ」
数度を見せてもらえば、そのくらいの剣技であれば見破れる。男は少年の上手を取り、遠慮もせずに思いっきり顔を殴った。
顔が腫れても少年は諦めない。幼いながらも確かな剣筋。武の道を歩んでいる少年は、再び立ち上がった。
「はああああ」
「死ねガキが!」
「せめて、お前だけでも!」
刺し違えても殺す。その勢いは良し。
ただ、男の武器の方が先に少年に辿り着く。
首筋に剣が入り込む。その時。
「あ? なにしとんじゃ。ワレ!」
男の横には、漢がいた。
伝説の漢は拳を固く握りしめた。
数々の強敵を沈めてきた一撃をかます。
「鉄拳!」
クロノバーストの力を得ている拳は、火を噴いた。
文字通りに本当に炎を纏っているように感じるほどに、その拳は速い!
「ぐああああああ」
ガラの悪い男が吹き飛ぶと。
「へ!?」
少年から素っ頓狂な声が出た。
目の前の出来事を認識できなかった。
「おい。そこにまだいるんだろ。この子らを襲う気なんだろ」
漢が言うと。
「誰だこのおっさん」
「死にたいようだな」
「いくぞ」
二台の馬車からは、十五名のガラの悪い連中が飛び出た。
「久しぶりだな。俺を知らねえ連中と会うのは気持ちが良いもんだ」
ひとたび歩けば。
英雄様の声。
それが嫌なわけではないが、肩身が狭いと思っているクロノは、誰も知らない地に行きたいと思っていた。
「てめえなんて知るか。おっさん。自意識過剰だな」
「おうおう。いい感じに温まった奴らだな。さあ来い!」
四方八方とはこの事。
表も裏も、そして天からも人が襲ってきた。
「時の道標」
クロノの奥義が発動。
彼から半径10m以内の敵に向かって、道標の線が繋がる。
その導きの線の通りに動けば、敵を倒せるという技だ。
一つも間違えずに、線通りに動けば、クロノが敵に負ける事は万が一でもない。
「「「「ぐああああ」」」」
襲い掛かった敵たちには、攻撃タイミングも移動速度にもバラツキがあった。
なのに、倒される時は全員が同じタイミング。
時の道標は、発動中にクロノ・バーストの動きと、僅かながらに時を止める力があった。
全てが一瞬で終わり、少年はその場で呆然とした。
「す。すげえ!? だ、誰なんだこのおっさん」
戦いの音が消えたので、隠れていた少女が、まだ幼い女の子の手を引っ張って少年の前にいった。
心配していたから、彼に飛び込んで抱きしめる。
「ベルク。ベルク。無事なの。無茶したんだから」
「あ・・・ああ・・・俺は無事・・・そうだ。お前たちは、怪我は!」
「私も、マリンも無事だよ」
「よ。よかった。本当によかった」
安堵の表情をして涙を流す三人が固まるようにして抱きしめ合う。
一通り泣かせた後、クロノが話しかけた。
「おう。どうしたお前ら」
「お、おっさん。ありがとう。俺たち。おっさんに助けられた」
「まあまあ。気にすんな。俺は大した事してねえ」
「いや。どうみても・・・」
助けてもらった場面であり。そして大事だと思うんだけど・・・。
少年は辺りを見て、敵が散っている現状が信じられなかった。
「こいつらなんだ? クズか?」
漢は笑顔で言った。
「いや、クズかどうかは・・」
それは周りの評価次第。少年の方が大人だった。
「ガキを襲うのはクズだろう。何が理由であろうとな。大人だったら喧嘩で済ませてやるが」
それはどうなんだろうか。少年の方が思慮深い。
「まあ。なんでもいいや。俺んとこ来い。ガキども」
「え?!」
「どうせ、行く当てもねえんだろ。どっかから逃げてきたガキだろ? な!」
「「「・・・」」」
急展開に彼らは黙ってしまった。
「なあに。気にすんな。俺がビシッと言ったら、皆住まわせてくれっから。な!」
「は、はぁ?」
「いいだろ。来いよ。俺のリミットタウンに!」
ロア王国。伝説の英雄『クロノ』
この漢は、気さくでおおらかで、細かいことを気にしない。
人助けが趣味の英雄であった。
自らを英雄だとも思わない。ただのおっさんだと信じて・・・。




