第11話 列車
リミットタウンにおける列車は、現実世界とは少し違う。
運転士の他に燃料士と呼ばれる生活魔法を扱える人間が搭乗している。
彼らが、石炭や電気のエネルギーの役割を担って、動力を生み出すのだ。
そのため、人が動力源になっているから、列車の運賃がややお高めになっている。
今オレたちが乗っている列車の作りは、日本の昔ながらの列車に近い。
向かい合う席に小さなテーブルが着いているタイプの列車だ。
大勢で込み合うと相席になるが、田舎から大都会に向かうとなると、席は独り占めになる。
マリンさんが向かいに座って、オレは窓を見ていた。
外の景色はド田舎だ。田んぼみたいな場所や緑が多くある場所。匂いもそんな感じで懐かしい感覚がある。
「若様。あ~ん」
「え?」
「あ~ん」
「は、はい」
マリンさんは、いつの間にかミカンを剝いてくれていた。
一粒をオレに押し付けてきたので、仕方なく食べる。
「どうですか。おいしいですか」
「え。まあ。そうですね。甘いです」
「そうですか。駅で買えてよかったです。はい。あ~ん」
「いや、自分で・・・食べるんで・・・・ちょ・・・ちょっと」
「あ~ん」
これは食べないと終わらないらしい。
ブラインの年齢的に、ほぼ子供じゃないので、めちゃくちゃ恥ずかしい。
周りに人がいなくて助かった。
「んんんん」
マリンさんってこんな人だっけ?
世話焼きなイメージがないな。
いつも淡々としていて、目が結構きついから、睨んでるみたいな感じなんだよな。
なのに、今は穏やかな雰囲気があるな。
「若様、どうかしましたか?」
「いや、なんでもないよ」
「そうですか。では、あ~ん」
「これ、いつまで続くの」
「私が満足するまでです」
「ええええ」
「あ~ん」
食べ切るまでは終わらないらしい。
◇
列車で日を跨いで大移動をする場合。
駅で連結する事になる寝台列車の方の予約を取っておかねばならない。
列車は、夜には移動をしないので、そこの連結した車内で寝泊まりするシステムになっているんだ。
マリンさんが全ての手配をしてくれているので、オレは彼女に任せっきりになっていた。
彼女の案内を受け入れる。
「こちらがお部屋ですね。お先にどうぞ。若様」
「へえ・・・え? 一部屋ですか」
案内された部屋は学校の寮よりも狭い部屋。
ベッドは寮よりも大きめだけど、あっちとは違って机やクローゼットがないので、かなり狭く感じる。
「当り前です。若様。二部屋借りるようなお金がありません。寝泊りをあと数回繰り返すのに、毎度二部屋を借りるとなると・・・それは・・・さすがにですね」
「そ、それはそうですよね・・・」
言いたい事は分かる。だけど、マリンさんと同じベッドに寝ろって事だぞ。
ここしかも狭い。二人がギリギリのベッドだ。
寝息が聞こえるってレベルじゃなくて、かかるぞ。顔か後頭部に!
「私と一緒が無理ならば、若様だけでもこちらに」
「え。そうなるとマリンさんは?」
「野宿です。上にでもいます」
「それは駄目だ。外は駄目」
「しかし」
「女性が外は危険だ。モンスターの襲撃の危険性だってあるし。変な男が寄って来るかもしれない。マリンさん美人だから危険だよ」
「その程度の男は、私が撃退できましょう」
「ダメダメ。ああ。もう仕方ない。一緒に寝ましょう」
「はい」
マリンさんと一緒に寝る事になっても、まあなんとか大丈夫だろう。
この人は理性の塊だろうからな。どっちかと言ったらオレが危険だな。
「では失礼します」
「はい? なんで?」
彼女が横になっているオレを抱きしめてきた。しかもガッチリである。
「すみません若様。私、抱き枕がないと寝られないタイプです」
「オレが枕って事?」
「すみません」
「はぁ。もういいや。どうぞ」
「ありがとうございます」
じゃあ。どうやって外で寝ようと思ったんだ?
抱き枕ねえだろ。外に。
って思ったことは言わないでおこう。
スヤスヤ眠ってるようだしね。
とにかく意識がおかしくなりそうなオレは、彼女を背にして目を瞑ってる。
柔らかい感触が背中中に広がってるので、意識が裏にある状態になっていた。
すぅすぅと彼女の肺が動いてるのが背中から伝わっていて、オレの首には人の暖かい息が掛かってる。
だから、眠れそうにない。
正直言おう。ドキドキし過ぎて、ヤバい!
オレはこの旅で寝られるのか!
こんな状態で、寝られるのか!
これ毎日なの。お願いします。どなたか助けてくれませんか。
この人の枕になってくれる人を募集します。
「若様は私がお守りします・・・若様・・・我らの光・・・・旦那様の希望・・・私たちの英雄様の忘れ形見・・・」
寝言でも、この人はオレを守ってくれているみたいだ。
本当に信じてくれているんだな。ブラインをさ。
「皆さんも守りましょうよ・・・アスカ・・・ベルク・・・待って・・・待ってください」
アスカ。ベルク。
どこかで聞いたことがあるな。
ん? 誰だっけ。
リミットタウンに登場したと思うんだけど、それがどの場面だったか。
「・・・・無理ですよ・・・・一緒に若様を・・・待って」
ちょっと気になったから振り返ってみた。そしたら彼女の目に涙があった。
流れて落ちそうになっているから、触るのは悪いと思ったけど、ちょっとだけ顔に触れてふき取ってあげた。
「マリンさん。何か背負ってるのか・・・この人」
オレの為だけに泣いてない。
誰かと一緒だったのかな。
クロノ? ダグノス?
どっちかの時代で分かるのかな。
彼女とブラインがそんなに歳が離れていないから、ダグノスか?
どっちでもいいけど、何か心にあるのなら、オレがなんとかしないと。
オレは領主だぞ。
この人たちを守るためにいる領主だ。
命だけじゃねえ。この心も守るんだよ。
泣くくらい寂しい思いなんてさせちゃいけないんだ。
がんばれ。オレ。ここも踏ん張りどころかも知れねえ。
この顔・・・絶対に笑顔にしてみせる。
明日からやるぞ!




