第9話 一人じゃない
朝ご飯。
控えめにしているレインを見た。
隣に座る。
「食べないの?」
「うん。楽しみにしてるから」
「そっか」
昼の買い食いをたくさんしようとしていた。正直、めっちゃ可愛いと思った。
「ブライン君は普通に食べるんだね」
「うん」
オレは通常通り。今こっちの席に来た人たちとは別だ。
「ブラインたち、どこかに行くのか」
「お二人はどちらに?」
ノアとマリアンナがやって来た。料理の盛り付けが相変わらず異常。
まず聞きたい。どこにそのボウルがあるんだ。
バケツ一杯分のボウルってどこに置いてんの?
食堂のおばちゃんから貰ってくるのかな?
「買い食いするんだ」
レインが答えた。
「買い食い?」
「食べに行くのですか」
「うん。ボク、した事ないから」
「まあ。そうだろうな。姫様に勝手に出歩かれたら、王宮内は大変だ。パパもトリス殿も慌てるだろう」
「うん。お師匠様がいつもそばにいてくれても、あの人は出不精だから、連れていってくれないしね」
トリスはインドアで有名。
王宮から外に出るイメージがない。
出ると彼女が思う範囲は、王都内だ。
王都から一歩出たら、遠出なんだって言っているくらいに、彼女は外に出ないとされている。
でも、本来は姿を隠して外に出ている。
彼女本来の仕事は、ランド商会の仕事だからだ。
王国のスパイではないが、二重生活をしている謎の女性なんだ。
「お師匠様って、いつも守ってくれるの?」
オレが聞いてみた。
「うん。王宮内にいる時は、そばにいてくれるんだよ」
「危険な事でも起きた?」
彼女がそばにいるって事は何か起きた事があるのか?
「んんん。わかんない。昔、あったらしいんだけど。ボクちっちゃくて、覚えてないんだ」
「そうなんだ」
オレもその情報は知らないや。
何かあったんだな。姫様だし、誰かに狙われる事なんてありえるだろうな。
「あの方に守ってもらえていたら、姫様の御身は無事を保証されたもの。例え敵が100人いても一瞬で倒せますから。僕のパパが守るよりも安全ですよ」
「うん。まあ、そうだよね。お師匠様強いもんね」
彼女は、歩く凶器みたいな人だしな。
毒魔法で、しかも得意属性は幻・滅・無。
だからクソ強いんだ。その組み合わせは強烈。
特に幻によって、毒がどこにあるか分からなくなるから、トラップが100%命中のトラップとして発動する。
悪質性、ここに極まる。
ってな感じだね。
「いいですね。レインさん。私も誰かに守ってもらいたい所です。ピッタリと」
「ん? 浮かない表情だな。なにかあった?」
オレが聞いてみた。
「はい。なんだか不穏でして」
「不穏?」
「この間、教会の集会に行ったのですが・・・」
領主権限と同じで、聖女見習いにも聖女権限と呼ばれる制度がある。
彼女はそれを利用して学校を休んでいたらしく、教会の集会にいったそうだ。
そこでは教皇を始め、大神官四名、それとその他の神官複数名がいた場所に行ったらしく、その中で彼らの話を聞くに上辺だけの会話が続いていたそうだ。
エリオンの上司であるチャリオットにも会ったらしいが、何も言われずで、別勢力としての動きをしているわけではなさそうだとの事だ。
やはり身分を隠しつつ密かに守る動きをしてくれるらしい。
「ブラインさん。チャリオット様とは連絡を取らない方がいいんですよね?」
「ああ。たぶんしない方がいいよ。そこで敵に目をつけられたら、面倒だと思う」
「わかりました。エリオンさんを通じてだけ一方的な連絡だけをもらいますね」
守ってもらう立場だけど、エリオンはべったり守ってくれるわけじゃない。
突かず離れずで学生としての立場を維持しながら守っている。
トリスのような形ではない。
少し寂しそうな顔のマリアンナだった。
「心配しないで。マリアンナ。ボクらも君を守るよ。ね。ノア君。ブライン君」
「まだまだ実力が足りないけど、僕も守るよ」
「オレも同じだ」
「ありがとうございます。皆さん、嬉しいですね」
と言って山盛りポテトサラダを頬張った。
山盛りだ。山盛り。それもとんでもない大きさのボウルに山盛りだからね。
「それにしても、その以前の時にも僕がいたら・・・君たちをしっかり守れたのにな」
あの時ノアがいなかったから、結構苦戦したのは周知の事実。
そしてノアもあの時に参戦したかったのも周知の事実だ。
「本当だね。君がいたら、余裕ではあったな。あのネクロマンサーならさ」
ガーバインじゃないネクロマンサー。
あいつが操った死体戦は、ノアがいたら余裕で立ち回れた。
タンクってやっぱり要なんだよな。パーティー戦ではさ。
「ノア君にも声掛けたら良かったね。ボク、様子を見に行った時に1-Cしか頭になかったよ」
マリアンナがいなくなったと聞いたから、1ーCに意識が行くのは仕方のない事だろう。
そこにノアも気付いている。
「いえ。姫様。僕が自分で調べるべきでしたよ。そしたらマリアンナを助けに行けたんですから」
こういう男だから、この先も成長するのだろう。
この時点で強いのに、遥か高みに行くのが、ノア・ラインガルドだ。
「そうだよね。だけど今度は絶対にノア君にも声を掛けるよ」
「ええ。ぜひ」
良い奴らなんだよな。
これが、全て敵対同士になるんだよな?
でも、このまま進んで本当に敵同士になるのかな。
こんなに仲の良い友達になれたのに、敵同士になるもんなのか。
「お! 早速飯食ってんのかよ。二人でよ」
「おらたちも入れて」
ガラシア君とナオが来て、賑やかな朝食となった。
◇
その後、昼の買い食いはレインの思うがままの場所に行くと決めた事で。
とんでもない移動距離で買い食いをさせられた。
彼女の気のすむまでオレたちは食べ歩いた。
そして最後の公園で。
「食べたぁ。ボク、こんなに楽しくて、いっぱい食べたの初めて」
レインは、お腹を押さえて満足じゃと言った。
「そっか」
「あれ? ブライン君、二人は?」
「飲み物買いに行くって」
「そうなんだ」
ガラシア君とナオは、オレたちの為に飲み物を買いに行ってた。
「レイン。楽しかったかい?」
「うん。ありがとう。ブライン君」
「よかったね」
「うん。あとで二人にもお礼を言うんだ」
公園のベンチで二人並んで座っていると時計が見えた。
「5時・・・結構な時間で食べたな」
半日ずっと一緒にいたのか。長かったな。でも楽しかった。
「次はね」
「まだ食べるの」
「ううん。今度は皆でどこかに行きたい! 学園都市じゃなくても、外でも!」
「そっか。そうなるには、もっと強くならないとな」
「強く?」
「そりゃそうでしょ。君を守れるくらいに、オレたちが強くないと・・・」
お姫様だからね。
いつでもどこでも守れるくらいに強くないと。
「ありがとう。ボク、皆と友達になれてよかった」
「うん。それはオレこそだ・・・皆がいるから、なんとかなってるよ」
もし一人だったら、オレは心が折れていたかもしれない。
この世界で、最も死に近い男。
死の螺旋の中央に存在するブラインなんだ。
怖くて怖くて、精神的に疲弊していたと思う。
それがみんなのおかげで、何とかなってるんだよ。
感謝しかない。
「不安なんだね。ブライン君」
「ん? あ」
いつの間に彼女が、オレの前に座り込んで、オレの手を握っていた。
「大丈夫! ボクも強くなるし、皆も強くなるよ! 一緒に強くなろう。ブライン君」
ニカッと笑った彼女の笑顔が、太陽のように眩しかった。
「ああ。そうだね。共にだ」
オレだけじゃない。皆で強くなるんだ。
開発者インタビューに書いてあった。
このゲームのコンセプトの一つ。
一人じゃない。
これが大事なんだ。
オレは、この世界でも一人じゃないんだ。
大事な友人たちがそばにいるんだからな。




