第4話 索冥 マオリン・ジンセ
「ブライン。ここまでくるのにかなり早かったんだお。これ以上は、技の切れ味の問題になるから、わっちはそんなに教える事がないんだお」
「そうですか? 切れ味ね・・なるほど」
黄龍麒麟拳・黄龍の技を覚えきったオレは、彼女にお墨付きってほどじゃないが、実力を認めてもらえた。
黄龍麒麟拳は、黄龍と呼ばれる拳の技と、麒麟と呼ばれる蹴りの技が存在する。
技数で言えば半々なので、これでオレは黄龍麒麟拳の半分を会得したと言える。
「爺様が言うに・・・・麒麟の技は黄龍をマスターしないと難しい。足技は癖があるために、基礎を学ばないと進まない!」
マオリンの真似をしてくれているらしい。
たしかに似ている。
マオリンは飄々としている人で、抑揚がない言い方をしている。
「しかし麒麟は、強敵を破るために絶対必須の技である」
その通り。
麒麟は、連撃会心ビルドに置いて最強の技だ。
なぜなら、あれは止まらない攻撃で、技を発動すると、二回以上の攻撃回数が当たり前になっているからだ。
さらに、その攻撃は一回目よりも二回目が強く、次へと進むたびに攻撃の威力が上がる仕様なんだ。
だから、オレとの相性は抜群である。
ただし習得が難しい。熟練度ポイントよりも、それを開眼するのに時間が掛った印象が強い。
「まあ、一年くらいやれば、完璧になると思うんだお。そしたら爺様もそれくらいには来てくれるだお」
「マオリンさんって、一年後くらいに来てくれるんですか?」
「たぶん」
ずいぶん曖昧だな。
本当に連絡入れてくれてるんだろうか。ちょっと不安だな。
「今どこにいるんですか?」
「それがよくわかんないんだお」
「え?」
「なんかこの間は、ハグル島にいるって聞いたんだお」
「え? ハグル島!?」
「そしたら、その次は、ナルザン山にいるって。違う場所だおね?」
「ナルザン山!?」
ハグル島は獣王国がある獣大陸の離れ小島。
ナルザン山は獣王国の北東の山だ。
場所が全然違う所にいる。
船で移動したのか?
「マオリンさんに何があったんですか?」
「うん。亀裂が生まれているのを発見したらしいんだお。獣大陸の方にひずみが多いらしくて。塞いでる途中なんだお」
「それって、前に教えてくれた魔族が作った穴って奴ですか」
「うん。そう。コアを作ってる魔物を倒すと、そこの穴は消えるんだお」
「へえ」
オレも知らない情報だ。
穴の存在は知っていてもコアがあったのか。
なんでこの情報を知らなかったんだ?
「爺様は強いから。今は一人で出来るけど。でもその数が多いと・・・無理なんだお。物理的に」
強いから一人でも穴は塞げるけど、その数が多ければ爺様一人じゃ無理って話か。
数の対応の問題ね。彼女が言いたいのは・・・。
「シャオさん。マオさんに協力者っていないんですか?」
「今はいないんだお」
「前は?」
「うん。いたんだけど、その人たちは波に飲まれたんだお」
「波?」
「穴の大きさは最初。これくらいだお」
彼女は親指と人差し指で丸を作った。
人間の目くらいのサイズだ。
「それが大きくなるまでに、三カ月。これくらいになるお」
彼女は両手を使って、自分の顔をアピールした。
人間の頭サイズになるらしい。
「で、これくらいになると先兵がやってくるんだお」
「魔族の魔物ですか」
「うん。ちょっとずつ来るんだお。だからあんまり気付かない」
「そうでしょうね。数が少ないなら、普通に魔物が出現したと思いますもんね」
「うん」
通常の魔物の出現数みたいに感じるって事だな。
じゃあ、結構大きい時に見つけてるって話か。
「それじゃあ。大きい状態ってどれくらいになるんですか?」
「大人二人分くらいだお」
「それだけ?」
「うん。そのサイズになると、魔物がうじゃうじゃ出るんだお」
「その大きさでも気付きにくんじゃ」
大きさ的に見つけにくいだろ。
「だからしらみつぶしに探すんだお。人海戦術だお!」
それが出来てねえんじゃん。
爺様一人でやってんでしょ。言葉間違えてますよ。この人!
「で、波ってなんですか?」
「うん。その大きさになるとだお。穴の核だった魔物が飛び出て、その穴が波打つんだお」
「波打つ?」
「うん。ここから、揺らぎが生じて、大きな穴と小さな穴にサイズが変わりながらモンスターが出てくるんだお。これで、強敵と通常の敵が交互に出るんだお」
「なるほど。それが波ですか」
「うん。それでその波に、わっちらの仲間は飲み込まれてしまって、消息不明になってしまったんだお。だからそれ以来爺様は、穴を閉じる作業を誰かに任せるのを嫌がったんだお。わっちにもその仕事をさせないくらいに、慎重になったんだお」
・・・・。
そうか。だからこの人とマオリンは別行動していたのか。
ずっとそこが疑問だったんだよな。
師弟関係でもあるのに、ゲーム開始時で一緒の行動じゃないんだもんな。
「そうでしたか。じゃあ、オレがもっと修行して、その仕事に就けるようになればいいんですね」
「え?」
「ええ。協力しますよ。シャオさん!」
「わっちに?」
「だって、シャオさんもその仕事をしたいって事でしょ。爺様の役に立ちたいってわけでしょ」
「なんでそれを・・・」
「いや、今の話の流れもだし、それに酒」
「え・・酒?」
「シャオさん。あんまり飲んでないでしょ。オレと会ってから」
「それは・・」
「それって、オレを鍛え上げて、一緒に穴を塞ごうとしてるのかなって思ったんですよね。真面目になろうと努力してますから」
酒飲むとやべえ人だから。
真面目に過ごしているのが気になっていたんだよな。
「むむむむ。よく見ているんだお」
「まあ。これでも領主ですからね」
つうか、原作のシャオリンと別人なくらいに真面目なんだよな。この人。
あっちの人はさ。かなりの飲んだくれ馬鹿だからな。
私生活が壊滅的なんだよね。
酒が隣にないと駄目で・・・。
ん。それってまさか。
この人、その波に飲まれた人の中に、大切な人でもいたのか。
親とか? それとも恋人とかか?
だから、飲みまくってた? 酔う事で気を紛らわせて・・・。
って考えが過ぎか。そんな繊細な人には思えないもんな。
「一緒にやれたらいいんだお。わっちも努力して、爺様に認められないといけないんだおね。だからブラインも頑張るんだお」
「はい。これからもお願いします」
「うん」
オレは、この人が師匠で良いんだ。
面白い人だからさ。
◇
獣王国西のパイル湖。
獣王国一の大きさの湖の中心に穴が開いていた。
サイズは、人間二人分の大きさだ。
穴のそばには一人の男性が立っていた。
水の上でも余裕で立てる男性は、穴を見つめている。
「・・・・ん。コアが出てくるか」
マオリン・ジンセは、コアの出現の予兆を感じていた。
穴の若干のゆがみが見えていたのだ。
「ここも番犬か」
その穴から飛び出たコアが、ヘルガルフだった。
魔族がペットとして飼う事が多い。最恐の犬である。人間程度の実力であれば、この犬の相手は数秒も持たない。魔族だから飼えるのだ。
赤い目のヘルガルフがマオリンを襲う。
水上走破でこちらに来た。
「黄龍麒麟拳。麒麟・燐城牙」
左のかかと落としと、右の蹴り上げ。同時に蹴りが放たれて、双方が重なる先は、ヘルガルフの顔だった。
「ぐああほぎゃあ」
脳天と顎が砕かれた事で吠える事がまともに出来ない。
ヘルガルフが、後ずさりする。
「割と頑丈だ」
一撃で沈まない。マオリンは態勢を整えた。
「龍麒三倍」
力を少しだけ解放。次の一撃の威力を変えるつもりであった。
「こちらから行こうか」
マオリンが水の上を走っていく。
「黄龍麒麟拳。麒麟・珪連花」
麒麟・珪連花は連続回し蹴り。
右足で蹴り、左足で続き、回転力を高めながら蹴りの威力が上がっていく。
連撃をするたびに攻撃力が増していく技だ。
「ご・・ぎゃ・・ぼ・・ご・・だ・・・ほぼわ」
ヘルガルフは、次々と襲い掛かってくる蹴りに対応できなかった。
耐えるにはその回転を止められたらよかったのだが、彼の蹴りの回転は増していく一方だった。
「終われ。ヘルガルフ」
最後の蹴りが、喉を突き破る。
「穴が閉じ始めた。これでいいな」
コアの消滅により、穴が閉じ始めた。
「ふぅ。これで、今年に入って三個・・・数が多すぎる。これは元々あって、穴の成長が早くなって、発見の数が増えたのか。それとも、小さな穴の母体が増えてしまったのか・・・」
どちらが理由であろうとも、実際に魔族が作り出す穴の数が多い。
これから先で、増え続ければ、いずれは対処できない。
何がおこってしまうのだろうかと、マオリンはこの先の未来を案じていた。
「急ぎ。シャオが言っていた青年を一流に育てた方が良いか。それとも、アイソンらに協力を仰いだ方がいいのか。そこが悩むところだろうな。儂も・・・考えねば・・・」
後継者に仕事を託していくには、強き弟子も必要。その次の後継者を見ておかないと駄目だからだ。
それと穴を塞いでいくには、協力者が必要だ。数が増えていけば、それを封鎖するものが必須だ。
しかし、双方を同時には出来ないほどに、マオリンにも手に負えない数の仕事が待っていた。
「次は東か。穴らしき情報は・・・」
彼には、次の穴が待っていたのである・・・・。




