第3話 裏切ることのない同盟とは?
会議は進み。最終結論が出た。
「軍の拡充。これが良さそうですね。皆々様」
宰相の言葉に全員が頷く。
魔族の襲撃が来るべきタイミングで起きるのであれば、防衛できるだけの軍備が必要だからだ。
しかし、その予算を得るには。
「貴族たちへの徴収を強くしましょうか。王都だけでは賄えませんぞ」
貴族たちの協力が必須だとした。
王がワントーンダウンした声で話しだす。
「ルーフォンか・・・あとは、シュテルクもか・・・はぁ。どうなるだろうか」
ニ大貴族の協力を仰げるか。これが重要だった。どちらか片方とはいかない。双方にその分の負担を強いる事が重要だ。
「説得が可能か? 宰相?」
「難しいかと」
「お前は出来そうか。ゴア」
「僕ですか。いや、無理でしょうね」
「では、トリス。お前は?」
「あたしですか。それは、あたしにメリットがあるんですかね。王、それが面倒だという事しか考えられないのですが?」
最後のトリスだけ理由が違う。説得は自分の仕事じゃないという断り方だった。
頼みの配下たちに断られた王は、最後にライトニングを見たが。
彼の目を見て頷くだけで終わった。
無口な男に説得しろと言えるほど、王は非道ではない。
彼にやらせるのは酷だと思ったのだ。
「父上、私がやりましょうか?」
「ん? ゲイルが?」
「ええ。王太子として、私が命令を直接出しましょう」
「学業があるだろう。そちらに集中しなさい」
「学科は全て問題ありません。単位は取りましたよ。父上」
「そうか・・・いや、それでも生徒会長になったのだろう。そちらを・・・」
「そうですか。ならば、それこそ夏休みにでも仕事をしましょう。その時には生徒会の仕事もありませんから」
「まあ、そこまで言うのなら、ゲイル。お前に任せる事としよう」
ゲイルが貴族たちに命令を出す事となった。
これがのちの・・・。
世界パルティアンだけではなく、ロア王国にはロア王国の問題があるのである。
◇
重要事項が決定したので、会議が終わり。
その直後。
「レイン。久しぶりに会ったのだ。お茶はどうだ」
「兄上とですか」
「ああ」
「どこででしょう」
「応接室でいいだろう。今は、訪問客もいないはずだ」
「わかりました」
「よし。では親睦を深めるとしよう」
「はい」
兄妹でのお茶となった。
その移動の前に、レインがトリスに目配せすると、彼女が姫に付いていき、ゲイルがゴアに目配せすると彼が王子についていった。
この事から、魔法師団が姫。騎士団が王子である事が分かるのだ。
そして近衛兵が王となる。
その時も無言で王に付き従っていた。
◇
応接室。
「座れ」
「はい。兄上」
言われる前まではきっちり椅子の前に立っていたレイン。兄の前で粗相のないようにしていた。
「トリスも楽にしておけ」
「ええ。そうします。王子」
半公式の場。だからトリスはゲイルを王子と呼んだ。
普段ならゲイルと呼んでいる。
「お前は。もう座っていたか」
「え? 申し訳ない王子。装備が重くて楽になろうと」
重装備のゴアは、楽になりたくてすでに座っていた。
世間のイメージでは、怪物的な印象があるゴア。
戦場での暴れ具合、その戦果。鬼のような強さに、鬼神の如き働き。
それでいて体も大きく、顔もいかついので怖い印象が世間一般にあるらしいが。
実際の彼はそんなことはなく、お惚け感のあるお茶目な男性だ。
「ああ。もういい。気にするな」
騎士団長が普段からこんななので、最終的に折れる役割は王子が担っている。
「レイン」
「はい。兄上」
「そのブラインという男はどんなのだ」
「ブライン君ですか?」
「我がスタークスにとって、有益となる男なのか。どうなのだ?」
「それはそうでしょう。彼は我が国の貴族ですよ。有益でしょう」
答えを間違えれば、敵判定をするのではないかと。
レインは慎重に受け答えをしていた。
「しかし、リミットタウンはすでにないようなもの。あれでは貴族としての権力もゼロに近しいだろう」
「それはそうなのでしょうが。ですが彼は・・・」
「役に立てると言えるのか。あの領土が」
「それは・・・」
そこは言い切れない。本人が有能でも、その領土が有益となるかは別問題だからだ。
「それに英雄の真似事のような戦いをしているのだ。求心力がそちらに行ったらどうする」
「それは・・・」
学校でも評判になった戦い。
自分よりも彼の方が間違いなく人気は高い。
それは正しい評価で、それに対してレインも不満がない。
ブラインの事が友人として大好きだからだ。
「レイン」
「はい」
「お前が活躍しろ」
「え?」
「奴よりも上にいろ。王家として、貴族の端くれ如きに負けていては、民たちも王家を軽んじる」
「・・・ボクがブライン君よりも上に立てと?」
「そうだ」
「・・・・・・」
それは難しい。友達として触れ合うとさらに分かる。
得体のしれない強さが、時折見え隠れするからだ。
自分が彼を上回るイメージが湧いてこない。
「それかだ」
「はい」
「お前が娶れ」
「え!?」
「ブラインという男を王家の一員にしてしまえばいい。父上の心配も消えるはずだ。裏切ることのない強固な同盟。婚姻同盟だ」
「・・・それは・・・」
ブラインの気持ち次第ではないか。
レインはそう言い返したかったが。
兄には逆らえず。
「そうは思わないか。トリス」
「ええ。それも一興かと」
「え!? お師匠様!??!」
レインは隣にいるトリスの顔を見た。澄ました顔のまま紅茶を飲んでいる。
「そうだろう。ゴアはどう思う」
こちらはテーブルの上のお菓子を食べていた。クッキーを四枚重ねて、大きな口に運んでいる途中だった。
「あ~ん!? あ! 僕ですか」
話しかけられたので、動きを止めた。
「そうですね。やめといた方がいいじゃないですか」
「なぜだ」
「王家を乗っ取られる恐れもあるので。王子だとそっちの危機を考えた方が良いのでは」
「なに?」
「そのブラインという子の名声が天よりも高くなった場合が厄介ですよ」
ゴアの言葉が続く。
意外にも考えられた答えであった。
「その時の力関係で王家が上になるとは思えないのです。今は王太子が王子。姫様は第二継承権者です」
「・・・・」
あまりに良き進言だったので、ゲイルも黙って聞いていた。
「その第二継承権者の姫様の旦那様に、英雄がいるのだとしたら。その時の王子は、大変な事になるのではないでしょうかね。力関係であなたが上に立てるのでしょうか。どうですか王子?」
「・・・・それは。たしかにそうかもしれんな」
王子も紅茶を飲んだ。
反対側で一口飲んでいるトリスの目がこちらを見ていた。
「トリス。何か言いたい事があるのか」
「いいえ。ありませんね」
「そうか?」
何かを言いたそうにしていたわけじゃないのか。
ゲイルは紅茶をテーブルに置いた。
「兄上。な、なぜ。ボクの婚姻で話が進んでいるのですか!」
「その反応。まんざらでもないか。レイン」
「兄上!!」
「面白い考えだと思ったがな。面白い反応で返してくるとは・・・なあトリス」
ゲイルはトリスに同意を求めた。
「まったくですな王子。あたしも、このような顔をする姫は初めて見ましたよ」
「お師匠様も!」
「ふっ。お前も男勝りというか。色恋に興味がないかと思っていたが・・・そうでもなかったか。姫としても大丈夫そうだな」
「ああ・・もう。お師匠様!」
笑っているトリスは弟子の成長を嬉しく思っていた。
「とりあえずだ。レイン」
「は、はい」
「ブラインの婚約はなくなったのだろう」
「あ。あのロッティとのですか」
「ああ。そのように噂が出回って来たのだが、どうだ?」
「はい。新入生の挨拶の時に破棄されましたが・・・」
「が? したのではないか?」
「ええ。したんですけど、なんだか。ロッティの方が破棄の破棄をしたがってる感じがして・・・」
「何。破棄の破棄?」
「はい。この間、破棄してないとブライン君に言ってまして?」
「????」
レインとしては、あの朝の話を聞いていたので、破棄を無かった事にしたいのではないかと思っていた。
「ロッティは何を考えているんだ?」
「わかりません。兄上はジルベルト殿と話していたりは・・・」
「奴はロッティが不利になるような事は言わないからな。溺愛しているだろ。妹らをな」
ゲイルから見ると、ジルベルトの事はシスコンに見えている。
自分が妹にゾッコンではないので、余計にそう見えていたりする。
「え、ジルベルト殿は溺愛をしていたのですか。兄上?」
「まあな。あれは妹好きで、ブライン好きだ。何度か話を聞いたことがあるからな」
自分の妹とブラインが結婚する。
それを何よりも楽しみにしている話を何度も聞いているゲイルは、ジルベルトを面白い男だと思っていた。
だから次期当主が彼であれば、ゲイルとしてはルーフォン家との友好関係を築きやすかったとも思っていた。
「だからこそそこに割って入っても面白いかと思ったが、どのような動きになるかは今後の学生生活によるか・・・まあいいだろう。レイン」
「はい」
「だから学生の時代を楽しんでおけ。今のうちにな」
「・・今のうち?」
「これからお前も大変な道を歩むだろうからな」
「・・・わかりました。兄上」
「ああ。兄として助言をしておいたぞ」
「はい」
もうすぐ時代は変わる。
それがどのように動いていくのかは、彼らでも知る由もない。
王家・貴族・対外。
どの道が切り開かれるのか。
それともどの道もないのか。
全ては、ブラインが中心となっていくのである。
良くも悪くも、王家はその彼の余波を受けざるを得ないのであった。




