エピローグ
戦いが終わった直後。
運が良かったと実感した。
町に戻ると彼女が来ていた。
「お兄様! お兄様? どちらに」
「はいはい。ジュリ。いるよ」
「あ! お兄様。戦っていると今聞いたのですが・・・ご無事ですか」
「ああ。怪我はないよ」
心配性の彼女はオレの体をべたべた触っている。
「本当ですか。わたくしがいない間に戦いになるとは・・・わたくしも協力をしたかったですわ」
「いや。君には怪我をさせられないからね。戦うなんて駄目だよ」
こんな事を言ったが、この子はあの程度であれば怪我をしないだろう。
ジュリアは普通に強い。
Tier2の兄と同じTier2の実力者だ。
ジュリア・ルーフォン。
彼女は世にも珍しい魔法双剣士。
得意属性は、風と時と幻だ。
この世界の魔法属性は、基本属性を網羅しつつ、特別な属性も存在する。
それが時・幻・無・重・滅の五属性だ。
実はこの属性は、その基本属性に付与される場合がある。
たとえば、レインのアシッドレインは特性上『滅』の力が混じっていると言われている。
滅する魔法『滅』は消滅魔法と呼ばれていて、使い方としてだと主に魔法を消滅させるのだ。
グアバがウォータースラッシュを消滅させた時に同質の威力を当てて、消滅させたの一緒だ。
それで、ジュリアの得意魔法の時と幻は、それぞれが面白い特性を持っている。
時は、加速と減速。
これは基本魔法に対応させると、魔法の速度に関与すると言われている。
出した魔法をより速く動かす。物体の移動を操る魔法だ。
それに対して幻は、物体の幻影を見せる魔法。
幻術魔法で、極めると幻ではなく実際の肉体を変化させることもできる。つまり変身だ。
それでジュリアはこの段階では、双剣を素早く動かす手助けを魔法でして、さらに彼女の二対の剣以外に、幻の剣を見せるという厄介極まりない双剣士なんだ。
天才と言ってもおかしくない。
マジで、オレの下の代は、怪物どもがうじゃうじゃいる。
巫女となった彼女もその一人だと言える。
「お兄様にもしもの事があったら、お父様にあわせる顔がありませんわ」
「そんなに心配しなくても。それで、戻って来たの?」
「ええ。こちらをお納めください。お兄様。心からお詫びします。ルーフォン家のとんでもない裏切りを許して欲しいと。お父様が・・・」
いつもの冗談じみた彼女がいない。
真顔で頭を下げてきた。
「うん。いいんだ。そんなに気にしないでくれ。オレは裏切りだとかは思ってないよ」
「本当ですか。同盟はまだ続けてくれると?」
「もちろん。ロッティの事もそんなに怒ってないしね」
「そうですか。では婚姻は・・・」
「それは破棄されたからね。あれでヨリを戻すのも変でしょう。大勢の前で破棄したのそっちで、されたのはオレだしね」
これはそうだろうな。面子の問題だと思う。
オレに面子があるかと言われたら、ないけど。
でも少なくともリミットタウンの領主にはあるんだ。
これから集まってくれる民にも、顔向けできないよね。
今ここで、あの時のロッティを許してしまえばさ。
「それは・・・そうでございますね。お兄様の言う通りです」
首がうなだれるくらいに下を向いた。
顔色もよろしくない。
「まあ、気にしないで。普通に接して欲しい。ロッティにも普通にするからさ。でも婚姻は元には戻らないよ。いいかな」
「は、はい。お兄様がそれでよろしいのであれば、我がルーフォン家はその通りにします」
「え。ま、まあそうしてもらえると嬉しいというかなんというか」
これ普通に考えたら逆だよな。
大貴族がそっちなんだけど。まるでこっちが大貴族みたいなやりとりなんですが。
「あの・・・」
隣からラグナルの声が聞こえた。
そういえば、この人たちを連れていく予定だったんだ。
「えっと。あ、そうだ。ちょっと待ってください」
「はい」
ラグナルを置いて、オレはこっちにお願いをしてみる。
「ジュリに頼み事がある。このお願いで、今までの事をチャラにしよう。そしたら君の顔も明るくなるかな?」
そうだ。頼みごとをすれば、この事を気にしないでくれるかもしれない。
「はい。なんなりと。お兄様」
「うん。今から、オレが文書を作る。そしたら、この人たちを連れて森に行ってくれ。長に渡して欲しいんだ」
「ん? 文書を持って森に? エルフたちに会えと?」
「ああ。リスベルに久しぶりに会いたいだろ」
「それは会いたいですけど、わたくしでよろしいので?」
「ああ。大丈夫なはずだ。彼女なら君を喜んで受け入れるはずだ」
エルフたちにとって、クロノも英雄だが、その親友ジョンも信頼に値する人間だと思っている。
ルーフォン家の領地は大陸南西で、ギランバニアの森の最南端。
だから、オレの位置とはうんと離れているんだけど、森に隣接していると言えば、同じように隣接しているのだ。
かなり離れたご近所同士だと言える。
「わかりました。この方たちと共に森に行けばよろしいのですね」
「そう。ついでにリスベルと親睦を深めて来な。彼女、今度学校に通う気なんだってよ」
「え!? あのリスベルがですか?」
「うん。彼女勉強できないからさ。君が見てあげて」
「・・・それはまた難題ですね」
笑顔が少し戻った。
これで一安心だ。
「ああ。だから頼むよ。それで、今までの事はチャラさ。気にしないでいこう」
「ふふふ。ありがとうございます。お兄様。その優しい配慮・・・ますます大好きです! ぶちゅ~~」
「させるか!」
飛びついてキスしようとしたので、彼女の頭を鷲掴みにして回避した。
「お願いします。お兄様。一度でいいから、わたくしにもお恵みを」
「も! ってなんだ。もって!」
「お姉様にもしているんでしょ」
「してねえわ!」
いつものジュリアになったので、これで良しとしたオレである。




