第9話 別
30日。
静かだ。何か起きるような気配もなく、静かだ。
森の中の鳥がさえずり、音がゆっくり薄まっていく。
自分の意思でどこか遠くへと飛び立っていったのだろう。
慌てる様子のない飛び去り方に。
「モンスターの出現の予兆が見えない」
監視塔に上がってみたオレは、とりあえず偵察をしてみる。
何も起きそうにない平原に森だ。
周辺も静かだった。
「異変はここにはない。裏にもない。森には若干あって。ロアにはなくて、ダイナガルトにはありそうでも、ヤバいってのは聞いていない。だから可能性としてだと北からのはずなんだよな。リミットタウン時代だって、必ず起きるチュートリアルだからな」
監視塔から見つめる先を北にしてみた。
体をそちらに向ける。
国境線。
線なんて書いてない。
あるのは平原だけで、何となしの線がこの世界の人々に見えるらしい。
日本にも線なんてなかった。
お隣の国って、海を隔てた先にあったから。
本来は見えない線があって、そちらに行けば同じ人間がいるのに、そちらの立ち位置は別の国。
不思議な感覚があるにはある。
だけど今はそれを考えてる余裕なんて・・・。ん?
「おいおいおい。数が違うぞ。何が起きてんだ!?」
オーク3体にゴブリン50。
数が違い過ぎる襲撃がやってきた。
――――――――――――
リミットタウン。町民36人。資産2332G。壁なし。監視塔二つあり。
戦闘力 242
建物数 8
幸福度 7/100
評判値 11
食料 22
水 33
資材 17
従事者
農業 8 うち魔法従事者2名
工業 4 うち魔法従事者1名
職人 3
大工 2 魔法従事者2名
商人 1
医療 0
生活 2 魔法従事者2名
傭兵 4
――――――――――――
「一発目の防衛は出来るはずのステータスだ」
なのに、敵の数が違うぞ。
「あれだと・・・いくらだ。戦闘力を計算すると・・・」
オーク1体 40。
ゴブリン1体 8。
「520か! オレたちの戦力の倍!? クソ。最初の数値と比べたらまだいいか。そう言えちゃうのが最悪だな」
最初は5倍差だからな。今は2倍差くらいだ。
って慰めにもならねえ。
「鐘を鳴らす」
襲撃の合図を出す。一斉に皆がこっちを見た。
「敵です。来ました。皆は家の中に避難。戦える人はここの下に」
監視塔の下に集まったのは8人。
傭兵4。町の住民4。
これが戦力。元々町にいる人で戦えるのはただの人だ。でもヤバい。装備がヤバい。武装させてあげるほど、お金もなかったし。彼らが買えるくらいの稼ぎもここで生み出せなかった。
何がヤバいって、彼らはお鍋の蓋に木の棒スタイルだぞ。初期村って感じだ。
「四人は、町の護衛で。皆さんが避難している所の守備をお願いします」
これが町民が死なないための最善手なはず。
最初の襲撃からだって、出来るだけ死者を減らすんだ。
ここは傭兵でいこう。
「勝負は西火の楽山の皆さんでいきます。戦えますか」
「も、もちろんです。任せてください」
ラグナルだけが返事をした。
この部隊、大丈夫か?
「では、迎撃に出ます。町よりも外で戦います。いきますよ」
「お待ちを」
マリンさんが来た。
「初手で減らしましょう」
「ん?」
「私の魔笛で一時的に止めます」
「・・・あの数、いけるんですか?」
「止められます。ただし、あの数なので短いです」
「どれくらい?」
「三秒。その後の私の動きを考えるとその程度でしょう」
「短いと言えば短いか。でも一瞬でもこっちが優位に立てるなら」
「はいやりましょう」
ということは、あの時の魔笛は相当無茶をしてくれたんだな。
それに複数と一体では難しさが違うのかもしれない。
「じゃあ、ゴブリンの方を減らしましょう。みなさん、いいですか。マリンさんが笛を鳴らしたら、全員でゴブリンを倒しましょう。あれは敵の強さよりも数が問題です。頭数を減らします」
「笛とは例のですか?」
ラグナルが聞いて来た。
「そうです。鳴らないですからね。驚かないでくださいよ」
「わかりました」
連携の一個として、事前に傭兵の彼らには伝えてある。
マリンさんの魔笛戦法。
魔物の動きを一時止める事が出来るので、強力な一手となる。
ただし、魔笛は難しい部分があるそうで。
クールダウンが三十分。長さは彼女の実力次第とモンスター次第。
色々条件が重ならないと継続が難しい技らしい。
それに反動も大きいので長い間無理をすると、前回のように体が動かせないくらいに倒れ込む。
それだと貴重な戦力の彼女の戦線離脱が決まってしまう。
「それでは迎撃に行きます。出撃です」
領主一人にメイド一人に、傭兵四人。
それらであの数のオーク・ゴブリン戦が始まった。
◇
オークとゴブリン。双方の配置はゴブリンが先で、オークが裏に控える。
その関係は隊長と部下みたいな状態だ。
先兵がゴブリンたちで、それでオレたちの実力を測るつもりだろうな。
「マリンさん、ギリギリまで待ってください」
「了解です」
六人で待機していたら、一人前に出て行く。
「おわあああああ」
「ん? ラグナル??」
ラグナルが飛び出た。
「おいおい。止まれ。なに先走ってんだ」
オレから敬語が外れていた。
作戦とは違う動きをしているからつい強い口調で話していた。
「あちゃぁ。やってんな。あいつ」
カールが頭に手を置いた。
「なんだよ。あれ」
「ん。依頼人さんよ。申し訳ないね。あいつ、ビビると突っ込む」
「は?」
「訓練はそこそこできるけど、実践だとビビり癖があるのよ。治らない病みたいなもんだ」
「そういう事は先に言え。ちっ。いくしかない。カウンターだったのに」
全員が敵の範囲内に入ってからのカウンターが狙いだったのに。
一人が隊列を崩したら、魔笛を上手く機能させられない。
「マリンさん。まだ待ってください」
「了解です」
「オレが合図を出します」
「了解です」
マリンさんが一番落ち着いているわ。
「出るぞ。ユーナ。ルーナ。カール」
三人と共に行く。
こちらは順調に進むかと思ったが。
「体が動いてないぞ。どういうことだ」
うまく体を動かせていないユーナの前にオレが出た。
彼女を横から攻撃しようとしてきたゴブリンを殴る。
「おい。ユーナ。どうした?」
「わ・・私はできる・・・・できるの。どうして邪魔したの」
「邪魔? それじゃ怪我するぞ。動きが硬い!」
盾の動きが特に悪い。相手との駆け引きが重要な片手剣士の癖に、防御が悪いと攻撃の悪さに繋がる。
「ち。ちがうもん・・・私は・・・」
目が震えている。動揺してる?
「ユーナは無理。そうなったら、緊張状態が外れない」
「なに」
オレの隣に来たのはルーナ。ぼそぼそと助言してきた。
「領主さん。私とカールだけでやろう。二人は無視で」
「ちっ・・・それが良さそうだ」
行動不能のような二人がいる状態でも、ここは戦況が良くない。
タイミングを合わせられそうなユーナとカールだけで、ゴブリンを倒す。
「ルーナ。カール。オレが出来るだけ狩るけど二つ以上は倒してくれ」
「「了解」」
「マリンさん。今です!」
オレが両手を挙げる。これが合図だ。
「いきます。魔笛」
背後だからわからないけど、指は動いているのだろう。息遣いはあるけど、笛の音は鳴らない。
「止まった! 今だ、総攻撃!」
「おおおおおお」
「やる!」
二人も攻撃を同時にしてくれた。
それに合わせてオレも、思考加速を発動。
オレの思考は現在1秒を5秒展開でいける。それを最大5秒なんで25秒だ。
この時間をフルに活用してゴブリンを殴り続ける。
肉体加速の発動を促せば、このように止まった時間の流れの中でも動きを加速させることができる。
相手の動きを止めるマリンさんの魔笛との相性は抜群だ。
「一つ。二つ。三つ!」
オレのこの拳にはちゃんとした基礎の強化を入れている。
攻撃力100。
大台とは言えないけど、序盤の序盤は脱却した。
数値上は、ゴブリンを超えてオークと互角だろう。
しかし、このゲームと言うか、現実はステータス至上主義じゃないから、戦い方一つで戦況は大きく変化する。
勝てる時に勝たないと、どんな相手だろうが負けが見えてくる。
油断は禁物だ。
スローに見える世界の中でもはっきりとわかる。
テンパって攻撃が空振りまくってるラグナル。
動揺で動作が鈍いユーナ。
二人が明らかに上手く機能していない。
それに対して。
淡々とダガーで急所を突くルーナ。
斧で敵の骨ごと断つカール。
こっちの二人は淡々と動けている。
だけど、それはハイペースじゃないから、三体が限度そう。
「やっぱりオレが一気に減らすしかないか」
龍麒を発動。
「黄龍麒麟拳。黄龍・龍鼠百陣形」
己の間合い。この範囲内で正拳突きを百連打する技。
射程圏が拳の届く位置だから、当てるために移動する。
固定砲台ならぬ移動式の技である。
「おりゃ。なんぼでも減ろ。ゴブリンども」
魔笛が終わり、オレの肉体加速も終わる。
すると、ユーナとカールがオレの背後に来た。
三人で敵陣深くまで入れた。
「領主さん。強かったんだ」
ユーナが聞いた。
「そうか? 普通だね」
「いやいや。依頼人さん強えわ。これ見ろよ。ゴブリンを半分以上倒したぞ」
カールが後ろを指差した。倒れているゴブリンが光となって消えていく。
三人で連携して20以上は消えた。
だから、この子たちも普通に強い。
「だけどあっちはどうなの。大丈夫か?」
「ん。ああ。大丈夫だ。ゴブリンくらいなら死ぬ事はないと思うぜ」
「いや、あれほど緊張するのか二人はさ」
「する。隊長がいねえとやっぱああなるみたいだ」
「ナオが?」
続きはルーナが話してくれた。
「隊長の指示で安心する。あの二人は」
「・・・ナオの?」
ナオの指示じゃないと駄目って事か。
どうしてだ?
何があるんだナオに・・・あ!?
士気向上Ⅲか。
あれで気持ちを安定化させているんだな。
それに彼女に指揮もあるから、それで安心感を得てもいるのか。
「じゃあ、まずいな。オレは指揮系統のスキルなんて持ってない」
今までの戦いにナオがそばにいたから気付かなかったけど、直接戦わなくても声だけでも仕事してるんだよな。あの子はさ。
あらためて実感した。
直接の強さじゃなくても重要人物だったんだ。
「うん。だからここを綺麗にするしかない」
目の前の敵に向かって、ルーナがダガーを投げつけた。
「あれが邪魔なの!」
まったくそういうことだな。
敵がいなくなればあの状態が解放されるって事だな。
「俺っちがタンクをしよう。引き付けるから、二人が倒してくれ」
「タンク? カールはタンクなのか?」
「おう。任してくれっす」
と言った彼は突撃していった。
ゴブリンは残り8。オークは3。
その群れの中に彼は突っ込んでいった。
斧を前面に出して、敵の攻撃を防ぐ。
武器を盾にして、攻撃を退ける。
あれはまさしくパリィだ。
「パリィ型タンク!?」
世にも珍しい武器型タンクを初めて見た。
オレの中の常識だと、タンクの基本形は二種だと思っていた。
防御型タンク・回避型タンクだ。
盾を基準に装備を重装備にして敵の攻撃を遮断するのが防御型。
ノアのようなタイプの人だ。
装備を出来るだけ軽くして敵の攻撃を回避し続けるのが回避型。
ルドルフのようなタイプの人だ。
これらが基本だと思っていたけど。
あれもいいのか。
敵の攻撃に合わせて、斧で弾く。
そのタイミングの良さは、目だろうな。
目と反射神経の良さがパリィの極意だろう。
「周りを頼むっすよ。これに集中すると他に意識が回らねえ。領主さん。ルーナ。周りを倒してくれっす」
「了解。助かるよ。カール!」
「うん」
オレとルーナで残りのゴブリンを撃破した。
これで、後ろの二人は一旦落ち着いて・・・・。
へたれこんで座ってるわ。
どうしようあの二人。
「前、前!・・・そこを気を付けて。領主」
「あ。うん」
ルーナの注意でハッとしたオレは、残りのオークを見た。
「オークか? これ?」
一体オークにしてはパンツが豪華。
金ぴかのパンツを履いている。
「これはオークペロトンっす」
「なにそれ?」
「領主さん知らない?」
「うん。なに?」
カールは知ってる様子。
「オーク亜種。小隊を組んで自分がリーダーになるからペロトンっす」
「・・・・こいつが亜種? オークのは初めて見た」
亜種ってそんなにポンポン登場するわけじゃないから、知らない個体があるな。
オレがゲーム時代に出会ったのも、二十体くらいかも。
オークでは会っていないはずだ。序盤で亜種はね。むずかしさ激増だもんな。
「カール。強いのか?」
「強い。最低でも二倍くらいっすね」
「マジかよ」
「オークだったらパリィ出来そうだけど・・・」
そっか。弾くにも力関係が必要か。
ゴブリン程度なら余裕だけど、オークペロトンの攻撃力だと無理って事か。
それってパリィの弱点か。
「若様」
「ん。お。マリンさん。今回は大丈夫ですか」
「ええ。少々疲れましたが、動けます」
魔笛の使用で、疲れがある様子。
でも前回の倒れ込むような姿ではなく、息が軽く上がっているだけに留まっている。
「若様。どのように倒しますか」
「そうだな・・・三手に別れよう。マリンさんは左のオーク。カールとユーナは右のオーク。オレが正面をやる」
「オークペロトンをですか?」
「うん。疲れがあるマリンさんにあれを任せるのは、オレの気持ちが許せそうにないんで、ちゃんと倒すよ」
「わ、若様・・・さすがでございます」
「いや、別に」
何がさすがなのかは分からないけど。
物凄いキラキラした目で見られた気がした。
忠誠心マックスみたいな感じだ。
「別れるよ。いいかい。カール。ルーナ。気を付けてくれ」
「「了解」」
二人も大丈夫そうだ。二対一なら勝ってくれそうだしね。
問題はオレだな。
勝負を分けるのがここ!
ここが防衛戦争で一番重要って事だ。




