第8話 二つの襲撃前
29日目の昼休み前の授業中。
先生はスキルの説明をしていた。
オレはこれも知っているので考え事をしている。
明日だと思われるオーク・ゴブリン防衛戦争。
事前の予兆が見えないので、少々不安だ。
たしか、この時点でダイナガルト側に異変が起きていたはず。
アールナ大平原でモンスターが大量発生。
あふれ出てくるモンスターが、周辺の町や都市を襲う。
それの余波で、何もないはずのリミットタウンにおこぼれが来る。
こんな感じの襲撃が、チュートリアル防衛戦争だったはずだ。
最初の襲撃の理由は、意外としっかりしている設定だ。
この設定だと、攻撃が来てもおかしくないよな。
人が少ない場所にモンスターの襲撃があってもおかしくないんだよ。
◇
と考えている内に授業が終わった。先生が帰っていく。
「お昼どうする?」
ガラシア君が聞いて来た。
「うん。上で弁当食べようか」
「そうしよう!」
いつもの屋上でご飯を食べる事にした。
おにぎりを食べて、風を感じる。屋上の風は心地良い。
なんで学校の上って気分が良くなるんだろうな。
魔法が掛かってるのかな。
「ブライン君。親父って到着したの?」
「うん。そうだよ。いるね」
「何してるの」
「何にも」
「え?」
「いや、まだ工房がね。出来てないからさ。今は設計してくれてるみたい」
「設計?」
「うん。納得する武器を作れる工房の設計」
「へえ、そうなんだ」
「うん。ほら、職人さんが使いやすい方がいいでしょ。建物とか道具類ってさ」
「たしかに」
「だよね。だから、親父さんが使いやすい工房にしてほしいんだ。だから、リミットタウンにいる建築魔法のおやっさんと協力してる」
建築魔法は便利だけど、こういう時には協力しないといけない。
依頼人の想像を再現するから難しいんだ。
自分の考えで建築するのとは訳が違うのさ。だから時間が掛るかも知れない。
「そっか。おらもさ。そこに就職してもいいのかな」
「ガラシア君が。リミットタウンに?」
「うん」
「そりゃ君がいいなら、オレは歓迎だけど。卒業後も一緒で良いの?」
逆にいいのか。君はさ。自分のやりたい事をやったって。
「いいんだ。君と折角友達になれたのに、学校だけでお別れは嫌だから」
「そっか。じゃあ、すんげえ武器を作ってもらおうかな」
「まかせてよ。親父よりも凄いの作っちゃうからさ」
ガラシア君ならやり遂げそうだ。
この子、めちゃくちゃ頑張ってるもん。
ほら特別授業だって鍛冶関連の奴を全部受けてるみたいだし。
オレらよりも凄い勉強してる。
オレって話半分に授業聞いてるし、ナオだって寝てるし、レインも魔法関連の授業の時、飽きてそうだしね。
つまんないんだよ。魔法師団長が師匠だからさ。
だから一番頑張ってるよ。ガラシア君がさ。
「ん?」
手帳が鳴った。
連絡だ。
「若様」
「ん? どうしたの」
「エルフたちから連絡が入りました。森が騒がしいのだと」
「森が?」
「はい。外の方からの圧力で、森まで慌ただしいのだと。エルフたちも家が無くなって、建築途中の段階なので、警備体制を増やして防衛に望むらしく、リミットタウンの方には応援を回せないとの事です。それに変にそちらに行ったら引き連れてしまう恐れがあるとの事で、待機しているのだそうです」
「了解です。警戒をお願いします」
「わかりました」
森が慌ただしい?
アールナ大平原じゃなくて?
それにエルフたちも、動かない方がリミットタウンに迷惑が掛からないと思ったんだな。
正しい判断だな。
人数が多くなれば、それに合わせて襲撃時の数も増えていくはずさ。
「ブライン君、大丈夫?」
「うん。やっぱり襲撃が来そうだ。オレ、一旦戻るね。領主権限を使うから、休むわ。先生に言っておいて」
「わかった」
「よし。ここから飛ぼう」
「え?」
「屋上は転移位置なんだ。これでね」
「あ。帰還の?」
「うん。これなら、一気に移動できる。それじゃあね」
「あ・・ブライン君頑張ってね。無事で返って来てね」
手を振ってくれたガラシア君。
オレは彼の応援を背にリミットタウンへ向かった。
◇
屋敷もどきから、表に出る。
すぐにマリンさんがこっちに気付いてくれた。
「若様」
「マリンさん。感知できましたか?」
「できません」
「了解です」
監視塔の上からの索敵でも引っ掛かりがない。
なので、襲撃はまだ先のようだ。
「若様」
「はい」
バーランドさんが来た。
「工房が完成しましたよ」
「え。もうですか」
「はい。彼は準備をしようと思ってますが。細かいものが準備不足なのだそうです」
「何が足りません?」
「炉のための火の元ですね。アズマ棒と呼ばれる可燃性の石が欲しいらしいです」
「アズマ棒・・・あれか・・・」
アズマ棒は、火魔法又は火を直接入れることで、燃える石となる。火力調整が抜群で、さらに燃費が良くて、一個で数年持つと言われている。
そのかわりに値段が高い。
火山ダンジョンや、フィールドマップの火山などで探すことが出来る。
だが危険地帯なので、命懸けで採取する事になる。
「手配となると。かなりの金額でありますよね」
「だね。いくらだっけ」
「100万はくだらないのでは?」
「最低がか。高いなぁ」
本当に高いな。でも良い物を作るには最高の環境が必須だ。
用意はしてあげたいものだね。
「考えましょう。まだ装備を作る段階じゃないでしょうから、用意はしますと伝えておいてください。オレは一旦防衛の方に集中します」
「わかりました。若様」
色々準備って必要なんだな。
本格的な工房を作った事がなかったから知らなかった。
そっか。外部委託してたからな。もっと調べておけばよかったな。
「ブライン殿」
「お。ラグナルさん。どうしました」
「敵が来そうなんですよね」
「ええ。騒がしいらしいです」
「森が?」
「みたいですね。でも外部の圧力でってなると・・・」
「他から?」
「かもしれないです。注意してないと駄目でしょう。国内で異変がありませんから。おそらくは・・・」
「北?」
「ええ。向こうから敵が来る可能性があります」
と言ってはみたものの。
ゲーム時代の流れと全然違うから、よく分からない。
赤い月はどこ行った?
敵は本当にオーク・ゴブリンでいいのか。
お願いだ。どの程度の敵が来るんでしょうか。
事前に教えてくれませんか?
リミットタウンの開発者さんたち。
なんでこんなに流れが違うんでしょうか。オレの人生。
いったい。オレはどのルートを走ってるんでしょうかね。
結局は死のルートの上に・・・。
うわ、考えると怖いんで。
考えないようにしよう。
無の境地で、ここを乗り越えよう。
「北ですかぁ」
「かもしれないんで。一応警戒をお願いします。マリンさんもいますが、皆さんにもお願いします」
「了解です。おまかせください」
ラグナルにお願いしてこの日は結局なにも起きずだった。
◇
ブラインが心配していた頃。
彼らのリミットタウンよりも遥か北から異変が始まっていた。
ダイナガルト王国の北部戦線にいるのは、西火の楽山の団長アイソン・ノマドである。
無数のモンスターを前にしているためか。いつもよりかは引き締まった表情をしている。
「さて。あの群れの大きさ・・・前回よりも多い。それに僕らの体験した中でも・・・過去最大級かな」
群れが異常な数。
強敵モンスターが百体以上いた。
「団長が安請け合いするから、困った事になるのですよ。団のお金もなくなっていくし」
隣に立ったのは副団長ルーカス・アイスマン。守銭奴で有名な男性だ。
「そんなんいいじゃん別に。副団長は細かいことをグダグダ言うからうるさいんだよ。団長が好きなようにすればいい」
団長を擁護したのは、第一分隊長ミカル・ナルマエ。暢気な女性だ。
「……黙って団長に付き従うのが我らの役目」
二対の刀を取り出した男性が、第二分隊長カナト・ナーズ。団長第一の男性だ。
「僕らが揃うのも久しぶりかな」
「そうですね。二年ぶりくらいですかね」
「団長。副団長。皆じゃない。眠り姫がいないよ」
「……ナオがいない」
「あれは送り出したから、ここに来るのは無理だよ」
第三分隊長がここにいない。
全員揃ってはいない西火の楽山であった。
「それに、この数に、あの強さだ・・・ナオじゃついていけない。邪魔になるね」
「そうですね。あの子がこの戦場にいたら間違いなく死にますね。素晴らしい指揮が出来ても元の力が弱いですから」
「うん。だからこその学校。あそこで成長しないのであれば、あの子は置いていこう。団から離れてもらった方が良い」
「それは本当にいいんですか。団長?」
「うん。僕らは、奴らに挑むからね。マオさんの手伝いをするためには、もっと上の力を手に入れないとね。だから、実力的についていけない子たちは置いていかないと死ぬだけになる」
副団長との会話の間に、ミカルが聞いて来た。
「マオさん?・・・ああ。あの人か。団長。あの人今はどこにいるの」
「わかんない」
「うそ。それなのに、あの人を追いかけるの?」
「うん。でも、あの人だけじゃ、穴は塞げないでしょ。昔、水漏れが激しいって言ってたよね。マオさん」
「まあ。そうだろうけど」
カナトが言う。
「……団長の言う事を聞けないなら、ここで降りろ。ミカル」
「なに? あたしを馬鹿にする気。あたしがビビりまくってるとでも言ってんの。カナト!?」
「……団長に口答えする時点でビビってる」
「はぁ!? 誰がだ。あんたがじゃねえの」
「……我は違う。お前だけだ」
二人の喧嘩を団長が制する。
「はいはい。もういいでしょ。仲が良いんだから。会えば言い合ってるね君たちはさ」
分隊で別れて仕事をしているために、西火の楽山は集合する事が少ない。
本隊と合同する事はあっても、第一と第二が合同する事が少ないのである。
「心配してるみたいだけど。あの子。面白い成長をしてるみたいだよ」
「「「ん?」」」
団長が嬉しそうに言った。
「ずいぶん思慮深くなったと思う。なんか学校で友達が出来たっぽいね」
「「「嘘だろ。あれに友達!?」」」
隊長たちが驚いた。
「うん。声が嬉しそうだったし、楽しそうだったね。よかったよかった。あの子は変なところが大人っぽかったからね。子供らしい面が出来て良かった」
団長は愛娘みたいなナオが成長している事に喜びを感じていた。
「ん!・・・いこうか。みんな。敵が来るらしい。穴が広がっていったね。これは・・・」
「魔族側の魔物ですね」
「っぽいね。これに対抗できないなら、マオさんに協力できないな。だからやりきるよ」
「「「了解」」」
西火の楽山の戦いは、この北部戦線から過酷になっていった。




