第7話 主流派とそれを扱う謎のメイド
28日の午後の一発目の授業後。
オレは緊急連絡を受けたために、シャオリンとの修行を始めずに切り上げた。
リミットタウンに入る。
◇
「どうしました。バーランドさん」
「来てくださいましたよ」
「西火の楽山の彼らですか」
「ええ。表にいます」
「助かります」
オレが迎えにいく。
町の入り口に彼らがいた。
「皆さん、来てくれましたか」
「はい。ブライン殿。お久しぶりです!」
クソ真面目のラグナルだけが挨拶をしてくれた。
敬礼なので、軍みたいである。
「なんもない」
周りを見てユーナが言った。
「まあね。全滅だったから」
「・・・・」
ルーナは無言でいる。
「俺っちらは、どこに住めばいいんだ?」
カールは、焼野原に数件家が建つ程度の町に戸惑う事も無かった。
「ええ。あちらに住宅を一個作りましたんで、あそこで過ごしてもらいます。あなたたちだけにしましたから、他よりかは過ごしやすいと思います」
共同住宅を特別に一個作り上げた。
戦闘に行くための家なので、スムーズな出入りの出来る一軒屋だ。
「へえ。好待遇だな。タダなんだろ」
「そうです」
「ふ~ん」
カールは軽く頷いた。
「ブライン殿。配備はどのように?」
「えっと今はですね。待機で良いです。敵は来ませんから」
「なぜ分かるんですか?」
「あれ見えます」
「ん?」
領主の館もどきのそばにある監視塔。
現在はマリンさんがそこにいる。彼女の索敵能力が優れているからだ。
「メイドさんがいますね」
「ええ。彼女が三十分に一度索敵します。広範囲索敵で周りを警戒しますので、今は大丈夫です」
「メイドさんがですか?」
「はい」
「んんん????」
そりゃそうなる。
メイドがなんでそんな事が出来るのかってね。
なんならオレも思ってる。
「大丈夫なの? メイドに任せるなんてさ。ここ、守る気あるの?」
ユーナがこう言ったら、マリンさんが監視塔から飛び降りて来た。
今の声を拾ったらしい。音に関する事は強いみたいだ。
「うわ!?」
ルーナの隣に着地してきたから彼女が飛び跳ねて驚く。
「大丈夫です。そこの小娘が心配する事もないです」
「え?」
「私を舐めないでもらいたい。あなた程度に心配されるようなものじゃありません」
「な!?」
カールが言う。
「ひゅーう。言うねぇ。お姉さんカッコいい」
一人だけ楽しそうだ。
「そちらこそ、襲撃に勝てるのでしょうか。私は不安ですね」
「なんですって」
ユーナが武器を構える。
片手の盾と片手剣のオーソドックススタイルだ。
「そこまで言うなら勝負しなさいよ。馬鹿にしないで」
ダウナー系なのに、馬鹿にされたらカッとするタイプらしい。
「いいですよ」
「いや、ちょっとマリンさん」
やめろよって言おうと思ったら。
「若様。この者たちに上下を教えねばなりません」
「え?」
マリンさんが拒絶してきた。
手を前に出してそれ以上は来るなと言っていた。
「どうぞ。先に」
「はああああ」
片手剣で押し切る。
ユーナはマリンさんに刃を向けた。
涼しい顔のままのマリンさんは、鼻先でその剣を躱す。
「え?! か、躱された・・・メイドに!?」
「握りが甘い。これは、このようにされたらおしまいでしょうね。はい」
右足の蹴りで、ユーナの片手剣を握っている手を蹴った。
「きゃ!?」
「武器がなくなりましたよ。次の動きは」
弾き飛ばされたことで次の動きが限定される。
彼女は飛んでいった剣を取りに行ってしまった。
「な、馬鹿にしないで。これで」
「それではいけません。盾を持っているのですから、盾でも攻撃せねば」
マリンさんは、取りに行くために動かしている足の動きに合わせて攻撃を仕掛ける。
ユーナの足を刈り取るようにして蹴った。
「うわぁ」
ステンと転ぶユーナを見下ろすマリンさん。冷たい目で言う。
「所詮はこの程度です。粋がるには実力が足りません。まだまだなのですよ」
「ぐっ」
す。すげえ。なんだこの人。
ちょっとマリンさんって謎じゃね。
ずっと疑問だったんだけど、ゲーム時代よりも強いんだが。
こんな描写あったっけ?
もしかして、まだ見ぬ実力者の一人なのかな。
ほら、ナオとか、ガラシア君やクレアみたいに一芸に秀でてるみたいな。
「次はどうします。生意気を言いたいのであれば、お相手しますが」
「その気持ちはないんですが、自分も手合わせ良いですか」
「いいですよ。どうぞ。打ち込んでみてください」
「はい。お願いします」
真面目なラグナルは普通にマリンさんの実力に感銘を受けたらしい。
稽古してもらいたいみたいなテンションで戦ってる。
この子は、両手剣の子だ。
ただし、大剣ではないので小回りが利く感じの剣だ。
「筋はいいです」
「本当ですか」
「ですが、あまりに真面目過ぎて、単調です。このように来られたらどうします」
「え?」
さっきまではリズムを合わせてくれていたらしい。
マリンさんの動きが独特になった。一定のリズムから、時折速度が変化する。
「ぐ。え。おわ。な、これは」
さっきまでは攻撃を撃ち込めた時間があったのに、今は防御一辺倒に変わる。
ラグナルがどんどん押され始めた。
彼女の蹴りだけに押されている。
「あなた。流派はないのですか」
「流派?」
「我流ですよね?」
「はい」
「西火の楽山は我流が多いですからね」
「ええ。そうなっていますよ。自分も我流ですから」
「この大陸では、一応勉強だけはしておいた方がいいと思いますよ」
「な、何をでしょう?」
「白神流です」
「・・・あ。主流派ですか」
「そうです。この大陸でも、あちらの大陸でも、この技を覚えている人間は多い。なので、その技を持つ敵に登場した時に対応できるようにした方がいい。という意味で学習しておいた方がいいです。こういう感じの技です」
マリンさんが、ラグナルを左足で蹴り上げた。
ラグナルの両手剣を持つ手が上に上がる。
「ぐあ」
「白神流シャバオ」
ここで二段構え。彼女の右足がラグナルの胸を蹴った。
この技は、防御崩しの蹴りだ。
まさか。マリンさんって百神流を使えたのかよ。
◇
世界パルティアンは、百神流という流派が存在する。
それは、この世界の主流派と呼ばれていて、ほとんどの武器の技がある。
剣でも槍でも弓でも、何でも技が存在していて、便利ではある。
ただジョブの技とそんなに差があるわけじゃないから、リミットタウンのゲーマーが躍起になって覚えるほどのものじゃない。
どちらかというと、NPCが多用する技だ。
だから、こういう考えがあるから、黄龍麒麟拳を発見した人は手を引くっぽい。
あれは覚えてもすぐに使えないし、技を使い続けて初めて真価を発揮するし、龍麒にも癖があるし、何よりもシャオリンを師に向かえる難易度が高い。
ましてやマオリンに会うのも難易度が高いので、黄龍麒麟拳を完璧にマスターするのは、手がかかる事だから、これを追おうとする者が少ないのだろう。
◇
「ということです。あなた方はまだまだ駆け出しのようですね」
傭兵に戦闘を教えるメイド。
絵面が・・・。中々見ない絵面だった。
「すみませんでした。ユーナがご無礼を。ユーナ!」
「え。あ。はい。すみません」
ラグナルに言われて、ユーナも謝った。
「いいえ。無知は怖いという事を知りましょう。そこの女性だけではなく、あなたもです」
世界は広いのだと彼女は教えた。
人は見た目でもないと。
「は、はい」
マリンさんがこっちを見る。
「若様。これでよろしいでしょうか」
「え・・・あ、まあ。それでいいですもう」
何が良いのかもよくわからないけど、治安維持ってマリンさんがやってるのかもね。
ふと思ったオレであった。




